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35 邪魔者撃退

 一瞬で外に吹き飛ばされた護衛を見て、フォルスは困惑していた。見るからにまだ十代でそんなに強そうではないのに、全くそんなことが無かったからだ。自身も剣の訓練に明け暮れており、それなりに相手に実力を見て分かるほどではあった。


 なので悠一を見た時は大した強さではないと思ったのだ。しかし実際は、護衛二人を軽くあしらうことが出来るほど実力が高く、見たことのない変わった剣の柄に手を掛けた途端に、全身から嫌な汗が噴き出すほどの殺気を放ってきた。この時点で、目の前にいる少年は恐ろしく強いことが分かった。


「やれやれ、軍事国家の王子の癖に相手の実力が分からないとか、剣士失格だな。見習いからやり直した方がいいんじゃないのか?」


 悠一はフォルスに向かってそんな失礼極まりないことを口にしているが、感情のままに立ち向かえば瞬殺されてしまうのは目に見えている。自分の命が惜しいフォルスは、悠一に立ち向かうようなことはせず交渉することにした。


 だが、フォルスは実に諦めの悪い性格をしている。住んでいる国が軍事国家なので、戦いの時に力で奪い取った街にいる人々を奴隷にしたりしている。そしてその扱いは実にロクでも無い物だ。貴族や王族は、殆んど人権の無い奴隷―――若い女性や少女などだが―――に性的な方で手を出している。そして使い物にならなくなったら、すぐに処分するという外道なことをしている。


 悠一はそのことは知らないが、軍事国家の王子と聞いた時点でそれくらいのことはしているだろうと予想していた。そしてその予想は当たっていた。


「い、今ここでその女二人を受け渡せば、この私に盾ついたことを不問にしてやってもいいぞ?」


 諦めの悪いフォルスは、気に入った物は何が何でも手に入れたがるのだ。それが見目麗しい美少女であれば、尚更だ。


「断る! さっきも言っただろ。この二人は俺の仲間で、互いに支え合っているって。俺はまだ冒険者登録して間もないけど、何度も本気で危ない戦いを生き抜いたのは、この二人がいたからだ。もう一回言うけど、大切な仲間を売るようなことは絶対にしない。そう言った寝言は城に帰って寝てから言いやがれ」


 しかしもちろん悠一はそのことを受け入れず、更に殺気を放つ。その殺気を向けられたフォルスは、体を震わせ更に嫌な汗を流す。


 王族という高い身分におり、下の身分の物は決して逆らえず、更に我侭を何でも叶えて貰っていたフォルスは、この日初めて心の底から恐怖を感じた。しかも一介の冒険者である、一人の少年剣士に。


 そこで今度は、腰から下げられている刀に目を向ける。見たことのない武器だが、かなりの業物であることが伺える。ここで新たな選択肢が生まれる。


 フォルスは戦いでは強力な武器があれば生き残れるという、根拠のないことを信じている。今目の前にいる少年の持っている剣は、やや細い形をしているが恐ろしいほどの強度があることが分かる。そして少年の着ている服は魔法使いの着るローブである。先程も魔法を使用したので、腰から下げている剣はただの飾り程度だと判断する。


「な、なら、貴様の腰に下げているその剣を渡せば―――」


「嫌だね」


 言い切る前に即答する。


「剣士にとって剣は自分の命を預ける相棒だ。それを簡単に譲るなんてことはしない」


「し、しかし貴様は魔法使いであろう? そんな剣を持っていても仕方が無かろう。この私が使ってやると言って……!?」


 フォルスはそこから先を口にすることが出来なかった。いつの間にか鞘から抜き放たれた刀の切っ先が喉元い突き付けられていたからだ。当たるか当たらないかのギリギリのところで止まっているので、少しでも動くと刃が刺さるだろう。


「確かに俺は魔法使いだが、どっちかというとこっちの方が得意なんだよ。それと、さっきあんたの護衛二人を吹き飛ばした時、俺は魔法じゃなくて純粋な体術でやったんだぜ? その時点で近接戦闘が出来るって考えるべきだったな」


 悠一の背後にいるシルヴィアとユリスのことで頭がいっぱいで、そのことは頭に無かった。確かに悠一はレベルのよる高い素早さと力だけの体術で、二人を吹き飛ばしていた。しかしフォルスは身体強化などの強化魔法を、併用してやったのだと思い込んでいた。


 なので近接戦闘が出来るということを、全く考えなかったのだ。


「第一、どうして他国の王子があんな弱っちい護衛を引き連れてこの国に来ているんだよ」


「…………最近、この街に恐ろしく腕の立つ二人の女を連れた冒険者が現れたと聞いたのだ」


 少しの間があった後、フォルスはそう口を開く。


「へぇ。それで?」


「私は六人いる王子の中で、一番力が弱い。立場もかなり低いのだ。だからその冒険者を私の手駒にするつもりだったのだ」


「本当にロクでもないな。冒険者は基本自由だし、それ以前に他国の王子にそう言われて『はい、分かりました』って言って付いてくるとは限らないが?」


「そこは金で何とかすればいい。金がダメなら女だ」


「王族や貴族ってどうしてこんな偏ってんのかね。それと、もし自分の手中に収めるために女の人渡したら、まずお前らを叩き潰してからその人を開放してどっかに逃げると思うが」


 少なくとも悠一はそうする。人はだれしも自由でなければならない。犯罪などを犯して奴隷落ちした人間であれば許すが、何の罪のない人を攫って非合法的に奴隷にするのはたとえどれだけ高い地位にいる人でも許すことはしない。


 もしそんなことをしていたら、まずその家を叩き潰してそこにいる非合法的に奴隷にさせられている人全員を解放する。その後、その家の人を公衆の前で晒す。それくらいしないと気が済まないだろう。


「軍国ヴァスキフォルはいい話を聞かないからな。どれだけ好待遇すると言っても、そっちに行く人はそうそういないと思うな」


「それはやってみなくては分からないだろう」


「無理だと思うな。っと言うか、普通に無理。だってそれ多分俺だもん」


「な、なんだと?」


「女連れの冒険者だろ? 特徴は騎士が着るような少し派手な白いローブを着た黒髪黒目の男で、反りのある剣を持っている。違うか?」


「その通りだが……、あ!?」


 そこでやっと気付いたようだ。悠一は女連れの冒険者と聞いた時点で、自分のことであると気付いた。


「き、貴様のことだったのか! 頼む! どうか私の部下に……」


「なる訳が無い。そしてさっさと失せろ」


 刀の属性を開放して殺気をより強く放ち、威圧しながらそう言う。フォルスは顔を真っ青にして体をガタガタと震わせる。そしてそのすぐ後に、全速力で店から出ていった。店から吹き飛ばされた時に気絶した、護衛をそこ場に放置して。


 やれやれと溜め息を吐いて刀の炎を消し、鞘に納めて殺気も引っ込める。少々やり過ぎ感があったが、それでも後悔はない。大切な仲間を守れればそれでいいのだ。


 振り返って二人の顔を見てみると、揃って赤く染まっていた。何で顔を赤くしているのか分からないので、悠一ははてなを頭に浮かべる。


「二人ともどうした?」


「い、いえ! 何でもないでしゅ!?」


「本当か? 思い切り噛んでるけど」


「本当に大丈夫です!」


 少々オーバーリアクションだが、とにかく二人が顔を赤くしている理由は聞かないでおくことにした。ちなみに二人が顔を赤くしているのは、悠一が「大切な仲間」と言ったからである。


 二人もあまり異性に対してあまり接点がないので、そう言った言葉に弱いのだ。悠一は単に一緒にいて頼りになる仲間といった認識なので素でそんなことを言っているが、二人にとっては嬉恥ずかしい台詞なのだ。


 そんなごたごたがあった後店の中では目立ち始めたので、さっさと会計を済ませてそこからそそくさと逃げるように出た。


「あの、ユウイチさん! さっきはありがとうございました!」


「本当に助かりました! 今度どこかでお礼を……!」


「いや、別にお礼とかはいいよ。俺は単に、二人のことを守りたかっただけだから」


 そう言いながら悠一は二人の頭を優しく撫でる。するとみるみる顔が真っ赤に染まっていく。悠一もそれにつられて、顔が少しだけ赤くなる。周囲からの視線が、かなり痛い。


「あー……、何と言うか、すまん……」


「い、いえ……。大丈夫です……」


「むしろ嬉しいというか、何と言うか……」


 ごにょごにょと小さな声だったのでなんて言ったのか聞こえなかったが、とにかく二人の反応がとても可愛らしい。


「そ、それじゃあ散歩を再開するか。もしかしたら何か見落としとかあるかもしれないし、何か無いか探してみようか!」


「そ、そうですね!」


「行きましょう!」


 無意識に二人の頭を撫でてしまっていたので、少しだけ気まずい雰囲気になってしまったが、それを誤魔化して散歩を再開する。その日は日が大きく傾くまで歩き続け、夕食を取った後明日か明後日に別の街に移動することにした。


 これ以上目立つのはあまり得策ではないと判断した故の行動だ。荷物は全部魔法の鞄の中に詰め込むだけで済むので、明日には出られるようだ。次に行く街はロスギデオンという迷宮都市を呼ばれる場所で、街のど真ん中にダンジョンの出入り口があるところだ。


 そんなところに街があっても大丈夫なのかと不安になるところもあるが、ダンジョンの出入り口には常に衛兵が立っており、その衛兵は恐ろしく強い。実力で見れば、Aランク冒険者数名に匹敵するほどだそうだ。


 なので仮にダンジョンからモンスターがやって来たとしても、その衛兵たちが蹴散らしてしまうのだ。おかげで街は平和そのものだそうだ。ちなみに犯罪者には一切の慈悲が無い為、人殺しなどの犯罪を犯した輩がいれば即座に処分する。


 なので犯罪奴隷のような合法的な奴隷以外は、その街にはいない。何しろその街にいる領主が恐ろしくヤリ手であり、裏側の方の動きも殆んど把握しているのだ。おかげで非合法奴隷を扱った奴隷商会は、それが判明した次の日には潰されていることが普通なのだそうだ。そう言ったことが普通なので、ロスギデオンの奴隷商会は決して非合法奴隷を扱わない。


 明日からその街を目指すことにしたので、早めに風呂に入ってその日は早めにベッドに潜り込んだ。

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