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34 面倒ごと

 あり得ないくらいハイテンションで凄まじい速度で馬車が街を走って行くという、少々非常識な光景を見た翌日、三人は朝早くに起きて馬車を使って半日掛けて街に戻った。行きとは違って盗賊の襲撃などは無かったが、代わりにモンスターの襲撃が結構多かった。


 襲って来たモンスターの大半は悠一とシルヴィアと同じランクに指定されている中級モンスターだが、中にはユリス並みに強いモンスターがやってきたりもしていた。とはいえ、ベルセルクのような化け物ほど強くな破いので、多少時間が掛かったが倒せた。


 ちなみにだがベルセルクの個体中で、ごく稀にだが変異種が生まれるそうだ。その変異種はラグナレクといい、別名終獣と呼ばれているそうだ。その強さはベルセルクを遥かに凌駕しており、ランクはSSSに指定されている、正真正銘の化け物だ。街三つや四つを簡単に潰してしまうから、そんな別名が付いたそうだ。


 ラグナレクはベルセルクの変異種である上にそうなる確率が物凄く低いので、最後に確認されたのは数十年も前だそうだ。そんなことをユリスから聞き、持っているモンスター図鑑で知った後、なるべく会いたくないなと苦笑いを浮かべた。


「あ~……やっと街に戻ってこれた~……」


 昼過ぎ辺りに三人を乗せた馬車はブリアルタに到着し、馬車を降りた悠一は思い切り伸びをしてそう言う。モンスターの襲撃があったとはいえ、馬車から降りて戦わず魔法だけで応戦していた。


 ずっと幼いころから魔法を使ってきた二人と比べるとまだまだ熟練度が足りないので、少しでも追い付けるようにしているのだ。とはいえ、二人に追い付くのはそう簡単ではないのだが。


「この後はどうする? 今からクエストをしてもいいけど、一個か二個しか受けられなさそうだ」


「では、今日はお休みにしてお散歩でもしましょう」


「ですね。毎日クエストを受け続けるのはどうかと思うので、シルヴィアに同意です」


「昨日街をあれだけ元気に回っていたのに、よくもまあ疲れないな。俺も人のこと言えないけど」


 何がともあれ、街に着いた三人は今日はクエストを受けないで街を散歩することにした。ダンジョン攻略後に一週間ほど休みを取り街を回っているので、どこにどんな店があるのかはすでに大体把握している。


 美味い料理店や色んな種類の服を売っている服屋、様々な特殊効果や属性が付与されている武具を売っている武具屋、そういった関係を持っている男女が泊まる宿屋などだ。最後に宿屋はなるべく知りたくは無かったのだが、一週間も歩いていれば見つけてしまう。そこには絶対に近寄らないようにしているが。


 あとはバーなどもある。意外なことにこの世界では十五歳で成人とみなされるので、三人は既に酒を飲める年齢だ。実はダンジョン攻略後の夜、祝勝会と称してかなり豪華な飲食店に行っている。そこで二人が普通に酒を注文した時は、かなり驚いた。


 未成年なのではないかと聞いたが、その時に十五歳から成人であることを知ったのだ。悠一も酒に少しだけ興味があったので、アルコール度数の低いのを一つだけ頼んだ。意外と美味いことに驚いたが、調子に乗って次々注文することはしなかった。酒は人をダメにすることをよく知っているからだ。時々嗜む程度に飲んだりしてはいるが。


「あ、そうだ。まだ昼食べてないじゃん」


「そう言えばそうでしたね。何か足りないかと思っていました」


「意識したらお腹が……」


 何か物足りなさを感じていたが、それが何なのか分かった途端、ユリスのお腹が盛大に鳴った。彼女はお腹を押さえて、顔を真っ赤にして俯いている。以前シルヴィアもこうなったことがあるなと思い出し、小さく微笑む。


「じゃあどっかの飲食店で軽く昼を取ろうか。街を回るのはその後だな」


「そうですね。ではお店を探しましょう。ユリスも行こ?」


「うぅ~……、恥ずかしいです……」


 飲食店を探しに歩き始める悠一の後をシルヴィアが付いて行き、ユリスは顔を真っ赤にして目尻に薄っすらと涙を浮かべてシルヴィアに手を引かれて一緒に来る。こうしてみると、仲の良い姉妹のように見えてくる。


 この場合だと、シルヴィアが姉でユリスが妹の様だ。何とも和む雰囲気なので、ついまた小さく微笑んでしまう。飲食店を探し始めて数分後、三人は小さいけれどいい雰囲気を醸し出している店を見つける。


 早速中に入ると中は申し訳程度にしか飾られておらず、木の香りが漂ってくる。実にいい店だ。悠一はすぐに気に入った。シルヴィアとユリスも同じことだろう。


「いい感じのお店ですね」


「そうだな。(檜みたいな匂いがするんだな)」


 悠一は漂ってくる木の香りで、前の世界で日常的だった道場の木の香りを思い出す。古流剣術道場なので使われている木はそこそこ古く、悠一はそこが気に入っていた。何かあるごとに道場に行って、そこで精神集中や地震で基礎練習などをしていた。


「ボク、こういった感じのお店好きです」


「あぁ。何というか、落ち着くんだよな」


「確かにそうですね。木のいい香りもして、凄く落ち着きます」


 メニューを開けば本格的な料理がラインナップしているが、それを抜きにするとここは喫茶店のように思えてくる。相変わらずコーヒーは無いが、様々な種類の紅茶やパンケーキのような軽食、見るからに甘そうなお菓子などがある。


 そう思い始めると、悠一は二人を意識してしまう。喫茶店といったら交際している男女が良く訪れる場所であり、ある意味定番なデートスポットになる。そして今、悠一はそこに美少女二人と一緒にそこにいる。意識しない訳がない。


 とにかく何か適当に昼食を頼み、なるべく意識しないように二人に話を振り始める。まずは故郷の話になったのだが、悠一はどう答えればいいのか分からないので、とりあえずとんでもないド田舎に住んでいたとだけ答えておいた。


 シルヴィアはエヴァングルムという街にいたらしく、どういった訳かこの街は女子の生まれる確率がかなり高いそうだ。なので男女比で表すと、男性が三、女性が七だそうだ。どこぞの文系の高校の様だ。それと、剣士よりも魔法使いになる確率の方が高い。


 それはなんとなくだが察しがついた。女性は近接戦闘をする、剣士職にはなろうとはしない傾向にある。体には絶対に傷を作りたくは無いというのもあるが、剣士だとあまり女性らしさを感じなくなってしまうからだそうだ。とにかくガサツに思われるのが嫌だから、遠距離からの攻撃と支援の出来る魔法使いになるんだそうだ。


 シルヴィアは単に魔法に才能があったので、その才能を殺したくは無いから魔法使いになると決めて、魔法の勉強を一生懸命したんだそうだ。そこはユリスと同じである。


 ユリスはハルイダスという小さな村で生まれて育ったんだそうだ。そこは酪農が盛んな村で、特に乳牛が多い。なので必然的に乳製品が多くなる。ユリスの胸が大きいのはここにある。


 乳製品がかなり多いので日常ではそれが当たり前で、女性の殆んどは大きいんだそうだ。男性は身長がかなり高く、長寿の方々は足腰がかなりしっかりしており普通に畑などを耕している。実に元気で健康的だ。


 それでユリスはほんの数パーセントの人間しか適性が無い光属性に適性があるだけではなく、ほとんど全ての属性に適性があるので、それを生かすために魔法使いに行く道を選んだんだそうだ。しかも頭が恐ろしくいい為、普通に数倍の速度で知識を道着けていった。


 更に父親が宮廷魔法使いなので、村を出る前に上級魔法の知識を身に着けてしまったのだ。十五歳ちう若さでAランク冒険者になれたのは、その魔法の知識があるからである。


 それで悠一だが、とにかく名前すらないようなド田舎にいるとだけ答え、魔法も使えるが分解と再構築しかなく、二つだけなら剣士もやってしまえと考えて、両方の道を行くことにした、と全くの嘘を教える。流石に前世で死んで、転生の女神セレスティーナにこの世界に転生させてもらっただなんて口が裂けても言えない。言えるわけがない。


 二人は特に疑わずにその話しをあっさりと信じてくれたのは、本当にありがたかった。そんな話をしていると頼んでいた料理が運ばれてきて、早速それにありつける。味は少々濃いが、それが逆に良かった。


 何と言うか、高級レストランに出てくる料理ではなく、懐かしい家庭の味といった感じの物だった。談笑を交えながら料理を食べ、十数分で完食する。量も丁度良かった。


 食べ終えた後店がサービスとして紅茶と食後のデザートを運んできたので、今はそれを楽しんでいる。


「ん~! 甘くて美味しいです~!」


「やっぱり疲れている時には甘い物が一番ですね~」


「そうだな。少し甘過ぎる気もするけど……」


 運ばれてきたのはケーキで、シルヴィアとユリスは美味しそうにパクパク食べているが、悠一には少し甘過ぎるように感じた。後で知ることなのだが、この世界のスイーツは甘ければ甘いほど美味いという認識であり、値段がどんどん上がって行く。


 最高級スイーツともなると、もはや砂糖の塊と言ってもいいほど甘くなるのだが、王族や貴族はそれを好んで食べているんだそうだ。なので貴族には体が太っている人が多い傾向にある。


 なお、女性は体系を気にするので貴族であろうが平民であろうが、甘さが控えめな物を好んでいる。それでも悠一にとっては少し甘過ぎる感じになるのだが。今食べている物でも、最高級品に比べるとかなり控えめになっているのだ。


「何だ、中々いい店かと思ったが、大したところではなさそうではないか」


 早めにケーキを食べ終えて口直しに紅茶を飲むと、扉が開いてそこから三人の男が入ってくる。そして入って来て早々、そんなことを口走る。


 まず一人は明らかに貴族であるのが分かる服装をしており、体系はやや小太りだ。そして左右にいるのは護衛の騎士なのだろうが、見るからに弱そうだ。威圧感を出してはいるが、悠一にはただ背伸びしているようにしか見えなかった。


「どうなさいますか、フォルス様?」


「これ以上歩くのも面倒だ。仕方がない、ここで昼食を取ることにしよう」


 そう言うと護衛の一人にフォルスト呼ばれた男は、店の中を歩き始める。だが、悠一たちに気付くと、その前で立ち止まる。その瞬間、悠一は物凄く嫌な感じがした。危険な臭いが悪臭レベルで漂ってくる。


「ほぅ、大したことのない店かと思い少々失望していたが、意外な物を見つけたな」


 その嫌な予感は的中し、悠一は気付かれないように溜め息を吐く。


「二人共中々にいい容姿、そしていい体をしているな。しかも魔法使いと来た。こいつは丁度いい。おい、そこの黒髪のお前」


「……何ですか?」


 貴族に絡まれると面倒でしかないのだが、流石に嫌そうな顔をして対応する訳にはいかないので、真顔でそう反応する。それが気に入らなかったのか、護衛の二人は青筋を浮かべて腰の剣の柄に手を掛けたが、フォルスが手でそれを制した。


「貴様はそこの女二人の仲間と見た。そこでだ、金をたんまりと払ってやるから、その二人をこの私に譲ってはくれまいか?」


(やっぱりこう来たか……。貴族や王族と言った、立場の高い連中はどうしてこうもめんどくさいのかね……)


 簡単に予想出来たことだったので、悠一はあからさまに溜め息を吐く。フォルスはピクリと反応したが、特に何も言い返さなかった。護衛の二人はそうはいかなかったが。


「貴様! フォルス様がこう仰っておられるのだぞ! だというのにその態度は何なのだ!」


「そうは言われてもねぇ……。俺は仲間を金で売るなんてことは絶対にしたくないんだよ。たとえそれが権力者であろうとね。二人は俺にとって、大切な仲間だ。何度も二人に救われたこともあるから、絶対に失いたくないんだよ」


 少しイラつきながら、相手を睨み付けながらそう言い返す。護衛の男二人は更に青筋を浮かべて剣を抜こうとしたが、悠一の抜身の剣のような視線で射貫かれて体が硬直する。


「そう言うでない。生活には一生困らない程の金を払う。だから―――」


「だから、売るつもりはねぇって言ってんだろうが。人の話を聞いていたのか? 何なの? 耳が遠いんですか?」


 物凄い挑発するような言葉でそう言うと、三人は揃ってが、アン出来なくなったのか憤怒の表情になる、それに対して悠一は涼しい顔をしており、シルヴィアとユリスは顔を青くしてオロオロしている。


「貴様……、この私が誰だか分かっているのか……?」


「知らんな。知るつもりもないし、知りたくもない。仲間は売るつもりは無いから、さっさとここから失せろ」


「貴様! このお方は軍国ヴァスキフォルの第四王子である、フォルス・フォン・ヴァスキフォルであるぞ!」


「はいはい、そうですか。凄いですね」


 貴族のことを全くよく思っていない悠一は、思い切り挑発する言葉を口にする。流石に我慢が出来なくなったのか、三人は顔を真っ赤にして憤怒に染まっている。この時点で、悠一の実力を探れていないので、全く大したことは無いと見抜く。


「ジャン、タイラー! 今直ぐこの下郎を斬り殺せ!」


「「御意!」」


 フォルスにそう指示されると護衛二人は剣を抜いて、同時に斬りかかってくる。しかし悠一は微粒子を集めて楯を作り出し、それで剣を防ぐ。太刀筋は酷い物で、よくもこの程度の人間が往時の護衛に慣れたものだなとある意味感心する。


 軍国ヴァスキフォルとは、その名の通り軍事に力を入れている国のことである。とにかく戦いが大好きな国なので冒険者の数が恐ろしく多く、市民も好戦的である。その国には六人の王子がおり、その第四王子が目の前にいる。全く持ってどうでもいいことだが。ちなみに悠一たちのいる国は、リオシャスキア王国と言い、別名魔法国家である。


 とにかくだ、その国の人間の大半は好戦的で殆んどが剣士や戦士なので、強い物が多い。だが、往時の護衛がこの程度だと、たかが知れるという物だ。


「こいつ、いつの間に!?」


「くそっ! 錬金魔法の使い手か!」


 悠一の魔法は錬金魔法に酷使しているので、勘違いしてくれたようだ。その方が都合がいいので、気にはしないが。


 とにかく邪魔なので、悠一は椅子から立ち上がって護衛の二人に蹴りを叩き込み、店の外に吹き飛ばす。幸い吹き飛ばした方向は扉なので、被害は無い。


「さて、先に攻撃を仕掛けて来たんだから、覚悟は出来ているんだろうな?」


 そう言いながら刀の柄に手を掛けて、底冷えするような声でそう問いかける。

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