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33 おかしな馬車

「ユウイチさん、どうしたらあんな大規模な爆発を引き起こせるんですか?」


 盗賊を一発の爆発で消滅させてからしばらくして、一度馬車を川の近くで止めて休憩をすることになった。そこでシルヴィアがそんなことを質問してきた。


「あれの原理は前に説明したからある程度は分かっているとは思うけど、俺の魔法で自然発火する気体を生成して、それを魔力で覆って圧縮するんだ。圧縮された気体は覆っている魔力が消えると、一気に広がって行く。それと同時に発火するから、爆発するというよりも燃えながら一気に炎が広がって行くというのが正確かな」


 ただそのガスを生成するだけでは、その瞬間には燃えてしまうため、燃やす程度にしか効果が期待出来ない。しかし圧縮してそれが爆発的に解放されると、爆発のような現象が起こる。こういったことを理解している為、普通の魔法では考えられないような高威力で大規模な威力を持った現象を起こせるのだ。


 しかもそれを引き起こす為の魔力は自分の魔力ではなく、殆んど大気中の魔力を使用しているので、自分の魔力はそんなに減らない。なので欠点らしい欠点は、こういった爆破系を使用する時は、指向性を持たせることが出来ないので、離れた位置から出ないと使えないというところだけだ。


「本当、ユウイチさんの魔法は反則ですよ。ボクたちの魔法は込める魔力の量にとって威力が変化しますけど、ユウイチさんは発生させたその気体の量と圧縮した力によって威力が変化するんですから」


「あの二つ以外に適性が無い俺にとっては、二人の魔法の才能は凄く羨ましいけどね」


 特殊過ぎる者でなければ殆んどなんでも再現出来る魔法を所持しているが、それでもそれは限定されており、シルヴィアとユリスの多彩さは羨ましい。特に麻痺系統の魔法で敵の動きを封じるといった方法が使えないので、杭を構築して足を貫いたり、刀で足の健を断つなどしか使えない。


 他にも周囲を氷で凍らせて動きを封じるといったことは可能といえば可能だが、加減がまだ上手く出来ないところがあるので、最悪動きを止めるのではなく生命活動を止めてしまう可能性がある。こういう時は、シルヴィアやユリスに任せるしかない。


「それでもそれを補う程の反則的な能力じゃないですか。傷もそれで治せますし」


「確かにそうだけどさ、二つだけだと不便なこととかもあるんだよな」


 例えば爆発や炎系を使用する時だが、発生させたガスが風に流れてこちらに来たら一溜りもない。いくら魔力である程度操作出来るとはいえ、かなり危険である。他には、鋼の槍を放つ時だが、微粒子から再構築して放つよりも、魔法陣を顕現させてそこから放った方が僅かではあるが早い。


 ほんの少し、それこそ誤差程度の差ではあるが、それは実践では少しでも早いと有利になる。なので、誰でも使える無属性と分解・再構築の魔法は、反則的で使い勝手はいいが、ところどころにリスクがあるにはあるのだ。


「もし上手く爆発系に指向性を持たせることが出来れば、もっと近くでも使えるんだけどなぁ」


「そうなったらユウイチさん、ほぼ敵無しですよ?」


「剣も魔法もどちらにも優れていて、至近距離で爆発を使ってくる。絶対に敵には回したくないです」


 そもそも魔法使いは、近接戦闘には滅法弱い。ただでさえ距離を詰められて不利な状況であるのに、そこに近距離で爆発まで使われたりでもしたら、間違いなく負ける。もしも悠一が爆発に指向性を持たせることが出来たら、大型のモンスターもすぐに倒してしまいそうだ。


 護衛クエストを受けている三人は、対象からやや離れた場所に座って話し合っているのだが、索敵魔法を使用しているので決して怠っている訳ではない。休憩している時は気が緩みやすいので、そう言った時に盗賊やモンスターなどに襲われたりしたら一溜りもない。


 なので、思い切り休んでるように見えて、実はちゃんと周囲を警戒しているのだ。貴族の男はそのことに気付いてはいないが、一瞬で盗賊団を吹き飛ばした光景を目の当たりにしたので、怒らせるような真似をするのは良そうと決めている。


 悠一たちは一冒険者でしかないので貴族などに対して怒りなどは覚えるが、それを口や行動に出したりはしない。そんなことをしたら、間違いなく不敬罪で殺されてしまう。まだまだ成長期、しかも思春期真っただ中の年齢なので、十代半ばで死ぬようなことはしたくないのだ。


 十数分間の休憩を挟んだ後、馬車に乗り込んで再びガタガタと揺られて行く。索敵を発動させて周囲を探っていたが、反応はある物のどれもこちらからかなり離れている場所にいるので、手を出す必要は無いだろう。


「あまりモンスターが襲ってこないので、なんだか長閑ですね」


「そうだな。けど、護衛は何も無い方がずっといいよ」


「確かにそうですね。何もない方がずっと安心ですし、ずっと安全です」


 ガタガタと揺られる馬車の中、少しだけ和むような雰囲気が漂い始める。というのも、最初に盗賊を吹き飛ばしたこと以外では、何も襲撃などが無いのだ。悠一やユリスの言う通り何もない方がいいが、なさ過ぎると流石に少し油断してしまう。


 現に三人は、過ごしやすい気温と揺れている馬車の中にいるので、少しだけ眠気を感じている。貴族が相手なので眠るなんてことは出来ないが、大分気が緩んでいる。


「まあ、何もないとはいえ警戒はしておいた方がいい。護衛クエストだし、もし何かがあって対応出来なかったら大変だ」


「そうですね。じゃあ、索敵をしておきます」


 少しだけ感じていた眠気を払い、シルヴィアは索敵を発動させる。手に取るようにモンスターの存在が分かるが、そのどれもが離れた位置にいる為大丈夫だ。それに、仮に襲ってきたとしてもすぐに倒されてしまう。


 ユリスはともかく悠一とシルヴィアのレベルは既にDランクから逸脱している為、Aランクの上級モンスター以上の存在が出てこない限り、苦戦はしない。そこにAランク冒険者のユリスもいるのだ。彼女を入れれば、それなりに苦戦はするが傷は負わずに倒せるだろう。


 それほどまでに三人は成長していた。特に悠一は、レベルはユリスより低いが、魔力量は彼女に匹敵している。力と素早さに関しては、少なくとも二十以上はレベルが違わなく素早さに特化している剣士などではないと、動きに対応出来ない程だ。


 三人の中でも、悠一の成長速度は著しく、レベルが上がって行くごとに身体能力などの高さが顕著になってくる。ユリスと同じレベルになったら、もはや化け物クラスの実力者になるだろう。


「何もないと暇だな。……刀の手入れでもするか」


 そう言って悠一は刀を鞘から抜き、一度解体する。そしてあらかじめ作ったり買っておいた手入れ道具を鞄の中から取り出して、それで油や汚れを拭き取ったりして手入れをする。


 貴族の男は見たことのないその武器に対して興味を持ち、あれを自分の物にしたいと考えたりしたが、剣士は持っている剣が本格的的に使えなくなるまで使い続ける傾向にあるので、もし無理矢理奪ったりでもしたら間違いなく怒りを買ってしまうだろう。


 悠一はゼロから刀を作ることは可能だが、ここまでずっと使い続けてきた武器を無理矢理奪われれば、たとえそれが貴族であろうがキレる自信がある。それ程までに愛用しており、命を任せる相棒であり愛刀なのである。


 ちなみにシルヴィアは、知らないモンスターなども存在しているので、その知識を頭の中に叩き込むべく書店で買った分厚い図鑑を読んでいる。実に勉強熱心だ。手入れを終えた悠一も、出来るだけ知識を埋めておこうと同じように図鑑を取り出して、モンスターの知識を叩き込んでいく。


 その間貴族の男は、任務を蔑ろにしているように見える二人に憤りを覚えたが、途中で襲撃して来たモンスターの集団をあっという間に壊滅させるという光景を目の当たりにし、別に蔑ろにしている訳ではないと再認識した。



 ♢



 護衛クエストを受けてから約半日が経過した。馬車は目的地の街に到着し、貴族の男は悠一たちが馬車から降りると「依頼は達成だ」と言って、クエストの依頼書に名前をサインしてそのままどこかへ行ってしまった。


 その貴族が行く場所まで護衛するつもりでいたのだが、街に入った途端にそう言ってどこかへ行ってしまったため、三人は少しだけ唖然としてしまう。


「結局、あの人は何のためのこの街に来たんだ?」


「そう言えば、言っていませんでしたね」


「別にどうでもいいですけどね。それより、折角ですし観光していきませんか?」


「そうだな。今から馬車に乗って帰ったら間違いなく深夜だし。今日はここで泊まって行くしかないな」


「一応、三時間で戻る方法はあるにはあるんですけどね」


「あるのかよ」


 シルヴィアが何気に言ったことに反応し、つい反応してしまう。悠一は馬車の速度しか知らないので、あの距離を三時間で戻る方法があるとなると、一体どんなものなのだろうかと気になってしまう。


 しかし、それが何なのかを二人に聞こうとした瞬間、急に遠い眼をして口を閉じてしまった。


「え? 何? どうしたんだ?」


「いえ……、私は以前それに乗ったことがあるのですが……、はっきり言って地獄でしたね……」


「ボクも乗ったことありますよ……。シルヴィアの言う通り、あれはまさしく地獄です……。どうしてあんな運転で、事故を起こさないのかが不思議でなりません……」


 遠い眼をして語る二人を見て、悠一は直感的に止めた方がよさそうだと判断する。その直後、何やらけたたましい音を立てて何かが奔ってくるのが聞こえた。その瞬間、シルヴィアとユリスの顔が真っ青になる。


 急いで道の脇の方に移動したので悠一が付いて行くと、そのすぐ後に何かが爆走して行く。それは二体の大きな牛が引いている馬車のような物なのだが、その速度が半端ではない程速い。ユリスの言う通り、あんな危険な運転でよくも事故を起こさないなと感心してしまう程に。


「イィィィイイイイイイイイイイイイイヤッハァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! どけどけどけ有象無象どもがぁ!!! この俺様の進む道を邪魔してんじゃねぇ!!! 邪魔する奴ぁ吹き飛ばすぞぉ!!! 今日の俺様とベイビーたちは気分がいいんだぁ!!! 俺様達を不機嫌にさせる奴ぁ、容赦なく轢き殺してやんぜぇ!!! ヒャッハーーーーーーーーーーーー!!!」


 そんなヤバいセリフを大声で叫びながら。爆走する牛が引いている荷馬車の中には二人ほど乗っていたが、既にその二人は意識を刈り取られていた。こんなヤバい乗り物に乗って三時間で帰るよりも、半日かけて安全に帰った方がずっと安心出来る。


 今日一日観光することになった三人は、明日は普通の馬車でゆっくりのんびり帰ることにした。

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