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32 護衛クエスト

 死ぬような思いをしてダンジョン攻略をして二週間経過した。当初一週間だけいるつもりだった悠一とシルヴィアはもうしばらくいることにして滞在期間を延ばした。思っている以上に面白いクエストが多くあったからである。


 ユリスも元々泊まっていた宿から悠一たちのいる宿に移動し、今はシルヴィアと同室である。部屋代はかなり高いが、高報酬クエストをこなしまくっている三人にとっては、大したことではなかった。


 そんな悠一たち一行は、今現在馬車に揺られていた。別に次の街に行く予定ではなく、ただクエストに貴族の護衛という物があったのだ。盗賊やモンスターなどから守ればいいだけの仕事の割には報酬が良く、面白そうだから受注した。


 ただ、やはりと言うべきか貴族は自分が特別な存在だと思い込んでおり、悠一を見るや否や酷く不快そうな表情をした。シルヴィアとユリスには情欲の視線を向けていたし、既に受けてその場にいるので引き返すことが出来なかった。後になって後悔したが、時は既に遅い。


「どうして貴族ってのは、あんなに傲慢なんだかねぇ。民あってこそ国が成り立つのに」


「高い身分にいる人は大体ああなんですよ。自分がいるから国が成り立っているって信じてやまないんです」


「中にはちゃんと貴族もいるんですけど、護衛対象は典型的な傲慢貴族ですね」


 少しだけ広く無駄に豪華な装飾の施されている馬車の中で、三人は聞こえない程度の小さな声で話していた。護衛対象である貴族は、常に恵まれた環境にいるのでメタボ体系で、肌も脂ぎっている。


 顔は中の下程度なのだが、太いせいで印象がかなり悪い。しかも中年オヤジなので、そんな人が情欲にまみれた目でシルヴィアとユリスを見ているのは、彼女らの精神衛生上よろしくなさそうだ。遠回しに止めるように言ってみたのだが、「話し掛けるな、薄汚い冒険者風情が」などと言い放ち、それ以来口を開いていない。


 貴族は冒険者全員(ごく一部を除く)を野蛮な連中だと軽蔑視しており、常に軽蔑して見下している。そんな冒険者に守られているのに、どの口がほざいているんだと言いたくなった悠一だが、そんなこと言ったら最悪不敬罪で殺されかねない。


 千歩譲ってモンスターに殺されるならまだしも、そう言った貴族の私念で殺されるのだけはまっぴらごめんだ。下手に口を利いて殺されないように、黙っていることにした。


「二人共、一応警戒しておけよ。気を抜いた時に、襲い掛かってくるかもしれないから」


「その時は返り討ちにします」


「いや、それやったらダメでしょ。君らが殺されかねない」


 二人は大切な冒険者仲間なので、殺されるのは嫌だ。


「そんなこそこそ話していないで、周囲を警戒したらどうだ、冒険者? 貴様らはこの私を護衛しているのだろう? 何かあったらどうする」


「一応それなりに広い範囲に索敵魔法を発動させているので、奇襲とかは意味ないですけどね」


「本当にその索敵とやらは使えるのか? さっきからモンスターと遭遇していないではないか」


 貴族は悠一に対してだけ、不愉快そうな表情を向けてそう言う。しかし実際に索敵魔法は使用している。なので、索敵範囲内に入って来たモンスターは全て、悠一の分解魔法で消滅していた。結果、一体とも遭遇せずただ暇な時間だけが過ぎている。魔力の消費が激しいので、途中で止めたが。


「丁度モンスターがそんなに出ない場所なんじゃないですかね? モンスターや盗賊とかが出てこない方が、ずっといいですよ」


 相手が貴族なので、分解と再構築の固有魔法のことがそられないように、適当に誤魔化す。なるべくこの護衛クエストでは、固有魔法を使わないつもりでいる。それはユリスも同じである。


 もし固有魔法の使い手だと知られると国に束縛されて、自由気ままに冒険が出来なくなってしまう。異世界ライフを満喫したい悠一にとって、それだけは勘弁願いたいのだ。


「はっ。常に戦いに身を置いて血にまみれて、血生臭い冒険者な癖によく言う」


 一々見下すようなこの発言には、流石に悠一も結構イラついている。しかしここでキレれば間違いなく不敬罪で殺される。悠一は必死にその怒りを抑えていた。外見は普段と変わりないが、内心ではかなり怒っているのに気付いているのは、シルヴィアとユリスだけである。


「それにしても、黒髪の剣士。お前はいい女の連れているな」


 そこで貴族はシルヴィアとユリスに対象を向ける。瞬間、凄まじい悪寒が二人にはしる。貴族の目は主に二人の豊満な胸に向けられており、かなり情欲に満ちている。


 鼻息も荒く、もしこの人が貴族ではなく一般の人間だったら、間違いなく悠一かユリスが吹き飛ばしていた。それくらい、ヤバいおっさんにしか見えなかったのだ。実際に結構ヤバいのだが。


「白髪にオッドアイ。美の象徴の両方を持ち合わせている女と、歳不相応な体をした金髪碧眼の女。どちらも私の好みだ」


 更なる悪寒が奔る。二人は無意識的に身構え、悠一の背後に隠れようとする。そして逃げたいという考えが、思考を支配した。だが逃げ道は無い。


 実は護衛対象であるこの貴族は、街の人から結構嫌われている。目に付いた若い少女や女性を無理矢理連れ去って犯したり、初夜税と称して人妻を寝取ったりすることが多いのだ。こういった貴族はこの世界の世の中にはたくさんいるらしいので、珍しくはないそうだ。


 そんな貴族はシルヴィアとユリスに狙いをつけ、どんなことをして辱め弄ぼうか妄想を膨らませていた。


「……二人は護衛なんですから、いざという時に動けなくなると大変ですよ?」


 若干殺意の篭った目で貴族の男を見て、そう口にする。それと同時に夜寝る時に、ユリスの結界自動展開魔導具を使用した方がいいなと判断する。でなければ、寝ている時に寝込みを襲われかねない。


「ぬ……。お主一人でどうにかすればいいではないか」


「戦いでは何が起こるか分からないので、最悪俺一人では対処出来ないことがあるかもしれないんですよ。この娘たちは俺では対処しきれないところを補うだけの実力はありますし。この娘はAランク冒険者ですし、レベルで見れば俺よりも高いですよ」


 小動物のように怯えて、悠一に寄り添っているユリスの頭を優しく撫でながらそう言う。ダンジョン攻略してからレベルが一気に跳ね上がり、更に一週間討伐系のクエストを受けまくっていたのでそこからまた上がっていた。


 おかげで今の悠一のレベルは65、シルヴィアは61、ユリスは100に到達した。悠一とシルヴィアの成長率は高いが、ユリスはそうでもなかった。まあ、元のレベルがかなり高かったのでそれは仕方がないが。


「Aランク冒険者だと……? こんな小娘がか?」


「えぇ。何なら証拠となるカードをお見せしましょうか? 冒険者カードは他者が持つと色が変化して使い物にならなくなるので、ちゃんとした身分証明書になりますよ」


 悠一がそう言うとユリスはカードを鞄の中から取り出して、それを見せつける。そこにはしっかりとAランク冒険者と書かれており、そのことに驚愕して目を見開く。


「バカな……。こんな小娘がAランク冒険者だと……!?」


「紛れもない本物ですよ。俺が持つと」


 そう言いながらユリスから彼女のカードを受け取る。すると一瞬で灰色に変色した。


「こうなって、カードとしての機能が使えなくなります。本人に戻れば、その機能は戻りますけどね」


 悠一はユリスにカードを返しながらそう言う。それでも貴族の男は、ユリスがAランク冒険者であるということが信じられなかった。


 Aランク冒険者はSランク一歩手前の冒険者なので、一般的には一流冒険者と呼ばれている。Sランクともなると一流を超えて超一流冒険者と認識されている。SS、SSSランクともなると化け物クラスになり、Zランクは人外クラスになる。


 Zランク冒険者に至ったのは歴史史上一人しかいないが、たった一人だけで国の一つや二つを簡単に滅ぼせる力がある。SSSランク冒険者も殆んど同等の力はあるが、それでも決して越えられない壁がある。


「となると、貴様ら三人は全員Aランク……」


「いえ、俺とシルヴィアはDランク冒険者です。Cランクになるには、最低でも一ヶ月掛かるそうですからね」


 それを聞いた貴族は、何故かほっとした表情になる。彼にとって冒険者の基準は全員Aランクになっているので、それ以下はただの雑魚としか認識していないのだ。


 理由は、以前こうして馬車で冒険者に護衛を任せて街から街に移動している時に、盗賊の襲撃に会ったことがある。その時その冒険者は盗賊に殺されてしまい、ピンチに陥った。しかしそこで、一人の冒険者が現れた。


 その冒険者は格好はみすぼらしかったが、持っている杖の性能が破格であり、それを抜きにしても恐ろしいほどの魔力と魔法を有していた。瞬く間に盗賊共の殲滅し、助けてくれた報酬も受け取らずにどこかへ去って行ったのだ。


 とにかく、そんな出来事が過去にあったため、冒険者の基準がAランクと高くなってしまったのだ。


「たかだかDランク程度で、私の護衛が務まるとは思わないのだが」


「そんなことは無いです! ユウイチさんはランクこそDですけど、実力は間違いなくA、もしくはSランクはあります!」


 貴族のその発言にユリスはむっとして、少し大きな声で口を挟む。だが貴族の男は、ただ失笑した。彼はランクに応じた実力を持っているとしか認識しておらず、そのランク以上の実力を有していると言われても信じないタイプである。


「冒険者は皆、そのランクに応じた実力しかないだろう。こんな冴えの無さそうな男が、Sランク冒険者に匹敵するだと? 笑わせてくれる」


「そんなことは無いです! 現にユウイチさんは……」


「いいよユリス」


 感情的になり始めたユリスを、悠一が落ち着かせる。


「で、ですが!」


「いいって。そこまで感情的にならなくてもいい。俺の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、これ以上は流石にマズいよ」


 そこまで言われて、ユリスはやっと冷静さを取り戻す。相手の口車に載せられてしまったら、相手の思う壺だ。そうなると不利になるのは自分のどうなのだ。


 もしこのままもっとユリスが感情的になれば、誤って自分と悠一の固有魔法のことを言ってしまうかもしれない。ユリスの固有魔法は魔法に対してはすさまじい効果を持っており、悠一に至っては特殊過ぎなければ何でもありなのだ。


 しかも離れた場所にいても視認もしくは座標さえ分かれば、そこに魔法を発生させるか対象を分解させることだって出来る。魔法も分解されてしまうし、まさしく最強の魔法になる。それを持っていると知られると、間違いなく自分たちの手に納めようとしてくる。


 それは凄まじく面倒くさいので、権力を持っている相手には知られたくないのだ。


「ふんっ。まあ、せいぜい囮になるくらいの活躍はしろよ、Dランク冒険者」


「っ……!」


 ユリスは下唇を噛んで、悔しそうな顔をする。シルヴィアも実に不愉快そうな顔をしているが、悠一は涼しそうな顔をしている。しかしそれはあくまで外見だけで、内心では静かに怒りの炎が燃え上がっていた。


 すると三人の索敵魔法に反応があった。それは一つではなく、かなりの数だ。馬車の後ろの方に顔を向けて外を見てみると、遠くから何かが迫って来ていた。反応からすると、人間の様だ。


 旅の者かもしれないと一瞬思ったが、四日前に習得した無属性の遠距離視認魔法を発動すると、その考えが変わる。全員総じて軽装だがかなり薄汚れた服装をしており、ガラが悪い。顔も厳つく、傷跡が無い者が無かった。


 要するの盗賊たちである。全員獲物を見つけたかのような表情をしており、向こうも遠距離視認魔法が使えるのか、実に下卑た顔をしていた。シルヴィアとユリスを確認したのだろう。


「盗賊団か……。めんどくさいけど、結構いいタイミングで来たな」


「「え?」」


「ちょいとばかしストレスが溜まっているんでねぇ……、発散させてもらいますか」


 真っ当な剣の道を進んでいる者の発言としてはどうなのかと思うが、後ろにいるバカ貴族のせいで結構ストレスが溜まっている。だから権力者は嫌いなのだ。


 この世界では自分では何も出来ないくせに無駄に高い権力を持ち、それを笠に着て自分がってなことをする。何も出来ないくせにそんなことをしている奴は、本当だったら一発ぶん殴ってやりたいところだが、かなりの問題になってしまうのだぐっと堪えていた。


 それをいいことに次から次へと見下すような発言をしてきたので、正直言ってかなりイラついている。なので、そこにやってきた盗賊団に対して、その溜まったストレスをぶつけるつもりでいるのだ。シルヴィアとユリスは最初は何を言っているのか分からなかったが、すぐに理解した。


「せいぜい、一人くらい相打ちにしてくれよ」


 貴族は実に素晴らしくイラつく表情で、悠一にそう言う。だがそんな言葉は軽く聞き流し、スキル魔力遠隔操作で大気中にある魔力を掻き集めて、かなり多く自然発火するガスを生成。それを魔力で覆って一気に圧縮する。


 そしてそれを向かってきている盗賊団の中心辺りに放ち、魔力を消す。圧縮されていたガスは解放されて、外気に触れることで発火してかなり大規模な大爆発を発生させる。それはユリスの使う炎属性の爆破系統上級魔法である【エクスプロード】を超えるほどの規模だった。


 スキルとはいえこれを発動させると魔力を消費するが、それは微々たるものである。使用している魔力の殆んどが大気中の魔力なので、何度でも大規模な攻撃が出来る。生物対象にした分解に関しては、例外的に大幅に魔力が減るが。


 貴族の男は、せいぜいDランク程度の冒険者であると思っていた悠一が、どう考えても【エクスプロード】以上の魔法を使用したと思い、驚愕の表情を浮かべる。どう見ても大して強そうには見えないはずなのに、恐ろしく強力な魔法を使用した。


 現代知識を利用したただの化学反応なのだが、この世界では化学はあまり進んでおらずそれは知る由もない。何がともあれ、貴族の男は悠一を怒らせてはならない相手だとすぐに判断して、出来る限り見下すようなことはしないようにした。

 今日から学校なので、二話投稿出来なくなると思います。最悪、毎日投稿ではなくなるかもしれません。時間があれば、頑張ってやってみるつもりです。これからもよろしくお願いします!

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