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29 ダンジョン攻略後、新たな仲間

「……さん! ……イチさん! ユウイチさん!」


 体が揺さぶられている感覚と、名前を呼ぶ声が次第に聞こえて来た悠一は、瞼をゆっくりと開く。そこには、大粒の涙をボロボロと流しているシルヴィアの顔があった。彼女の隣には、光属性による回復魔法を施しているユリスの姿もある。


 ほんのりと暖かく、心地いい光が体を包み込んでいる。


「シル……ヴィア……?」


「ユウイチさん!」


 意識を取り戻したのでシルヴィアはパッと明るい表情になる。ゆっくりと体を起こすと抱き着いてきた。女の子、それも一歳とはいえ年下に抱き着かれるという経験が全くない悠一は、突然のことに困惑する。そして柔らかい二つの膨らみが当たって、同時に脳内が若干パニック状態に陥る。


 しかし、シルヴィアが小刻みに震えているのに気付くと、すぐに理解する。


「俺、どれくらい気を失っていたんだ?」


「数分ほどです……。突然倒れたので心配しましたよ……」


 ぎゅうっと腕の力が強くなる。自分のことを心配してくれることが嬉しくなり、思わず頭を優しく撫でてしまう。


「意識が戻ったみたいで何よりです、ユウイチさん」


 回復魔法を中断したユリスは、ほっとした表情でそう言う。彼女もまた心配していたようだ。


「ありがとうな、ユリス。そして心配をかけてごめんな」


「本当ですよ。何とかガーディアンモンスターを倒せましたけど、もう無茶はしないでください!」


 ぷぅっと頬を膨らませて怒るが、威圧感が無く全く怖くない。ただただ可愛いだけである。同い年程度の女の子とはそれ程接点が無かった悠一なので、ここまで心配されると少し気恥しくなる。特にシルヴィアには今抱き着かれており、どう対応すればいいのか分からない。


 とにかく今は、彼女が少し落ち着くまで頭を撫でることしか出来ない。これで本当にいいのか、やっておいて疑問に思うが。


「ボクは気絶してて分からなかったんですけど、ユウイチさんはどうやってガーディアンモンスターを倒したんですか?」


「それが、俺もよく覚えていないんだよ。ただ誰も死なせたくない、誰も悲しませたくない、何が何でも守りたいって強く思ったら急に力が湧いてきて、何でも出来るって思ったんだ。けど、記憶の大部分が抜けてて、本当に俺があそこまで追い込んだのかが信じられない」


 白銀色の魔力が立ち昇ったすぐ後は何でも出来る。今ならば黒騎士を倒せると直感していたが、戦っている最中の記憶の大部分が抜け落ちている。なので、朦朧としていた意識がはっきりした時に黒騎士が壁に衝突しているのを見て、かなり驚いていた。


 しかしユリスが回復魔法を掛けていたし、シルヴィアも泣くほど心配していたので、間違いなくそうなのだろう。全く実感がないが。


「そうなんですか……。ボクもシルヴィアに無理矢理叩き起こされて、倒れたユウイチさんをすぐに治療してくれって言われただけでしたし」


「そこんとこの記憶ないから、後でシルヴィアに聞いておいてくれ」


 まだ抱き着いて離そうとしない、シルヴィアの頭を撫でながらそう言う。数週間一緒にパーティーを組んでユリスが近くにいるから大丈夫だが、もしユリスがいなかったらどうなっていたか分からない。最悪理性が吹き飛んでいた可能性がある。


 尤もその可能性は物凄く低いので、興奮してあれが起ってしまう方の確率が高いと思うが。シルヴィアが離れたのは抱き着いてから十分近く経過してからで、離れた彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。そしてそれを見た悠一も顔を赤くした。


 そんなことがあってから黒騎士の大剣と特大の魔法結晶を回収して、ふらふらになりながらもダンジョンから出ることにした。体力自体は殆んど回復しているのだが、魔力がこれまでにないほど消費されてしまっているので、モンスターとは戦わずに第五階層の階段の所まで行き、そこで休むことにした。


 時間にしてみれば一時間もない戦闘だったが、常に命が握られたような状況だったので、精神的な疲労が半端ではない。なのでそこに着いた三人は、結界を張った後壁に凭れ掛かって仲良く寄り添うように眠ってしまった。



 ♢



 黒騎士を討伐してから二日が経過して、三人はやっとダンジョンの外に出ることが出来た。数日ぶりの外の空気は非常に澄んでおり、生きて帰ってこれたという実感が半端じゃない。戻り始めて一日目は魔力もないし精神的にも疲れていたのでずっと休んでいたが、二日目からは行きと同じようにモンスターと昼夜戦い続けるものだった。


 特にまだ疲れが抜け切っていない時に変態霊長類が集団でやってきた時は、精神崩壊を起こしかけたほどだった。その前に大規模な爆発を引き起こして、跡形もなく消滅させたが。


 やっとのことで地上に出てこれた二人は、少しだけ覚束ない足取りで街に向かって行く。大深緑地帯のモンスターとは何度も遭遇したが、もう体を動かすことが億劫だったので魔法だけで吹き飛ばす。討伐部位も、ダンジョン内で倒したモンスター全てから回収しており、凄まじい量になっている。


 きっと目が飛び出るほどの金額になるだろう。そこにダンジョン攻略による破格な報酬金。多過ぎても使い道がないので、山分けした後どこかに半分寄付しようかと本気で考え始める。


「やっと道が見えて来たな」


「街に戻ったらしばらくは冒険者業をお休みしたいです……」


「私もです……。登録して一ヶ月も経ってないのに、あれは厳しすぎます……」


 モンスターを魔法で吹き飛ばしながら森を突っ切って行き森から出ると、シルヴィアとユリスが疲れ切った表情でそう言う。ここから先はそれほどモンスターが生息していない場所であり、遭遇してもゴブリンがせいぜいである。


 三人はやや早歩きで街に向かって行く。幸いモンスターとは遭遇せず、街に到着した。そして街に着いてすぐ組合に行き、達成報告しに行く。


「だ、ダンジョンを攻略してきたと……?」


「はい。これがガーディアンモンスターの落とした魔法結晶と、使っていた武器です」


 鞄の中から人の顔ほどはある大きさの魔法結晶と、悠一よりも大きな黒い大剣を引っ張り出して、それを証拠として提示する。すると、受付嬢が物凄く驚いた表情をする。


「こ、これは……!? ダークグラディアトルの大剣……!?」


「ダークグラディアトル? ……二メートルくらいのアンデッドっぽい、黒い鎧のモンスターのことですか?」


「そうです! このモンスターは個体によって変わりますが、AからSランクの上級モンスターなんですよ! それがどうしてダンジョンに……。いえ、それ以前に、あなたたちだけで倒したのですか!?」


「そう、なりますね……」


 凄まじい気迫で顔を近付けてくる受付嬢。後ろにいる美少女二人と同じくらい美人なので、顔が近くに来ると気まずい。ついでに、スタイルはユリス以上で、これでもかと双丘が主張している。大き過ぎて目のやりどころに困る。


「レイナからは凄いと聞かされていましたけど、まさかダークグラディアトルまで倒してしまうなんて……。もうDランク冒険者としての実力から逸脱していますよ……?」


「それは俺も自覚していますよ……」


 そのせいで会う人に毎回同じ説明をしなければならない。とにかくこれ以上あまり注目されたくないので、モンスターの討伐部位の入っている鞄と攻略した証拠として提示した魔法結晶と黒の大剣を渡す。


 これがどれだけの値になるのかはしっかりと鑑定しないと分からないので、討伐部位の換金は一日から二日掛かるそうだ。代わりに1860000ベルを受け取る。その大金を受け取った三人は、それを三つに山分けして冒険者カードに収納するようにお願いする。


 受付嬢はどこか震える手でそれを受け取って、それぞれに620000ベルを収納する。その報酬金額分増えた貯金額は凄まじいことになっており、かなりの贅沢をしないとすぐには無くならなさそうだ。それだけの金額だ。


 悠一はそのお金を持っているのが怖くなったので、受け取った620000ベルの半分を孤児院などに寄付するようにお願いした。それはシルヴィアとユリスも同じで、930000ベルは孤児院に寄付されることになった。余談だが、一度にその金額が寄付されたので、そこにいるシスターと孤児たちは困惑したそうだ。


「さてさてさーて、こうして無事? 戻ってこれた訳だし、今日からしばらく休もう……」


 命を握られたという恐怖もあるが、連続して変態霊長類と遭遇してしまったので精神的疲労が半端ではない。若干だが、虚ろな目になっている。


「そうですね。その前に、お風呂に行きたいです……」


「ボクもです。ダンジョンに行ってから一度も入ってなくて、結構匂いが気になって……」


 確かに、ダンジョン内には温泉とか言ったそんな大それた物など存在していない。体を清潔にしてお湯に浸かりたいのであれば、街の温泉に行くしかない。値段が意外と高いので、冒険者業で成功した者か貴族かお金持ちが良く足しげに通う。


 悠一とシルヴィアは温泉には行けないので、宿にある風呂でさっぱりしていた。といっても、一般家庭の生まれなので、その程度のでも十分なのだが。


 しかしシルヴィアは一度でいいから、大きな温泉に行ってみたいと思っていた。今までお金が無くて行けなかったが、今はびっくりするくらいのお金がある。それだけ持っていて、少し贅沢をしないと勿体ない。なので三人は温泉に行くことになった。


 まずそれぞれが泊まっている宿屋に行って、そこに放置したままになっている私服と替えの下着と体を洗うスポンジを持って行く。武器はどうしようかと考えたが、もうしばらくはお休みにするので部屋に置いておくことにした。


 もし何かがあっても微粒子から武器を作り出せばいいだけの話だ。それを考えると武器を携帯しておく必要は無いのだが、抜刀するのと作り出すのとでは速度が少しだけ違う。そのほんの少しの一瞬が、戦いにおいては命取りになってしまう。


 だがそれはあくまで、敵が目の前にいる時の場合だ。そうでなかったら、丸腰から武器持ちになれる。


「私、温泉に行くの初めてで少し緊張します……」


「ボクは何回か行ったことあるから、順番とか教えようか?」


「うん、お願い!」


 シルヴィアとユリスは、お互いに敬語を使わない程に仲良くなった。歳が近い同性だからだろうか。


 ちなみに二人が悠一をさん付けで呼んだり敬語を使ったりするのは、二人も悠一と同じように家族以外との以西とは接点がまず無かったため、恥ずかしいからである。もちろん悠一は、そのことに全く気付いてはいない。どこまでも鈍感の様だ。


「ところでユリス」


「何ですか?」


「俺たちは臨時パーティーとしてダンジョンに行った訳だろ? けどそれはあくまで攻略するまでだったから、攻略終わったしこれからどうするんだ?」


「ん~……、じゃあボクもユウイチさんとシルヴィアのパーティーに入ってもいいですか?」


「大歓迎だよ!」


「俺も別に構わないけど……」


 悠一は周囲にちらりと視線を向ける。凄まじい視線が突き刺さってくる。殺気が籠っているのもある。


 男女パーティーは数こそ少ないが珍しいという程でもない為、シルヴィアだけであればかなり見目麗しく、珍しい白髪と珍しいオッドアイと珍しいのダブルコンボだったので、それなりに目立ってはいたが大丈夫だった。


 しかしそこにスタイル抜群の金髪碧眼の美少女であるユリスが加わると、男性冒険者から凄まじい視線を向けられる。贔屓目に見なくても二人は誰もがすれ違えば振り向く美少女であるため、その二人と一緒に行動している悠一は、男性にとっては面白くないのだ。


 今でも殺気をもろに向けられている。あまり気分のいいものではない。しかしユリスは魔法使いとしては類稀に見る天才で、ぜひとも仲間に欲しい逸材だ。一人にしておけば、多くの冒険者に狙われるだろう。特に男性に、別の意味でも狙われるだろう。……稀に女性もいるかもしれないが。


 とにかく、ここで断ったりでもしたら最悪ユリスが酷い目に遭ってしまうかもしれない。その確率はかなり低そうだが。そしてそもそも、断るつもりはない。ダンジョンに潜っていた五日間でかなり頼れる後衛であるのが分かったので、信頼における。


「それじゃあこれからもよろしくお願いしますです、ユウイチさん!」


 ユリスは頭を下げながらそう言い、眩しいほどの満面な笑みを向ける。こうしてユリスは悠一とシルヴィアのパーティーに加わったのである。

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