表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/99

2 初めてのクエスト

「さてさてさーて、まずはスライム討伐だが、この辺りでいいのか?」


 街を出てから数十分ほど歩いたところで、悠一は地図を確認しながらそう呟く。第一目標はスライムの討伐だ。いきなりゴブリンと戦ってもいいのだが、不安があるので少しでもレベル上げをしておこうと考えたのだ。


 今悠一がいるのはバルディアス草原というところで、ここに多くのスライムが生息している。地図を確認していた悠一は、間違いなく第一目的地であることを確認し、地図をウェストポーチの中に仕舞ってスライムを探し始める。


 しばらく歩いていると、バレーボールより少し大きい程度の半透明でうねうねと動く何かを見つける。第一討伐目標であるスライムだ。まさか到着してこんなに早く見つけるとは思っていなかった。


 悠一は早速抜剣して構える。ズシリと思いそれはまだそれほど手に馴染む訳ではないが、戦うには申し分ない。


 じりじりと距離を詰めていると、スライムは悠一に気付いたのか結構早いスピードで突進してくる。はっきり言って気持ち悪い。


 スライムは一定の距離まで近付くと、そこから跳び上がって来た。悠一は右に軽く避けた後、左足で回し蹴りを喰らわせる。ぶにっとした感触がして大した手応えは無かったが、蹴り飛ばされたスライムは数メートル転がって行く。


 そこに悠一が素早く間合いを詰めて、剣を一閃する。真ん中から綺麗に両断されたスライムは暫くうねうねと動いていたが、やがて身動き一つしなくなる。


「これ、倒したのか?」


 そう呟いてからステータスウィンドウを開くと、NEXTが15から12になっていた。どうやら一体倒せば経験値が3入るようだ。


「これならあと四体倒すだけでレベル2に上がるな」


 そう言いながら手に持った剣を鞘に納めて、ポーチの中に手を突っ込む。そこから一緒に支給されていた剝ぎ取り用のナイフを取り出して、スライムの身を掌サイズに切る。少しねばねばした感触があったが、別に大したことは無かった。


 悠一は剥ぎ取ったスライムの身をそのままポーチの中に突っ込む。一定の重量を超えない限り重さを感じないというのは、実に便利だ。


「よし、次だ」


 剥ぎ取りを終えた後、更なる獲物を求めて歩き出す。進む先にはゴブリンの生息している場所があるので、スライムを倒しつつそちらに向かって行くことにする。


 少し進むとそこは森であり、初級モンスターがわんさかいる。まだ登録したての冒険者は、よくここでレベル上げをすることである意味有名だ。


 そんな森の中を進んでいくと、右側の草叢からがさりと音がする。振り向くと、スライムが五体いた。そしてその奥にはもう三体いた。これで九体遭遇したことになる。


 早速抜剣して、素早く間合いを詰め込む。剣が届く間合いに入る前にスライムたちは気付いて一斉に突進してきたが、悠一は体を捻って躱してすれ違いざまに捻った時の勢いを乗せて剣を振るう。一度に二体斬り裂かれて動かなくなり、振り抜いた勢いのままもう一度剣を振るいまた二体同時に斬る。


 スパッと大した手応えを感じなかったが、頭の中でファンファーレが鳴り響いた。少し驚いたが、それと同時にそれが何なのかを理解する。


 剣を鞘に納めてその場でステータスウィンドウを開くと、レベル1だったのが2に上がっていた。ステータスを見てみると、こちらも結構上がっていた。力と素早さがかなり上がっていたが、一番上がっていたのは魔力量だった。


 最初は150だったのが、たった一上がっただけで195にまで上がっている。


「MPの上がり方ヤバすぎだろ。魔法が使えるなら多いに越したことは無いけど」


 そう言いながら魔力を右手に集めてみる。青い仄かな光が宿り、僅かに温かさを感じる。


「確か、イメージすることで魔法が使えるんだっけか」


 そう言いながら足元にある掌サイズの石を拾い上げて、それが分解されるイメージをする。するとその石はその場から消滅した。


「……これは、思ったよりチートだな」


 はっきりとイメージさえすれば、魔法が発動する。しかも一度発動させることが出来れば、どこまで出来るのかは分からないが問答無用で分解させることが出来る。


 そこで悠一は思い出す。質量変換の能力もあるこれを使い、石を別のエネルギーに変換させた場合どうなるのかを。昔とあるアニメで実際にたった一回の魔法の発動で、敵を一気に跡形もなく消滅させたという物がある。それを見た時あまりにも強過ぎたので、セリスに分解と再構築を頼んだのだ。


 見ている分には凄い程度にしか思わないが、自分がそれを有していると思うと恐ろしく思う。使い方ひとつで、国一つを一発で消し飛ばせるのだから。


「使い方を間違えなければ、これに勝るものは無いんだけどな」


 そう言いながら再び抜剣して、突進してきたスライム三体を同時に斬る。レベルが上がったせいか、先程よりも体が少しだけ軽く感じる。このままレベルが上がって行けば、きっと人間離れしたワイヤーアクション染みたことが出来るようになるだろう。


 そう思った悠一は少しだけ胸を躍らせて、スライムの身を剥ぎ取って回収して行く。スライムの身の回収を終えた悠一は、まだ先にあるゴブリンの生息しているヴァルドラスの森という場所に向かって行く。


 スライムは体を分裂してその数を増やしていくので、少し歩くだけで遭遇する。なので目標討伐数の二十体を、あっという間に倒してしまう。二十体倒したので、悠一のレベルは3まで上がっていた。


 また少し体が軽くなったのを感じながらずんずん進んでいると、ヴァルドラスの森に到着した。


「よし、今度はゴブリンの討伐だな。人に近い姿をしていると聞いているけど、何とかなるかな」


 悠一は頬を手で叩いて気合を入れると、気を引き締めて森の中に入って行く。森の中は薄暗く、夜とかに来たら何かが出てきそうな雰囲気だ。


 警戒しながら進んでいると、左側の草叢からがさりと音がする。その音を聞いてすぐにそちらに体を向けて、剣の柄に手を掛ける。敵が飛び出してきてもすぐに切り伏せられるように。


 だが出て来たのはスライム一体だった。そのことに少し安堵しながら、剣を抜いて薙ぎ払う。綺麗に分断されたスライムは暫くうねうねと動いていたが、やがて動かなくなった。


「もうスライムは倒さなくていいんだけど、少しでも経験値が欲しいからな。いや、でもこれ以上倒しても特に意味がない気がする」


 相変わらず経験値は3入ってくるが、それはもう微々たるものだ。もう少し強いモンスターと戦って、もっと多い経験値が欲しいのだ。


「あ、そう言えば」


 スライムを倒した後その身を回収せずにまた進んでいる途中で、あることを思い出した。それは、持っている武器を一度分解して刀に再構築することだ。


 剣があればそれなりには戦えるが、やはり力任せに叩き切るような両刃の剣ではなく、使い慣れている刀の方がずっと扱いやすい。一応街を出る前に武具屋に寄ってみたが、そこには刀が無かった。


 店主に聞いても、そんな武器は知らないという答えが返って来た。なのでこうなったら自分で作るしかない。今持っている剣は初心者に支給されるものではあるがそれなりに頑丈で、そこそこ長く使えそうだ。


 だが刀は鋼と鉄の二種類の金属を使っているので、一種類の金属で作られているこの剣では本物の刀のような切れ味は再現出来ないだろう。しかしないよりかはマシなので、剣を刀に作り替えてみることにする。


 まだ魔法に離れていないので、近くに転がっている石を使って少し練習する。石を拾ってから右手に魔力を集めて、そして分解させる。先程と同じように石は消滅したが、消滅する前の状態をイメージすると、元通りになった。


 それを何度か繰り返し、数分後には石を別の形に作り替えることが出来た。


「よし、じゃあ始めるか」


 悠一は剣を鞘から抜き、右手に魔力を集める。そして一度それを分解する。分解された剣は右手から消失したが、悠一は慌てずに刀を強くイメージする。


 じわじわと倦怠感に襲われてきたが、そんなことは一切気にせずに続ける。開始してから数十秒後、右手にはイメージした通りの刀が握られていた。成功だ。


 ステータスウィンドウを開いてみると、MPが残り36しかなかった。結構減ったなと思いながら魔力回復薬を取り出して、それを飲む。直後、青汁並みに苦い味が口いっぱいに広がる。意外と苦いのだなと思いながらもどんどん飲み下していき、瓶一本を空にする。


 全部飲みほしてから開いたままのステータスを確認してみると、36だったMPが136まで回復していた。どうやら一本で100回復するみたいだ。それなりに回復したのを確認すると、今度は鞘を分解して再構築する。これはさほど時間が掛からなかった。


 もう一度確認してみると、MPは98まで減っていた。MPの消費量は、魔法を発動させていた時間によって違うようだ。とりあえず持ったままの刀を鞘に納めてみるが、ズレは無く大丈夫だった。


 抜刀して構えてみるが、まだ違和感はあるが先程よりは大分マシになった。


「よし、これなら大丈夫だな。それじゃあクエストを続けよう」


 悠一はそう言いながら納刀して、ゴブリンを探し始める。



 ♢



 ゴブリンを探し始めてから十分弱、スライムと遭遇するばかりで一度もゴブリンとは遭遇していない。今も六体のスライムを切り伏せたところだ。


 スライムとはいえ経験値は3入るので、ずっと倒していたらまたレベルが上がった。これで今現在のレベルは4だ。


「そろそろゴブリンと遭遇しませんかね」


 そう呟きながら周囲を探っていると、ふと殺気を感じた。そちらの方に振り向いてみると、緑色の肌をして悠一の胸の辺りまでしかない小柄な存在がそこにいた。それこそが、もう一つの初心者のレベル上げに狩られまくるモンスターであるゴブリンだ。


 ゴブリンも初級モンスターに含まれるが、油断してはならない。何故なら、ゴブリンは基本集団で行動する。一体だけかと思ったら、実は数十体いるなんてこともあるらしい。


 何がともあれようやく目標を見つけたのだ。早速抜刀して両手で構える。ゴブリンも右手に持っているごつごつした棍棒を持って、牙を剥いて威嚇している。


「ギギィィィィイイイイイイイイイイ!!」


 するとゴブリンは身の毛のよだつような雄叫びを上げながら、右手に持った棍棒を振り上げて襲い掛かって来た。悠一は刀でそれを受け流すが、思った以上に力があることに驚いた。


 接近戦ではやや不利だと判断して、バックステップで一度距離を取る。ゴブリンは棍棒を振り上げて襲い掛かってくる。単調な攻撃なので読みやすいが、その一撃を喰らえば一溜りもないだろう。


 そう思いつつ隙を伺い、大振りの一撃を受け流したところでカウンターの要領で首を断ち斬る。首を切ったので大量の血がそこから吹き出し、その匂いに吐き気を覚える。やはり人に近い姿をしている分、僅かにだが罪悪感がある。


 しかし倒さなければ自分がやられてしまう。そう思い、吐き気をぐっと堪える。すると前方から複数体のゴブリンが現れた。その数は、七体。


「うっわ、こいつは面倒だな……」


 そう言いながら苦笑して、刀の柄を握り直す。仲間の死体が転がっているのを目撃したゴブリンは、怒りの雄叫びを上げて襲い掛かって来た。


 悠一はその攻撃を躱し、受け流し、いなし続けていく。最初は初めてのモンスターとの戦いだったので大きめの交わしていたが、少しずつ最小限の動きで躱し始める。


「ふっ!」


 体を捻って躱したところで、その捻った力を利用してゴブリン上半身と下半身を分断する。そしてその域を意のまま背後にいるゴブリンを切り伏せて、腕を引き戻して袈裟懸けに切り伏せる。


 仲間を目の前で殺されたゴブリンは再度怒りの雄叫びを上げて、大振りに棍棒を振るってくるが、最小限の動きで躱して心臓を穿ち、棍棒による攻撃を受け流してカウンターの要領で首を断ち斬る。


 たった一人の人間に次々と仲間が屠られて行くのを目の当たりにした残りのゴブリンは、背を向けて逃げ始める。しかし悠一はそんなのを見逃すわけがない。足元から魔力を流し込んで、一度足場を分解してから一気に針状に再構築する。


 剣の間合いの外にいたゴブリンたちは、再構築されて伸びた針によってその体を貫かれて行く。上手く行ったようだ。


 ゴブリンは声を上げて足掻いていたが、次第に動かなくなる。それと同時に鳴り響くレベルアップのファンファーレ。


「ふぅ、これで八体か。こりゃ大変だ」


 平和な国日本に住んでいた悠一にとって、これだけの血と死体を見たのは初めてだ。人に害を成すモンスターとは言え、ゴブリンとて生物だ。しかも人間に近い姿をしている。


 その肉と骨を断ち斬り、耳に届いたその断末魔を思い出して、再度吐き気を感じてぐっと抑える。


「とにかく、他のモンスターたちが来る前に討伐部位を回収するか」


 刀を鞘に納めて、針のように伸びている地面を分解して元通りにした後、ゴブリンの牙の剥ぎ取りを始める。一体から一本回収すればいいのだが、指定された数よりも多く持って帰ったらその分換金されるので、二本とも剥ぎ取って行く。


 八体から計十六本剥ぎ取った後、更なる獲物を求めて進んでいく。ステータスウィンドウを開いてレベルを確認してみると、レベル6に上がっていた。


「七体倒しただけで結構上がるんだな。一体に付き経験値は幾つ入るんだ?」


 基本集団で行動するゴブリンと戦っている間は、ステータスなんて確認している余裕はないので、どうでもいいが。ただレベルが上がって強くなれればそれでいい。そう自分に言い聞かせながら歩いていると、十数体規模のスライムの集団を見つけた。


 もうかなりの数を倒しているので既に大分飽きており、空気中に微粒子を再構築魔法で集めてスライムの集団の上に巨大な鎚を出現させる。出現した土は重力に従って落下していき、スライムを粉砕する。


 一度にスライムを倒したが、レベルは上がることは無かった。流石にもうスライムでレベル上げするのは無理だろうと判断し、これからはゴブリンやオークと言ったもっと危険なモンスターと戦うことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ