表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/99

26 ベルセルク討伐

「本当に君たちも参加するのか?」


「もちろんですよ。それに、一人でも多くの戦力がいた方がいいでしょ」


 ベルセルクを討伐することになったので、悠一たちはすぐ後にその討伐隊に参加することを伝えた。するとアルフレッドは、少し心配そうな顔でそう言った。どう見てもまだ十代後半程度の少年少女なのだ。心配になるのも無理はない。


 しかし心配する反面、たった三人でこの第四階層に来ているのでそれなりの実力はあるのだろうと判断する。


「分かった。君たち三人も討伐隊に入れよう」


 アルフレッドはそう言うと、人当たりのよさそうな微笑みを向ける。それと同時に、他の男性陣から鋭い視線を向けられた。その視線には、かなりの嫉妬心が籠っている。やはりかと、悠一は苦笑いを浮かべた。


 同時にその場にいた女性冒険者は、シルヴィアとユリスに鋭い視線を向けていた。アルフレッドはどうやら女性人気が高いようである。それとは対照的に、悠一に嫉妬深い視線を向けていない他の男性陣は三人、特にシルヴィアとユリスを歓迎している様子だった。


 僅かに下心が見えるので、二人は警戒してしまっているが。何がともあれ、討伐隊に加わることが出来た。シルヴィアとユリスは魔法使いなので後衛になり、悠一は前衛になった。なお、後衛には全盛に立って戦うのを避けた女性魔法使いが多く、二人はそのことに安堵していた。周囲が男だけだったら、警戒し過ぎて戦いどころではない。


「ところで、君の持っているその剣。不思議な形をしているね。少し持ってみてもいいかな?」


「構いませんよ」


 単に好奇心が湧いてきただけだというのを目を見て分かったので、抜刀してそれを手渡す。


「へぇ。面白いね。とても繊細で、これその物が芸術品の様だ。ユウイチ君、これはどこで?」


「それはどこにも売っていない、俺のオリジナルの武器ですよ。どうやって作ったのかは教えられませんけど」


 そもそも手で作ったのではなく、魔法を使って作ったのだ。教えたところで、誰かが真似出来るものではない。


「これを自分で作ったのか。凄い鍛冶能力だな」


 アルフレッドは刀を少し軽く振ってから悠一に返す。刀を返された悠一は、音を立てて鞘に納める。


 二人がそんなやり取りをしている間、シルヴィアとユリスは後衛の男性魔法使いに声を掛けられていた。適性のある属性や使える魔法などを聞いてくる人がいれば、年齢や趣味などといったこの戦いには関係のないことを質問してくる人もいる。中には絶対に口にしなくない質問などもあったが。


 結構多くの質問を投げ掛けられているので、ユリスは大丈夫だったがシルヴィアは少しオドオドしていた。その様子が可愛らしく、男性からは人気が高かった。


「よし、パーティー編成も済んだし、ベルセルクの討伐に行くぞ!」


『おぉ!』


 アルフレッドがそう叫ぶと、気合の入った声が上がる。元々反対していた冒険者たちは、悠一とアルフレッドに論破された挙句、シルヴィアとユリスにも説得されているのでまだ少し乗り気ではないが同じように声を上げている。


 一同は第四階層の東側に進んでいく。モンスターは前衛、もしくは中衛の冒険者によって尽く倒されて行く。その間後衛は、前衛と中衛の補助しかしていなかった。魔力を使って魔法を発動させる魔法使いなので、戦いの前に魔力が無くなってしまってはそれどころではないからだ。


 やがて何回目か分からないモンスターの襲撃をやり過ごすと、あらかじめ発動していた索敵に反応があった。今まで戦ってきた度のモンスターよりも大きく、そして禍々しい魔力を放っている。ベルセルクは上級モンスターの中で一番の魔力と力と防御を誇っている為、一部の冒険者からは魔獣とも呼ばれている。


 それほどまでにそのモンスターは強いのだ。幸いと言っていいのか、ベルセルクは力と防御が高過ぎるが故に、動きが少し遅い。なので、一人ではどうしようもなくとも数で押し切ればどうにか出来る可能性が高いのだ。


「この先に俺たちの言ったベルセルクがいる。いいか、むやみに突撃はしないように。そうすると、確実に奴に殺される」


 索敵で存在を確認したすぐ後、アルフレッドがやや小さめな声でそう警告する。悠一も、あれはまだ一人では相手にしてはいけない相手だと理解しているので、アルフレッドの警告に頷いた。


 一同はそれぞれの武器を手に持ち、すぐに戦えるように構える。悠一も刀を右手に握り、シルヴィアとユリスは杖をしっかりと握り直す。進行速度を少しだけ遅くしてゆっくり進んでいくと、その姿が見えて来た。


 先程聞いた通り体は黒く、立派な鬣を靡かせており獅子を彷彿とさせる。しかし口からは鋭く長い牙が伸びており、何でも嚙み砕いてしまいそうな程強靭な顎。竜のように太い尻尾。そして合わせるだけでも恐怖を感じてしまいそうな、血のように真っ赤になっている双眸。魔獣という名に恥じぬ風貌だった。


 その姿を見た悠一は、直感的に一人であれを相手にしたら一分経っていられればいい方だなと、冷や汗を垂らす。


「じゃあ、作戦通りに行くぞ。後衛、魔法を放て」


 アルフレッドがそう指示を出すと、後衛の魔法使いたちが一斉に魔法を放つ。その全てが中級上位魔法から上級魔法である。


 放たれた魔法は全て一直線にベルセルクに向かって行くが、魔法に気付いたベルセルクは大きく息を吸い込み始める。瞬間、悠一は危険を察知して即座に圧縮したガスをベルセルクの周囲に三つほど生成して、爆発を起こす。


 そこそこ多く魔力を消費したのを三つなので、凄まじい爆発が起こった。おかげでベルセルクは、大きく息を吸い込むのを止める。そしてそこに先に放たれた魔法が命中する。


 ベルセルクがしようとしていたのは、大爆音の咆哮である。悠一は知識は無かったが、息を大きく吸い込み始めた時点でそれに気付いたのだ。なのでその行動を封じるために、威力が高い爆発を三つ同時に起こしたのだ。


「行くぞぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


『オォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 前衛と中衛が一斉に飛び出し、ベルセルクに襲い掛かる。その中でも一番素早さの高い悠一は先に懐に潜り込んでおり、鋭い斬撃を浴びせる。しかしその体は、厚い鋼のように硬かった。


 振り上げて空を切る音を立てて振り下ろされてきた腕を上に跳んで躱すと、後から追い付いた冒険者たちが攻撃を喰らわせる。するとその全員の背中に、魔法陣が浮かび上がった。それはユリスの支援系上級魔法で、効果は破格の物だ。


 身体能力を一時的に十数倍に引き上げて、傷を負っても魔力が減っても即座に回復するという物だ。その魔法の名前は【エクエスベネディクトス】。意味は、騎士王の祝福である。


 途端に体が軽くなり体の底から力が湧いてきたので、少しだけ驚くが、すぐに気を引き締めて空いた左手で構築した鋼のランスを掴み、作った足場を蹴って鋭く重い突きを喰らわせる。しかし、僅かに切っ先が刺さっただけで、大したダメージを与えることが出来なかった。


 ならばと思い、そのランスを無数の槍の切っ先のような形に作り替えて、それをかなり上空に飛ばす。助走距離が長ければ長いほどその威力が増すので、それを利用した上からの攻撃だ。ちゃんと的を絞らないと、周囲の冒険者に当たってしまうが。


 また大きく息を吸い込み始めたので顔の下に移動して、身体強化を全開で掛けて顎を蹴り上げて強制的に口を閉じさせる。そして上に飛ばした槍の切っ先が、凄まじい勢いを以って襲い掛かる。先程よりも深く刺さったが、これでも大したダメージにはならない。


「本当にバカみたいに硬いな、このモンスターは……!」


 太い前足での攻撃を屈んで躱し、手加減なしの属性開放状態の刀で斬撃を叩き込む。捻りを加えた一撃なのだが、それでも皮膚を浅く傷つけるだけだった。やはり今の自分のレベルでは、傷を負わせることすら難しい。


 するとそこに後衛部隊による、魔法の一斉放射が行われる。十数人もの魔法使いの魔法が炸裂するので、凄まじい破壊の波となって襲い掛かる。しかし、それでもダメージが入ったようには見えなかった。


 これがAランク上級モンスターなのかと感嘆し、自身の周囲に無数の鋼の刃を生成して突進していく。それと同時にユリスの炎属性がその刃全てに付与される。悠一の魔力の糸で繋がれているその刃は、一本一本が別々の動きをしてベルセルクに襲い掛かる。とはいえ、単に先に軌道を決めておいたので、大した苦労ではないのだが。


 炎属性の解放されたままの刀で全力で斬り付けていると、不意にベルセルクの体が僅かにだがぐらついた。討伐隊の中には大きな大槌を持った冒険者がいるので、全体重を乗せた一撃が叩き込まれたのだ。いくらベルセルクでも、重量のある武器、しかも全体重の乗った一撃は耐えられなかったようだ。


「五十嵐真鳴流剣術初伝―――櫃羽烏ひつばがらす!」


 刀を霞に構えて、高速の九連突き。全て違わず同じ個所に当たったので、深く突き刺さった。そこにシルヴィアの雷魔法が付与されて、内部で放電される。


「グゥルルルアァァァァァアアアアアアアアアアア!!」


 内部からの攻撃にベルセルクは、大きな声を上げる。放電が収まるとすぐに刀を抜いて、バックステップで距離を取る。大槌を持った冒険者が再度全体重の乗った一撃を横っ腹に叩き込み、まだ体勢を崩させる。


 そして前衛中衛の冒険者が襲い掛かり、後衛の魔法が炸裂する。シルヴィアの氷中級魔法【フィンブルランサー】や雷中級魔法【ボルティックストライク】が放たれ、ユリスの炎上級魔法の【エクスプロード】が炸裂する。


 他の冒険者の中級、上級魔法も次々と命中していき、ほんの少しずつではあるがダメージを与えていく。すると、ベルセルクがまた息を大きく吸い込み始める。


 させまいとまた三連続のガス爆発を発生させるが、息を吸い込むのを中断させることが出来なかった。


「ゴォァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 放たれたのは大爆音の咆哮。周囲の木々が軒並み吹き飛び、地面に大きな亀裂が走った。悠一はすぐに巨大な鋼の楯を構築して防いだが、ほんの数瞬後に無数のヒビが生じた。


 マズいと思った瞬間その鋼の楯が粉々に破壊されるが、ユリスと他の後衛が同時に防御結界を張ってくれて、何とか難を逃れた。


「ただの声の咆哮であれかよ……」


 軒並み吹き飛ばされた木々と地面に生じている亀裂を見て、顔を思い切り引き攣らせる。もし防がなかったら、間違いなく肉塊に変わり果てていただろう。そう考えただけで体がぶるりと震え、嫌な汗が背中を伝落ちていく。後衛の魔法使いに感謝だ。


 次に息を吸い込み始めたら、口元で爆発を起こそうと決めて一足飛びで間合いを詰める。ベルセルクは卓越した動体視力で動きを捉えて、タイミングを合わせて腕を振り下ろす。しかしそれを読んでいた悠一は、身体強化を全力で掛けてその場から掻き消える様に側面に移動する。


 それでもまだその動きを捉えたベルセルクは、回転しながら尻尾を振ってそれで攻撃を仕掛けてくる。それを躱したら他の冒険者に被害が出てしまうので、地面の一部を壁の形に作り替えてそれを防ぎ、鋼の刃を無数に構築してそれを飛ばす。


 刃は浅く皮膚に突き刺さる程度だったが、ユリスがそれに【エクスプロード】を【エンチャント】で付与しておいてくれたので、刺さったところから爆発が発生する。そしてそこに刀を突き刺して、内部で爆発的に炎を増幅させる。


「ガァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 また大きな声を上げて叫び暴れ出そうとしたので、その前に刀を抜いて大きく距離を取る。後衛の魔法が次々と放たれてそれが炸裂し、大槌が上から振り下ろされて動きが止まる。その隙に剣や斧を持った冒険者たちは、一斉に襲い掛かる。


「五十嵐真鳴流剣術中伝―――夜覇羅蛟やはらみずち!」


 悠一は刀の間合いまで近付くと、目に留まらぬ速度で振るう。その場にいた他の冒険者は、剣閃が辛うじて目で追えたくらいだった。それは前衛と中衛だけであり、後衛にはその剣閃どころか腕すら見えなかっただろう。


 夜覇羅蛟は単純に、止まることなく続く連続攻撃だ。これも一対一ではなく多対一を想定した剣術で、本来は人たちで敵を斬り倒してまたそれを次に繋いでいくという物だ。しかしこれは一対一の状況でも、結構役に立つ。


 何しろ、どう防いでもどう躱しても反撃が出来ないのだ。防いでもそのまま軌道が変わって来るし、躱しても追い掛けてくる。非常に厄介な剣術でもある。


 ベルセルクはその連撃をただ受け続けるつもりはないので、前足で攻撃を仕掛けてくる。しかし悠一は最小限の動きだけで躱して、流れるように次に繋ぐ。再度攻撃を仕掛けるが、結果は同じだった。ユリスの【エクエスベネディクトス】と、悠一の全開の身体強化が同時に掛かっているので、その一撃一撃は凄まじく重く鋭い。


 最初は小さな傷だったがそれはやがて大きくなっていき、硬い皮膚を裂き肉を斬り始める。どうにかしてその連撃を止めようと大振りの強力な一撃を仕掛けてくるが、逆にその勢いを斬撃に載せられて倍以上になって返って来た。


 ならばと大きく息を吸い込み始めるが、口元と顎の下に爆発を起こして強制的に中断させる。すると今度は、体当たりをしてきた。自分の間合いで剣を振るっていた悠一は、途端に距離を詰められたので夜覇羅蛟を中断して、バックステップで距離を取る。


 そこにベルセルクが体格を生かした突進を仕掛けてくる。悠一は刀の炎を斬撃として飛ばし、的確に左目を潰すが、ベルセルクはそれを気にせずに突進してくる。ここは躱したいところだが、背後には後衛がいるのでそうは出来ない。


 ベルセルクの体が吹き飛ぶくらいの威力を込めた爆発を、足元に発生させる。かなりの大爆発になったが、おかげでベルセルクの突進を防げた。爆発で体勢を崩したベルセルクに、ユリスの【シャイニングレイ】が襲い掛かる。


 今彼女が使える上級魔法の中で最も強力な物で、硬い皮膚を貫いて確実に大きなダメージを与えていく。大槌がそこの傷に振り下ろされて、血が盛大に吹き出る。


 悠一もそこを狙って爆発を発生させ、鋼の槍を突き刺す。恐ろしく硬いのは変わらないが、それでも着実にダメージを与えている。ここで悠一は大きく出始める。このままでは埒が明かないので、悠一はもう出し惜しみすることを止めたのだ。


 刀に魔力を纏わせて、その状態で斬り付ける。刃が体に当たる瞬間、そこだけが分解されるようにしているので、今までで一番大きなダメージを与える。それから二撃三撃と繋げていくが、どれも皮膚と肉を大きく裂いている。


 小さな傷しかつけられなかったベルセルクの肉体を、途端の容易く傷つけ始めたので周囲の冒険者たちは目を見開く。そしてそれと同時に、もしかしたらSランク冒険者なのではないかという憶測を立てる。そうでなければ、彼らには説明が付かないのだ。


「五十嵐真鳴流剣術中伝―――夜汰刹那やたせつな!」


 袈裟懸け、逆風、右薙ぎ、左切り上げ、三連突き、唐竹、右薙ぎ、左薙ぎ。七連の斬撃と三連の突きがベルセルクに襲い掛かる。そのどれもが容易く皮膚と肉を裂いていき、盛大に血が噴出される。


「同じく―――壬雲太刀みくもたち!」


 唐竹、右切り上げ、左薙ぎの三種の斬撃が襲い掛かり、更に大きなダメージを負わせる。


「ガルァァァアアアアアアアアアアアアアア!!」


 足掻きとして前足を振るって攻撃してくるが、悠一は不敵に笑った。その瞬間ベルセルクは初めて恐怖した。しかし時すでに遅く、今までの中で一番鋭く重い斬撃が奔り肉と骨を断ち、心臓を斬り裂いた。


「五十嵐真鳴流剣術中伝―――顕衝けんしょう


 静かに口にしたその声は、もうベルセルクには届くことは無かった。

面白いと感じたら、評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ