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24 一日目の終わり

「随分と広いな、ここ」


「少し薄気味悪いですけどね……」


 とても広い大広間に入り込んだ三人は、周囲をキョロキョロと見回してみる。そこはとにかくだだっ広い広間であり、特にこれといった特徴は無い。索敵をしてみるが、広間には反応は無い。


「もしかして、廊下にしかモンスターがいないのか?」


 もう一度索敵魔法を発動させてみるが、やはり同じだ。反応が何もない。どうやら廊下にしかモンスターがいないようだ。


 もしかしたら何か大きな敵が待ち構えているのかもしれないと警戒していたが、二回も索敵をしても何もないので、警戒を少しだけ解く。モンスター以外の何かが無いとは限らないからだ。


「とりあえず、三つに分かれてここを探ってみるか。何か出てくるかもしれないし」


「だ、大丈夫でしょうか……?」


「常に索敵魔法を発動させておくから、もし何かあっても大丈夫」


「そうですか……」


 三人は三つに分かれて、広間を探り始める。何か隠し扉や、罠ではない何かしらの仕掛けがあるかもしれない。罠も仕掛けられているかもしれないが。しかし、しばらく探し回ってもこれといったものが無かった。


 悠一たちは広間の中央に集合して、ここには何もないと結論付けて立ち去ろうと出入り口に向かって歩いて行く。だが、外に出ることは叶わなかった。そこに無色透明な結界が張られていたからである。


「あれ? どうして結界が?」


「何でで―――っ!? ユウイチさん!」


 ユリスが悠一の名を叫ぶと同時に、凄まじい悪寒を感じて振り返る。するとそこには、さっきまではいなかったはずであるモンスターの集団がいた。モンスターはスケルトンなのだが、白い骨ではなく黒い骨だ。その規模は、恐らく百はある。


 その骨からは、ただならぬ雰囲気を感じ取れる。どうやら普通のスケルトンではなく、死者の怨念が取り憑いている類だろう。


「ゆ、ユウイチさん……」


「仕方がない。二人共、戦闘準備だ。俺が先に行くから、その間に魔法の詠唱を!」


 悠一はそう言うと、一足飛びで黒スケルトンの集団に跳んでいき、応戦する。五十嵐真鳴流は多対一を想定した流派なので、百体のモンスターが相手でも戦える。ただ、スケルトン系のモンスターなので、光魔法で灰にするか、骨を粉々にするかのどちらかしか倒す手段がない。


 それでも悠一は刀を振るって黒スケルトンを切り伏せ、組討で骨を砕いて行く。時には魔法で爆発を起こし、氷結させてそれを砕く。そこにシルヴィアの【ボルティックストライク】とユリスの炎中級の爆破系魔法【エクスプロード】が発動する。


 上に出現した魔法陣から雷が落ち、立体的に出現した魔法陣の内部が起爆する。この二つの魔法でかなり数が減ったが、それでもまだまだいる。悠一も刀の炎属性を開放して、特大の炎を放出する。斬撃として飛ばす以外にも、火炎放射みたいに放てるのだ。


 しかしそれではスケルトンは倒せない。そこで悠一は、一度バックステップで距離を取って粉塵を生成する。そして再度炎を放ち、粉塵爆発を起こす。加減を間違えて大量に粉塵を作ってしまったので、かなり大きな爆発になったが、巨大な壁を構築してそれを凌ぐ。


 爆発を凌いだ後すぐに壁を消して再度飛び出していき、刀で斬って組討術で砕いて行き、魔法で粉々にする。そしてシルヴィアとユリスの魔法が襲い掛かり、粉々にしていく。


 最初黒スケルトンが現れた時は、取り憑いている怨念を感じたのか凄まじい悪寒を感じた。しかし、戦ってみると普通のスケルトンと大差が無かった。ただの見掛け倒しかと思って、圧縮したガスにより爆発を起こす。


 これにて戦闘終了。そう思った瞬間、煙の中から剣が飛び出て来た。ギリギリのところでそれを躱してバックステップで距離を取ると、煙の中から黒スケルトンがぞろぞろと出て来た。


「なんじゃこりゃあ……」


 確実に殲滅し切ったと思っていたはずなのに、黒スケルトンは何事も無かったかのように動いている。シルヴィアが風魔法で煙を吹き飛ばすと、ユリスが光魔法で倒して灰にした黒スケルトン以外は体が元通りになっていた。


 どうやら光魔法意外に対処法が無いようだ。それはユリスも同じ結論に至ったのか、【アークジャベリン】の詠唱に入る。その間も黒スケルトンたちは向かってきているので、詠唱を仕切るまで応戦する。


 シルヴィアも【ボルティックストライク】を何発も発動させて、動きを一時的に封じる。


「【遥か彼方の地平線から出でるのは、始まりと終わりを告げる暁。万天全てを満たす光よ、報われぬ者に救済を。そして私は願う。光あれ、と】」


 ユリスが詠唱を唱え終えるのとほぼ同時に悠一が下がり、シルヴィアも魔法の使用を一度中断する。ユリスの周囲には、デュラハンと戦った時以上の黄金の魔法陣があり、先程よりもより一層幻想的になっている。


「【アークジャベリン】!」


 魔法名を叫ぶと、無数の魔法陣から光の槍が次々と放たれる。光の槍は数の暴力となり、黒スケルトンに襲い掛かる。体を貫かれた黒スケルトンは体を灰にしていく。


 やがて放たれる魔法が止むと、そこには大量の灰と魔法石が残った。


「何とか倒せたな」


 悠一は刀を納めながら、その大量の灰と魔法石を見てそう呟く。


「まさか光魔法でしか倒せないだなんて……」


「こういったモンスターは結構いますよ? ゴーストとか……」


 ゴーストという単語を呟いたユリスは、何かを思い出したのか顔を青くする。シルヴィアもそれに釣られて顔を青くする。どうしてそこまでゴースト系のモンスターが嫌いなのかを不思議に思いながら、魔法石の回収をしている。


 シルヴィアとユリスも復活して手分けして回収していき、合計数百七十三個と凄まじい数が集まった。しかも全て結構大きい魔法石だ。もし一個1000ベル以上だとすると、少なくとも170000ベルはする。一回の戦いでこれだけ稼げるとは、スケルトンは結構ぼろいのかもしれない。しかし倒すのが面倒くさい。


 そんなことを考えながら宮殿から外に出て、再度探索を始める。外に出た後は筋肉質なホブゴブリンやミノタウロス、百体規模のゴブリンとオークの集団と遭遇し、それらを尽く討伐して行く。既に酷い目に遭っているので、倒した後他のモンスターがやってくる前に討伐部位の回収をしていく。


 あの白毛の猿共とも遭遇したが、近付くことなく爆発で消し飛ばす。このモンスターの毛皮も赤毛の変態猿同様高値で売れるのだが、そんな穢れ切ったモンスターなんかに触りたくはない。


 とにかく広い第三階層を、遭遇するモンスターを片っ端から討伐して行くこと約七時間、やっと第四階層目に到達した。時計が無いのではっきりとした時間は分からないが、恐らく八時は過ぎているだろう。思っている以上に時間が掛かってしまった。


「さて、今日はここで野営だな」


「やっと休めます~……」


「もう魔力が限界です……。もう戦えません……」


 階段を下りてすぐ悠一がそう口にすると、シルヴィアとユリスが地面に座り込んでしまう。さっきからずっと連戦続きだったので、肩で呼吸をしている。悠一もかなり体力を消費しており、これ以上はもう戦えない。


 階段を降りてすぐのところには、他の冒険者たちの姿を確認出来る。その人たちは遅めの夕食を取っていたり、既に眠っていたり、明日の予定を話し合っている。しかし悠一たちが第四階層目に降りてきた途端、悠一に一斉に鋭い視線を向けられる男性冒険者たち。


 その視線を感じた悠一は、思わず苦笑いを浮かべてしまう。一瞬でどう思っているのかを理解してしまったからだ。


 シルヴィアは白髪にオッドアイと、実に珍しい組み合わせを持つ美少女だ。白髪はこの世界では結構珍しく、盗賊などによく目を着けられるそうだ。そこに更に数の少ないオッドアイでもあり、とても見目麗しい美少女である。


 ユリスは金髪碧眼とこれはよく見る組み合わせだが、シルヴィアに劣らない程の美少女だ。そして二人揃って、抜群のスタイルをしている。そんな少女二人と一緒にいるのだ。男性冒険者に睨まれても仕方がない。


「なんだか見られている気がするんですけど……」


「気にしない方がいいぞ。ロクでもない理由だから」


 そう言って地面に座り、鞄の中から食材を取り出す。流石に何か食べないときつい。


 取り出したのはまだ瑞々しい野菜にサンドイッチ用のパン、マスタードっぽい調味料とピリ辛のソース。そしてワイバーンの燻製肉。まず野菜をサンドイッチサイズに切って、取り出した皿の上に載せる。そしてワイバーンの燻製肉を少し厚くスライスして、それも皿の上に載せる。


 昼頃に結構多めに作ったのだがそれらはぺろりと平らげられているので、夕飯は多めに野菜と肉を切ってある。


「自分好みの食材を載せていってくれ。まだまだ備蓄はあるし、遠慮しなくても大丈夫だよ」


 悠一はそう言うと野菜と肉を取る為のトングを三人分構築してうち二つを二人に渡し、残った一個を使ってパンの上に野菜と燻製肉を載せていき、ピリ辛ソースを掛けてサンドする。シルヴィアとユリスも悠一のやったように野菜を載せていく。少し時間が遅いので、ワイバーンの燻製肉はそれほど多く載せなかったが。


 しかしそれだけだとそんなに味がしないので、マスタードっぽい調味料を少量掛けてからもう一枚のパンでサンドして齧り付く。その表情は実に幸せそうだ。


 サンドイッチなので片手で食べられるので、それを食べながら明日の方針を決める。方針といっても、ただ今日と同じようにするということになり、ものの数分で話し合いが終わったが。その後は談笑する。


 まず、ユリスには光、炎、氷、水、風、土、鋼、雷の八つに属性があることが分かった。そしてその全ての属性の上級魔法を使えるが、頻繁に使うのは光と炎属性なのだそうだ。


 シルヴィアはユリスに自身の持っている属性にも適性があると知ると、上級魔法を教えて欲しいと乞い始める。今はまだ中級までしか使えておらず、上級魔法の知識がないのだ。それを覚えるのは、図書館の特別閲覧室にある魔導書を読まなければならず、シルヴィアはまだそこには入れない。


 ユリスはシルヴィアの気迫にやや押され気味ではあったが、快く了承した。悠一にも教えると言ってくれたが、残念なことに属性魔法には何の適正もないことを、改めて説明する。再び複数の属性に適性のある二人が、羨ましいと思った。


 皿に盛られた野菜とワイバーンの肉が無くなると、シルヴィアはユリスに上級魔法の知識を教わり始める。ユリスの父親は宮廷魔法使いをしている為、彼女は特別的に上級魔法の魔導書を持っていた。悠一はちらりと覗いてみたが、何が何だかさっぱりだった。


 あんなに恐ろしく長い術式を頭の中に叩き込まなければならないのかと思い、現代知識とイメージのおかげで反則的な力を発揮する自分の魔法に感謝した。魔法は初級魔法であれば適性があれば、術式なんかを覚えなくてもイメージで使える。


 しかし中級となると専用の中級魔法の載っている魔導書を読んで、その術式を頭の中に叩き込まなければいけない。シルヴィアは図書館で中級魔法に知識は叩き込んであったので、レベルが上がって魔力が増えたところで使えるようになった。


 しかし上級魔法の魔導書だけは、許可を貰えた者以外には閲覧規制がある。理由は単純に、その魔法の威力が高過ぎるから。魔法は正しく使えば人を助ける力になるが、誤った使い方をすれば逆に命を簡単に奪える力だ。


 過去に上級魔法を覚えた魔法使いが、その魔法で街の人々を虐殺したという事件が起きてしまったので、今の様に許可を貰わなければ閲覧出来なくなったのだ。ちなみにユリスは、心の底から人を助けたいという理由で魔法を覚えているので、それを持っていても特に何の問題も無いという判断が下されたようだ。どういった判断基準なんだろうかと、悠一は思わず苦笑してしまった。


 一時間半ほどユリスから上級魔法の知識を教えて貰っていたシルヴィアは、疲れからなのかそれとも夕飯後だからなのか、うつらうつらと舟を漕ぎ始める。


「そろそろ寝る時間だな」


「ですね。あ、少し待っててください」


 ユリスはそう言うと、自身の鞄に右手を突っ込んで何かを探り始める。


「あ、あったあった」


 やがて目的の物を見つけたのか、右手を引っ張り出す。それと一緒に、不思議な台座の上に水晶が置かれている、よく分からない何かも出て来た。


「それは?」


「これは結界を自動で張る魔導具です。これを使えば、解除しない限り何人だろうが中に来ることは出来ません」


 どうしてユリスがそれを持っているのかを聞くと、物凄く納得出来た。ユリスは基本ソロ活動なので、不寝番をしてくれる人がいない。なので無防備に寝袋で眠っていると、モンスターに襲われたりふしだらな考えをしている輩がやってくるかもしれない。


 なので安心して眠る為に、その魔導具を買ったんだそうだ。相当値が張ったと言って、若干遠い眼をしたが。一体いくらしたんだろうかとかなり気になりながら結界の範囲内に入り込み、就寝の準備をする。


 流石にこんな場所で着替える訳にはいかないので、上に来ているローブだけを脱いで鞄の中に放り込み、ついでに寝袋を引っ張り出す。シルヴィアも眠いのか半分瞼が下がっているが、それでも自分で寝袋を鞄から引っ張り出す。


「……寝込みを襲ったりしないでくださいね?」


「そんなことしたら間違いなく君に殺されるから安心して」


 ローブを脱いで白のシャツとピンクのミニスカート姿になり、これでもかと主張している豊満な胸の前で両腕を交差させて、ジト目でそういうユリス。しかしそんなことしたら、間違いなく炎上級魔法か光上級魔法で消されてしまう。元々そんなことをするつもりなど毛頭ないが。


 そんなやり取りをした後三人は寝袋に潜り込み、その日は休むことにした。


(…………眠れる訳ねぇよな)


 しかし悠一は中々寝付けなかった。今は背を向けているが、後ろには美少女二人がすやすやと眠っているのだ。意識してしまい、緊張のせいで眠るどころか逆に目が冴えてしまう。


 結局眠りに就いたのは、寝袋に潜り込んでから二時間後だった。ちなみにだが、シルヴィアは既に眠ってしまったが、ユリスも悠一の様に威勢が近くにいることから中々眠れず、悠一よりも遅い三時間後に眠りに就けた。

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