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23 謎の宮殿

 ダンジョンに潜り始めてから既に八時間ほどが経過した。出てくる敵は全て地上にいるモンスターとは比べ物にならないほど強く、かなり苦戦した。シルヴィアの最大火力の魔法では少し傷を付ける程度だったし、ユリスの上級魔法でも大きなダメージを与えることは出来たが、それでも致命傷には程遠い物だった。


 悠一も全力で戦わなければすぐに劣勢になってしまう程で、常に身体強化を全開にしていた。なので魔力の消費が恐ろしく早く、保有量の四割を回復させる魔力回復薬を数本飲み干した。討伐部位以外を分解したりもしたが、一回の発動でごっそり持ってかれてしまうので、その方法は止めた。


 とにかく全力で刀を振るい魔法を使用したので、体力的にも結構きつかった。今現在、モンスターが寄ってこない安全地帯に降り、壁に寄り掛かって三人揃ってぐったりしている。


「三層目でこんなに強いのかよ……」


「これ、どう考えてもCランクからの物ではないですよね……?」


「そうですね……。これだと多分、少なく見積もってもBランクからですね……」


 第一と第二共にCランク程度でもどうにかなるモンスターだったので大丈夫だったが、三層目になってからは途端に難易度が上がった。最初に戦った筋肉質のホブゴブリンもそうだが、そのほかにも見た目は普通のオークだが無駄に強かったり、巨大な蛇のようなモンスターだったり、終いにはミノタウロスまで出て来た。


 ミノタウロスはCから突破してBに指定されている中級モンスターで、非常に獰猛で好戦的だ。図体も三メートルとと大きく、その体から放たれる一撃は巨岩をも一撃で砕く。そして同時に、常時数体で群れて行動するので、非常に面倒くさい。


 そしてそんなモンスターをやっと倒したと思ったらホワイトエイプという、全身が真っ白な猿型モンスターと遭遇する。赤毛の霊長類モンスターではないのでほっとしたが、奴らと同じように恍惚とした表情で飛び掛かって来た時は正に恐怖だった。


 圧縮した自然発火ガスによる爆発を引き起こして、痛みを与える間もなく消し飛ばしたが。そしてその爆発音を聞き付けて他のモンスターが群がり、それを突破するのに一時間ほど時間を有した。そして何とか切り抜けて休んでいたら、百体規模のゴブリンの集団がやって来てそれと応戦。


 全てを倒し切るのに一時間ほど掛かり、その間に血の臭いに釣られてやってきた他のモンスターが大量にやって来て、大きめに圧縮したガスを構築し、広範囲に亘って大爆発を引き起こして殲滅する。そしてその爆発音を聞き付けて他のモンスターが来る前に逃げ出し、今に至るのだ。


「もうしばらく動けないです……」


「あんなに連戦したのは初めてです……。もう魔力が……」


「ここまで魔力を使ったのは初めてだ……。体がすげぇ怠い……」


 いくら魔力回復薬を多く持っているとしても、数には限りがある。このダンジョンにどれだけ長くいるのか分からないので、一気に多く消費するのは好ましくない。なのでこうして休憩して、ある程度自然回復するまで待つことにする。


 幸い悠一の着ているローブには、魔力回復速度を倍加させる能力が付与されているので、しばらく休めばいくらかマシになるだろう。だが、あれだけのモンスターと戦ってくたくたなのだが、嬉しいことがある。


 数十体規模のモンスターの集団と連戦したので、第三層目でレベルが上がったのだ。しかもかなりの各上だったようで、もう六も上がっている。さっきまで46だったレベルは、今では52まで上がっている。


 レベルが上がるたびにHPとMPとAGIが跳ね上がって行くので、これは前衛である悠一にとっては嬉しいことであった。それに次いで力と防御も結構上がっており、Dランク冒険者の域から大きく逸脱している。


 それもシルヴィアも同じで、44から五も上がって49だ。魔力の上昇が著しく、全快すれば中級魔法を数十発は連続して使用出来るであろう。それと、そろそろ決定打を増やす為に、上級魔法を覚えるべきであろう。ちなみにユリスはレベルが二人よりも高く、経験値こそそれなりに溜まったが上がってはいない。


「今思うと、本当にお二人に着いてきてよかったと思います……。もし一人でこのダンジョンに来ていたら、間違いなく途中でリタイアしていました……」


「いや、それは俺らも同じだ。ユリスがパーティーに入ってくれたおかげで、ここまで何とか来れた。もし君がいなかったら、俺たちもこの第三層目で詰んでたよ」


 いくら悠一がDランク冒険者の域から大きく逸脱しているとはいえ、それでも二人だけでは結構きつかったであろう。現にユリスという最大戦力がいてこれなのだ。二人だけでは、到底このクエストは達成不可能だ。三人でも結構怪しいが。


 少し休憩していると、ローブの効果のおかげか倦怠感がいくらかマシになった。それでも減った体力はどうしようもないが。ポーションであれば傷以外にも体力を回復させる効果もあるのだが、こちらも魔力回復薬同様に、多く消費する訳にはいかないので飲むのを控える。代わりに水筒の水を飲み、喉を潤す。


 まだキンと冷たい水が、疲れた体に心地いい。すると隣からぐぅ~っという、小さな音が聞こえてくる。顔を向けると、お腹を押さえて顔を真っ赤にしているユリスが映った。どうやら彼女のお腹が鳴ったのだろう。


「そう言えばそろそろ昼時じゃないか?」


 時計が無いしダンジョンの中なので太陽が見えないので、時間間隔が少し狂っていたが、確かにそろそろ昼頃だ。丁度三人がいる場所は安全地帯なので、そこで軽めの昼食を取ることにする。


 それほど豪華な物は作れないので、簡単にサンドイッチを作ることにする。パンも野菜も肉(ワイバーンの物)もある。他にもマスタードに似た何かと、赤くピリ辛なソースもある。


 そう言った素材や調味料を鞄の中から引っ張り出し、そこそこ大きめなサンドイッチをいくつか作る。ちなみにワイバーンの肉は燻製肉にしてあるので、長期保存が可能になっている。ワイバーンの肉という高級食材を燻製にするなど、かなり贅沢だが。


「これって……、ワイバーンのお肉です?」


「あぁ。三日くらい前にその討伐クエストを受けてな。肉を持ってこいと依頼内容には書いてなかったから、俺たちが貰った。まだ結構あるぞ」


 とにかく剥ぎ取れるだけ剥ぎ取って行ったので、どれだけあるかは覚えていない。毎日食べても数ヶ月は持つということは確実だが。流石に毎日は健康に悪いので、数日おきにするつもりだが。


 それだと最悪肉が腐ってしまうので、燻製になっている肉以外は全て凍らせて冷凍している。これならばかなり長く持つだろう。今思うと、前世の環境は物凄く恵まれていたのだなと、しみじみと思う。


 ワイバーンの肉を贅沢に使用したサンドイッチに、ピリ辛の赤いソースを掛けて齧り付く。新鮮な野菜のシャキシャキ感と肉の相性が良く、そこに少し味の濃いソースとピリ辛感がマッチしていて実に美味い。シルヴィアとユリスもお好みの調味料を掛けて、美味そうに齧り付いている。


 三人分にしては少し多めだと思えるほどのサンドイッチは、あっという間にぺろりと平らげられてしまった。


「はふぅ……。美味しかったですぅ……」


「ユウイチさん、ありがとうございました!」


 美味い物を食べたからか、先程よりもずっと元気になっていた。


「どういたしまして。もうしばらく休憩してから、また探索を始めようか。今日中には第四階層に行きたい」


 第三層がこんな草原のような場所であれば、第四層はもっと広くもっと強いモンスターがいると考えた方がいいだろう。だからといっていつまでもこんな安全な場所にいる訳にはいかない。もうしばらく休んで体力と魔力がそこそこ回復したところで、再度探索を始めることにする。


 もうしばらく休憩出来ると知った二人は、壁に背を凭れ掛けてリラックスする。魔力の回復速度は、いかにリラックスしているかによって変化する。くたくたの状態で直立姿勢で休んでいてもそれほど早く回復しないが、程よくリラックスしていると個人差はあるが倍ほどの速度で回復して行く。


 悠一もその辺は実証済みなので、壁に凭れ掛かって目を瞑る。別に眠る訳ではない。こうした方が、悠一にとっては回復速度が上がるのだ。


 シルヴィアとユリスは、歳が同じ十五ですぐに打ち解けており、楽しそうにおしゃべりしている。それで休憩になるのかと思ってしまうが、女性は意外と話し続けていても大丈夫なのだ。特に女子高生くらいの年齢の少女は。


 楽しそうにおしゃべりしている二人の話を聞き流しながら、安全地帯ではあるが念のため索敵魔法を発動して周囲を警戒する。今索敵出来る範囲内にはかなりのモンスターの反応があるが、こちらには一切注意を向けていない。


 代わりに近くにいる他の冒険者の方に意識を向けており、そちらに向かって行っていたりしている。中にはその場に留まって、待ち伏せしている個体もいるが。そのどれもが反応がかなり大きいので、もしここが安全地点ではなかったらと思うと、ゾッとする。この場所を見つけた自分たちの幸運を、改めて噛み締めた。


 数十分間休憩をした三人は、全快こそしていないがそれなりに体力と魔力が回復したので、探索を再開する。安全地帯から出る前に周囲にモンスターがいないかを確認すると、その場から走って移動する。


 一定距離走った後、今度は注意しながら歩き始める。霧が出ているとはいえ数メートル先であれば見えるし、索敵魔法も阻害されていないので不意打ちや奇襲はされない。ゴブリンの集団やオークの集団が襲い掛かってきたりしたが、ちゃんとした立ち回りでそれほど苦戦せずに殲滅して、討伐部位を手早く回収して移動する。


 早く回収しないと血の臭いに釣られて他のモンスターがやって来て、それどころではないからだ。討伐部位を回収して移動していると、宮殿のような建物を見つけた。


「何の建物だ、これ」


「何でしょう?」


「間違いなくモンスターが生息している場所でしょうけれど」


 その宮殿は酷く寂びれており、異様な雰囲気を出している。けれどもそういった物を調べるのも、ダンジョン攻略だ。十分に警戒しながらも、その宮殿の中に足を踏み入れていく。


 その宮殿はかなり大きいらしく、入ってすぐに大広間とかではなく、長い長い廊下だった。特にこれといった装飾は無く、ただただ薄暗い。本当に何か出てきそうだ。しかしそんなことを言ったら少女二人が本気で怒りそうなので、流石に控える。


 少しずつ進んでいると、とあるモンスターとばったり遭遇する。そのモンスターは二メートルほどはある巨体だが、首が無い。最大の弱点である首が無い上に、体はで覆われている。所謂デュラハンだ。


 デュラハンは首の無いアンデッドモンスターの一種で、中級Bランクに指定されている。


「ったく、組合の人もちゃんと調査してくれよな……」


 大剣を持ったデュラハンが、がしゃがしゃと鎧のこすれる音を立てながら突進してくるのを見て、悠一はやれやれと溜め息を吐きながらそうぼやき、刀を構えて迎え撃つ。デュラハンの鎧は恐ろしく硬く、物理攻撃は中々通らない。もちろん魔法もだ。


 しかしアンデッドであるが故に、光属性に滅法弱い。なのでデュラハンを一撃で倒せるだけの魔法をユリスに使わせる時間を稼ぐ為、刃を交える。振り上げられた大剣を刀で腹を受け流そうとするが、思っている以上に力が強く、僅かに受け流し損ねそうになる。


 ギリギリ躱して斬り付けるが、大きな金属音が響き僅かに傷が付いただけだった。それだけ防御力が高いので、防御行動は一切取らずひたすら大剣を振り回してくる。悠一は全てを見切って刀で受け流すのではなく、最小限の動きで躱していく。


 大剣の切っ先が額のすぐ先を切り上げていき、前髪を僅かに風に散らす。そしてその振り上げられた大剣を引き返して振り下ろしてくるが、デュラハンの足元にかなり小規模な爆発を起こして転ばせる。


「ユリス!」


 その瞬間、悠一は大きな声で叫ぶ。すると叫ぶより早く、ユリスの放った光の槍がデュラハンの体に突き刺さる。使用した魔法は【バニッシュジャベリン】という、貫通力に優れた光中級魔法だ。


 デュラハンほど体が硬いと貫通はしないが、光属性な為非常に大きなダメージを与える。そこにシルヴィアの【フィンブルインパクト】という、氷の巨大な槌がデュラハンの頭上に出現した魔法陣から現れ、叩き付けられる。


 あれだけの重さだ。光魔法ほどではないが、それなりのダメージは負っただろう。氷の鎚が砕けると、案の定体にヒビを作ったデュラハンが、ゆらりと立ち上がる。ダメージは負っているが、まだまだだ。


 悠一はユリスが光上級魔法の詠唱を唱えられるだけの時間を稼ぐべく、瞬時に間合いを詰めて刀を振るう。デュラハンはそれに対応して、防御を取らずに応戦する。


「【星降る夜、飛来するのは輝く神槍。穿ち裁かれるのは悪。これは抗えぬ運命。かつて私が祈り望んだのは、終わりのない平穏。しかし今は平穏は無い。祈りの無い月下には、善に仇成す悪がある。誰も望まぬ自由の無い世界は、私もまた望んでいない】」


 激しく打ち合う音が響く中でも、ユリスの詠唱ははっきりと耳に届いていた。その詠唱はまるで詩のようで、感情が籠っており力強い。


「【遥か彼方の地平線から出でるのは、始まりと終わりを告げる暁。万天全てを満たす光よ、報われぬ者に救済を。そして私は願う。光あれ、と】」


 直感的に詠唱が終わったとわかり、素早さを活かして一足飛びで後退する。するとそこには、黄金の光を放つ複数の魔法陣に囲まれたユリスの姿があった。その姿は実に幻想的で、美しいと思う反面恐怖を感じさせた。


 目を閉じてを集中させていたユリスは、目を見開いて魔法を発動させる。


「【アークジャベリン】!」


 魔法の名を叫ぶと、複数の魔法陣から光の槍が放たれて、それがデュラハンの体に突き刺さる。するとデュラハンの体がボロボロと崩れ落ちていき、その場に残ったのはアンデッドの末路である灰と魔法石だけだった。


 流石は上級魔法。いくらダメージを負っていたとはいえ、一撃で倒してしまうほど威力が高い。悠一も本気で魔法を使って大爆発を起こせば、デュラハンを一撃で倒せただろう。


 しかしそれ程の威力の魔法を発動させれば、間違いなく自分たちも巻き添えを喰らってしまう。自分の魔法で自滅するのは御免だ。


「何とか倒せましたね」


「殆んどユリスのおかげだな。マジで助かった」


「い、いえ! ユウイチさんが詠唱を唱える時間を稼いでくれたおかげなので、ボクよりも悠一さんの方が活躍していました!」


「けど結果的に倒したのはユリスなんだから。そんな謙遜すんな」


「はぅ……!」


 悠一は小さく微笑みながらユリスの頭を優しく撫でる。するとユリスの顔は、みるみる真っ赤に染まっていく。見ている方が恥ずかしくなってくる光景だ。


 数秒頭を撫でた後デュラハンの魔法石を回収して鞄の中に放り込み、宮殿の奥の方に進んでいく。奥の方に進んでいくにつれて遭遇するモンスターの数が増えて来たが、スケルトンやデュラハンといったモンスターなので、倒し方が分かっているのですぐに討伐する。


 そして宮殿に入り込んでから十数分が経過したころ、三人はとても広い大広間に出た。

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