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22 ダンジョン第三階層目

 悠一がスケルトンを素手で倒してからしばらくして、三人は少しだけ休憩を取ることにした。あの後大量のスケルトンが出現し、それに対して魔法石が傷付かない程度に抑えた魔法を放ったり、体がほぼ腐敗しているアンデッドモンスターのグールを燃やしたりと、色々精神的に疲れることが起きたからだ。


 特にグールは、見ているだけで吐き気が込み上げてくるのに、そこに腐臭が鼻を刺激するというダブルパンチを喰らっていた。悠一はともかく、そう言ったグロテスクな物が苦手な少女二人は、悠一異常にぐったりしている。あれは慣れるのに時間がかなり掛かりそうだ。


「あんなモンスターがここにいるのは予想外です……」


「あぁ……、どうしても、どうしてもあの姿が頭から離れないです……」


 まだ二階層目だというのにもうこれほど疲れているとなると、もし第三第四が一番苦手であろうゴースト系だったら、一回目の戦闘でダメになってしまうだろう。二人の気持ちは分からなくもないが。


「ありゃもう慣れるしかないな。時間掛かりそうだけど」


 悠一は壁に寄り掛かって水筒の水を一口飲む。


「どうしてそんなに平然としているんですか……」


 ユリスが恨めしそうな目で、悠一を見ながらそう言う。


「俺だってああいうのは苦手だよ。けど、倒さなければこっちがやられるからな。怖気付いてなんかいられない」


 この世界では、文字通りの弱肉強食。敵を前にして怖気付いたら、その時点で殺されてしまう。殺されないようにするには、先に敵を殺すしかない。例え敵が見ているだけで精神的に辛い物でも、戦うしかないのだ。


「さてさてさーて、いつまでもこんなところで休んでいる訳にもいかないし、先に進むぞ」


 地面に置いてある鞄を持ち上げながら、悠一は手頃な大きさの岩の上に座り込んでいるシルヴィアとユリスに声を掛ける。二人はまだぐったりした様子だが、今いる場所は安全地点ではない。


 ずっとここにいれば、いずれモンスターがやってくる。そうなると休憩どころの話ではないので、先に進んだ方がいいと判断したのだ。シルヴィアのユリスは重い腰を上げて立ち上がり、渋々といった感じで悠一の後を付いて行く。


「この先の戦闘は、グールとかは索敵したら俺が魔法で消し飛ばすけど、スケルトンとかそういったのは倒さないけど、それでもいいか?」


「はい……」


「もう、あの姿を見たくはないです……」


 よほど精神的に来たらしい。とにかく、グールは索敵に反応があったら分解するつもりだ。最近はピンポイントで分解出来るようになってきたので、魔法石以外を分解する。


 歩き始めて索敵していると、早速反応があった。しかしこの反応はスケルトンなので、分解はしない。


「進む先にスケルトンがいる。杖を構えておいて」


 悠一がそう指示すると、二人は杖をしっかりと握り直して真剣な表情になる。もうグールを見なくて済むと分かっているので、いくらかマシになったようだ。


 警戒して進んでいると、丁度スケルトンが右の角から姿を現した。それも一体ではなく数十体。最初この階層に来た時は数体程度だったのだが、今は十数体から多い敵で数十体と遭遇する。


 それだけの数の骸骨がわらわらと押し寄せてくるので少し気味が悪いが、腐敗した体をしているグールほどではない。むしろグールは気持ち悪い。


 スケルトンが姿を現したところで、シルヴィアとユリスが中級魔法を発動させる。ユリスの光の雨がスケルトンの体を貫いて体を灰にしていき、シルヴィアの爆破魔法が骨を粉々にする。悠一もちゃんと加減して骨だけが粉々になる程度の水素爆発を起こし、骨だけを分解する。


 剣で斬りかかるより、魔法で吹き飛ばした方が圧倒的に効率がいい。ゲームだったら剣で攻撃すればダメージを与えることが出来たし、倒すことも出来た。しかしここは現実だ。そんなに甘くはない。


 出現した数十体のスケルトンは、三人の集中魔法攻撃により、ものの数十秒で殲滅されてしまう。その場に残ったのは、アンデッドの末路である灰と魔法石だけである。悠一はそれを意気揚々と拾っていき、鞄の中に放り込む。


 魔法石は大きさによって値段が変化するが、最低で500一番高くて数十万は軽くするものもある。ただそうなると、アンデッドモンスターの体も大きくなり、倒すのも困難になる。


 今の戦いで拾った魔法石の大きさは大体600ベル程度のものだが、それが数十個も集まるとそこそこいい値段になる。もう既に数十体規模のスケルトンを何回も蹴散らしているので、手持ちの魔法石は百を超えている。


 魔法石を全て回収し終えた三人は先に進んでいく。範囲の広がった索敵魔法内に入り込んだグールは全て、悠一の分解魔法で分解されてその場に魔法石だけを残し、スケルトンは遭遇した後三人の魔法で尽く蹴散らされて行く。


 そうして二階層目を進むこと約三時間半。第三層目に続く階段を見つけた。罠が無いことを確認すると階段を降りていき、三階層目に突入する。三階層目はずっと洞窟のような場所から一転し、広大な草原になっている。


 しかもそれでいて明るさはさほど変わらない。霧が出ていて、数メートル先しか見えないが。索敵を使えるので、霧なんて全く問題ではないが。


「急に変わったな」


「草原、ですね」


「四階層目に行くための階段を見つけるのが大変そうです」


 二階層目から三階層目に着くまでに三時間掛かった。しかし三階層目は広大な草原地帯のようになっており、次に行くための階段を見つけるのが困難そうだ。


 しかしそういうのを歩き回って探すのがダンジョン攻略の醍醐味であり、悠一はむしろわくわくしていた。特に、どんなモンスターがこの階層にいるのかに。自分では戦闘狂ではないと思っていたようだが、その考えは改めなければいけ無さそうだ。


 ずんずん歩いていると、他の冒険者の姿を確認することが出来た。どっちに進むかを話し合っていたり、草原に腰を下ろして休憩していたり、離れた場所でモンスターと戦っていたりなどしている。


 悠一たちも少し歩いているとモンスターと遭遇する。遭遇したモンスターはホブゴブリンだが、なんか雰囲気が以前遭遇した物とは違う。ダンジョン内にいるモンスターは大深緑地帯と同じように、そこ以外に生息しているモンスターよりも強く、独自の進化を遂げている個体が多い。


 遭遇したホブゴブリンもまた、独自の進化を遂げているモンスターである。このホブゴブリンは通常の個体と比べてやや身長が高く、物凄く筋肉質だ。持っている武器も粗く削った岩の大剣で、まともに喰らったら一撃で死んでしまうだろう。


「こいつはまた面倒なモンスターだな」


 抜刀して正眼に構え、意識を集中させる。シルヴィアとユリスも杖を浅く水平に構え、魔力を集中させる。じりじりと様子を窺うように少しずつ距離を詰めていると、ホブゴブリンが大剣を振り翳して突進してくる。


 悠一もそれに合わせて地面を蹴って飛び出していき、刀をしたから振り上げる。ホブゴブリンは上から大剣を、全力で振り下ろしてくる。そこで悠一は危険だと判断し、左に跳躍して躱す。


 すると軽い地震が起きたと錯覚するほどの振動が、足元から伝わってくる。もしあのまま刃を交えていたら、間違いなく刀が折れて叩き潰されていたと、冷や汗を流す。ちらりと地面を見てみると、そこ間酷く抉れていた。


 もし躱さなかったら自分もああなっていたと、背中を嫌な汗が伝い落ちていく。このモンスターとは刃を交えてはいけない。そう判断し、一足飛びで間合いに踏み込む。


 ホブゴブリンは大剣を横に薙ぎ払うが、姿勢を低くしてそれを躱す。大剣は重量があり、どうしても振りが大きくなって小回りが利かなくなる。なるべく距離を詰めれば、大剣の強さは活かせなくなる。


 刀を左から右に薙ぎ払い、脇腹に傷を与える。大した傷ではないが、大丈夫だ。目的は、シルヴィアとユリスから完全に意識を外すことだ。


 体を傷つけられたホブゴブリンは予想通り悠一に完全に意識を向けて、大剣により猛攻撃を始める。上から振り下ろし、右へ薙ぎ払い、斜め左に振り下ろし、跳ね上げる様に振り上げる。そんな猛攻を全て紙一重で躱し、体に小さな切り傷を着けていく。


 少しずつイラつきを覚え始めたところに、シルヴィアとユリスの魔法が炸裂する。シルヴィアの風の刃がホブゴブリンの背中に複数の切り傷を刻み、ユリスの光の槍が突き刺さる。そちらに意識を向けようとした瞬間、眼前で無視出来ない爆発が起こる。


 その爆発を引き起こした悠一の方に再度完全に意識を向けて、攻撃を仕掛ける。太刀筋を完全に見切り始めた悠一は、避けるのではなく大剣を受け流し始める。しかも振るわれるタイミングに合わせて、剣の腹を撫でる様に。


 予想外の受け流しにホブゴブリンは、若干体勢を崩す。そこに悠一の刀が振るわれる。


「五十嵐真鳴流剣術中伝―――風蘭嘴ふうらんばし!」


 二つの斬撃が十字に閃き、左へと刀を薙ぎ払い、左逆手に持ち替えて体を捻るようにして右へ薙ぐ。そして最後に右手に持ち直して、捻って溜めた力を利用して一度薙ぎ払ってその勢いのまま一回転してもう一度左へ薙ぐ。計六回の斬撃がホブゴブリンを襲う。


「ガアァ!!」


 ホブゴブリンは体を傷付けられて更に起こり、より大振りの斬撃になって行く。一撃でもまともに喰らったらアウトだが、大振りで単調な攻撃は喰らわない。後方からシルヴィアとユリスが魔法で攻撃を仕掛けるが、ホブゴブリンは悠一に意識が向いたままだった。


 そして全体重を乗せた大振りの攻撃を仕掛けてきたところで、再度動き出す。


「五十嵐真鳴流剣術中伝―――顕衝けんしょう!」


 身体強化を瞬間的に掛けて、自身の斬撃に相手の斬撃の勢いを載せて、自分一人では放てない威力の斬撃を叩き込む。顕衝を喰らったホブゴブリンは、右脇腹から左肩に掛けて大きな傷を刻まれた。間違いなく致命傷だ。


 そこにシルヴィアの雷中級魔法【ボルティックストライク】と、ユリスの光上級魔法【クルーエルアーク】が放たれる。頭上に現れた魔法陣から雷が落ち、周囲に出現した魔法陣から光の杭が突き刺さる。


 【クルーエルアーク】は杭によるダメージを与えると同時に、その場に縫い付けるという効果もある。動きを封じられたホブゴブリンは、その場から動こうとするが出来ない。その間に身体強化を体に掛けて、強く地面を蹴ってすれ違いざまに胴体を分断する。


 胴体を分断されたホブゴブリンは生きているはずがなく、こうして戦闘が終了した。


「思っていた以上に強かったな」


 刀に付着している血を振るって落とし、鞘に納めながらそう言う。見た目がとても筋肉質だったのでそれなりに強いとは思っていたが、予想よりも強かった。まさか顕衝をを受けても倒れないとは思わなかった。


「流石はダンジョンです。まだ第三階層目とはいえ、ここまで強力なモンスターが出てくるとは……」


「ボクは何度かダンジョン探索に行ったことがあるのですけど、もっと下、それこそ最下層になると化け物みたいに強いモンスターがうじゃうじゃいますよ。これなんかまだまだ赤子レベルです」


 胴体が切り離されて絶命しているホブゴブリンを見ながら、シルヴィアとユリスがそう口にする。このモンスターですら赤子レベルとなると、最下層ともなるとどんな化け物がいるのだろうかと想像し、背筋を震わせる。


「ところでユリスのランクは何なんだ? それとレベルも」


 ふと気になったことを質問してみる。最下層のモンスターが物凄く強いという話を聞いている時、やたら実感がこもっていたので、気になったのだ。


「隠す物でもありませんし、別にいいでしょう。ボクの冒険者ランクはAで、レベルは96です」


 そんな真実を知り、この世界に来てから一番驚いた悠一であった。この世界に来てから日が浅いのでこれは仕方がないことなのだが、それでもユリスのレベルは卓越した物だった。信じられないと思うと同時に、彼女の異常なまでに高い魔力量に説明が付き、納得する。


「どうりで凄いと思ったら……」


「けど、ユウイチさんもレベル九十台を超えているんですよね?」


「俺のレベルはまだ46で、ランクもDだ」


「えぇ!? あんな動きが出来るのに、レベル46!? てっきり90を超えてAかSランク冒険者かと思ってました」


 やはり悠一の動きは、レベルとランクに当て嵌まっていないようだ。元々剣術を習っていたというのもあるが、素早さが高いということが大きいだろう。しかしそれでも格上の相手にとってはまだまだであり、悠一もそれは自覚している。


 そしてその格上には、ユリスも既に含まれている。近接戦闘に持ち込めば勝ち目はあるが、魔法戦では彼女に軍配が上がる。何しろ悠一は魔法を使い始めてからまだ一ヶ月も経っていない。それに対してユリスは、幼いころから魔法を使っている。この時点で差が開いている。


 もっと訓練してもっと多くの実践をしてもっと強くならねばと強く決意して、倒したホブゴブリンの討伐素材を回収して、先を急ぎ始める。

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