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18 大深緑地帯

 ワイバーンは竜族という種族の中では一番弱い方に部類されているが、その強さはBに最も近いCランクモンスターに部類されている。しかも稀にだが通常にワイバーンよりも一回り大きく、鱗の色も青色ではなく藍色のもいるらしく、それはBランク指定されている。


 もしそのタイプのワイバーンを見掛けたら、なるべく戦わずに逃げることをお勧めするらしい。悠一にとっては、どうでもいいことだが。


 ワイバーンはブリアルタの南側にある大深緑地帯に生息しており、常に空を飛んでいる為そう簡単には見つからない。それなのに二十五体も倒させるとは、組合も中々酷いクエストを出しているのだなと、思わず苦笑してしまう。


 ついでに言うと大深緑地帯には、虫型モンスターも生息している。それらは総じて、体が五メートルほどはある。精神衛生上全くよくないので、なるべく遭遇しないことを願う。いくら悠一でも、そんな巨大な虫は無理だ。余談だが、中には黒光りしてかさかさ動き回るのもいるという話だ。二人がその存在を知ったのは、まだ先のことだが。


 現在二人は、ワイバーンの倒し方を話し合っている。ワイバーンは常に空を飛んでいる為、姿はそう簡単には確認出来ない。無属性魔法には視力を強化して遥か遠くを視認出来るようにする魔法があるが、まだそれは使えない。


「どうやって倒しましょうか……」


「俺が上に跳んでいけば、そこから地上に叩き落すことは出来るけど?」


「確かに可能かもしれませんけど、効率がいいとは言えませんね」


「確かに効率は良くないけど、こうでもしないと見つけられないし」


 悠一であれば、そう言った非常識な方法で倒すことは出来る。しかしシルヴィアの言う通り、効率はお世辞にもいいとは言えない。こういう時に悠一は、複数の属性に適性があるシルヴィアが羨ましく思ってくる。


「遠距離視認魔法が使えれば、俺の魔法で撃ち落とせるんだけどなぁ……」


 悠一の持つスキル【魔力遠隔操作】は、視認出来る範囲や座標さえ分かればそこの魔力を操ることが出来る。そうすれば、地上からでも魔法を使用してワイバーンをことが出来る。遠隔視認魔法でなくても、索敵魔法で敵の位置さえ把握出来れば、同じことは出来る。


 今の時点で索敵出来る範囲は、せいぜい六十メートルが限界だ。シルヴィアはその倍ほどの範囲は可能だが、ワイバーンはその範囲より上を飛んでいる。


「こうなったら、効率悪いの覚悟で俺が叩き落しに行くしかないか」


「今のことろそうするしかなさそうですね。街に戻ったら、遠隔視認魔法を覚えましょう」


「そうだな」


 倒し方を決めると歩く速度を少し上げて、大深緑地帯に向かって行く。大深緑地帯はその名の通りそこらじゅうが緑で囲まれているところで、そこは過酷な弱肉強食な世界なので、そこに生息しているモンスターは全て独自の進化を遂げている。


 獲物を即座に捕らえることの出来る脚力を持ったモンスター、逆にそういったモンスターから逃げる為に素早さに特化したモンスター。硬い骨すらも砕くほどの力のある顎を持ったモンスター、そういったモンスターから身を守るために体が鎧のようになったモンスター等々。


 もうとにかく全てが独自の進化を遂げている為、その全てが恐ろしく強い。殆んどがBに近いCだと考えてもいい。そして中には、Aランク総統のモンスターもいる。そういった過酷な環境の中で、唯一独自の進化を遂げていないのはワイバーンだけだという。


 第一に、竜族というのも大きいが空を飛んでいる上に、魔法使いで言えば上級魔法に匹敵する火炎弾を口から吐き出すのだ。強い力を持っているから、ワイバーンだけは進化しなかったのだという。


 そんな説明をシルヴィアから受けていると、気付いたら大深緑地帯に到着していた。草花が鬱蒼と生い茂っており、木も摩天楼の如く聳え立っている。そして直感的に、ここは本気で油断出来ない場所だと判断して、入る前から二人は索敵魔法を発動させる。


「うわ、なんじゃこりゃ」


「こ、これは……」


 索敵した瞬間、早速反応があった。その反応は、今まで見て来たモンスターよりも、ずっと大きなものだった。二人の魔法に引っ掛かったモンスターは、エキセントリックコングというモンスターである。要するに、赤毛の変態猿のゴリラバージョンだ。


 まだ索敵しただけで二人はそれが何なのかは分かっていないが、大きさからしてまだ手を出してはいけないモンスターであると判断し、遭遇しないように迂回して行くことにした。分解魔法で分解してもいいのだが、どんなモンスターなのかを見ないでそうするのは気が引ける為、断念した。


 二人は早速大深緑地帯に足を踏み入れ、索敵魔法に反応があった場所から大きく迂回して行く。索敵魔法を発動させながらも自分の目で周囲を警戒しながら進んでいると、またもや反応があった。その反応からしてゴブリンなのだが、


「デカくない?」


「大きいですね」


 そう、反応が大きいのだ。それこそ、ゴブリンジェネラルと同じくらい。しかしこの反応は、間違いなくゴブリンの物である。大きくとも所詮ゴブリンだが、ここは独自の進化を遂げたモンスターの多い場所だ。普通のゴブリンではないと判断し、警戒を強めて移動して行く。


 やがて反応があった場所の近くにやって来た。そこには、五メートルほどはある巨体をした、どう見てもゴブリンではなく上位種であるゴブリンジェネラルっぽいモンスターがいた。しかし、ゴブリンジェネラルのような大きな牙を生やしていない為、間違いなく通常種のゴブリンだ。


「いや、デカ過ぎだろ。本当にゴブリンか、これ?」


「ジェネラルにそっくりですね」


 その姿を確認した二人は、思わずそう口にしてしまうが、それは無理のないことだろう。もし十人がこのゴブリンを見たら、間違いなく全員がジェネラルだと答えるであろう。


 とにかく悠一は刀を鞘から抜いて下段に構え、身体強化を掛けて突進していく。巨大なゴブリンはそれに気付くが、図体がデカい分懐に潜り込まれたら反応しにくいし、動きが遅い。これでは二人にとって、動きの遅い当てやすい大きな的だ。


 刀でアキレス腱を一撃で断ち斬り地面に倒し、そこにシルヴィアの【ボルティックストライク】が叩き込まれる。だが伊達に進化したわけではなさそうで、一撃では倒されなかった。だが、背後から悠一に心臓を貫かれてしまい、呆気なく絶命する。


「…………よっわ!」


「なんか呆気ないです……」


 あっという間に倒してしまい、思わずそう口にしてしまう。図体がデカいのでもっと強いのかと思ったが、どうやらただの見掛け倒しだったようだ。


 というのは嘘で、単にこの二人が強くなり過ぎただけである。実際にはCから突破してBランクに指定されているモンスターなのだが、悠一はそんなモンスターでも視認出来ないほどの速さで移動して、シルヴィアはその防御を容易く突破出来る魔法を使うことが出来るようになっただけの話だ。


 要するに、悠一とシルヴィアには、少なくとももうBランクモンスターと戦えるだけの強さがあるということになる。


「とりあえず、討伐部位を回収するか」


 ゴブリンの死体の一番近くに立っていた悠一は、ナイフを取り出して巨大な牙を剥ぎ取り、そして分解する。回収作業を終えた後、再び周囲を警戒しながら目標であるワイバーンを探し始める。


 森の中には川が流れており、意外とそこにいるかもと淡い期待を持って行ってみたが、そこには通常種のゴブリンより一回り大きい程度のゴブリンが、五体いただけだった。その内の一体が持っている角笛で仲間を呼ぼうとしたので、そうされる前に魔法で吹き飛ばした。


 哀れゴブリンは五体まとめて吹き飛ばされ、そのまま川に落ちて流されて行ってしまった。討伐部位の回収が出来なかったが、別に要らないのでどうでもよかった。


 続いて索敵しながら歩いている、今度はオークと遭遇した。それを見た瞬間シルヴィアが背後に隠れたが、悠一は普通のオークとは違うことに気付いた。通常種のオークは豚の顔に灰色の体毛の生えたぽっちゃりした人間の体をしている。


 だが遭遇したオークは、豚顔であることとぽっちゃり体系であることは同じだが、体毛が何故か桃色だった。もしかしたら進化した種族なのだろうなと考えていると、通常種同様股間の危険物を立ち上がらせて襲い掛かって来た。


 ……どういう訳か、背後にいるシルヴィアではなく悠一を狙って。瞬間、悠一は凄まじい悪寒を感じ、分解魔法を発動させる。桃色の体毛をしたオークは、声を上げる間もなく消滅した。


「何だったんだよ、今の……」


 冷や汗を額に浮かべながら、悠一はそう呟く。とにかく分かったことは、あのオークは若い少女ではなく赤毛の変態猿と同じように、男を狙う習性があることが分かった。これからはその反応が索敵魔法にあったら、スキルを使って分解させることにした。


 そう決意した後、二人は再度探し始める。一応組合から情報は貰っており、大深緑地帯の最深部に近い場所でよくワイバーンを見掛けるそうだ。辛うじて逃げ帰って来た冒険者によると、そこには野生の小動物などが多く生息している場所らしく、肉食のワイバーンにとっては格好の餌場なのだそうだ。


 もちろんそこの方が遭遇確率が高いと言うだけで、そこ以外でも遭遇する可能性だってある。一先ず悠一は、一度上に向かって思い切り跳躍して、勢いが落ち始めた頃に足場を作ってそれを蹴って更に上昇して行く。


 あまり上に行き過ぎると低酸素症になってしまうので程々のところで止まり、周囲を見回してみる。すると、大深緑地帯の最深部だと思しき場所に、小さいが飛んでいる生物の影が見えた。それが何なのかは分からないけれども、恐らくそれがワイバーンだろうと判断して地上に戻る。


「この近くにはいなかったけど、情報通り最深部辺りにそれらしき影が見えた」


「そうですか。ではそこに行ってみましょう」


 目的地が決まったら二人はすぐに行動に移り、最深部に向かって足を運び始める。

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