17 竜の討伐へ
ゴブリンの巣屈を殲滅し終えてから悠一とシルヴィアは、リザードデーモンの生息している水辺まで森を突っ切って移動して行く。道中モンスターと遭遇したが、全て瞬殺されて行く。それなりのモンスターと遭遇はしたが、レベルは上がらないが。
オークなどとも遭遇したが、部位回収する必要が無いので分解していった。ちなみにシルヴィアはオークを目にした瞬間、悠一の背後に隠れて怯えていた。やはり苦手なのだろう。その気持ちはよく分かるが。
悠一だって赤毛の変態猿エキセントリックエイプは物凄く苦手で、目にしたくないと思っている。だが本気でそう強く思っている時に限って、それと遭遇することがある。その時は分解するか、圧縮した自然発火性のガスを利用した爆発で、痛みを与える間もなく消し飛ばしている。
「どうしてこの周辺にオークがいるんでしょうか……」
「この辺りは冒険者が良く通る場所だからね。ここにいれば捕まえられると、無駄な知恵を働かせたんでしょ」
オークは知性はゴブリンより少しいい程度だが、ゴブリン以上に学習する。冒険者が良く通る場所にいれば、獲物を捕らえられると考えることがあるので、今二人がいる場所はよくオークが出現する場所になっている。
「うぅ……。早くそんな場所から抜け出したいです……」
涙目になりながら悠一のローブの裾を指で摘んで、かなり近くまで寄っている。いい匂いが悠一の鼻腔を刺激して、どうにも意識してしまう。しないように努力しても、無理である。
こうなったら早めにこの場から抜け出すと決めて、少しだけ歩く速度を上げる。索敵魔法を常時展開しており、オークの反応があったらその反応を基に魔力遠隔操作で分解する。せいぜい六十メートルが限界だが、周囲には高い木々があるので姿はそう簡単には見えない。
そうしてシルヴィアの知らないところで悠一が奮闘し続けること約十五分、ようやく森から抜けだした。抜け出した途端シルヴィアは悠一のローブから指を話して、少しだけ離れる。
彼女も怯えていたとはいえ少し近付き過ぎたと、顔を少し赤く染めている。ちょっと気まずい空気が漂う中、二人はリザードデーモンのいる水辺の周辺までやって来た。索敵魔法を発動させてみると、ポツリポツリと反応があった。
今いる場所から一番近くに反応があった場所に行くと、そこには二足歩行している黒い鱗で身を覆っている翼を生やしたリザードマンのようなモンスターが二体いた。あれこそが第二目標である、リザードデーモンである。
「見た目がまんまリザードマンだな」
「色が黒くて翼が生えているというところ以外は、基本リザードマンと同じですからね」
リザードデーモンは、二人がまだルシフェルドにいるころに倒したことのある青色の鱗を持つリザードマンと非常によく似ている。違う点は色が黒いところと、翼が生えている程度で、それ以外ではリザードマンと何ら変わりはしない。
強さで言えばリザードデーモンの方がずっと強いが、実は対処方法や弱点が殆んど同じだったりする。
「じゃあ早速行くか。片方は任せても大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
「了解」
そう言うと悠一は刀を抜いて、下段に構えて突進していく。二体のリザードデーモンが突進してくる悠一に気付くが、内一体はシルヴィアの発生させた小規模な爆破魔法を受けて、そちらに意識を向ける。その間に、まだ自身に意識を向けている一体を一度蹴りで吹き飛ばして、二つに分かれる。
蹴り飛ばされたリザードデーモンは憎々しげに悠一を睨むと、鋭い爪を使った攻撃を仕掛けてくる。それらの攻撃を全て紙一重で躱して斬撃を叩き込むが、浅い傷を付けるだけだった。
「随分と硬い鱗だな。まるで鎧そのものだ」
爪による攻撃を凌ぎ、尻尾による攻撃をバックステップで躱す。追撃してくるが、地面から針状に伸ばした土が飛び出て来て、それが襲い掛かる。だが、それも鱗によって防がれてしまう。
思っている以上に堅い防御を持っていることに内心舌打ちしつつ、身体強化を掛けて鱗と鱗の繋ぎ目に刀を振り下ろす。するとやはりそこは脆いのか、まだまだ浅いものの赤い血が流れた。ならばと思い、刀で鱗と鱗の繋ぎ目を斬り付けていく。
相変わらず攻撃を仕掛けてくるが全て紙一重で躱し、尻尾による攻撃は構築した楯で防ぐ。ダメージは非常に小さなものだが、それでも重ねていけばそれは致命傷となりうる。体に次々と浅い傷が刻まれて行き、やがて全身に小さな切り傷が刻まれた。
切り傷からは少しずつ血が流れている。一つだけでは大したことは無い。だが全身に同じくらいの傷が刻まれれば、それだけ流れる血の量が多くなる。多くの血を失ったリザードデーモンは、ふらふらとした足取りだったが最終的には倒れてしまう。
まだ倒し切ってはいないので、悠一は鋼の槍を構築してそれで止めを刺した。シルヴィアの方を見てみると、リザードデーモンがぶすぶすと黒い煙を上げて倒れていた。さしずめ【ボルティックストライク】で倒したのだろう。
どっちも倒すことが出来たので、早速討伐部位を剥ぎ取る。討伐部位は黒い鱗である。繋ぎ目を斬って倒したので、いくらか剥ぎ取りやすかった。剥ぎ取りを終えると、更なる獲物を求めて索敵を始める。
水辺なのでなんか巨大な蟹のようなモンスターと遭遇したり、図体のデカいカエルのようなモンスターとも遭遇したが、それら全ては瞬殺されて行った。リザードデーモンは索敵魔法を発動させないと中々遭遇出来ず、全て倒し切るのに四時間掛かった。
悠一たちは索敵魔法を使って探していたが、リザードデーモンは野生の勘というべきだろうか。索敵範囲内に入り込んだと思ったら、すぐに逃げられてしまったのだ。そのせいで、倒すのに時間が掛かってしまったのだ。
リザードデーモンを倒した後はロックゴーレムを倒しに行った。ロックゴーレムは岩で出来た岩人形で、その大きさは五メートルはあった。幸いなのかどうなのか、ロックゴーレムは常に二、三体で行動するようになっているらしく、倒すのにそれほど掛からなかった。
三つのクエストが予定よりもずっと早く終わり、二人はブリアルタに戻ることにした。その時、ぐぅ~っと言う音が聞こえて来た。振り返ってみると、お腹を押さえて顔を真っ赤にしているシルヴィアが視界に映った。
「まあ、もう昼過ぎ辺りだもんな。ここいらで昼食を取るか」
「はうぅ……」
シルヴィアは、顔を耳まで真っ赤にして俯いた。
♢
街の外で軽い昼食を取った後、二人はブリアルタに戻ってきていた。他にも色んなモンスターを倒したので、太陽はやや西に傾いている。地球時間で言えば、午後三時くらいだろう。
「三つのクエストを一日で、それもたった二人でこなしてしまうとは……」
組合に行って討伐部位を提示したら、クエストの受付嬢に驚かれてしまった。二人にとってはこれは当たり前のことだったので、こうして驚かれるのはなんだか久々だ。
「ゴブリンの巣屈の殲滅ではゴブリンジェネラルも出たので、その分の100000ベルを上乗せいたします。では冒険者カードを提示してください」
言われた通りにカードを取り出して、それを受付嬢に渡す。それを受け取った受付嬢は、一度カウンターの奥に姿を消す。数十秒が経過したころ、二人のカードを持った受付嬢が戻って来た。
「お待たせいたしました。報酬金額はお二人に平等に配布されております。それとですね、お二人の冒険者ランクがEからDに昇格いたしました。おめでとうございます」
受付嬢は眩しい笑顔を向けながらそう言う。冒険者カードを受け取ると、なるほど確かにランクアップしている。そして所持金も凄いことになっている。一回のクエストで数十万ベルを稼げるのだ。納得は出来るが、反則をしているような気分になってくる。
だがこれだけお金があれば、そろそろ新しい防具を買った方がいいかもしれない。悠一の騎士風のローブも、最初は防御力も高く性能のいいものだが、モンスターの強さが上がって行くと今のローブの防御力では危険になるかもしれない。
そうと決まると、悠一は早速組合の二階にある武具屋に行くことにした。シルヴィアもローブを新調したいとのことなので、付いてきている。組合内にある武具屋には、街に出ている武具屋の物よりも良質で高性能な物が置かれている。
魔法使いの杖は魔力伝導率が恐ろしく高くなっていたり、剣士や騎士の剣も耐久値が恐ろしく高く、どれだけ強く叩きつけても折れないのではと思わせるほどだ。防具も同じで、鎧には上級モンスターの攻撃であれば、数十回は耐えられるであろう防御力に自動反撃機能が付与されており、ローブには魔力の回復速度を倍加させて、全属性に対して高い耐性を持っている物がある。
「いくらなんでもこれはおかしいだろ」
「ルシフェルドの組合の物よりずっと高いんですけど……」
その代わり、効果が高い分値段も高い。金銭的には余裕があるのだが、それでも高く感じてしまう。とりあえず悠一は、今着ているローブと同じ色で似ているデザインの物(全属性に高い耐性と、魔力回復速度倍加)を選び、シルヴィアは白と黒を基調にしたローブを選んだ。
金額は目玉が飛び出そうなほど高い物だったが、手持ちのお金で買えた。他にも剣を買おうかと悩んだが、耐久値が恐ろしく高いだけで属性付与されていない剣が多く、断念した。
二人は新しく購入したローブを着替え室で着替えてから店から出る。新しい装備に着替えた二人は一階に降りてから、掲示板の所に移動する。まだ時間があるので、一個か二個クエストを受けるつもりでいる。もちろん、Cランクのクエストだ。
ブラックデーモン三十体の討伐 Cランク 報酬/400000ベル。
メガファングボア三十五体の討伐 Cランク 報酬/450000ベル。
ワイバーン二十五体の討伐 Cランク 報酬/550000ベル。
メガトントード二十体の討伐 Cランク 報酬/410000ベル。
「メガトントードって……」
もう名前からすぐに察する。シルヴィアから情報を聞くと、それはもうとにかくデカいカエルだそうだ。この種は一番小さくて八メートルほど、一番大きくて十五メートルはあるそうだ。
(気持ち悪……)
カエルは小さければ見た目は可愛いのだが、デカ過ぎるとそれは逆に気持ち悪くなる。どうしてそんなに巨大になったのかが気になって仕方がないが、メガトントードの討伐は受けずにワイバーンの討伐を受注した。
受付嬢がランクアップしたばかりなのに、そんなクエストを受けると知るとかなり驚いていたが、二人は危険度の高い三つのクエストを半日ほどで終わらせてきたので、多分大丈夫だろうと思い受諾した。
ちなみにワイバーンの討伐を受けた理由は、竜の肉は極上だからである。依頼は鱗を持ちかえればそれでいいとなっている為、ワイバーンの肉を遠慮なく頂ける。しばらく食事が豪華になるなと、内心ほくそ笑んだ。




