16 殲滅完了
「はあっ!」
「ギャア!?」
悠一は刀を振るうたびにゴブリン数体が数を減らしていくその光景を、四人の少年少女は完全に見入っていた。その動きには一切に無駄が無く、そして物凄く鋭いのが素人でも分かる。特に剣士の少年は、脚の痛みを忘れてしまう程見入っている。
弧を描くように刀が振るわれると一撃で数体のゴブリンが倒されて行き、後ろから不意打ちしようとしても後ろに目があるかのような動きで蹴り飛ばす。そして離れた位置にいるゴブリンを、構築した氷で貫く。
時には離れた場所にいるシルヴィアが中級魔法を放ち、一回の魔法の発動で十数体を屠って行く。
「す、凄い……」
先程悠一に毛布を投げ渡された少女は、一切の無駄のないその動きをする悠一を見て、無意識のうちにそう呟いていた。
「いくらなんでも数が多過ぎじゃありませんかね?」
「仕方ないですよ。ここがゴブリンの巣屈なんですから」
悠一は一度シルヴィアのいる位置にまで下がって、全体を見回す。見た感じでは、まだ五十はいるだろうが、その程度の数は何ともない。最初から掛けっぱなしになっている身体強化を更に高めて、より速い速度で突進していく。
ゴブリンたちはその速さには付いていけず、ただ一方的に切り伏せられているだけだった。そこにシルヴィアの魔法も加わり、ぐんぐん数が減って行く。こうなれば殲滅し終えるのも時間の問題だ。
そう思い更に加速しようとした時、巨大な棍棒を持った通常のゴブリンよりも大きいゴブリンが、奥にある穴から姿を現した。見たことは無いが、悠一は直感的にジェネラルかキングかのどちらかだろうと推測する。
「ユウイチさん、気を付けてください! それはゴブリンジェネラルです!」
どうやらジェネラルだったようだ。ジェネラルはゴブリンという域から逸脱した知能と強さを有しており、その危険度はCに近いDに認定されている。だが悠一にとって、そんなのは関係のない話なのだが。
周囲のゴブリンを次々と斬り伏せていきながら、ジェネラルに近付いて行き魔法で鋼の槍を作り出して放つ。しかしジェネラルは持っている棍棒でそれを弾き飛ばし、雄たけびを上げながら突進してくる。
だが悠一はそれよりも先に背後に回り込んでおり、袈裟懸けに振り下ろす。クリムゾンオーガほど筋肉が硬くはないが、それでも致命傷とは呼べない傷しか与えられない程に硬かった。
「ちぃ!」
振り回してきた左腕を作った足場を蹴って上に躱し、属性開放をして再度作った足場を蹴ってすれ違いざまに斬り付ける。だがこれも大したダメージを与えることが出来なかった。
「【フィンブルランサー】!」
そこにシルヴィアの魔法が襲い掛かり、氷の槍がジェネラルの体に突き刺さる。クリムゾンオーガほどの防御力が無いので、殆んどが体に刺さる。
「ゴルァァァァァアアアアアアアアアアアア!!」
激しい痛みを感じて雄叫びを上げ、怒りのパラメータが上昇する。攻撃もどんどん強くなる代わりに、次第に大振りで単調になって行く。それを見た悠一は、好機だとみて正面から撃ち合い始める。
一撃一撃は重いが、身体強化のおかげで何とか受け止めることが出来ている。そして最も大振りで最も威力の高い攻撃を仕掛けてきたところで、悠一も動いた。
「五十嵐真鳴流剣術中伝―――顕衝!」
ジェネラルの攻撃による勢いを、自身の攻撃による勢いを載せてカウンターを放つ。ジェネラルは咄嗟に回避行動を取ろうとしたが遅く、刀が右脇腹から左肩まで大きく深く斬り裂く。一撃では倒せなかったが、致命傷を与えることは出来た。
バックステップで距離を取ると、ジェネラルの頭上に大きな魔法陣が出現し、そこから大きな音を轟かせて雷が放たれた。シルヴィアが現時点で扱える、雷中級魔法である【ボルティックストライク】だ。
そんな魔法を喰らってもまだ息絶えてはいなかったが、それでもすでに虫の息。最後に悠一が水素と酸素を生成してそれを圧縮して混ぜ合わせ、水素爆発を起こす。躱すことなく水素爆発を喰らったジェネラルは、半身が消し飛んでいた。
「残るは雑魚だけか」
残ったゴブリンたちを見てみると、ジェネラルが倒されたので怯えていた。だがもちろん容赦はしない。残ったゴブリンはその場から逃げようとするが、巨大な壁を構築して退路を塞ぐ。
退路を塞がれて戸惑うゴブリンたちに、容赦なく斬撃が襲い掛かる。一体また一体と数を減らしていき、ゴブリンジェネラルが倒されてから二分と少し、全てのゴブリンは殲滅された。
悠一は索敵魔法で周囲を探ってみるが、半径六十メートル以内には存在を確認出来ない。シルヴィアにも索敵してもらったが、彼女のにも確認されなかった。どうやらこれで殲滅完了の様だ。
悠一は右手に持っている刀に付着している血を振るって落とし、鞘に納める。
「さて、四人とも大丈夫かな?」
呆然と二人を眺めている四人の少年少女に、そう声を掛ける。四人ははっと我に戻り、脚を汚している少年以外は地面から立ち上がって頭を下げる。
「助けてくださり、ありがとうございます! お二人のおかげで、本当に助かりました!」
先端部分が折れ曲がっている尖がり帽子を被って、紫色のローブを着たまさしく魔法使いっぽい少女が、透き通るような、しかし震えた声で礼を言う。やはり怖かったのだろう。
駆け出し冒険者はまだ生物を殺すということに抵抗がある者が多く、その弱さを捨てきれずに殺されてしまうというパターンが多い。この四人組も、きっとそういった理由で倒し切れず、追い込まれたのだろう。
「俺はただ助けたいと思っただけだから、そこまで感謝しなくてもいいよ。それより、まずは怪我人の治療だな」
悠一は脚を怪我している少年の下に向かう。怪我はナイフで深く刺された刺し傷で、恐らく骨まで届いているだろう。
「あの、回復魔法を使えるんですか……?」
「まあ、一応ね。俺の場合は、回復魔法モドキだけど」
「―――?」
少女は行っている意味を理解出来ず、頭にはてなを浮かべて小首を傾げる。その間に悠一は再構築魔法を発動させて、少年の足の怪我を治していく。
「い、一瞬で……」
少年は一瞬で治った傷を見て驚いた。
「あれ? 今の、光属性魔法じゃないですね」
「あぁ。俺は光属性、というか属性魔法はまず使えない。適性が無いからね」
それを聞いて、四人は驚愕する。まあ、無理のないことだ。悠一は鋼の槍を作り出したり氷の刃を作り出したり、挙句の果てには爆発まで起こしたのだ。それなのに属性魔法が使えないという。驚かない訳がない。
「あー……、これ言っても大丈夫か?」
「情報を渡したくないというのは分かりますけど、ユウイチさんの魔法は知ったところで対処が出来ないので大丈夫かと」
「そうか? ……まあ、いいや。俺の魔法は分解と再構築だけだ。それ以外の属性は無い。言っちゃうと、固有魔法だね」
それを聞いて更に驚く。固有魔法は個人だけの魔法であり、強力無比な物だ。そういった魔法を持った人間は、基本軍の戦力として保管されてしまう。なので普通冒険者になれないのだ。だがこうして目の前にいる。
「あ、これ俺の冒険者カードね」
悠一はそう言って冒険者カードを取り出して、それを見せる。そしてそれを見て絶句する。
「あ、あれだけの強さがあるのにEランク冒険者!?」
「そうだよ」
「てっきり上級冒険者かと思っていました……」
「俺も……」
「あたしもです……」
そこら辺はもう慣れたので、適当に聞き流す。とりあえず悠一は、毛布だけを体に巻いている少女の為に、代わりになる服を作り手渡す。いつまでもそんな恰好でいさせる訳にはいかないからだ。
その意図を汲み取った少女は深部の出入り口から出て、近くにある大きな岩の陰で着替え始める。その間悠一は、巣屈を殲滅したという証を探す。まずはゴブリンジェネラルの牙を回収し、ついでにその武器を回収する。大き過ぎて鞄に入りきらないので、引き車を作ってその上に放り込む。
続いてジェネラルが出て来た奥の穴の方に行くと、そこには謎の大きな水晶があった。その水晶はゴブリンの巣屈にしかない物であり、これこそが殲滅したという証になる。早速それを持ち上げてみると、見た目以上に軽かった。
鞄の中に入れてみると、全然余裕だった。他にも目ぼしい物が無いかを確認するが、特に何も無かった。目的の物を回収してから悠一は、奥の穴から外に出る。既に少女は着替え終えているらしく、シルヴィアに礼を述べていた。
「さて、ここの殲滅も済んだから次行くぞ」
「はい。あ、四人を途中まで送って行きませんか?」
「別に構わないよ」
そう言うと悠一は一度振り返り、地面に転がっているゴブリンを分解魔法で分解する。それからもう一度踵を返し、外に向かって歩き出す。もうゴブリンとは遭遇しないので、周囲を警戒することなく足早に歩いて行く。
数分で洞窟から抜け、しばらく歩いて行く。
「では俺たちはここで。改めてありがとうございました!」
「どういたしまして。これからはあまり無茶はするなよ」
「はい! 分かりました!」
少年剣士がそう言うと、三人の少女も再度礼を述べて頭を下げ、そして四人一緒にその場から去って行った。悠一とシルヴィアは四人の姿が見えなくなるまで見送り、次なる目標がいる場所に向かって歩き出す。
次の目標はリザードデーモンだ。リザードデーモンは水辺付近に生息しているモンスターで、全身が黒く目が血のように紅く、人間のように二足歩行で、背中には黒い翼が生えている。名前にデーモンと付いてはいるが、それはあくまで見た目で付けられた物であり実際にはゴブリンやオークといった人間に近い姿をしている亜人種という種族だ。
この情報は全て、シルヴィアから聞いたものなのだが。再度モンスターについてをもっと知るべく、時間があればモンスター図鑑を買って、知識を叩き込むべきだなと思った。
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