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14 二人の休日

「この街も凄い活気ですね」


「そうだな。建物も全部デカいし、人も多い。店もたくさんあるから、楽しめそうだ」


 時折視界に映るそっち系の勧誘をしている露店を尻目にしつつ、そう答える。二人の手には、竜の肉をたれに漬けてから焼いた、串焼きが一本握られている。これは宿屋を出てから少し歩いたところにある、結構賑わっていた露店で買った物だ。


 竜の肉と聞いて若干抵抗があったが、実は滅多にお目に掛かれない高級食材らしい。シルヴィアも十五歳の誕生日の時にそれを口にしたことがあるらしく、それはもう他の肉とは比べてはいけない程だったそうだ。とにかくとても美味いとのことなので試しに買って食べてみたら、身が引き締まっており歯応えが良く今まで食べて来た肉の中で一番美味かった。


「ではまず、どこに行きますか?」


「そうだな……。まずは服屋かな。やっぱ私服とか欲しいし」


「そうですね! 早速行きましょう!」


 実際には寝間着とローブ以外にも服はあるにはあるのだが、それはこの世界に転生した時に来ていたブレザー制服だ。その服はこの世界では物凄く無駄に目立つため、絶対に着たくない。それに、折角の異世界なのだからこちらの服を着ないと損だ。


 串焼きを先に食べ切って近くにあるゴミ箱の中に放り込み、服屋を目指す。人に聞いてもいいが、見たことのない街を自分の足で歩き回って探すというのも、また一興だ。


 服屋を目指して歩いていると、悠一はあることに気付く。


(へぇ。やっぱ異世界なだけあって、人間以外の種族もいるんだな)


 そう、街を行き交う者の中にどう見ても人間じゃない種族が混じっているのだ。耳が長く尖っている、異世界でお馴染みなエルフ。その上位種族であるハイエルフ。体や顔は人間だが、尻尾に獣耳がある獣人等々。ルシフェルドでは見なかった種族が多くいる。


 一番興味を引いたのはエルフだが。


(やっぱファンタジーって言ったらエルフだよな)


 エルフは総じて美形しかいない。異世界の住人は殆んどが美形だが、エルフは更に整っている。特に女性は、絶世の美貌を持ち合わせている。そんな種族を見ることが出来た悠一は、何故か満足感に溢れていた。


 悠一が街中でエルフや獣人族を見掛けてから約十分、二人は服屋に来ていた。服屋は二階建てになっており、一階が私服を売っており、二階は魔法使いなどが着るローブを売っている。今回の目的は私服なので、一階で買い物を済ませる。


 一階はたくさんの客(特に女性が多い)で賑わっており、色んなところに人がいる。どうやらここは人気店の様だ。


 悠一はこちらに来てからの日が浅い為、異世界のファッションなど分からない。しかし適当に選ぶ訳にもいかず、自分に似合いそうな色をしているシャツとズボンを数着選んでいく。


 藍色と黒の長ズボンをそれぞれ三着、白と青と黒と灰色のシャツを二着ずつ。そして白のロングコートと普通のジャケット、藍色のジャケットを一着ずつ選ぶ。普段は転生した時からそのままである青色のズボンに黒のシャツ、その上に白のローブを着ているのでそれほど多く買わなくてもいいと判断したのだ。


 シルヴィアの方をちらりと見てみると、明らかに悠一よりも多く服を籠の中に入れていた。値段は数千ベル程度だが、買い過ぎるととんでもない値段になる。シルヴィアの選んだ服は、全部買うとしたら数万ベルは軽くする。きっといいお客さんになる。


 若干苦笑しながら先に会計を済ませて、服の入った袋を魔法の鞄の中に入れる。一応悠一も一定重量までであればいくらでも入り、重さを感じなくなるという鞄を買ってある。見た目は小さいのだが、シルヴィアが持っているたすき掛けの鞄と同じくらいの量が入る。邪魔にならないので、結構便利だ。


「お待たせしました~」


 先に会計を済ませて外で待っていると、シルヴィアが出て来た。袋は手に握られていないが、きっとたすき掛けの鞄の中にたくさんの服が入っているのだろう。


「じゃあ次行くか」


「はい!」


 ご機嫌になったシルヴィアは、軽い足取りで悠一と共に歩き始める。奥の人があちこちを行き交っており、時折軽くぶつかったりしてしまうが何とか離れないようにローブの裾を指先で摘む。


 街を散策していると、本当に色んな種族を見掛ける。特に多く見られたのは、獣人族だ。獣人は人間と比べると身体能力が圧倒的に高く、その多くが凄腕の冒険者になっている。十人いるSSSランク冒険者の中にも、獣人族は三人いる。


 ただ、身体能力が恐ろしく高いという代わりに、魔法を扱うことが出来ない。それでもそれを補う程の強さがあるので、獣人たちは全く気にしている訳ではないようだが。


 次にやって来たのは雑貨屋だ。今日は何もしないが、明日からはクエストを始める。四日間の冒険をしている時、もちろんポーションや魔力回復薬を消費する。特にシルヴィアは魔法での戦闘になるので、魔力回復薬の消費が激しい。


 ポーションは、悠一が再構築の魔法で傷を治したりしているので、それほど消費はしていない。とりあえず、魔力回復薬を買い込み長期保存の利く干し肉やパンなどを購入する。


 粗方明日の準備を終えたところで、今度は昼食を取ることにする。幸い食事処は近くにあり、そこで取ることにした。しかも嬉しいことに値段が安いのにボリュームが満点で、味も中々よかった。結構こういった食事処が多いようだ。


 昼食を取り満腹感に満足しながら、改めて街を散策する。見たことのない店などが多くあり、そのどれもに興味をそそられた。特に魔導具店というのが興味深かった。


 少しだけ寄ってみたら、様々な魔法が付与されている面白い道具などが置かれていた。中には使用用途が全く分からない、謎の道具も置かれていたが。だが特に目ぼしい物が置かれていなかったので、すぐにその店から出た。


 店を出てから少し歩いて、他にどこに行こうかを話し合っていると、正面からなんか見たことのあるような五人組が―――


「お、さっきの二人組の冒険者じゃねぇか」


 街に入る前に、シルヴィアを厭らしく舐める様に見ていたガラの悪そうな五人組だった。どうやらチェックを通過して、街に入ってこれたようだ。そのことに悠一は頭を抱え、シルヴィアは悠一に近付く。


「何だよ何だよ。女連れだとは分かっていたけど、結構いい顔してんじゃねぇか」


「確かにそうだな。体付きも良いし、思い切り好みだ」


 五人組の内二人が前に出て来て、シルヴィアを値踏みするような目で見る。ちらりと顔を見てみると、思い切り怯えているのが伺える。


「おいお前。金払うから―――」


「断る。そもそも人は金に換えることなんか出来る訳無いだろ。頭湧いてんじゃねぇの?」


 言い切る前に速攻で断り、挙句の果てにそんな言葉を吐く。流石に今の言葉が気に食わなかったのか、男は額に青筋を浮かべる。


「テメェ……、俺たちは冒険者だぞ? 女子共を守ってやっているんだから、何したって―――」


「いい訳がない。何? 冒険者は戦えない人たちを命張って守ってやっているから、何してもいいと思っている訳? 何考えてるんだ、アホなの?」


 その言葉に更に青筋を浮かべた男たちは、我慢出来なくなったのか顔を真っ赤にして更に青筋を浮かべる。


「そんなロクでもない考えで冒険者になったなら、さっさと止めた方がいいぞ。そんな考えでやっているなら、あっという間に淘汰されるからな」


「言わせておけばっ!!」


 ついに我慢出来なくなったのか、五人組は飛び掛かって来た。シルヴィアに下がるようにと指示を出した後、悠一は応戦する。まず真っ先にやって来た男の攻撃を屈んで躱し、肘を鳩尾に叩き付ける。突っ込んでくる勢いと肘を突き出す勢いが重なり、一撃でダウンする。


 それを見た四人の男たちは剣を抜いて襲い掛かってくる。悠一は刀を宿屋の部屋に置いてきてしまったが、そんなの関係ない。構築の魔法を使って、即興だが刀を作って受け止める。ただし、刃引きしている奴なので切れ味は無い。


 武器を持っていなかったはずなのに、突然武器が現れてそれで受け止められた男は驚愕し、一瞬だけ次への動きが遅れる。その一瞬が命取りになり、刃引きされた刀を胴体に叩き込まれて、またも一撃で気絶する。


 今度は前方と左右から攻め込んでくるが、無駄に素早さが高い悠一にとって欠伸が出そうなくらい遅い。三人同時に対応して、それと同時に誘導する。そして三人が同時に突進してきた瞬間、上に向かって跳躍する。


 人間は激しい上下の動きに弱い。戦いになって視野が狭くなっている時はなおさらだ。突然雄一の姿が消えたので対応が遅れ、三人は思い切りぶつかる。


「五十嵐真鳴流中伝―――士薙祓しちばらい


 悠一が使ったこの技は、敵を同士討ちさせる技術である。中伝の中でも難易度の高い五つの技の一つであり、多数対一の時にはとても有利だ。唯一の欠点といえば、敵が同時に攻撃してこないと殆んど意味が無いというところだけだ。


 今回は同時に攻撃ではなく、同時に突進だったので大したダメージは与えられないが、それでも十分だ。


「随分と強さに自信があるようだけど、たった一人に負けるようじゃあそんなのはただの自信過剰だ。もう一度Gランクから始めた方がいいと思うぞ」


 そう言いながら右手に持っている刀を分解して、シルヴィアの下に向かう。


「だ、大丈夫ですか!? 怪我とかは無いですか!?」


「大丈夫大丈夫。あんな奴らの攻撃を喰らう訳無いから。とりあえず、一旦ここから離れよう」


 悠一はシルヴィアの右手を掴み、足早にその場から去っていく。街を巡回している衛兵とかに絡まれたら、物凄く面倒なことになると予感したからだ。


 その場から離れた二人は、一度喫茶店に入り落ち着くまでそこにいることにした。悠一は紅茶を、シルヴィアはミルクティーを注文する。


「私のせいでご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ございません……」


 注文をして店員が厨房の方に消えていった直後、シルヴィアが頭を下げて謝罪してきた。


「気にしなくても大丈夫だよ。俺がそうするべきだと思ってそうしたわけだし。それに、さっきも言っただろ? 何があっても守るって」


 悠一は誰よりも強い魔法を持っているがそれに決して溺れず、自分の私利私欲の為ではなく誰かを守るために使うと決めている。剣術だって誰かを殺す為ではなく、誰かを助けて守るために覚えている。自身の力は全て、自分の為ではなく誰かの為に振るう。それが悠一だ。


 シルヴィアも剣を持ったことのない全くの素人だが、それでも悠一の剣は殺す為ではなく守るための物であるのは見抜いている。魔法だってそうだ。それを理解しているからこそ、シルヴィアは自分が目を着けられてしまったせいで、悠一が戦う羽目になってしまったと思っているのだ。


 少ししゅんとして肩を降ろしていると、額にトンッと小さな衝撃が走る。顔を上げると、右腕を伸ばして人差し指を突き出した悠一の姿が映った。


「だから気にするな。俺はただ守りたいと思ったから、やっただけだ。迷惑だなんて思っていないよ」


「ですが……」


「なら、俺が君を守るように、君も俺を守ってくれるか?」


「え……?」


 悠一の言っている意味が理解出来ず、首を傾げる。


「いくら俺でも、対処し切れないことだってある。一人じゃ絶対に無理だって思うことだってある。だけど俺には一緒に戦ってくれる、シルヴィアという仲間がいる。そして、仲間は支え合って行くものだろ? だからさ、前に出て戦っている俺の背中を、君が守ってくれ」


 シルヴィアは、悠一の言っていることの意味をやっと理解した。悠一の言っていることはとても当たり前のことだが、それと同時に沈んでいた気持ちを戻す言葉でもあった。


 一人は皆の為に。皆は一人の為に。その言葉の様に、自分が守られるのであれば、自分も守ってくれている人を守ればいい。悠一はそういった意味を込めて、シルヴィアにそう言ったのだ。


「分かりました。ユウイチさんが私を守ってくれるように、私もユウイチさんを守ります! 何があっても、絶対に!」


 先程とは打って変わって、落ち込んだ表情ではなく強い意志の込められた表情だった。その顔を見た悠一は、小さく微笑んだ。


 その後、運ばれてきた紅茶とミルクティーを飲みながら明日について、あれこれ話し合った。Dランクのクエストともなると危険度が高くなり、報酬もEランクの物よりも上がる。それは嬉しいことなのだが、悠一はその危険度の方を全く別の方の意味で捉えているところもある。


 理由は、ブリアルタに来る途中で三、四回遭遇したことのある赤毛の変態猿のことである。Eランクも十分危険度が高いか、その中でエキセントリックエイプは一番危険度が高かった。最初は単に強さ的な問題かと思ったら、全く別の意味だった。なので、最近はそう言った意味での危険度もあるのではないかと考えてしまうようになっている。


 念のため組合に行ってDランクのクエストを見てみたら、そう言った意味での危険モンスターの討幕クエストは貼り出されておらず、普通に強さ的な方で危険度の高いモンスターの討伐クエストがあったことに安堵した。

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