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13 ブリアルタの街

 盗賊団を壊滅させ少女たちを救出し、バルヒルドの村から出てから三日が経過した。この三日間で悠一のレベルは39から41、シルヴィアは34から37に上がっていた。遭遇するモンスターの多くが中級だったので、多くの経験値が入ってくるようになり、三日でここまで上がったのだ。


 そして今現在、二人は次なる目的地であるブリアルタに到着していた。ブリアルタは四日前までいた【ルシフェルド】という街とは違い、中級から上級モンスターが多く出現しそれを倒す冒険者や騎士、そして街を守るためにある壁と、モンスターは入れない結界があることから要塞都市とも言われている。


 それ故に街に入る為に結構厳しいチェックがされるので、長い行列の真ん中辺りに並んで順番を待っている。周囲にいるのは、多くは冒険者の様だが、商人や貴族などもいる。


 シルヴィアは見目麗しいので、変に目を付けられないようにフード付きのローブを手渡しており、それを深く被っている。それでもその魅力的な肢体は、全く隠し切れてはいないが。


「こんなに人がいるとは思わなかったな」


「そうですね。見たところ、熟練の冒険者が多いみたいです」


 きょろきょろと周囲を見回し、そう呟く。悠一とシルヴィアのレベルが上がったとはいえ、ずっと冒険者を生業としてきた者にしてみれば、子供も同然だろう。素早さと魔力の高さには自信があるが。どういう訳か、この二つの成長率が他と比べて著しい。


 今では、本気で走ったら前世でのマラソン最速記録を軽々と突破出来るだろう。そんなことはしないが。


「にしても、中々進まないな」


「厳しいチェックをしているんですよ、きっと」


 少しずつ進んではいるものの、大きく進むのは数分に一度。この調子だと、街に着くのは一時間以上先だろう。こういった時に何かしら暇を潰せるものがあればいいのだが、生憎そんなものは持ち合わせていない。


 せめてルシフェルドでいくつか本でも買っておけばよかったと、少しだけ後悔する。するとシルヴィアが、悠一に少しだけ近付きローブの裾を指先で摘む。顔を見てみると、少しだけ怯えているようにも見える。


 見ている方向に視線を向けると、そこにはいかにもガラの悪そうな五人組の冒険者がいた。その五人組はシルヴィアが女性であることを見抜いているらしく、厭らしい目付きで彼女を見ていた。そういったのに慣れていないから、少しだけ近くに寄ったのだろう。


「大丈夫。何があっても、俺が守るから」


「っ!? は、はい……!」


 悠一が小さな声でそう言うとシルヴィアは一瞬動揺してそう返事して、顔を俯かせる。フードを深く被っているので悠一からは見えないが、顔は耳まで真っ赤になっている。


 少しの間だけまともな会話話出来なかったが、やがて落ち着いてきたのかちゃんと会話が出来るようになった。ちなみに悠一は、どうして一時的にまともに会話が出来なくなったのか、全く気付いていない。


 そして並び始めてから二時間近くが経過した時、二人はようやく門の出入り口付近にまで来た。そこには門兵が立っており、そこで怪しい者ではないか、怪しい道具を持ってきていないかをチェックしている。特に荷馬車を引いている冒険者と商人は、念入りにされている。


「次だ。そこの二人、身分を証明するものを提示しろ」


 門兵にそう言われ、悠一とシルヴィアは冒険者カードを取り出して、それを提示する。


「Eランクの冒険者か。ここへはどのような用件で来た?」


「単にこの街のクエストをやりたいと思いましてね。この街の周辺には、強いモンスターがいると聞きましたので」


 変に誤魔化すと逆に怪しまれるし、特に誤魔化すような物ではないので本当のことを口にする。こういった理由で他の街の目指す冒険者は少なくなく、並んでいる冒険者の大半がそういった理由でこの街に来ている。


 周辺にいるのは中級から上級ばかりなので、経験値が多く入りレベル上げなどに適している。冒険者になりたての人の殆んどは、一度はこのブリアルタにに来ている。


「なるほどな。ところで、その変わった剣は何だ?」


「これは俺の作ったオリジナルの武器ですよ。炎属性が付与されていますが、それ以上怪しい点はありません」


「そうか。だが、念のために調べさせてもらう。そこの魔法使いもだ」


 言われた通りに悠一は刀を鞘から抜き、シルヴィアは右手に持っている杖を門兵に渡す。それを受け取った門兵は、何か薄い板状のものを取り出してそれを刀と杖に数秒間翳す。きっと何か怪しい物ではないかを調べる道具なのであろう。


「確かに炎属性が付与されているな。それ以外の魔力が感じるが、それは?」


「刃が欠けたり折れたりすることがあるので、魔法で直しているんですよ」


「錬金魔法の使い手か。これはまた珍しいな。おっと、検査は完了だ。通っていいぞ」


 そう言いながら門兵は二人に武器を返す。悠一は受け取った後納刀し、シルヴィアは右手で受け取る。そして許可が出たので、早速足を踏み入れていく。


 門から街までは距離があり、少し歩かなければならない。一度のチェックに大分時間が掛かるので、後続に抜かれるなんてことは無い。日差しも良く、とてもいい散歩日和だ。


 今日は組合に行かないで街でどう時間を潰すかを考えていると、何かを通過したかのような感覚があった。それはシルヴィアも同じであり、ついそこで立ち止まって周囲を見回してしまう。そこで思い出す。


 この街の周辺には、モンスターを通さない結界が張られていることを。二人は丁度その結界を通過したところなのだ。まさか街を覆うかのように聳え立っている、外壁の内側にあるとは思ってもいなかったが。


「通り抜けるっていう感覚があるんだな」


「ちょっと不思議な感じでした」


 何なのかをすぐに理解し、再び歩き始める。チェックを終えたのか、馬車が一台砂煙を立てて通り過ぎていく。先程のガラの悪そうな五人組ではない。そのことにシルヴィアは、言い表せぬ安心感を覚えた。


 追い付かれて声を掛けられたくはないので、シルヴィアは歩く速度を上げた。悠一もその意図を汲み取り、苦笑して歩く速度を上げる。


 チェックを終えてから六分程歩いてから、二人は街の中に入り込んだ。ブリアルタはルシフェルドに劣らない程の活気がある。多くの人が街を行き交い、あちこちでは露店が出ておりそこで勧誘をしている。


「いよ! あんちゃんいい男だねぇ! どうだい? 30000ベルでちょっと付き合わないかい?」


「お前は一体何を言っているんだ!?」


 ……時折、本当によく分からない勧誘が聞こえてくるが。そんな訳の分からない勧誘を記憶から抹消し、何も聞かなかったことにした。


 街に入ってから最初に取った行動は、まず組合に行くことだ。倒したモンスターから剥ぎ取った討伐部位は、クエストを受けていない場合組合で換金所にてお金に換金される。


 早速街の人に聞いて組合に行き、そこで討伐部位の換金を行う。四日間でそれなりの数のモンスターを倒しているので、結構いい値段で売れた。後で知ったことだが、エキセントリックエイプの毛皮は実は高級品の一種だったらしい。それでも回収するつもりは、一切湧かないが。


 続いては宿屋探しだ。街を一通り回って時間を潰すのはいいが、先に宿屋を確保しておかなければ、空き部屋が無いということが起きるかもしれないからだ。そうなれば組合にある仮眠室を借りれば、恐らく何とかなるだろうが。


 適当に街を歩き回っていると、すぐに宿屋を見つけた。ルシフェルドにあった宿屋よりも立派で、五階まである。木造で外は黒に塗られており、どことなく高級感に溢れている。


 扉を開けて中に入ってみると、そこは上等なホテルのように広く、派手な内装で飾られている。所々に冒険者の姿が確認出来、全員が上質なローブや鎧を身に着けているので、中堅から上級冒険者であることが伺える。


 若干の場違い感を覚えながらも、受付の所に行く。一先ず一週間泊まることにし、それよりも長く滞在するのであれば追加料金を払うということになった。その料金に目が飛び出そうになったが、手持ちのお金には全然余裕があった。


 受付の人から鍵を受け取り、その鍵に掛かれている番号にある部屋に行く。もちろん、違う部屋だ。シルヴィアの部屋は、悠一の部屋の左側である。


 鍵を開けて中に入ると、そこも高級感に溢れていた。見るからに上質なカーペットが敷かれており、大きなソファ―とベッドがある。試しに触れてみると、物凄くふかふかである。これで眠ったら、間違いなく快眠だろう。それはソファーも同じで、とてもリラックス出来る。


 これだけの上質なのが揃っている部屋に一週間も泊まるなど、前世では考えられなかった。いや、異世界に来てからも考えていなかった。冒険者は最初こそ大変だが、続けていると莫大な資産が手に入る。


 今回このような宿に泊まれたのは、ルシフェルドで一週間クエストをこなしまくった上に特別報酬を貰い、バルヒルドの村で盗賊を壊滅させて攫われた少女たちを助け出しお礼として受け取った報酬と、ルシフェルドから出てこの街に着くまでの四日間の間に倒したモンスターの討伐部位を一斉売却したからである。


 またしても場違い感を覚え、腰を掛けていたソファーから腰を上げて部屋から出る。すると丁度シルヴィアも、部屋から出て来た。ただし、服装は白のローブに青のスカートではなく、白のシャツに青のミニスカートである。黒のニーソックスはそのままだ。


「着替えたのか」


「はい。今日はクエストを受ける訳ではありませんし、一日くらい羽目を外してもいいかと」


 確かにそうだ。なので悠一も私服に着替えようかと考えたが、そういった服を一切持ち合わせていないことを思い出した。今までは朝から晩までクエスト漬けだったし、着替えると言っても適当に見繕った寝間着だ。


 しかも最初の一日だけ村に泊まったが、それ以外は冒険の真っ最中で野宿だった。なので悠一は、この街で何か私服でも買おうかと考えた。ちなみにシルヴィアも新しい服が欲しいらしく、街を見回るついでに服屋に寄ると言ったら快く賛成した。

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