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1章ー4:ありえるはずのない既視感

 とりあえず──今度の今度こそなんとか窮地は脱したようだ。


 ようやくそう確信するや否や、いきなり膝からガクンと力が抜けて腰が抜けてしまいそうになる。

 

 かろうじて、刀の切っ先を地面に突き刺して杖として身体を支えきるも、膝がおかしくなったかのようにガクガクとわらってしまう。


 いまさらのように震えが全身へと伝わっていって、脂汗と冷や汗とが、同時にぶわっと吹き出した。


 いや、これはさすがにマジで無理ゲーすぎだろ!?

 安全装置なしの絶叫マシンとかシャレにもならない。


 そりゃ、今までだって何度もバトルで危険な目には遭ってきたけれど、さすがにここまでのピンチはなかったし。

 

 ボスクラスのドラゴンにソロで挑んで、空中高くまでものっそい勢いで持ち上げられたり、地面に叩きつけられそうになったりとか……。


 そのときの感覚を生々しく思い出しただけで胃の中身が逆流してきて、慌てて口元を抑える。


 コレは──本当の本当に「ゲーム」なんだよな?


 例え、死んだとしても、それはあくまでもゲームの中での死であって本当に死ぬわけじゃない。ただ単に、永久にログインできなくなるだけのこと。


 そう頭では分かってはいるのに、果たしてそれは本当なのだろうか? という不安を拭いさることができない。


 VRってリアルな体験がウリだけど……さすがにこれはちょっとリアルすぎやしないか?

 まるで本物の「死」を目の前につきつけられたかのような──


「…………」


 どこか薄気味悪い思いが身体の奥へとこびりつく。


 まるでいつか正夢になる悪い夢を見たようなそんな奇妙な感覚を振り払おうと頭を左右に振る。


 何が、「万が一とか不利益とか、別にどうってことはないか」だ。ログインするときに頭をよぎった考えを思い出して苦笑する。全然どうってことあるじゃないか……。


「もう……本当に大丈夫ですから、安心してください」


 剣の柄を掴んだまま震えている俺の手を柔らかい手がそっと包み込んできた。


「…………」


 顔をあげると、銀髪の少女がすぐ傍で俺をじっと見つめてしっかりと頷いてみせる。

 ものすごく懐かしい思いに駆られて、思わず彼女に見入ってしまう。


 さっきのバイオリンの音色といい、この既視感デジャヴといい──偶然とはとても思えない。


 なんだかものすごく懐かしい気がする。初対面なはずなのに初めてじゃないような気がしてならない。


 そんな風に思う自分に気が付いて苦笑した。


 まだ(・・)引きずっていたのかと──もうとっくに吹っ切れたつもりだったのに。


 さすがにない、か。

 ただ単に偶然と思いたくないだけだろう。


 リアルの知り合いとゲーム内で再会とかまずありえない。

 そもそも東雲しののめは、ゲームなんて全く興味なかったはずだし──今頃、音大生活を満喫しているはずだし……。


 そう思うだけで地味にへこんでしまう自分が面倒くさい。


 やっぱり、他人の空似に決まっている。


 っていうか、そもそもアバターってものは美男美女がデフォルトで、少数派としてイロモノ──わりとギリギリな感じの猟奇的なミッ〇ーだのくまモ〇だのに似せたヤツとかであって、リアルと混同するほうがそもそも間違っているっていう……。


「リュウキ、何有名人にデレデレしてるわよっ!?」

「うおおお、マジで『エタウィン』の『白銀の魔奏士』様とかっ! すげええぇ!」

「リーダー、ダイジョブッ? 返事がナイ! ただのシカバネのヨーだ!」

「……勝手に殺すな」


 いつもの調子をすっかり取り戻した奴らが、わらわらと回復POTポーションをガブのみしながら駆けてきて、ようやくざわついていた心が落ち着きを取り戻した。


 って、有名人? エタウィンって……エターナルウィンドか。アデオンを半年も制圧している大規模ギルド。白銀の魔奏士って……マジかっ!?


「……えええええっ!?」


 驚きのあまり、素っ頓狂な声をあげてもう一度彼女をまじまじと見る。

 すると、彼女は少し困ったような顔をして視線を宙にさまよわせ、頬を赤く染めた。


 確かに……いたるところに黄金の翼を模したモールド飾りをあしらった純白のローブにブーツ、グローブは……現在実装されている最高クラスの防具、アンジェローブセット。手にしている長く細い杖も同シリーズのスタッフ間違いない。しかも、これまたレアな深紫色と深紅の魔宝石を涙型にカットして埋め込んである。


 スカイドラゴよりも上位ボスを倒さなくては得られない希少な石とか……噂には聞いていたけど初めて目にする。


 つか、そもそもSクラスの武器防具セットってだけでもめちゃくちゃレアで……いったいいくらするんだっていう……たぶん俺のBクラスの装備とは桁1つか2つ違うはず。


「あの、その呼び方は……やめてください。恥ずかしすぎて死ねますから……誰かが勝手に言い出しただけで……広まってしまって……うぅ……きちんと名前で呼んでください。アリアと言います……」


 アリアが困り果てたように頭を振ると、ポニーテールもその動きに合わせて揺れる。


 なるほど、アリアって言うのか……やっぱり人違いか。

 って、俺みたいにキャラ名を本名にするなんてそうそういないだろ……って内心ツッコミをいれながらも、やっぱり肩透かしをくらった感は否めない。


 しかし、否定しないってことは……本物(ガチ)か……。

 白銀の魔奏士って、確か超凄腕のヒーラーだったはず。


 大型ギルド全員のHPを一気に回復する魔法を習得しているゲーム内唯一のプレイヤーだとか……どこまで本当かは知らないが、どちらかといえばそういった噂に疎いほうの俺でも知ってるとか……めちゃくちゃ有名人じゃないか。


 確かに、彼女の頭上には、ギルド『エターナルウイング』の2枚の翼がクロスしたデザインの紋章マークが燦然と輝いている。


 とんでもない有名人にピンチを助けてもらうとか。あまつさえ、お姫様抱っこさまでされるとか……きっと喜ぶべきことなんだろうが……さっきのデジャヴのこともあってか、ものすごく複雑だ。


 まあ、とりあえず──それはさておき助けてもらった礼だけはきちんと言っておかないと、と気を取り直して頭を下げる。

 

「……いや、本当に危ないところを助けてもらって……ありがとうございました」

「いえ、間に合って本当によかったです。ギリギリ、でしたね」

「……デスヨネ」


 第三者から改めてそう言われると、やっぱりそうだったんだ……という実感がわいて顔がひきつる。


 そもそもの原因となった奴らを半目で睨みつけるも、全員やっぱり悪びれない様子で「よかったよかった!」ってしたり顔で頷いていたりして……。


 もう……こんな無茶ぶりに応じるとか二度はないからなっ!


 そう自分の胸にもう何度目かしれない誓いを立てる。


 と、そのときだった。


「あ、すみません。そろそろ時間切れです。ログアウトしないと……」

「ああ、それじゃ、この礼はまた改めて──」

「お礼なんていりません。ただ……こうして……えただけで……」


 なんだろう?

 途中、声が詰まってよく聞こえなかった。


 なんて言ったのか尋ねようと口を開くも、それよりも早くアリアは震える声で独り言のように呟いた。

 

「……やっと……見つけた……」

「っ!?」


 思いもよらない言葉に、心臓が跳ね上がる。


 見つけたって……どういう意味だ?

 まさか俺のことか?

 

 いやいや、さすがに自意識過剰すぎだ。

 こんな有名人に探されるような覚えはまるでない。


 たった一つの可能性を除いて。

 

「…………」


 黙ったまま目で問いかける。


 もしかして東雲なのか?と。


 でも、アリアはそれ以上何も言おうとはしなかった。

 ただ寂しそうな微笑みを浮かべたまま、その姿が半透明になっていく。


 仮にそうだとしても、なんでそんなにつらそうなんだ?

 誰かと勘違いしているだけとか……?


 俺はアリアが消えていった場所を見据えて、ただ茫然と立ち尽くすほかなかった。


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