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1章ー3:ピンチを救うはずが逆に救われた件


「っ!?」


 気が付けば、背中に光の翼が生え、身体が宙に浮かんでいた。

 背後を見ればすぐそこに黒くひび割れた地面が迫っていた。


 あとコンマ1秒でも遅かったら……

 脳裏にぐしゃぐしゃに潰れたトマトがよぎって身震いする。


     グォオオオオオオオオォオオオオ──


 さっきの光をまともに受けて目が眩んだと思しきスカイドラゴは、苦悶の唸り声をあげながらきつくとじた目を両手で覆って暴れくるう。その巨大な翼をもばたつかせながら。


「──っちょ!? 待っ……やめっ、うおぉおっ!? おわっ!?」


 当然、宙に浮かんでいた俺の身体も、スカイドラゴの翼の風圧を受けて地面の上をぶざまに転げていく。


「……くっ……そ……」


 なんとか体勢を整え直すと、クラウチングスタートよろしく身を屈めて暴れるスカイドラゴの頭部を見据え、後ろの足で地面を思いっきり蹴ってみる。


 すると、一気に身体が斜め上空へと弾丸のようにすっ飛んでいった。


「──のぉおおおおおおおおおおおおぉおおおっ!?」


 まったく予期していなかった凄まじすぎるスピードに情けない声をあげながら、俺はなんとスカイドラゴの鼻っ面に突進してしまう。


 あぁあ……これは死ぬ、マジで死ねるヤツ。


 今ので一気にHPが1/4、MPが1/3も削られて、心まで折れそうになる。

 ただでさえ絶叫マシンとか苦手だっていうのに……こんなのマジで無理ゲーすぎる。


「リーダー、すぐソコ弱点っ! 狙ってケーっ! バチコーイ!」


 サンギータから飛んできた檄に、おそらく半分以上は軽く抜け出していた魂が戻ってきて我に返った。


「──っ!?」


 見れば、すぐそこにスカイドラゴの額に輝く魔宝石があった。

 あれさえ壊してしまえば──


 一切の音が遠のいていき、燃え盛る炎を閉じ込めたような魔宝石だけしか見えなくなる。


 怒りくるったスカイドラゴは、羽虫のような俺の身体を掴みにかかる。

 だが、その動きはまるでスローモーションのようで──


 俺は巨大な鋭い爪と爪の間を間一髪くぐり抜けると、直刀を逆手に持ちかえた。


 そのままもう一度身を屈めて、ドラゴの鼻面を蹴る。

 さっきの教訓を生かして、今度は力を加減して。

 

 ふわりと宙に浮く感覚と共に、巨大な魔宝石が眼前に迫ってくる。

 チャンスは一瞬だけ! これを逃せばたぶんおそらく確実に死ぬ!


「うぉおおおおおおおおおおおおっ!」


 両手で振りかぶった直刀を、怒号もろとも渾身の力を込めて振り下ろした。


 確かな手ごたえと共に、刀は魔宝石の中心に深々と突き刺さる。


 刀を中心に亀裂がはしり、それは石全体へと広がっていき──ついに乾いた音をたてて粉々に砕け散った。


     グォアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!


 スカイドラゴが空を仰ぐと、その断末魔の叫びが夜空へと轟いた。

 同時に巨体がぐらりと傾ぎ、当然俺の身体もその反動で宙へと再び投げ出されるが、浮遊魔法がかかっている今度はもう慌てる必要もない。


 とりあえず……これでなんとかなった……はず。


 張り詰め切っていた緊張の糸が途切れて脱力した俺の身体は、ゆっくりと地面に向かって高度を下げていく。


 スカイドラゴの巨躯が地に沈むと同時に、粉々に砕け散って空気へと幻のように掻き消えていく様子を眺めながら、俺は深々とため息をついた。

 

 だが、その次の瞬間──不意に浮遊感が消え去り、ガクンッと身体が沈んだ。


「っ!?」


 まさ、か──魔法が切れ──っ!?

 

「うぉああああぁあああああああああああああああああああーっ!!!!」


 絶叫と共に、俺の身体は重力に従って情け容赦なく落下していく。

 

 胃が浮いて吐き気と共に口から飛び出してくるかのような感覚に絶望しながら、迫りくる死から全力で逃げ出そうと意識が遠のいていく。


「リュウキッ!」

「ダメぇっ!」

「いやぁああああああああああああぁああっ!」


 奴らのらしくもない悲鳴まじりの声が耳に届いて、ああ、今度こそやっぱり死ぬわ──と他人事のように思いながら、まあ、全滅するよりはずっとマシか……と、諦めの境地へと意識が追いやられていく。


 できればなるべく痛くないように。苦しくないように。即死であってくれ──

 必死に願う俺の全身を再びあたたかな感覚が包み込む。


「……っ?」


 ややあって、背中や膝裏に柔らかな感触を覚えて、恐るおそる薄く目を開いてみた。

 思ったより全然痛くなかった気がするけど、さすがに死んだんだよ……な? と、疑心暗鬼な思いに顔をしかめながら。


「……大丈夫ですか?」


 透き通った声をかけられ、心臓が強く脈打つ。


 見れば、艶やかな光沢を放つ銀色の長い髪を高い位置でポニーテールに結い上げ、白いローブを身にまとった少女が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。


 抜けるような白い肌、黒目がちの大きな目を長いまつ毛が縁取っている。

 どこか寂しそうな微笑みに吸い込まれそうになる。


「……も、もしかして……大丈夫じゃない……とか?」


 不安そうに目を落ち着きなくしばたたかせ始めた彼女に、俺はようやく我に返ると自分の置かれた状況を把握した。


 これ、は……まさかの……お姫様抱っこってヤツかっ!?


 そう、俺は銀髪の少女の腕の中にいた。

 

 浮遊魔法をかけて窮地を救ってくれたのは彼女に違いない。

 のみならず、魔法切れで落下する俺にさらに魔法を重ね掛けした上に抱きとめてくれたとか……。


 どこまでも男前すぎる彼女に地味にへこみながらも、俺は「い、いや、大丈夫です!」と慌てて答えて地面に降り立った。


「なら、良かったです……」


 少女はホッと胸を撫でおろして遠慮がちに微笑みかけてくる。


 ピンチを救いにきたはずが、逆に救われた挙句のお姫様抱っこ……とか。

 なんだろうこのやりきれなさと敗北感は……。


 俺は肩を落とすと力なくうなだれた。


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