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4章ー3:浸食の兆し1

 と、そのときだった。


 チャット画面に通知が割り込んできた。

 妹の麻昼からのメッセージだった。


『お兄! なんかカワイイの見っけた! ウチで飼うから後の面倒よろしく!』


「……なんだそれ」


 相変わらず一方的な押し付けメールにゲンナリする。


 カワイイのって、子猫か子犬か?

 麻昼の「カワイイ」はアテにならない。


 昔っからどっからどう見てもキモいだけのキャラにドハマりしては、共感を強要してくるからたまったものじゃない。


 っていうか、今はそれどころじゃない。


 そう返そうと思って、メッセージを開くと写真贈られてきた。


 それを見た瞬間、血の気が引く。


「──っ!? 嘘……だろ? なんで……ウミスラがっ!?」


 写真にはドギツイ蛍光ピンク色のぷるぷるした生物が写っていた。


 マギアムジカ・オフラインでは、おなじみのモンスター。ウミウシスライム通称ウミスラ。


 大きさは体長1メートル程度の球体をしたスライムで、ツノが三本頭から突き出ている。身体の模様が目と口に見える。


 見ようによっては確かにカワイイのかもしれない。ウミウシって実際に女性には人気あるって話も聞くし。


 だが、このウミスラは、そんな見た目とは裏腹に、獰猛かつ猛毒を持つ恐ろしいモンスターで……スライムだから弱いだろうっていうRPGの常識を覆す鬼の強さに、何人のプレイヤーが命を落とし強制ログアウトをくらったかしれない。


 どのゲームにも初心者の頃、トラウマを植え付けてくる最初の強敵っていうのがいるもんだが、ウミスラはまさにその立ち位置にある。


 って、だから──なんでウミスラがリアルにいるんだっ!?


 重度の廃人になると、リアルの何もかもがゲーム内のあれこれに見えてくるって話はよく聞くが……もしかして俺も相当ヤバくなっていたりして!?


 何度もスマホの画面をガン見するも、どっからどう見てもウミスラにしか見えない。


 写真からすれば、ウミウシ公園にあるウミウシを模した滑り台のてっぺんにいるっぽいけど──


 マギアムジカ・オフラインのプレイヤーがつくった精巧なフィギュアとか?


 大丈夫……だよな?

 でも、本当の本当に?


 嫌な予感がして、念のため電話をかけてみる。


「俺だけど、さっきの写真、どうしたっ!?」

『あー、お兄ぃ、プルルンのエサ、何がいいか分かった?』


 プルルンって……もう名前つけてるし。マジで飼う気マンマンだしっ!?


「……いや、さっきの写真のヤツどこで見つけたっ!?」

『ん? ウミウシ公園だけど? 通りかかったら、子供たちがキャーキャー騒いでたから。今も騒いでるけど』


 確かに「カワイイ♪」とか、はしゃぐ子供たちの声が聞こえてくる。


「フィギュアか?」

「ナニそれキモい。プルルンはナマモノだし! 超プルプルしててカワイーし」

「──っ!?」


 ってことは、まさか生きている……ってことか!?


 一瞬、頭の中が真っ白になる。


 どういう……ことだ?

 なんでウミスラがリアルに!?

 しかも、公園で──子供たちに囲まれてるとか!?


「……そんなの、ありえないだろ」


 呻くように呟く。


『は? ありえないとか言われても? 全然ありえてるし?』


 毒づく麻昼の声も遠のいていって、心臓がたてる嫌な鼓動の音だけが耳に響く。

 コレって……もしかしてとんでもなくヤバい状況じゃないのかっ!?


 ゲームのモンスターがリアルに出現するとか──自分の頭がどうかなったとしか思えない。


 だが、マギアムジカ・オフラインにハマりまくっていた俺はともかく、麻昼はゲームもしないし……だからこそウミスラをペットにしようなんてとんでもない発想にもなるんだろうし……。


 俺を驚かせようとして写真を合成したとかいう可能性も状況的に考えづらい。


 本当にアレがウミスラだったら?

 ゲームなら強制ログアウトで済むが、リアルじゃそうはいかない。


「フツーに……死ねるだろ……」


 そう独りごちるや否や、血の気が引く。

 俺はスマホを握りしめて叫んでいた。


「麻昼、そいつ絶対触るなよ! 絶対だぞ!」

『ヤダ、何それフリ?』

「断じてフリなんかじゃない! ガチで触るなっ! いいな?」

『……ちょっ……何そんな必死になってるワケ!? キモいし』

「キモくてもなんでもいいからとにかく触るなっ! あとその辺の子供たちにも触らせるな! できればすぐに離れるように伝えてくれ!」


 通話を切ると、サンギータに連絡をいれる。


●リュウキ「悪い! ちょっとなんかウミスラが出たとかワケ分かんない連絡が来て、ちょっと確かめてくる!」

●サンギータ「ええっ!? サンギータも行くっ! ドコドコドコ!?」

●リュウキ「いや、ちょっと説明してる余裕ない。後でな」

●サンギータ「エエエエエっ!?」


 サイドテーブルに置いていたマスクをつけると、部屋着のまま部屋の外へと飛び出した。


                ※ ※ ※


 カーテンを閉めていたため、家の中にいたときには気が付かなかったが、もうすでに日は高くなっていて目に眩しいくらいの青空が広がっている。

 ちょうど昼前くらいだろうか? 結構人通りも多く、それも相まって焦りに拍車がかかる。

 ってか、平日なのに家族連れとかも多いって──そうか、もう夏休みに入ってるのか。


 昼夜逆転のブラック企業勤めだとホントに世間一般の時間の流れに疎くなる。


 軽く死にたい思いに駆られながらも、灼熱のアスファルトをウミウシ公園に向けてひた走っていく。


 どうか思い過ごしであってほしい!

 っていうか、そうじゃないと困る。


 あんな危険なモンスターがリアルの公園をうろついているとか……たまったもんじゃない。


 インフルの身に鞭打って全速力で路地を駆け抜けていく。


 その間も、たぶんサンギータからのものだろうメッセージが次々と届いているのがハーフパンツのポケットからの振動で伝わってくるも、それを確認している余裕はない。


 こんなに全速力で走るとか、それこそいつぶりだろう?

 しかも炎天下でとか──

 ゲーム内で走りまわるのとじゃ比較にならないくらいキツい。


 すぐさま息があがってしまい、足が変につりそうになるも、ようやくの思いでウミウシ公園までたどり着いた。


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