4章ー2:本サービスへの招待状
慌ててスマホをチェックする。
果たして、届いていたのは──チャットではなくメールだった。
期待を裏切られて地味にへこみつつ、なんとはなしに開いてみる。
どうせただの迷惑メールに違いない。
だが、ふとその件名に目が吸い寄せられる。
●件名:本サービスへのご招待状
「──っ!」
息が詰まり、目を疑う。
本サービスって!?
マギアムジカ・オフラインの?
でも、あれだけ期待して期待して期待した挙句に裏切られたせいか、素直に喜ぶことができない。
むしろ、疑心暗鬼になってしまう。
それでも、メールの本文を確認していく。
●マギアムジカ・オフラインのβテストにご参加いただきありがとうございます。
本メールは期間内にレベルの上限60レベルを達成された方、及び分野別ランカーの方にのみお送りしています特別な招待状です。
>本サービスへの参加を申し込む<
「なんだ……これ……」
プレイヤー全員じゃなくて、レベルMAX60のプレイヤーとランカーだけに本サービスの案内が届くなんて……一体どういうことなんだ!?
薄ら寒い気持ち悪さが背筋を這い上がる。
運営の狙いは一体……?
プレイヤーを選別して一部だけ本サービスに移動させる……そんなことをして一体何の得になるっていうんだ?
利益を多くあげるには、当然プレイヤーは多ければ多いほどいい。
中毒者が多ければ多いほどいいというのが、ごく一般的なゲーム会社の考えだ。
その利益を敢えて狭める理由なんて、まったくといっていいほど思いつかない。
っていうか、アリアに手伝ってもらって最後の追い込みでなんとかぎりぎりレベル60になれたからいいものの、あれがなければこの招待メールは届かなかったことか!?
「……なんだよ……それっ……」
得体のしれない憤りに胸がぐちゃぐちゃに掻き乱される。
もしかしたら、アリアが俺のレベリングのためにあんな無茶狩りをしたのは……このせいだった……とか?
「や……さすがにそれはないか……」
ただ単にキリ良く60まであげてしまおうって思ってくれただけのこと。
俺以外のメンバーは60まで上げてて、いつもフォロー側に回っていた俺だけ59のままだったからってだけのこと。
マズいな。アリアまで疑うとか……相当参っているようだ。
それにしても、完全平等の世界が聞いてあきれる。
プレイヤーを差別するとか──
そこまで考えて、いや待てよ──と思い直す。
レベル60まで必死に頑張ったプレイヤーとサボっていたプレイヤーを一緒くたにすることこそ不平等じゃないか?
だとすれば、これはある意味「平等」なのか?
でも、そんなことをして一体運営になんの利点があるっていうんだ?
「……ワケ分かんねーし」
こういうときにサンギータあたりがいてくれたら──と思う。
ああ見えて、異様なまでに頭がキレるタイプだし。
そこでようやくみんなとまた会えるんだってことに気が付いて、違和感だとか気持ち悪さとか憤りとかがどうでもよくなった。
また、みんなと会える。
あいつらのことだから、本サービスに参加しないなんて選択肢はありえない。
はやる思いで、メール本文の>本サービスに参加する<という文字をタップした。
すると、細かい規約が細かい文字でびっしりと連ねられているホームページへと飛んだ。
適当に呼び飛ばして、画面を下へとスクロールしていく。
だが、文末に物騒な文面が待ち構えていて──一瞬固まった。
□マギアムジカ・オフラインの本サービスへの参加は、βサービスを大きく上回る危険を伴うことを承知の上、いかなる不利益を被ったとしても自己責任で対処し、運営側は一切の責任を負わないことに同意します。
「……βサービス以上の危険?」
単純に難易度が上がるってことだろうか?
それにしても、「いかなる不利益」だとか「自己責任で対処」とか……やたら煽ってくる文章だ。
マギアムジカ・オフラインの得体のしれない気持ち悪さがよりいっそう色濃くなっているような気がして……一瞬、ボックスにチェックをいれることをためらう。
だが、不参加という選択肢は最初からありえない。
違和感を振り切って、文頭のボックスにチェックをいれた。
☑マギアムジカ・オフラインの本サービスへの参加は、βサービスを大きく上回る危険を伴うことを承知の上、いかなる不利益を被ったとしても自己責任で対処し、運営側は一切の責任を負わないことに同意します。
その下にある署名欄にタッチペンでサインしてから、さらに>リスクを理解した上で本サービスへの参加を希望する<と書かれたボタンをタップした。
すると、参加登録完了の文面が表示される。
●本サービスのお申込みを承りました。引き続きマギアムジカ・オフラインの世界をお楽しみください。
この手の同意書にありがちな型どおりの文章に胸を撫で下ろす。
と、その次の瞬間、スマホが振動してメッセージが届いた。
見れば──それは、さっきは起動できなかったゲーム専用のチャットアプリからの通知だった。
思わず二度見してしまう。
●サンギータ「みんなー! 本サービスキターッ! サンギータの予想大当たりヨ!」
子供のようにはしゃいでいるサンギータの姿が簡単に想像できて笑いを誘われる。
どうやら、本サービスへの参加に同意すると同時に、ゲームのチャットアプリも再び使えるようになったようだ。
●リュウキ「ああ、すごい読みだったな」
●サンギータ「っ!? リーダーだっ! わーいわーい、でしょデショ? そこはかとなくほめてあげてイイ!」
●リュウキ「はいはい、えらいえらい」
●サンギータ「えへへ、それほどデスー♪」
●リュウキ「そこは『それほどでもー』だろ!? ちょっとは謙虚にだな……」
●サンギータ「何ソレー? おいしー?」
●リュウキ「…………」
いつもとまったく変わらないサンギータとのチャットに脱力する。
●サンギータ「他のみんなもスグさま飛び跳ねてクルよネ! たのしみー」
●リュウキ「つか、こっちじゃなくて、直接ゲームにログインしてるんじゃないか?」
●サンギータ「ううん、ゲームはなんでか起動できないんダヨー?」
●リュウキ「えええ? マジか?」
●サンギータ「うんうん、なんでだろネー? 一応ウチの子たちに調べさせてはいるけど……アップデートされたって感じもなしダシ、イミフだよネー?」
●リュウキ「……ちょっと俺も試してみるな」
ゲームのチャットアプリだけつながって、肝心のゲームがつながらないとか……。
そんなことってありえないだろう?
ウェアラブルモニターを装着して、いつものようにゲームを起動してみる。
通常、新しいアップデートがあった場合はタイトル画面の下にダウンロードバーが表示され、ダウンロードが完了すると同時にいつもどおりゲームにログインできる。
だが、サンギータの言うように、ゲームアプリを起動してもエラーが出て途中で切断されてしまう。
●リュウキ「本当だ……つながらない……」
●サンギータ「リーダーも? まだメンテがトロットロに終わってないのカナ?」
●リュウキ「……だな」
メンテナンス中なら確かにゲームはつながらない。
でも、それならそうとプレイヤーにはメンテ時間を通知するのが普通だし……一体どうなっているんだ?
なんだかβテストよりもさらに気持ち悪さに拍車がかかっているような気がしてならない。
気のせいで済めばいいが──




