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3章ー8:宴と希望と疑い

 俺が目の前に差し出されたガントレットを凝視してその場に固まっていると、ヒロのツッコミが入った。

 

「って、なんだよ! 反応薄すぎだろー? もちっと喜べ!」

「……お、お、おおー」

「っていうか、逆に驚きすぎわよ?」

「いや、だって、いつもがいつもだし……こんなの……驚くなってほうが無理があるだろ?」

「いつもがいつもって? どういう意味ですわよっ?」

「…………」


 まさか……自覚がない……だと!?

 ハルルの発言に耳を疑う。

 いろんな意味で狼狽える俺にアリアがネタばらしをしてくれた。


「いつもリュウキさんにはお世話になってきたからって、何かお返しをしたいなって皆さん仰っててひそかに準備していたんですよ」

「材料集めトカ、金策用狩りとかもしてお金貯めたんだヨー! あとサンギータ無慈悲なまでに値切りまくったから! 褒めてあげてイイ!」

「…………」


 まさかのまさかすぎるサプライズに……不覚にも言葉に詰まって視界が滲む。


 いや……アリアは分かるが……その他のおまえら誰だよっ!

 恩返しなんて言葉を知っているとは思えないくらいに、今までやりたい放題に無茶ぶりばかりしてきやがってたくせに。


 こんなときだけそんなマトモなこと言い出すのとか、反則だろう。


「おっ! 感動しすぎて泣いちゃう!? 泣いちゃう!?」

「泣かねーし!」

「泣かせてみせヨーホトトギス!」

「すんな!」


 ヒロとサンギータに茶化されながらガントレットを受け取った。


 ずっしりと重い。

 雲竜の浮彫もさることながら、深紅の魔宝石と青みがかったドラゴのウロコとのコントラストにやっぱりいいなと見入ってしまう。


「……ありがとな」

「イエイエ、どーいたマシテッ!」

「ま、最後くらいはパーッとなっ! とは言ってもたぶんさ、いったんこのままサービス終了に見せかけてプレイヤーたちの不安を煽りまくってからの~~~ぎりぎりサプライズ&本サービスへの移行大発表! とかじゃね? さすがに」

「ソレ、全部サンギータの予想! パクりよくない!」

「ザッツインスパイア!」


 サンギータがヒロの首をしめあげるのを横目に、俺は内心ホッとしていた。

 そう……だよな。たぶんヒロの言うとおりだと思う。

 でないと、なんのためのβテストだって話だし……。


「それに、続くと信じていなくちゃ、今頃みんなMGCをリアルマネーに換金しまくりじゃナイ? あ、サンギータはちょこっとだけ換金しちゃったケド! 少しだけ価値上がってたシ! でも、あの程度ならワケのわからないゴミコインダメモトで買ったほうがよっぽどいいくらいダシー?」

「ふむ──」


 リアルマネーとの換金のことは正直あまり考えていなかったし、相場とかにも疎いほうだけど、確かにサンギータの説は筋が通っているなと思う。


 ゲーム内のコインを保有したままのプレイヤーがほとんどということは、みんな本サービスへの移行を信じているからだろう。


 自分一人じゃない。

 みんなが、この世界がまだまだ続くことを信じているんだってことに勇気づけられる。


 だが、それでも……いまだに不安を完全に拭いされないのはなぜなんだ?

 「マギアムジカ・オフライン」が、得体のしれないゲームだという思いが影を落としているせいか……それとも?


「……まあ、でも、一応念のためだな。連絡先とかでも……交換しとくか?」


 勇気を振り絞って……ごにょごにょと口ごもるように話を切り出してみる。

 断られたらどうしようって内心ビビりながら。


 すると、サンギータが勢いよく手をあげて快諾した。


「もちろんっ! サンギータのメアドはね~……***@*******!」

「って! 伏せられてるしっ! つーか、そういう個人情報を一般チャットで晒すな。どこで誰が聞いているか分かったもんじゃないんだからな? とりあえずこっちの連絡先だけ後で知らせておくから……後は任せた!」


 普通は周囲に聞かれたら困るようなチャットはPTを組んでするとか、個人チャットでするもんだが、サンギータはお構いなしに発言するので心臓に悪い。


「ザッツオープンハート!」

「サンギータはオープンすぎわよっ!」

「日本人がオクビョーすぎヨ!」

「やっぱりサンギータ外国人か! そうじゃないかとはうすうす思ってたけど」

「うすうすかよっ! こんな日本人、嫌すぎだろ!」


 いつもの気の置けない軽口の応酬とエール酒とリアルのビールの酔いが回ってきたせいか、ツッコミのキレも冴えてきたしだいぶ調子が戻ってきたような気がする。


「っていうか、さっさと装備してみるわよ!」

「お、おう……」


 ハルルに急かされて、さっそく手甲をつけてみる。


「おぉおっ!」


 ひんやりとした感覚の後、手甲が腕や手に吸い付くようになじんで驚く。


 さすが値段が張るだけある。これが匠の技ってヤツか……。

 リアルで例えるならば、超高級時計って感じか?

 縁がない代物なんで完璧に想像でしかないけど。

 

「素敵です! 鎧ともよく合ってますし。最初からセット装備みたいです」


 アリアに褒められて、内心少し──いや、かなり浮足立ってしまう。

 いや、褒めているのは鎧であって俺じゃないし……。


「まあ、確かに三倍はかっこよくなったわよっ!」

「……そんなにもか」


 担がれるやら落とされるやら……まったくせわしない……。


 それにしても……こういう風にプレゼントをもらうとか、本当にいつぶりだろうか?


 中学生くらいでなんだかそういうのはこっぱずかしくて自分からなしにしてほしいって母さんに言ったんだっけか。


 妹は相変わらずイベントのたびにプレゼントやケーキを兄である俺にまで強要してきているけど……ねだるほうもねだるほうだし、渡すほうも渡すほうだ。


「──とりあえず、ガンガン飲むかっ!」

「おお、イケイケー! リュウキのいいとっこ見ってみたいっ!」


 空になったジョッキに、ヒロが再びなみなみとエール酒を注ぎ直してくれた。

 それをまたも一気に飲み干す。


「うまいっ! もう一杯っ!」

「おぉおおおっ! いい飲みっぷりっ!」

「ハイ、オワカリ喜んデー!」


 今度はサンギータが俺のジョッキにエール酒をなみなみと注いでくる。

 それもやはり勢いで一気に飲み干した。


 リアルでも同じように立て続けに缶ビールを3本も空けた。


 こんなに早くに3本も空けるのとか自己最多記録だ。


 いつも以上に酔いが回るのが早いような気がする。

 全身は焼けるように熱いし頭もぐらつく。


 ヤバいとは思う一方でありがたいとも思う。


 「マギアムジカ・オフライン」は終わらない。きっと続くだろうとみんなが楽観的でいるのに救われたような気はするものの、イマイチ心のどこかでそれを信じ切れない自分もいて……。


 やっぱり飲まずにはいられなかった。


 って、酔いつぶれる前にやるべきことだけはやっておかねば。


 俺はグループチャットのチャットウィンドウを開くと、自分のメアドを貼り付けた。


 ただし、さすがにすぐに送ることは躊躇われて、とりあえずエンターボタンをタップするだけで送れるようにしておいた。


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