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3章ー7:最後の打ち上げ

「おかーッ! リーダー!」

「リュウキ、遅いですわよっ! 待ちくたびれましたわよっ!」

「やー、リュウキ! お先におビールだけ、いただいちゃってまーっす!」

「私は無慈悲といえるくらいオールいただいてアゲちゃってマース!」


 「アジト」に戻るや否や、いつもの賑やかな面々に出迎えられた。


 すでにテーブルの上には、俺が事前に用意しておいたエール酒やワインやらナッツやらがずらりと並べられていて、空き瓶もいくつか転がっている。


 どうやら一足先に打ち上げを始めていたらしい。


 まあ、約束の時間を30分も遅れてしまったわけで、先に初めてくれていたほうがよかったけれど……酒だのつまみだの……毎回隠し場所を変更しているのにどうしてバレるんだ!?


 犯人は十中八九サンギータだが……恐るべし嗅覚? もはや動物レベルだ。


 サンギータは、自己申告どおりガチで無慈悲なまでにレアなルールー鳥の干し肉を鷲掴みでむさぼり食っている。


 市場で見つけて、いつか食べようと楽しみにとっておいた+隠しておいたのに……ほとんど残ってないし。


 リアルで耐性ができているとはいえ地味にへこむ。


 つか、アレって、俺の部屋にある机の引き出しの裏に隠しておいたのに……プライバシーも何もあったもんじゃない……。


「遅れて悪かった。ちょっと予定が長引いて──」


 敢えて遠まわしな表現にするも、ヒロがぶち壊しにかかる。


「知ってるっ! アリアとデートしてたんだろ!? いつの間にそういう仲に? んんー?」

「っちょ!? ち、違……」

「って、カマかけてみたら、まさかのまさかかっ!?」


 って──カマかよっ!

 ヒロの癖に……こざかしい真似を……。

 よりにもよってこのタイミングは勘弁してくれ……。

 ついさっきなんとか永久ログアウトを留まったばかりだっていうのに。


「なんてな! いや、アリアから『リュウキと一緒にいて少し遅れる』って連絡が入ったときに、さすがの俺でもそれくらい予測はつくって。アリアからの初めて個人チャットにぬか喜びとか、全然してないしな!」


 なんか……スマン。


「エーっ!? デート!? いつの間にっ!? 私とはトロットロのおアソビだったノネ!」


 もうすでにベロンベロンに酔っぱらっているサンギータが絡んでくる。


「トロットロってなんだよ! つーか、遊びも何も……なんも始まってないだろうがっ!」

「エェエエエー? 記憶にゴザらんな~? ヌシもワルよのぉ~? オマエもトロットロにしてヤルかー?」

「……ヒロ、もろもろただれすぎですわよっ!?」


 腕組みをして、俺をうさんくさそうに睨みつけてくるハルルに弁解する。


「だから、違うって。アリアは俺のレベリングを手伝ってくれただけで──つか、そういうネタでいじってくるのやめれ。アリアに悪いだろ!?」


 少し離れたソファに腰かけてバイオリンの手入れをしているアリアをチラッと見やる。

 すると、アリアは顔を綻ばせて首を横に振った。


「いえ別に? 構いませんけど?」

「お、おう……そ、そっか……なら、いいんだけど……」


 視線があちこっち泳いだうえに口ごもってしまう。

 キョドりすぎだし。


「それよりもサンギータさんと何か始まるようなご予定でもあったんですか?」

「──えっ!?」


 アリアが俺を真顔でじーっと見つめて尋ねてきた。

 目を合わせるのも気まずいが、目を逸らすのはもっと気まずい。


「い、いやいや! ないないっ!」

「……本当に?」

「誓ってない!」

「そうですか。なら、よかったです」

「…………」


 なんか……目だけ笑っていないような気がするんだが……気のせいだろうか?


「エー、始めよーよ? むしろ始めてあげよーヨー!」

「うっさい! 酔っ払いは黙れ! つか、サンギータは別に俺以外でもなんでもいいんだろがっ!」

「そんな人を節操ナシみたいに! イヤ、まあ、イケメンもしぶーいオジサマもカワイイ女の子も人外も大好物ですケド!」


 どこにも俺は属していないはず……だよな?

 ちょっとだけ不安になる。


「まーまー、とりあえずヒロも飲もうぜっ! レベルも無事あがったんだろ?」

「ああ、アリアのおかげでなんとかな」

「本当によかったです」


 一歩間違えれば強制ログアウトだったという話は敢えてしないでおく。

 水は差さないほうがいい。


「これでみんな60かー! やったなー!」

「リーダー、60おめーっ!」

「おめでとうですわよっ!」

「ありがとう」


 なんだか、こうやって祝われるのも久しぶりすぎてくすぐったい。


「さあ、リュウキ!」 


 ヒロがジョッキになみなみとエール酒をついで俺のほうへと差し出してきた。


「おーっ!」


 ヒロからジョッキを受け取ると同時に、いったんウェアラブルモニターも外してリアルでも事前に冷やしておいた缶ビールをミニ冷蔵庫から取り出してプルタブを開けてスタンバイする。


 VRで酔った気分も味わえはするが、やっぱり今日はリアルに酔いたい。

 っていうか、むしろ酔わずにやってられるかみたいな気分になっている。


「アリアも飲もノモーっ!」


 サンギータがアリアにもエール酒を手渡した、というよりも押し付けた。

 アリアは少し困ったような顔をして躊躇いがちに受け取る。


「それじゃ、リーダー、改めて乾杯といこうか!」

「せっかくだし、何か挨拶でもするわよ!」

「うんうんっ! 全米を泣かす勢いの感動的スピーチ期待アゲー!」

「っちょ!? そんな無茶ぶりやめろって……挨拶とか堅苦しいし……フツーに乾杯だけでいいだろ?」

「いいから早くするわよっ! 誰の命令と思ってるわよ!」

「……お、おぅ」


 相変わらずな姫キャラ全開のハルルに気圧されて渋々了承する。


 だけど、いきなり挨拶って言われてもなー……。

 さすがにこれは想定外だった。

 何を言ったものか分からず口をつぐむ俺にみんなの無駄に熱い視線が集まる。


「まあ……その……だ……今までみんなお疲れさま……」


 ってか、むしろ疲れたのは俺ばかりなような気がしなくもないが、とりあえずあたりさわりのない労いの言葉から始めてみる。

 いつものように絶対ツッコミが入ると身構えるも、みんな珍しく黙ったまま俺の言葉に耳を傾けているので調子がくるう。


 いつもと同じでいいのに。

 そんなことを思いながら、必死に言葉を探す。


「なんか、あっという間だったような気もするけど、ものすごく濃い毎日だった。こんなに夢中になれたのって正直久々だった」


 ああ、もうなんか……過去形がいちいち心に刺さってくる。

 っていうか、これで終わりじゃないよな?

 終わりにさせたくない。なんとか続けられたら──


 そんな思いを込めて、俺はアリアの言葉を思い出しながら挨拶を締めくくった。


「……その……まあ、いろいろあったけど……今まで本当にお疲れ! で、これからもよろしくなっ! 以上っ! 腐れ縁に乾杯!」


 これで終わりじゃない! 終わってたまるか! という思いを込めてジョッキを掲げる。


「オツカレー! かんぱーい!」

「お疲れ様わよっ! 乾杯!」

「お疲れちゃーん! カンパーイ!」

「……お疲れ様です」


 続いて、みんながジョッキを突き出して乾杯する。


 その晴れ晴れとした笑顔に、なんだか今まで塞いでいたのがバカらしかったような気がして苦笑する。


 あのままログアウトしなくてよかった。

 心の底からそう思う。


 リアルでもビールを一気に飲み干す。


 と、ヒロがニヨニヨ笑いながら何かを後ろ手に持って来た。


「──で! 挨拶&乾杯からの~~~~~~」

「ん?」

「リュウキにみんなからの! サプラーイズプレゼントぉお~!」


 おどけた口調で後ろから取り出して見せたのは──大きな深紅の魔宝石を嵌め込んだ手甲ガントレットだった。


「──っ!?」


 その凝った細工が施されたガントレットには見覚えがあった。

 魔宝石を守るように雲竜がとぐろを巻いているデザインに加えて、全体はホンモノの竜のウロコで覆われている。


 かなり前に防具屋で見かけていいなとは思ったものの値段が予算のゼロが2つ以上違っていて、購入を検討するまでもなく速攻諦めたやつだった。


 それを……プレゼント? サプライズ?

 誰が? みんなって?


 って、まさか……こいつらが?


 理解がまったくといっていいほど追い付かず、頭の中が?で埋め尽くされる。

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