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3章ー6:今までとこれから


「あまり無茶しないでくださいね?」


 すかさず、アリアがふらつく俺の身体を支えてくれた。


「アリアもな?」

「……はい、気を付けます」


 互いになんだか気恥ずかしくなって笑い合う。


「では、先に飛んでください。私もすぐに飛びますから──」


 アリアにテレポートを促されるも、せめてもの意地を張って食い下がる。


「いや、俺は後でいいから。アリアのほうこそ、俺のために無茶させてしまってかなり疲れてるだろうし、先に飛んでくれ」

「…………」


 申し訳なさそうに眉根を寄せるも、少し迷った後、アリアはしぶしぶ頷いた。


「……分かりました。それじゃお言葉に甘えて。あ、でも、くれぐれもここから一歩も動かないようにしてくださいね。ここは一応安全地帯ですけど……敵にきづかれたらおしまいなので」

「お、おぅ……」


 肩越しに後ろを見やるアリアの視線の先を見ると──さっきのだだっ広い広間の中心に例の不気味な石碑が鎮座しているのが見える。


 大丈夫なフリをするが、内心はガクブル状態。

 

 アリアは宙に手を泳がせて手持ちアイテムのインベントリを開くと、テレポートスクロールを使った。


 彼女の周囲が光に包まれて、輪郭が徐々にボヤけていく。


「──っ!?」


 ただのテレポートのエフェクトに過ぎない。


 頭では分かっていても、本当にアリアがこのまま消えてしまうような錯覚を覚える。


 その原因は明らかだった。


 もうじきこの世界は終わってしまう。

 アリアとも会えなくなってしまう。


 半透明になっていくアリアの姿に、咄嗟に手を伸ばそうとして躊躇う。


 伝えたいことを伝える機会は、きっと今しかない。

 これを逃せば、もうたぶん──


 勇気を振り絞って、胸にせりあがってきた言葉をアリアに投げかけた。


「……アリアっ。本当に今までいろいろありがとなっ!」


 って──またか。


 口をついて出てきた言葉は、あまりにもありきたりで平凡なものすぎて、軽く死にたくなる。


 他に言うべき言葉なんていくらでもあるだろうに──


 結局、高校を卒業したときから進歩なしとか……ホントにどうしようもない。

 むしろ、あのときのほうがまだマシな気がする。


 へこむ俺に向かって、アリアは一瞬驚きの表情を浮かべてみせると、顔をくしゃっとして悲しそうに微笑んでから丁寧にお辞儀をした。


 その顔があまりにも悲しそうに見えて、咄嗟に彼女に向かって手を伸ばす。


 だが、手はくうを掴むだけ。


 アリアのテレポートが完了した直後だった。


「…………」


 一人その場に残された俺は、やり場のなくなった手を持て余して立ち尽くす。


 深いため息をつくと、ゆっくりと手を下ろしていった。


 っていうか、何をこんなに落ち込んでいるんだ!?

 落ち込むってことは何かを期待していたってわけであって。


 アリアに何を期待していた? 自分に何を期待していた?

 何も期待していないつもりだったのに。


 次の瞬間、強烈な自己嫌悪に叩きのめされて、今すぐ消えてしまいたくなる。


「……なんか……もういっか……」


 このままログアウトしてしまおうと、半ばヤケ気味になってログアウトのウインドウを開いた。


 この後に控えている打ち上げでアリアとまともに合わせる顔がない。

 まさかこんな最悪のタイミングで自分の気持ちに気付くとか……本当にどうしようもなさすぎる。


 たぶんもう顔を合わせないほうがいい。

 一度気付いてしまったことをなかったことにすることなんてできない。


 楽しかった思い出はきっと楽しいままにしておくほうがいい。

 そう自分に言い聞かせる。


 だが、また繰り返すのか?

 

 そんな思いも拭い去ることができない。


 まだ今ならギリギリ間に合うだろう。

 打ち上げの合間に、とか……始まる前に、とか。


 ログアウトのメニューを選ぼうとする手が寸でのところで止まる。


 さすがにこのままログアウトはなしだろう。


 打ち上げの約束もしているわけで──

 わざわざ最後に、みんなを裏切るような真似なんてできるはずがない。


 相反する考えに激しく迷う。


 と、そのときだった。


●アリア:今までもこれからも、どうぞよろしくお願いしますね^^


「──っ!?」


 不意に、アリアから個人チャットのメッセージが届いた。


「これからも……」


 そのたった一言で、いきなり肩が軽くなったような気がする。

 なんだか赦されたような、慰められたような──


 もうこれで終わりだと思っていた。

 だからこそ切羽詰まっていた。


 でも、もしかしたら終わりじゃないかもしれない。

 終わらせない方法だってあるのかもしれない。


 そう思う一方で、いや待てよとブレーキをかけるもう一人の自分もいた。


 ただの社交辞令に浮かれすぎだろう?

 もう会うことはないだろうなって相手に「また会おう」って言うのと同じこと。

 だけど、アリアは社交辞令を口にするタイプではないし……。


「……ゲームが本当に終わるんだとしても、なんらかの方法でつながることくらいならたぶんできるよな?」


 期待してもいいんだろうか?

 例え、ゲームが終わったとしてもみんなとつながったままでいられるって。


 って、アリアは別として、これで他の面々からの無茶ぶりから解放されるってせいせいしていたはずなのに……。


 いざもう会えなくなるってなると、ここまで後ろ髪を引かれるなんて思いもよらなかった。

 

 とはいえ、ゲームはゲームとリアルと割り切ってプレイするスタイルもあるし、混ぜるなキケンという話もきく……。


 それでも、駄目元でそれとなくそういう話を振ってみるくらいはできそうだ。


 俺はログアウトメニューのウィンドウを閉じると、アリアに個人チャットを返した。


●リュウキ:もちろん。これからもよろしく!


 アイテム一覧のウインドウを開くと、テレポートスクロールを使用して転送先一覧の中から「アジト」を選んで飛ぶ。


 そういえば、「自宅」を「アジト」って登録し直したのはいつだったっけか?

 と、懐かしく思いながら。


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