3章ー4:真・地獄のペア狩り
ピクリとも動かせなかった身体が自由を取り戻す。
これって……解呪の魔法かっ!?
それとも、ただ単にアリアの石化魔法の効力が切れただけとか!?
いや、そんなのどっちだっていいっ!
咄嗟に、俺は紺碧のバイオリンを構えると、いちかばちかさっきアリアの奏でた一フレーズを耳コピしたまま奏でてみた。
使い慣れた魔宝石の魔法じゃ、力及ばないのは明らかだった。
だから、さっき反応した魔宝石の可能性に賭けるしかない。
なんでもいい。とにかくアリアの力になりたい!
さっきと同じ強い願いを込めて。
すると、さっき淡く明滅した魔宝石が一際強い輝きを放つ。
刹那、バイオリンが直剣に変化した。
ただし、どういうわけか……異常に重い。
「……っ!? なん……だ……これっ!?」
見れば、剣の刀身に無数の細い鎖が絡みついていた。
ちょ!? なんかめちゃくちゃ封印されてる感が半端ないんだが……これって大丈夫なのか!?
本当は、それが何の魔法かきちんと知った上で、最大限の効果を導くための「呪」を試行錯誤して見つけなくちゃならないんだが──石との相性すら未確認の付け焼刃の演奏に加えて「呪」無しとか、50%も力を引き出せればいいほうか……。
だが、それでも何もしないよりは全然マシだ!
そのときの全力を尽くせば後悔しようがない。
もう後悔しないって決めたからには、最善を尽くすだけ。
何の魔法か皆目見当つかないまま、俺は歯を食いしばって重量級と化した剣を振りかぶったかと思うと──敵に向かってひと思いに振り下ろした。
「……なんでもいいからっ! とりあえずいっけぇぇえええっ!」
振り下ろした剣が重々しい一撃で床を砕く。
同時に、その勢いを以って、刀身を覆っていた鎖が、まるで蛇のように波打ちうねりながら敵の身体へと絡みついていく。
アリアが敵の足止めに使っていた魔法によく似ている。
だが──俺の放った魔法の鎖は、敵の手によって断ち切られるより前に……あえなく空気へと溶け消えてしまった。
「……くそ、駄目かっ」
期待が外れてもへこんでいる暇なんてない。
すぐに次の手を考えなければ──
手持ちの魔宝石と発動できる魔法と、インベントリに入っているアイテムに考えを巡らせながら剣を真正面に構え直す俺めがけて天使の一人が槍をぶん投げてきた。
「うおわっ!?」
すかさず弾かれたように横に飛ぶも、槍が床に突き刺さった圧でふっ飛ばされた挙句、砕けた床の鋭い破片が追い打ちをかけてくる。
「……リュウキさんっ!?」
「──っつ!?」
アリアの悲鳴混じりの声が耳を貫くと共に、太ももに熱がはしり、奥歯をきつく噛みしめる。
見れば15センチは軽くあるだろう大きな破片が太ももに突き刺さっていた。
痛いというよりは熱い。
全身からドッと粘ついた汗が一気に噴き出す。
傷口が脈打っているかのような錯覚に、くるったようにもんどりうつ心臓の鼓動が重なって頭に響いてくる。
いやいやいや、せっかく自由に動けるようになったっていうのに、たったの一撃で動きを封じられるも同然の攻撃をマトモにくらうとか……やっぱ無理ゲーすぎだろ!?
半ばあきらめにも似た絶望に、乾いた笑いしか出てこない。
それでもなんとかするしかない──
「今っ! すぐに傷を治しますからっ! 後ろにさがっていてください!」
アリアが叫ぶも、敵に囲まれてしまって攻撃を捌くだけでも手いっぱいなことは一目瞭然だった。
このままじゃ俺だけじゃなくアリアまで──
つか、敵のヘイトを自分に集めている分、俺よりも先にアリアがやられる可能性のほうが高い。
よりにもよって最後の日に強制ログアウトとか……そんな最悪なバッドエンドってないだろう!?
あいつらとの約束もあるし……何よりもアリアが敵に殺られる場面なんて出くわしてたまるか!
頭が鈍器で殴られたかのように痛い。
これはリアルの痛みなんだろうか、それともゲーム内の痛みなんだろうか?
朦朧とする意識の中、最悪捨て身の攻撃でもなんでもして時間稼ぎをして、アリアさえ逃がすことができればいいか──という考えが頭をよぎる。
その瞬間、以前、強制ログアウト寸前まで追い詰められたときの恐怖が蘇ってきて……吐き気にえずいてしまう。
ホント情けない。子供の頃に憧れた漫画やアニメのヒーローなんかには程遠い。
ここまでリアルすぎなくてもいいだろう!? ちょっとは夢くらい見させろ! と、毒づかずにはいられない。
と、そのときだった。
ふと、妙な違和感に気が付く。
(なんだ? やけに動きが遅くなっているような……)
重症を負ったせいで、あれこれ感覚がおかしくなっているのかと疑うも、敵の動きが鈍ったように見える。
さっきまでは目で追うことすら難しかった槍の動きも今ではハッキリと見てとれる。
「……これって……時の鎖 (タイムズチェーン)!? ああ、助かりますっ!」
アリアの声にようやく我に返った。
時の鎖 (タイムズチェーン)は、敵の動きを鈍らせる魔法で、相当レアな部類に属する。まさか、そんな魔法があの魔宝石に眠っていたなんて──
これは──もしかするともしかするかもしれない!
見れば、アリアは後ろに大きく飛びのいたかと思うと早速反撃を開始していた。
動きが鈍った敵を再び茨の鎖で縛め直すと、光の矢を立て続けに放っては、敵の頭上に矢の雨を浴びせかけていく。
連撃される矢はまるで流星のようで、つい見入ってしまう。
って、俺も負けてはいられない。
再び直刀の武器化を解除してバイオリンに戻すと、さっき奏でたフレーズを何度も何度も繰り返していった。
魔宝石は煌々と輝きを増していく。
と──次の瞬間、アリアが俺に向かって叫んだ。
「リュウキさん、一緒にっ!」
「っ!? おうっ!」
気が付けば、俺のすぐ横で、アリアは杖の武器化を解いて白いバイオリンを構え直していた。
魔法の効果が切れたと思しき敵が、怒りの怒号もろとも、猛然と俺たちへと襲い掛かってくる。
俺とアリアは互いに頷き合うと、タイミングを合わせてから──
バイオリンを奏でた。
俺が主旋律を奏でるのに合わせて、アリアは副旋律を奏でる。
艶やかな音色のハーモニーが辺り一帯へと響き渡ったかと思うと、魔宝石が目も眩むような光を放つ。
手が焼けるように熱い。
気が付けば、俺は直刀を、アリアは杖を手にしていて、それぞれの魔法を解き放つ。
二種類の魔法の鎖が混ざり合い溶け合って、凄まじい勢いで敵を呑み込んでいく。
一体何が起きているか、分からない。
ただ、次の瞬間、MPを根こそぎもっていかれて──強烈な吐き気に襲われる。
「……っ!」
息が……思うようにできない。
脳みそと胸がぐちゃぐちゃに掻きまわされる感覚に総毛だつ。
視界と意識とがフェイドアウトしていく中、突如柔らかな光に包み込まれた。
「…………」
既視感を覚える懐かしい光。
ああ、これが死ぬってことか?
あまりにもあっけなさすぎて拍子抜けだ。
もっと苦しいものだと思っていたのに──
いろいろ心残りだが、まあ、やるだけやったんなら仕方ない。
そう自分に言い聞かせる俺の耳に、どこまでも穏やかなアリアの声が届いた気がした。
「……大丈夫です。もう終わりましたから」




