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3章ー2:地獄のペア狩り

 ログインするや否や、個人チャットが届いた。


●アリア:こんばんは。あの、今から少しだけお時間いただけませんか?


「っ!?」


 あまりに唐突なアリアからのチャットに不意を突かれて心臓が跳ねあがる。


●リュウキ:ああ、うん。あまりハードな狩りじゃなければなんとか……

●アリア:じっとしているだけで構いません。30分ほど付き合ってもらえませんか?


「…………」


 体調が悪いって断ればいいのに、頼まれたらつい付き合ってしまう自分が恨めしい。

 とりあえず頼まれごとには従うっていうのがもうデフォルトになっている……。いつの間にこんな下僕根性に……。


 いや、それがなくても、アリアからの誘いを断るとかまずありえないか。


 むしろ周囲からはうらやましがられるレベルの誘いだろうし、たとえ何があっても全力で応じて当然だ。幸いリアルがインフルでもゲームじゃ伝染すとかも関係ないし。


 しかし、今回の誘いはいつもと違う。一体どういう意味なんだろう?


 時々こうやって個別に狩りの誘いがきてペア狩りをすることも増えてきたはいたけれど……じっとしているだけで構わないって?


●アリア:とりあえず「堕天の塔」の入り口で待っています。

●リュウキ:お、おおー……


 内心焦る。

「堕天の塔」……か。


 一度だけ怖いもの見たさで、テレポートの座標を登録しがてら足を運んだことがあったが……とんでもなく強い敵がわんさか沸きまくってて逃げ帰った苦い思い出。


 中でも「禍いの堕天使」っていう名前だったか、身の丈3メートルはゆうにあるいかついマッチョ天使の強さはヤバすぎた。両手剣を一振りしただけで、HPを半分は持ってかれた。


 おそらくレベル60MAXでもキツい狩場だ。

 何せ数が多いもんで、ソロはまず無理。レベルMAXのフルPT、Sクラス装備の5人でカツカツといったところだろうか?


 そんなところでペア狩りとか……これってデートなんじゃ? みたいな期待感をすっ飛ばして心中レベル。そもそもアリアはレベルMAXだけど俺はまだ59だし──


 1%の期待と99%の不安に駆られながら、テレポートスクロールを開くと、俺は恐るおそる真っ赤な文字で登録しておいた堕天の塔を選択した。


 二度と行くことはない場所だと思っていたのに、まさかの最終日、アリアと足を運ぶことになるとは思いもよらなかったと……半ば死を覚悟して。


                ※ ※ ※


 テレポートは成功。


 視界が揺らぎ──周囲の光景が荒涼とした砂地へと変化していく。

 空には血に濡れたように不気味に輝く大きな月。


 砂漠の真ん中にその塔は建っている。


「堕天の塔」

 

 天を衝くかのような高い塔で、上のほうは暗雲が垂れ込めており頂上は確認できない。たしか、現状、確認されているのは44階までだったか?


 「マギアムジカ・オフライン」の創世の伝説にも記されている古めかしい遺跡で、神の怒りに触れた女神メルキュリアが頂上に封印されているという噂だが──その真相もいまだ定かではない。


 謎多き塔はひっそりと静まり返っていて、禍々しい空気に包まれている。

 もう外観だけで心折れそうな雰囲気が駄々洩れまくっている。

 

 周囲を見回すも、アリアの姿は見えない。


 だが、そのときだった。


 少し離れた場所で、いつもとは異なった淡いピンク色のローブをまとい、同色のバイオリンを携えたアリアの姿が揺らぐように現れた。


 テレポートを終えたアリアは、俺に気が付くと慌てて駆け寄ってきた。


「あ……すみません。待たせてしまいましたか?」

「いや、ちょうど今来たばかり」

「……よかった。ちょっと忘れものを思い出してとりに戻っていました。私、結構こういうこと多くて……駄目ですね……」


 頬を赤く染めて気恥ずかしそうにはにかむ。

 

 なんだ。このまるでデートの待ち合わせかのようなベタなやりとりは──


 ただし、場所が場所なわけで……当然そんな甘い空気であるはずもなく、はるか頭上から降ってくるカラスの不吉な鳴き声がBGMとか、いろんな意味で残念すぎる。


「あの、いきなり誘ってしまってすみません……貴重な時間なのに」

「……っ!?」


 リアルでもゲームでも、俺の都合なんていつもお構いなしな人間ばかりに囲まれているせいか、アリアの気遣いに不意に胸にグッと熱いものがこみ上げてくる。


「……どうかしましたか?」


 口元に手をあてた俺を、アリアは上目づかいで不思議そうに見上げてきた。


「……いや、なんでもない。ただ新鮮だなと……」

「えええ? 新鮮……ですか? フツーだと思うんですけど……」


 しきりに首をかしげるアリアに苦笑する。


 フツー、か……。


 いつの間にやら、俺のフツーは他人のそれとはかけ離れてたいたらしい。うすうすそうじゃないかと疑ってはいたが……改めて他人から言われると改めてそうなんだと実感できて地味にへこむ……。


 他人のフツーが自分のフツーとは限らないし逆も同じ。

 そして、他のフツーに触れる機会がなければ、いつの間にか自分のフツーが異常になっていても本人も周囲もまず気付かない。


 ちょっとゾッとしなくもない。


 それにしても──淡い桜色のローブは見慣れていないということもあって新鮮というか、袖やスカートも花びらみたいになっていて目を引く。


 つい、じっと見入ってしまうと、アリアは頬を染めて眉を下げた。


「あ、あの……何か?」

「……そ、その今日は……そのローブ……いつもと違うなって……」

「あ、ちょっと昔のなんですけど、お気に入りで……」

「お、おぉー……なるほど……」


 似合ってるくらい言えばいいのに……どうにもこっぱずかしくて……言葉が喉のところで詰まってしまう。


 っていうか、それ以前に──「堕天の塔」に最強装備を敢えて持ってこない余裕に度肝を抜かれる。


 なんというか、いろいろ素直に喜べないというかツッコミどころが多いというか。

 複雑だ……。


「とりあえず、私についてきてください。エアリールをかけます──目的地までたどり着いたら後はそこで動かずに座っていてくださいね」

「……お、おー?」


 エアリール、確か一定時間だけ敵から姿を隠す魔法だったか。

 高レベルな魔法なため、噂にしか聞いたことがないが──


 アリアはバイオリンを構えた。

 しんと辺りが静寂に支配される。

 

 刹那、バイオリンから艶めいた高音が歯切れよく奏でられた。

 これは……魔弾の射手だったか? 


 ソプラノのオペラ歌手が狂気の沙汰かと思うほどの高音を歌い上げるアリアだ。


 攻撃的かつ透き通った音色に呼応して、紫色の魔宝石が鋭く明滅した。紫系の魔宝石は状態変化系の魔法──


 バイオリンが形状を変えていき、紫のオーラをまとった杖へ変化していく。


 その杖を高々と掲げると、アリアは凛と魔法発動の呪を唱えた。


「大気よ、ヴェールとなりて我らの身を悪しき者たちの眼より隠したまえ……大気のエアヴェール


 杖から紫の霧が溢れ出たかと思うと、俺とアリアを包み込み、みるみるうちに身体が透けていく。


「おー……透明人間みたいだ……」

「──今ですっ!」


 思わず感心する俺だったが、しっとりとした感触を手の平に感じて、続けざまにグイッと引っ張られて我に返る。


 アリアが俺の手を掴むや否や、塔の入り口から中へと向かって走りだしていた。

 

 骨なんてないんじゃないかってくらいものすごく柔らかい手に驚きながらも、負けじと足に力を込めてダッシュする。


 途中、何度か踊り場で足を止めてはエアリールを重ね掛けしながら、敵がうじゃうじゃうろついている小部屋を駆け抜け、塔を螺旋状に取り囲む緩やかな階段を軽やかに駆け上がって上階を目指していく。


 俺はとにかくアリアの足を引っ張らないように全力疾走に集中するのみ。


 インフル真っ只中の全力疾走は……かなりクルものがある。


 ややあって──ようやく開けただだっ広い場所へとたどり着いた。


 数え間違いがなければ、ここは9階。


 他の階は小さな部屋で区切られていたのに、ここはギリシャ神殿を思わせる円柱が等間隔に並ぶ大広間だけ。


 部屋の中央にはひび割れた石碑が一つだけ置かれている。

 なんだ、ここ……ものすごく嫌な予感がする。


「無理をさせてしまってすみません。でも……ヒーラーの私がソロで力になれる場所はどうしても限られていて……目的を達成するにはここしかなくて……」

「……え?」


 無理を──って、まさか……気づかれていた!?

 思わず目を剥く俺に構わず、アリアは俺を広間の端、石柱の台座へと座らせた。

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