表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

弱肉強食の世界で

作者: ゼシル

鼻を突く死臭、死屍累々の地獄絵図、度重なる戦闘、この世界はクソと言っても良いだろう。 弱者は淘汰され強者だけが生き残れるこの世界。 そんなこの世界の掟で、数少ない生存者が居た。


荒野を歩くのは、本来なら艶のあるだろう黒髪は痛み、手入れをしていたら美肌間違いなしの肌質もボロボロ、さらには破れかけた布切れを身体に纏わせた傷だらけの少女がこの世界での生存者である。


(……今日だけで40人近く殺しただろうか。 毎日毎日、飽きもせず……)


彼女は人を殺していると同時に自分自身の感情も殺している。 彼女の強さは感情を殺す事でさらに磨かれる。 彼女にとっての人殺しは『作業』みたいなものだった。


「……っ!」


殺気を感じ取り振り向くよりも速く彼女の剣が抜刀され、背後からの脅威を弾く。金属音が響き銃弾が上空へ吸い込まれていく。 完全に向き直ってから相手の姿を視認する。


まず目に入ったのは左手に持った大きめの口径の銃。 そして腰に携えている長剣。 そしてやはり殺気染みた双眸が彼女を射抜く。


(……またか。 41人目……殺す)


少女は内心辟易としながらも標的を殺すために駆ける。 蹴った地面が大きく抉られており、もうその瞬間には彼女の剣の間合い圏内に入っていた。 彼女の剣は男の胸を掠めるように抉る。 鮮血が少女の顔に掛かるが気に留めずさらに駆ける。


「おいおい……速えな。 流石にその歳でこの世界を生き抜いてきただけはある。ほっ!」


男は少女の速さに差して驚愕した様子も見せず既に長剣を抜いて少女の攻撃に対応してきた。 少女は一旦距離を取ると男の出方を窺う。 男は少女の行動を理解したのかいやらしく口角を吊り上げると左手を空に掲げた。


「魔法は知ってるよな? 今からそれをお見舞いしてやる」


男は左手に持った銃の照準を少女に合わせると躊躇無く引き金を引いた。 しかし少女はその全てを弾くと男の胴体を易々と切り裂く。


「がはっ!?」


魔法が発動するより速く殺してしまえば良いと少女は隙の出来た男の首を刎ねながら思う。 少女は血を払うと魔法を使って刀身を新品同様の状態にする。 微笑を浮かべると鞘に納め、また荒野を歩く。


(魔法も私の速度に比べればずっと遅く対策もし易い。 それに私も魔法が使えない訳じゃない。 使わないだけだ)


持って生まれた戦いの才能とそれにさらに磨きをかけるように血反吐を吐くような努力の賜物の結果が今の強さだ。


(……日が暮れてきたな)


空を仰ぐと星が輝き始めていた。 少女は今日はここで一夜を過ごすと決めると早速準備を始め即座に眠りにつく。 ただ、いつ敵に襲われるか分からない為うたた寝程度だが。


灼熱の太陽が照りつける暑さで目が覚めた少女。額を拭うと汗が滲んでいた。


(やはり……暑いな)


特に襲われずに珍しく眠れた少女だが常に危険は孕んでいた。 今日も荒野地帯を歩く少女。 少女は魔法の恩恵で先ほどのような灼熱には晒させず快適な温度で過ごせていた。


「……っ!」


第六感が働き、全力でその場から離れる。その数秒後、巨大な何かが飛来し、少女が立っていた周辺の地面が巨大な爆音と衝撃波により巨大なクレーターを形成する。 辺りは砂埃に包まれ視界が塞がる。


(……敵の襲撃か。 複数か単騎か……それは些細な問題だろう。だがこれ程の規模の魔法を易々とこなせる辺り単騎なのは間違い。 荒野と言っても障害物は岩肌が露出してるくらいだ。 それ以外は見晴らしは良い。 となると魔術師か)


「生命反応を確認。 対近接モードに移行する」


機械的な声が響いた直後、猛烈な一撃が少女を襲った。


「ぐっ……!」


その一撃で視界を塞いでいた砂埃を霧散させ、衝撃波が空気を押しのけながら広がっていく。 今までに感じた事のない手応えに少女も思わず声が漏れる。 そして敵対する存在を視認した瞬間、少女の思考が一瞬だけ驚愕に支配される。


全身を覆う分厚い装甲、頭部も頑丈そうな装甲で守られている。腕や足も全て機械で出来ており、どこからどう見てもロボットのそれだった。 初めて対峙する未知の存在。 先程の一撃は重く、少女の警戒心を引き上げるには充分過ぎた。


(魔法と接近戦の両方が出来るのか……。速度も剣戟も今まで戦った奴らの比じゃないな。 ただ、何であろうと私は斬る。それだけだ)


少女は剣を握ると自身の出せる最大の速度で相手との距離を詰め、その速度のまま剣戟を見舞う。 既に音速を超えており、衝撃波はソニックブームとなって駆け巡る。


剣の交わる金属音が鳴り響くと同時に周辺の地面が次々と抉れていく。 神速の剣戟を繰り出す少女にそれを捌く未知のロボット。


(落ち着け……冷静に。 捌かれてはいるが倒せない相手ではない。 何のために鍛え上げた身体だ。 どんな相手にも勝つためだ!)


少女は速度をさらに上げると背後に回り込み首を刎ねようと試みるがその一撃すらも躱される。 上空に飛び上がったロボットは少女を見下ろすと右手を突き出した。


「滅べ……矮小な存在よ」


その瞬間、荒野地帯そのものが吹き飛んだ。 圧倒的な暴力と化したただの魔力の塊を放っただけだ。 荒野を更地としたその桁外れな威力のそれが直撃したのにも関わらず少女は生きていた。


「…………」


少女はただ無言でロボットを一瞥していた。

何の感情も持たず淡々と、冷淡と。


(剣術だけであの化け物を倒すには無理だな。 魔法も使っていくか)


地形を変える程の威力の魔法を喰らったにも関わらず、それの影響を微塵も感じさせずに上空の暴威を見据える。 刀身に紅炎を纏わせると全力で飛び上がる。 またロボットが魔力の塊を放とうとするがそれより速く少女の一撃が穿つ。 超高温の一撃だったが装甲が溶けた様子も無く、部位欠損も無かった。


(やはり硬いな。 そして私の魔法にも耐える魔力耐性……何なんだこの存在は)


異常とも取れる耐久性の高さに内心驚きながらも最大速度で攻撃を放っていく。 既に人としての領域を超え始めている少女ですらこの未知なる存在に傷を付けることは難しい。


剣戟が生まれるたびに波紋状に広がる灼熱の紅炎。 それすら何処吹く風と言わんばかりに少女の猛撃を捌いていく。 少女もただ剣戟を繰り出すだけでは無い。 片手で魔法陣を編み、魔法まで繰り出すという人間離れした行為をやってのける。 猛烈な吹雪がロボットを襲う。


「流石にきついな人間よ……矮小な存在だと決め付けていたが評価を改めねばならん」


熱波と寒波に加え少女の猛攻に耐え難いのか機械的な声で少女の耳に届くように言葉を発する


「……」


少女はそれを戯言と決め込むかのようにさらに攻撃速度を上げ、ついに素早さでロボットを追い抜いた。 時間すら置き去りにする速度で背後に回り込み、渾身の一撃を放った。まともに直撃したロボットは凄まじい速度で地面に叩きつけられる。


「……はぁ、はぁ」


肩で息をしてはいるがまだ余力はある。少女はとどめと言わんばかりに魔力を練り上げると、地面から這い出てきたロボットを軽々と覆い包む灼熱の炎球を生成した。 それは徐々に圧縮していき、最終的にはバスケットボール大の大きさに落ち着いた。


そして少女が拳を握り締めるとそれに呼応するように炎球に超圧力が掛かり、そのまま超広範囲の爆発を起こした。 常人ならそれを掠めるだけで絶命するような超高温の熱波が少女を襲うが少女は顔を庇うだけでそれを凌いだ。


地形を変えるほどの戦闘の爪痕は大きく、最終的に荒野地帯を丸々吹き飛ばすまでの苛烈を極めた戦闘だったが、最後まで立っていたのはやはりあの少女だった。


鉄の塊と化したそれを淡々と見下ろす。 もう動き出す事は無いと分かっていたがこの未知なる存在がまだ何処かにいるかも知れないと少女に一抹の不安がよぎる。


「よくぞ……執行者……たる我を倒した。 この世界はもう貴様1人だ。 案ずる事は、無い……これで、貴様はこの世界に『認められた』」


動く筈のない鉄の塊が再び少女に語り掛ける。 少女はそれに耳を貸さず、前方に視界をやった瞬間、少女の思考が今度こそ停止した。

そして、言葉の真意を理解した。


少女の眼前を埋め尽くすはそこに転がるロボットの同型機。 これは、世界に認められた少女がただ1人で世界に抗った名も無き物語。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  ゼシルさんの戦闘描写……やはりどの作品でも安定して凄い!  分かりやすくかつ臨場感のあるバトルに読み手の自分が文章の中に呑み込まれている感じがします!  そして、ストーリーの終わり……と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ