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絶対紅蓮神殺罠師  作者: 人生エピゴーネン
朱に交われど赤くなれず
8/17

遺志

 喉元過ぎれば熱さを忘れる――辛いことすら美しい日々に思えるのは記憶が改ざんされているからだろう。未来というのは結局、観測しようとした時点で変わってしまうと聞いた。過去もそうだ、思い返した時点で変質する。過去の行いを正義だったと自らの正しさを証明したり、過去の行いを悪だったと自らの過ちとし別のことをしたり。いずれにせよ、記憶というのは良くも悪くも美化、ドラマチックになっていく。

 それだから今の日々が退屈に思えるのだろう。


(そういや何でも言う事を聞くというのがあったと思いますが)


「そんなようなことも言った。無論、それなりの差異はあるけど」


 結局僕は戦えない、罠を仕掛けられるだけ。それはある意味罠師としては当然のことだが、いざという時何も出来ないのでは困る。こっちの方が強いけど苦手な近接戦闘に持ち込まれたので負けましたでは話にならない。取りあえず格闘術を修めておくのがこの世界のグローバルスタンダードらしい。そんなのよりポストコロニアリズムが欲しい。

 日常が退屈なのか退屈なのが日常なのか、それとも今は非日常か。こうやって時を過ごすことにより僕ら非日常を日常に落とし込んでいく。サビハは首のあたりをさすり、(やっぱりいいです)と願いを保留した。




(やっぱり勇者ですかねー)というのがサビハの言だった。勇者はまだレベルこそ低いが固定値が馬鹿にならない。この前の連中を倒すのに使ったDPは殺害分を引いてもマイナスであり、今後を見据えるならDPをここらで少し稼いでおきたいところだった。


(最適解は宿ですかね。DPを稼ぐにはやはり長く留まってもらうことが必要なんで、その為に必要なものを揃えればいいんですよ。都合のいいことにDPで大体何とか出来ます)


「宿? 理屈は解るがどうやって?」


(そんなもん設定をでっちあげればいいんですよ。奴ら勇者だからと驕っているに違いありません、日本は小国()ですみたいに! 筋書きはこうです――――





 20階層に来た長澤千秋は脚を停めた。今までの少し寂しげな雰囲気とは違う、ファンシーという言葉では言い表せないけれどそんなような、幻想的な風景だったからだ。反射的に辺りを見回すと皆驚いている。その反応にほっとしていると声が聞こえた。


(勇者様……)


 また、反射的に辺りを見回す。それで分かったのはクラスメイトは声が聞こえたようだけど未だ一緒に来ている兵士のひとには届かず、そして兵士のひとは今までにないくらいの警戒をしていること。そうだ、ここはダンジョンだった。


(勇者様……)

「止まれ!」


 呼びかけられたらその方向へ足を進めたくなるのが人の性とはいえ、注意しないと死んじゃうよ? 兵士の静止を受ける大石君。だって声がって言うけど、兵士さんが不思議な顔してるし。


「声が、聞こえるんだな?」

「? はい……皆、聞こえるよな。聞こえる奴は、ほらてー上げて」

「勇者には全員聞こえるのか。内容は?」

「ただ、勇者様とだけ……」


 結局、声の方向へ向かうことに。勿論兵士のひとが先導を務めますが。行きついた場所は御屋敷。なんか、異様。


「ようこそ勇者の方々!」


 妖精がひらりと舞った。




「ダンジョンの意思?」

(このダンジョンは勇者を育てるためにあるということにすればいいんですよ。実際王国だってそういう使い方ですし。勇者との接触がキーとかそんな感じで。宿はDPで適当なのを見繕うとして、従業員は……妖精フェアリーあたりが総合的に優秀な人材ですね)

「妖精……に念話のオプション?」

(当たり前のことですが日本語も必要ですよ。それに家事やら最低限の自衛を出来るようにして)

「それはわかった。それよりも設定を煮詰めたほうがいい」

(アイアイサー)





「うわぁ、本当に日本だ」

「和風だね。こういうとこは数回しか行ったことないけど」

「俺0」

「えー?」


 廊下を歩いて部屋へと案内される。和室。異世界のダンジョンを探索していたら異空間に迷い込んだと表現しても、ここは確かに日本を模したどこかだ。千秋は何回かこういう宿屋に泊まったことがあるから断言できるが、どう考えてもお屋敷だ。


(質問はありますか)

「えーと、妖精さんたちの名前は?」

(ありません)

「じゃ、後で名前決めよ」

「妖精さんたちはどうして出てきたの? 前兵士のひとが来たときは無かったって聞いたけど」

(わかりません。勇者様がたくさん来られたからじゃないですかね)

「妖精さんたちは何でこんなことが出来るの? 喋ってるの日本語でしょ?」

(勇者様をサポートするためです。私たちは勇者様の助けとなるべくここにいます)

「・・・どうして?」

(このダンジョンは勇者様を育てる為にあるのです)

「へぇー……」

(だから攻略されると困ります)

「それについては心配要らない。このダンジョンは立派な国の施設だ、勇者が頼んだところで渡さんよ」

(・・・・・・)

「どうしたの?」

(いえ、何も)





「やっぱり兵士を難癖付けて追い出した方が」


(それは無しです。このダンジョンが存続しているのも何だかんだで王国の賜物、この前みたいなのを入れられたら困りますが。王国人しか使えないんで収益としてこのレベルにしてはしょっぱいですが、勇者のボーナスは大きいですね。それもこれも王国管理下にあるから出来ることで……第一DPの稼ぎとして最高効率を図るなら国家がFAなんですよ。実現するには宿⇒村⇒自治領⇒国のプロセス辿ったりするのが正攻法ですが、このコンボ決めるのはほんときつかったというか……成功例なんて精々数件じゃないですか?)


「色々困難なのは解るが、その数件の成功例とは?」


(そうですね……例えば、魔王領とか)


 僕はそう言い切ったサビハを、魔王であるかのように夢想する。

                     『――私は彼に魔王の鎧を重ね合わせる』

「!??」

(どうかしました?)

「いや、何も」





「ねぇ妖精さん。硯拓って人知らない?」

(いえ、そんな勇者は。私達が目覚めたのは勇者様が来られてからですから)

「そっか」


 千秋は質問を止めた。これでも十数年生きているから、必要なことくらいはもう聞き終わったからだ。


「それにしても、何時までやるの?」

「「納得するまで」」


 クラス一の真面目君、委員長と何故か少し暗めの根岸君まで妖精さんを質問攻めにしている。根岸は委員長の勢いに触発されたのかな? 

 妖精さんたちが茶碗を運んでくる。久しぶりのお米だ。私は毎朝パンだから別に米じゃなくたっていいけど、喜ぶ人はいるみたい。男子に多め。


「ねえ玉子は? 醤油は? 鰹節は?」

(全部あります、少し待っていてください)

「ヒャッハー、TKGだ!」

「お前最初に食うものがそれかよ……」

()(くべつにうまい)(ごはん)だからな」







(にしても米ばっかり食べてますね。異世界料理もそんな捨てたもんじゃないと思いますが)

「このダンジョンに籠ってられるのならずっとこれを食べるよ…………三食が麺麭パンだった時は地獄だった。ゲーテが涙と共にパンを食べたものでないと人生の味は分からないというのも納得だ」


 僕はDPでご飯を出して、それから納豆なんかも出してかき混ぜ、食す。


「頂きます」

(召し上がれー。因みにそのゲーテの言葉、超訳らしいですよ……)


 僕は最近の習慣となったお代わりをして、茶漬けにして掻っ込む。


「ご馳走様でした」

(しかし少しずつ食べるようになりましたねー。一食抜くことも珍しくなかったのに)

「君が僕を扱くからだ」


 取りあえずは反射を鍛えるべきということになってひたすら後ろから刺されたり。食べないと身が持たない。吐くリスクはあるがそこまで絞るつもりは今のところないらしい。


「そういや、魔王は大丈夫なのか? 魔王領という言葉があるのだから、虚構の存在というわけでもないようだし。最終的に勇者を殺したとして、誰も倒せないなんて事態になったら」

(別に勇者じゃなくても魔王は倒せますよ)

「じゃあ勇者は単に異世界から来たものの称号?」

(簡単に言えば――そういう事になりますが。あれですね、強い者が勝つのではない、勝った者が強いんだってやつですよ。魔王を倒したら勇者じゃないですか?)


 それでも猶訝しむ僕にサビハは紡ぐ。


(憶測混じりですが。勇者召喚ってのは外部から資源リソースを持ってくる為にあると思います。上位世界から資源エネルギーを持ってくるためのエネルギーを使っても、収支的には基本+なんで。そのリソースで、世界を引っ掻き回す革命者ゆうしゃみたいな意味合いでしょう。

       『砂時計みたいな世界を思い浮かべる。十三世界があって、その四番目あたりに地球。世界から世界へリソースが流れ落ちる。落ちて落ちて、最後ブラックホールみたいな怪物アバドンが流しそうめんみたいに素麺リソースを全部飲み込むんだ』ただそれだとあまりにも世界が脆弱なんで、何らかのセーフガードみたいなのがあるかもしれません。外部リソースに頼り切りの世界だなんて笑えませんし『砂が溜まったらひっくり返すことは出来るのだろうか?』)


「ちょっと――待ってくれ。何を考えてる?」


(『どういう意味ですか?』)


「君の――君の思考が流れ込んでくる」


(! それはいけませんね)


 じゃあ地獄でも見せましょうかと、阿鼻叫喚。止めどなく流れてくる殺意に耐えられず、糸がプツリと切れる。侵略は終了しました。


(まったく。乙女の思考を覗くだなんてけしからん輩ですね。私に気でもあるんですか? ステータスを見れないから代わりに思考を覗くというのは評価しますが)

「……わざとじゃない。何の免罪符にもならないが」

(寧ろ、私に気付かれずにこれをやれたら最低でもAランク級の実力はありますよ? その侵蝕ねがいは無邪気過ぎます。解り易いのならいいんですが、最近の若者は複雑でいけない)


 よくよく考えたら私に頭なんて存在しないから、貴方はまさしく心を見たんですねと、サビハは笑った。


(固有スキル侵蝕が持つ特徴。精神的・システム的な干渉であり、保持者の意思に関わらず自動発動し、また保持者の意志でそれにブーストを掛けることも出来る。対象は保持者を含むすべて。精神系完全防御でも、そのシステムごと書き換えてくる可能性があるので完全な対処は困難の極み。侵蝕されたらどうなるかははっきりとは言えませんが、思考汚染とシステムの書き換えに……連結ですね。保持者との思考連結が確認されている、と)


「一応確認するが、僕も」


(はいー。もれなく侵蝕に汚染されています。天恵のろいとは言い得て妙ですね、叶ったところで夢が呪いなのは変わらないってことです)


 産めよ増やせよ地に満ちよ 旧約聖書  ……倦めよ殖やせよ血に満ちよ?

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