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絶対紅蓮神殺罠師  作者: 人生エピゴーネン
朱に交われど赤くなれず
7/17

竜殺し

 アネモネから通信が入る。


「一人始末した」


「分かった……一人? 頼んだもう一人は?」


「偽装。装備だけが残されていた。注意して」


 偽装……?



 

「決めた、撤退する」


「賢明な判断ですね」


 ふっと気が変わった――そんな感じでレンジャーの男は決断した。帰るらしい。嘘なのは解っている。普通の人間は此処まで来て帰ることは出来ない。時間を稼いでいるのだろうと思っていた。そんなに耳は悪くない。ではその何かとは何だ? と考えたときに思いつかない。だから静かに待った。足音が聞こえる。

 剣士? 罠に掛かったはずでは?


「あれま。こんな姿になってる。残念だけど仕事が早く済むと思えばいいか。大変だったし。『聖断』」

「――神話召喚『アイギス』!」


 殺気を感じて身構えるのも切られたのは隣。

 一刀両断。骨になってもダンジョンボスだったケイヴドラゴンはたったの一撃で崩れ落ちる。

 ……ドラゴンスレイヤー。


「それじゃ、仕事も終わったことだし、寝るよ」


 三秒で眠った剣士の横を通り過ぎるのは五人。デスヨネー。

 不完全ですがやむを得ないので、ゾンビ化中だった二人を使役して数でも補いますか。


「こんなことになるんだったら……もっとゾンビ作っておくべきでしたね」


 スライムなら飽きれるほど殺しましたが、あれ魔素の塊なので自然消滅するだけなんですよねー。ゴブリンあたりが妥当ですが、醜女を硯っちの側近にするのは気が引けるし、信長じゃないんだから弥助ポジも要らない。実際脳筋枠って必要でしょうか?


「とりま神話召喚『オルフェウス』そして『怨嗟恐鳴』」


 デバフ安定ですからね。弱体化させてその後ぶちかますという意味合いでは確かに欲しいですが。神話召喚じゃサポートくらいしか出来ませんし。


「神話召喚――『黙示録、第四の封印』」


 




 アイギスによる副次効果とは石化である。


「レジスト!」


 Cランク程度ならともかくBランク・Aランクならマイナーな状態異常への対処もある程度は出来る。だがそれからが問題だ。ゾンビは……まあ寄せ集め集団なので情もなく所詮劣化なのでそう大したことではないが、怨嗟恐鳴はバッドステータスを隙あらばガンガン載せてくるような継続する嫌がらせ。ダンジョンのというのは基本広いはずだが何故か響く、というのもダンジョンマスターが黒騎士の要望に満額回答して騎士の趣味で50階層が作られているからだ。入り口には地獄の門、みたいな。当然怨嗟恐鳴を使うことも想定しているので音が響く。


「――! 来るぞ」


 そして黒騎士がラッパを吹き鳴らすと、不思議なことに地雷が連鎖爆発した。これには黒騎士も首をかしげる。ダンジョンマスターが事前に仕掛けておいた地雷がフィールド書き換えによって強制発動したのが真相だ。黙示録第四の封印の効果は、世界の暗黒化。光を奪う。ダンジョンという限定された場所、言い換えればほぼ密閉空間ならそれなりに長持ちする。

 暗黒空間では中途半端な光源魔法はファンブルされ、多少の暗視が出来る程度では何も見えない。仲間と連絡を取りたい? 一番簡単な声によるやり取りは怨嗟によってかき消されてしまうという。

 幾らなんでもいったん立ち止まるしかない。冒険者というのは基本超人だから時間さえあれば慣れるが……そんな時間はない。

 死神が来ている。




 50階層に再び光が灯ったとき、そこにいたのは三人の女傑だった。因みに僕は危ないので51階層で事の推移を見守っている。


「貴女は誰?」


 アネモネが軽く殺気の籠った目で見つめると、サビハは「サビハです」とそっけなく返した。そして両者の目線がこの場にいるもう一人に向かう。まだ眠っていた。やんわりと起きる。


「「誰?」」


「ベオウルフ・ルージュ。見ての通り……えーと、ほらギルドカード。此処にBランク冒険者って」

「素行が悪くてBランクなのかな?」

「その通りだけどよく分かったね」

「ぶっちゃけAランクでも詐欺ですけどね。一番可能性が高いのが(真の力)を真面目に隠しているというパティーン……」

「隠してないよ? 私嘘つきは泥棒の極みだと思うの。対竜戦闘ではSランクのお墨付き貰ってるけど」

「ほーらやっぱり人外だった。Sランクと戦うとか負けるかもしれないじゃないですか……ねぇ?」

「・・・・相性による」

「Sランクに勝てるかもしれないという時点でA+の領域ですよね」


 ファアアと大きな欠伸をしながら二人を一瞥するルージュの瞳は僕をも見据えていたように思える。見えない筈だが。

 僕の心臓が小さく跳ねた。


「逃げていいですか? 確か、見逃してくれると聞きましたが」

「それはケイヴドラゴンをぶった切る前に訊きたかったですねぇ」

「ドラゴンを倒すのが契約だったからね、ダンジョンコアの破壊は努力目標。私はドラゴン以外と戦う気はそんなにないし、戦っても損でしょ?」

「だとして見逃すのは……余計なリスクを背負いたくないのでいっこうに構いませんが、お隣の方を説得するのが難しいです」

「……情報。貴女が知っていることを全て吐いたら、見逃してもいい」

「一応守秘義務がある」

「なら殺す」


 アネモネが殺気を浴びせるけど、受け流してサビハに軽くウインクして去っていく。これでアネモネとルージュは帰るらしい。アネモネは留まったが。


「ベオウルフという姓は知っている。でも貴女は誰? 名前も知らない、そして得体の知れないスキル。勇者に似ている」

「勇者の残骸ですけど何か? 私の正体を知りたければ召喚実験の記録でも調べてみればいいんじゃないですかね、無駄だと思いますが。それから名前は主に名付けてもらいました」

「何故勇者の関係者が此処に?」

「眠ってたんじゃないですか? 勇者を最も多くハイシュツする王国ですから、一人ぐらいそういう人間が近くに居たって不思議じゃない」

「人間……?」

「失言でしたか? 正体なんて探るだけ無駄だと思いますが、乙女の秘密なので先ほどの方のように潔く帰っていただきたいのです、が」

「答えられない……と?」

「言っておくと。相性的な面もありますが貴女には勝てます。暴力は所詮一つの手段でしかないのです。対話もまた然り。平たく言えば帰れ」

「・・・彼は?」

「生きてますよ」


 それでアネモネの方も帰った。帰り際に僕を見たような気もしたが、気のせいだろう。

 サビハの方も暫く見張りを続けたあと不意に51階層へ戻って来る。


「任務完了です」

「ありがとう」

「素っ気ないですね。もっと褒めてくれたっていいんですよ?」

「ああ……僕が無理なく出来る範囲で何か君の望むことを一つ叶えるよ。君が居なかったらこのダンジョンが攻略されていた」

「それだったら逃げればいいんじゃないですか? 下手に資産を抱え込んだから逃亡出来なかっただけで、ヤバい奴が来たら即とんずらでしょう」

「それだとアネモネに殺される」

「権限を一部与えたのなら、それを入り口にして侵蝕使って、巧く時間稼ぎ出来ればアネモネちゃんを篭絡して、更にうまく行けばアネモネちゃんに冒険者連中を皆殺しですよ。黒化させれば隙を突いて逃げることは出来るだろうし……諸刃の剣だから天恵スキルはあんまり使わない方が賢明ですけど」

「……詳しく」

「そこはkwskくらい軽いノリでいいんですよ、貴方は王様なんだから。どうせ王様は碌な説明をしなかっただろうから簡単に説明しましょう」


 少し長くなるから、この状態だけでも軽くエネルギーを消費するんですとサビハは頭を外す。


(まあこの頭も天恵スキルで出していますが。最初にですね、前提としてこの世界の生き物というのは生まれたときに神様システムからスキルを貰います。だから、生きているかどうかはスキルを持っているか否かで一応判別できますね。で、このスキルってのは後から生まれた……つまりロボットが自我を持つようになった的な場合でも貰えたりします。で、その最たるものが異世界召喚です。高校生が突然産まれたという判定を神様システムが下します。それで言い忘れていたんですが、この貰えるスキルというのはエネルギー量に比例するんですよね。エネルギーはエネルギーです。普通は細やかなものでしょうが、例えばあのベオウルフはきっと名家に違いないからそれなりに良いスキルを貰っているはずです。では突然ですが問題です、高校生の皆様方が保有しているエネルギー量は?)


「程度の差はあれ、皆そのスキルは発現したんだ。雰囲気からして、スキルが無いということは想定されていないように思えた。僕らが特別エネルギー量が多いというのは思わない」


(赤子と高校生じゃ持ってるエネルギー量は違いますが、目の付け所はいいです。勇者召喚の際に結構なエネルギーを消費して勇者たちを落とすんですよ。地球が上でこの世界が下。儀式で一時的にリンクして地球を揺らす。すると零れて、高校生が落ちてくる。この時異世界は下なので繋げるだけ繋げれば勝手に地球の方から落ちてきますが、逆は厳しいです。繋げるとこまではいいんですが、異世界のものを地球に持ち上げるのが大変で。それはともかく、上から下に落ちる分にはエネルギーが溜まっていくんで、そのエネルギーが天恵スキルとして与えられてるって感じですね)


「諸刃の剣というのは?」


(単純に自分の力じゃない……ああ、神様転生テンプレへのアンチじゃありませんよ? 扱いきれないってだけです。というか本質的な問題点なんですけど、これって意識が確立されてない赤子へのプレゼントです。無意識有意識のうちに自分の願いを持ってる高校生を対象としてないんですよ。勇者召喚はこれの悪用です、寄付金詐欺みたいな。弊害が起こるんですよ。自分の願いに支配される。誰かを救いたいという想いが純化されて、目的と手段が入れ替わったり。人を助けるだけの哲学的ゾンビになったり。何て謂うか……スキルに自我が乗っ取られるというか、囚われるというか。早い話、自分が一番必要としているものだけが後は全部切り捨て、使えば使うほど人間として何かが欠落していきます。そしてそれは……貴方の天恵それも例外ではありません)


「叶わない夢は呪いだ。僕の侵蝕は」

(貴方の願望です)


 兆候はあった。醜悪なだけだ。


「誰かを穢してやりたい! 全てを黒く染めあげたい。それがぼくだってっのか」

(別に絶望したりはしないでしょう?)

「……あるのは納得だけ。醜悪なれども恋心、世界征服でもするかなぁ」

If it were not for hope, the heart would break. 望みなき時心破れる

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