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絶対紅蓮神殺罠師  作者: 人生エピゴーネン
朱に交われど赤くなれず
3/17

締結

 起きたのは数分後か数時間後か数日後か。


「起きた?」


 女はフードを取って僕の目を見ている。僕は反射的に見つめ返すが、女に耳が在った。いや、有るのは当たり前ごくごく当然の事実なのだが我々の耳とは違う。猫否犬とまで考えて何か違うという違和感のまま受け入れそうになって立ち止まる。狼の耳だ。

 と、ここまで凝視したら流石に気に障る。少女は申し訳なさそうに自己紹介した。


「名はアネモネ、スキルは投擲針状態異常など。鑑定しなさい」


 アネモネLV73【暗殺67】【隠密80】【瞬歩74】【投擲64】【暗器術52】【体術28】【精密動作60】【威圧31】【鑑定44】【亜空袋30】【五種状態異常耐性55】【三種状態異常強化38】【生命転換33】【自動回復32】【自動魔力回復25】【凶化13】【咆哮21】


「レベルは見ての通り44」


「43? 僕には73に見える」


「そういえば貴方は異世界人だった。クオリアが違うのよ、私には貴方のステータスが見えるけど」


「その、貴方というのを出来ればやめてくれないか。僕は硯拓だ」


「ならば拓。貴方は何が出来る? そのダンジョンコアを使って。定石なら破壊よ、それでダンジョンが壊れていく。壊す訳にはいかないけれど、私は貴方がそれを有効活用出来ると思って連れて来た。或いは、いざという時に壊せるよう見物しに来た」


「今から試す」


『コア侵蝕率50%、只今スリープモードです』

『侵略、スリープモードを解除します』

『コア掌握率75%』

『コア掌握率90%』


「ここまでが限界だ。コアを完全に掌握するにはボスを倒す必要が有る」


「ボスを倒さないで到達できるからこそ価値があると思うのだけれど」


「確かに。でも、90%まで掌握したことは無駄じゃない」




 僕はコアから取得した50層のマップをアネモネに手渡す。僕は51層でコアの操作、アネモネは50層でボスの撃破。貰ったイヤリングで会話をしながら、連携を図る。


「今から魔物を送る」

『DPを消費してボマー×15を生成します』


 50層のボスはケイヴドラゴン。取得したデータから万遍ない高水準なステータスと、弱点らしい弱点がない優秀なスキルの詰め合わせ、少なくとも僕らがまともに戦ったら勝てないような敵だ。様子見にボマーという爆発性の魔物を突撃させつつ、策を練る。


『DPを消費してダークミスト×30を生成します』

『50層の照明を停止させます』

『50層の空調を変化させます』

『DPを消費してアサシンビー×10を生成します』

『DPを消費してレイヴンウィッチ×20を生成します』


「首尾は?」


「芳しくない。削れてはいるけど、弱い。じきにケイヴドラゴンも暗闇に慣れる、とてもじゃないけど倒しきれない」


「了解した」


『50層の照明の一部を復活』

『49層の水流を変化させます』

『DPを消費してウォータースライム×60を生成します』

『DPを消費してデッドリーポイズンスライム×30を生成します』

『DPを消費してパラライズスライム×40を生成します』

『DPを消費してダストワールアイ×5を生成します』


「ちょっと水を流す。避難場所は作るからそこに逃げてくれ」


『DPを消費してオールドタートル×3を生成します』


「浮いたわ」


「だと思った」


『50層の空調を変化させます』

『DPを消費してテクノドラゴンフライ×10を生成します』

『DPを消費してウインドホエール×5を生成します』

『DPを消費してパラサイトダンドリオン×15を生成します』


「墜す」


 僕は階段を駆け上がり50層へ。ケイヴドラゴンは未だ飛翔している。パラサイトダンドリオンの寄生は結構効いているが、それでも、やはり墜とさなければ意味がない。

 アネモネと目が合った。


「規模増大、強度増加、投網――規模増大、性質付与切断、ワイヤー――――」

「凶化、生命変換」


 アネモネが跳躍して、ケイヴドラゴンを叩き落とす。


「複数設置、跳躍地雷、性質付与時限式――――連鎖――規模増大、強度増加、落とし穴――」


 ケイヴドラゴンの下半身が落とし穴に入るが、大きすぎては入りきらない。今の僕ではこの程度が限界なのは解っているし、狙いはそれでない。動きさえ封じればいい。


「侵蝕解除。破壊、落とし穴」


 落とし穴が無くなり、ケイヴドラゴンの下半身が50層と51層に嵌る。後は撤収、上から毒で責め下からチクチク切り刻む。




「硯、貴方はどうやってあのケイヴドラゴンの動きを止めた?」


「僕はダンジョンに干渉することも出来るし、干渉しないことも出来る。それを切り替えただけ」


「使い勝手は?」


「ある程度大きくないとタイミングがずれる」


『コア掌握率100%、硯拓をダンジョンマスターに認定します』

『アネモネをサブマスターに認定』


「さて。協定だ、契約でも誓約でもいい。僕はこのダンジョンコアを支配することによってダンジョンマスターとしての力を得たのだけれど。例えば貴女が今襲い掛かってきたら僕は殺されてしまう。よって、僕は貴女の不利益になるようなことはしない。僕は出来る範囲内で貴女の手助けをする」


「私の望むことは一つ、このダンジョンを安定した状態に保つこと。あとは、ダンジョンマスターの好きにすればいい。それでは、さよなら」


 僕はそれを黙って見送る。他にやることが無い。……訊いておくか?


「どうして僕を助けてくれたんですか」


 どうでもいいことだが、何故か知りたくなった。僕はいつも一言多い。


「私の、職業に対するプライド。貴方如き……今は、殺しておけばよかったとは思うけど」


「僕を救ったのが貴女の優しさでなく、職業に対する拘りであったことに敬意を表します」





 

 コツコツ、徘徊行動。

 メニューを開く。


『所持DP  階層メニュー 1・2・3…………49・50・51

 魔物の生成 階層追加 DP交換 ダンジョンボス選定! 』


『1階層 魔素率1% 環境設定 洞窟 魔物 ラビット×49 ゴブリン×6』


 僕は罠師だ、固有スキルは侵蝕。そして、先ほどダンジョンマスターになった。ダンジョンマスターの出来ること、魔物の生成。DPを消費して呼び出せる。もっとも、乱発するのはDPの枯渇に繋がるのでよくないが、ケイヴドラゴンを殺したので潤ってはいる。というか最悪、DPを0にしても最優先でやるべきなのはレベルアップだ。経験値効率のいい魔物を探して呼び出し、殺し続けるが必要なDPと手に入る経験値は比例関係にあることを知った。


硯拓LV60 『侵蝕』【罠作成32】【罠複数設置28】【罠設置高速化10】【罠威力上昇16】【罠性質付与3】【罠破壊2】【短剣術11】【鑑定13】【受け流し1】【集中29】【調息5】【治癒活性化2】【魔力吸収8】【侵蝕5】


 レベルアップを軽く済ませ、スキルに頭を抱える。スキルの方も上げなければ意味がないのでは? こればかりはどうしようもないんだろう。それより気になるのは侵蝕、二つある。片方が固有スキルだとして、もう一つの侵蝕は何を意味する? 僕はその答えを知っているような気がしたが無視した。


『侵入者が現れました』




 ダンジョンマスターの出来ること、階層の観察。


「ん? 罠?」


 やってきたのは勇者、僕のクラスメイトだった。それからお付の人々。ダンジョンには侵入者が入ることでDPが溜まる。その入り具合は条件によって異なるようだが、低レベルとはいえ勇者数十人は美味しい。高レベルのお付の人々もいる。


「今日は三階層まで行きます。ついてきてください」


「正直余裕だよなー」


「五階層くらいまではいけるんじゃね?」


 殺そうなんて物騒な考えを追い出す。お客様は神様だ、だから…………論破せよ? 違う。出来るだけ長く滞在してもらいDPを稼ぎ、何回も来てもらってDPを稼ぎ、最後には殺す。それでいい。今は、殺さなくていい。

 何処までを許容する? ある程度は、普通に攻略させるべきだろう。最下層から固めて行けばいいか。デッドラインは30階層。僕は彼らをひたすらに観察する。名前すら碌に憶えてこなかったことを、今更ながらに後悔した。メモリが要る。ある程度知恵が在り、僕の偏りを抑える補佐が欲しい。


『魔物の生成』

『魔物の配合』

『ファントム×グリムリーパー×リビングアーマー➡ドュラハン』


 適当に詰め込んでみたが、ファントムが無くともドュラハンになったような気はする。だが結果的には混ぜてよかった。ドュラハンには首が無い。頭は付属していないから喋れない。それが出来る知能の高い魔物を選択したのだが。ただファントムのスキルに念話があり、それに救われた。


「耳はないけど、聞こえる?」


(はい、主。耳が無くとも聞え、目が無くとも見えます。匂いは解りません)


「口はないから喋れない、か。何を知ってる? 知っていることを喋ってくれ」


(私がアンデッドであるというのは偏見です。……私は日本に居たころは外国人でしたし、カナダでは日本人でした。……戦艦と日本刀は私の擬人化ですし、大久保利通と織田信長だったこともあります。……三島由紀夫だったことがあるような気もしないではありません)


「!??」


(私は断片です。知識の。ダメゼッタイ、此処は死人の墓場です。異世界人の多くが死にました。私はアンデッドです、主もまた同じ。同じだから呼び出せた、貴方に天使は呼び出せない。相応しくないのです、美しくないなら死んでしまいたい。堕天することもない純粋な中途半端の極端さの具現たる主に私は三つの誓いを執行します。嘘を吐かない、恨まない、敬うということでしたね)


 僕は混乱した。


「生前の記憶があるのか?」


(前世なんて存在しませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。前世を肯定するというのは来世を肯定するのと≒なのが面白い)


「君は誰だ?」


(ドュラハンです。主の忠実なる僕)


「主とは?」


(ダンジョンマスターです)


「ドュラハンの主、ダンジョンマスターなのはこのボク、硯拓だ。硯拓その人に忠誠を誓え、その主という呼び名は止めろ」


(Yes, sir!)


 僕は頭を抱えた。そんなことをやっているうちに勇者たちは帰った。僕はそれに気付かず、このドュラハンを何とかして調伏させようと戦ったが、筋の通った滅茶苦茶な言動に敗北した。僕は別の補佐、それか補佐を追加しようとも思った。少し考えて、僕で負けるのだからこれに打ち勝つためにはアクの強い人物でないと無理だと思う。僕はそんなのごめんだったから、妥協して暫くはこの二人でやっていこうと決めた。

ドュラハンの性格は作者の過去作主人公そのもので、作者も混乱してしまいました。

 何でもは知らないわよ、知っていることだけ。(西尾維新)

 私が知っているのは知らないということだけだ。ソクラテス

 人は少ししか知らぬ場合にのみ、知っているなどと言えるのです。多く知るにつれ、次第に疑いが生じて来るものです。ゲーテ

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