イリーヤの予言
ジョンさんを背負いながら、村の避難所である族長の家にたどり着いた。中に入ってみたら、すぐに、村人たちが俺たちを囲んだ。
「外がどうだ?」
「あの化け物を殺したのか?」
などの質問がどんどん来た。
「え、あ、それは後で答えるから、まずはジョンさんの手当を…。」
ジョンさんの名前を聞いて、村人の人混みから一人の女の人が出てきた。それはベティさんだった。
「ジョン?ジョンがどうかしたのですか?」
ベティさんが心配そうな顔をしているまま俺に問う。
「その、なんだ、死にはしないと思うが、もう二度と歩けないかもしれない。」
ベティさんはその言葉を聞いて、安心したような、悲しいような溜息を吐いた。
ジョンさんのことをベティさんに任せて、族長の方へ行った。
「話はもう伺っています。よくやりました、ウィルフレッドよ。」
「はあ、恐縮です、族長。」
俺はどうにも、こういう堅苦しい場面は苦手だ。
「ですが、私が言いたいことはそのことではないのです。実は、昨晩、私はイリーヤ様と夢で出会いました。」
イリーヤ様、か。神様と言っていい存在であるイリーヤ様族長の夢を訪ねたって…どういうことだろう。
「その前に、ウィルフレッドよ、一つ聞きたいことがあります。あなたはあのモンスターをなにも残らず、駆逐した。そうですよね?」
俺はその質問に対して、黙ったまま肯いた。流石にここでは真実を言えない状況だ。
「素晴らしい!私はあなたのことを信じていた、ウィルフレッドよ。イリーヤ様は昨日、こう仰った。」
「明日、あなたたちの村がモンスターに襲われます。ですが、心配しないでください。あなたたちの村には、勇者がいます。彼は必ずモンスターを倒します。この世界と人類そのものを救う、救世主となります。」
「そう、ウィルフレッドよ、その勇者は、あなたなのです。」
族長の話を聞いた俺はどうすればいいのだろうか。俺が救世主だなんて…。
「戸惑っているようですね、ウィルフレッドよ。ですが、あなたなら、この使命を果たせる。私はあなたを信じています。」
そう言ってるけど、お前は何もする必要ないんじゃないか。世界を救うってのはお前ではなく、俺なんだろう?リップサービスばっかなやつだな。
「さあ、あなたももうすぐ、世界を救うために、旅に出るでしょう。どうか、イリーヤ様の教えを忘れないように…。」
イリーヤの教え、か。正直、納得できない教えなんだよ。モンスターと関わるな、見たら殺せ、とか。モンスターだって、生き物なんだ。見たら殺すなどと、俺たちはまるでただの野蛮人見たいんじゃないか。
なのに、イリーヤを崇拝するのはこのイリーヤ村だけじゃなく、世界中に広がっている、唯一の宗教だ。少なくとも、ベティさんとジョンさんはそう言ってた。
確かに、モンスターたちは人を見たら、殺すだろう。だが、それは人間たちも同じことをする。人間とモンスターたちの終わらない殺し合い…。
「村の近くにある、イリーヤ神殿で旅への祝福をもらってから行くといい、ウィルフレッドよ。」
ああ、そういえば、そんな場所もあったっけ。旅する準備なんて、全然整っていないけど、その祝福とやらをうけてからすればいいだろう。
「はい、そうさせてもらう。それでは、失礼します。」
出発する前に、ジョンさんをお見舞に行くか。ジョンさんの家はたしか、村の入り口から一番近い…。」
「邪魔するよ、ジョンさん、ベティさん。」
俺の姿を見て、ベッドから起きようとしていたが、ベティさんがジョンさんを抑えた。
「ベティ、離してくれない?せっかくウィルが…。」
「だめだよ、ちゃんと休まないと!」
ふむ、ちょっと気まずい。
「い、いやあ、気にするな。そっちに行くから、そのままで構わんよ。」
ベッドの方へ近づきながら、ジョンさんの状態を観察した。見た目は問題なしだが、ギプスがつけた足は…。」
「足のことなら気にするな。もう走れないかもしれんが、まだ歩けると思うし、腕は問題ない。」
ジョンさんの言葉を聞いて安心したが、素直に喜べない。
「ごめん…お、俺のせいだ。もっと早く着いていたら…!」
頭を下げる俺を見て、ジョンさんがため息をついた。
「また出たよ、お前の悪い癖。いいか、誰もお前のことを責めたりはしないよ。誰かがそうしたら、俺はそいつを殴る。だから自分を責めるのをやめろ。さもないと、本当に殴るからな。」
ジョンさんの顔を見たら、彼は笑顔のままだった。
「そうですよ、ウィル君、あなたはジョンの、いや、村の皆を救った勇者なのです。間に合わなかったとか、そういうことはどうでもいい。あなたがいなかったらどうなったか、想像したくありません。」
ベティさんもジョンさんも同じ事を笑顔のままで言った。俺も思わず、微笑んだ。
「そう…だね。すまない、つい暗くなって…。」
自分の頬を手で叩いた。そして、告げた。
「俺はこれからイリーヤ神殿へ行く。祝福をもらったら、家に帰るけど、その後、魔王を倒すため、旅に出る。」
ジョンさんとベティさんは驚いた顔で俺を見つめてるけど、すぐ微笑んだ。
「流石と言ったところかな、ウィル。イリーヤの祝福をもらっって来い。旅にです前、俺に会いに来てくれよ。勇者の旅立ちの始まりをこの目で見たいからな。」
ベティさんが肯いた。
「私たちはここにいますよ、ウィル君。旅に出る前に来てくださいね。」
「大げさだな、ジョンさん。でもまあ、そうするよ。では、後ほど。」
そういいながらドアに向かって、後ろに手を軽く振った。
今回も長かったね…
まあ、でも、読んでくれて、ありがとう!