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治療院

 ──目が醒めたら知らない天井だった。

 起き上がり、周囲を見回してもなんというか本当に見覚えがない。

 いや、パッと見た感じでなんとなく病室かと思うくらいには白い部屋なんだけども、そもそもどうして俺は病室なんかにいるのだろうか?

 何故だろうか? 森から街道を目指して歩いていた時の記憶があるのに、街道についてからの記憶がまったくない。

 それに少しばかり後頭部が痛い気がする。──触ると少し瘤が出来ていた。もしかして何かあったのか?

 ……まあ、いいか。考えても思い出せそうにないし、とりあえず、此処に運んでくれた人がいるだろうし、探そうかな。

 ああ、でも。来てくれるかもしれないから待っていた方がいいかもしれない。行き違いになったら大変だし、何より親切な人に心配かけるかもしれないもんなぁ。

 ──よし、この部屋から出ない事にしよう。

 そうと決まれば二度寝でもしたけど、どうにも眠れそうにない。なんというか、眠気がない。

 眠れないとなると何をしよう? 


「──退屈だと死ぬんだっけ?」


 魔法とか使えるならその練習でもするんだけどなぁ。

 鑑定とかあれば周囲の物を観察するとか、そういう事で時間が潰せるのになぁ。

 ……そういえば、さっきから気になってたんだけども。俺が寝ているベッドの横に置いてあるこの珍妙な道具ってなんだろう?

 一本の真っ直ぐに立っている棒の真ん中辺りに浮かんでいるドーナツ状の円盤と言う、用途不明な謎器具は無視しようと思っても常識敵に無理でした。

 だってこれ円盤浮いてるんだぞ? 磁石かと思ったけど、浮かぶのはともかく定位置をキープするのは結構難しいと思うんだよな。

 

◇「遠響の環」★×3

二つ一組の遠距離連絡手段。どちらかの円環を動かすと、もう片方の円環が同様の動きをする。

また、破壊された場合、対となる遠響の環の富裕が終了する。

共鳴石+謎のわっか+魔導結晶(低純度)


 ……Oh.

 もしかして、と言うか、ほぼ確定なのだけども。

 これって所謂鑑定と言うやつではないではなかろうか? ……そういえばスキル欄に記入されてた<姦貞>、変換ミスが酷いけれどもたしかに<鑑定>と読めない事もなかった。

 なんだ、表記がバグっている以外、内容は案外まともなのかもしれない。

 ……ううむ。それにしてもこれに触れるともう片方が動くのか。そしてそれが連絡手段であると。

 もしかして、これはファンタジー版ナースコール? しかも破壊されたときの対策までされている?

 ファンタジーってやっぱり侮れないな。電気代掛からないしむしろこれの方が、……ああでも音が鳴る訳でもないから周囲の人が観察してないと分からないのか。それならナースコールの方がやっぱり上かもしれない。

 

「────よし」


 このままだと埒が明かないし、とりあえずこの輪を動かしてみるか。

 試しに輪を指で突いてみると、風鈴みたいな澄んだ音が響いて何かが揺れるような感覚がした。

 ──その後、すぐさま部屋の扉が開いたのには心底驚いた。何せ2分とかかっていない。

 扉を開けて現れたのはちんまい婆ちゃんだ。イメージとしては魔法使いだ。長い杖を手に持って、白い神官福みたいなのに身を包んだ優しそうでどこか芯の通った婆ちゃん。

 こんな感じの人を見た事がある気がする。写真でだけど、誰だったか──マザー・テレサ?

 

「目が醒めたようね」

「えっと、治療してくれてありがとうございました」

「いいのよ、子供を助けるのは大人の役目だもの」


 本当に優しい人だった。──こういう人に会えるとなんとなく嬉しく感じるのは多分良い事だと思う。

 自然と笑みを浮かべたら、何故だかあらあらと笑われた。解せぬ、けれどもなんともあったかい笑い声だったのでこちらも声を出して笑う事にした。



 ◆


 その後、婆ちゃんに色々と教えてもらった。

 俺は街道の途中で倒れていたこと。おそらく足を滑らせたのではと言うのが現場を見た人の意見だとか。──恥ずかしいがあり得る。

 そして運ばれた先がこの病院、──じゃない。治療院で、治療してくれたのが婆ちゃんだった。婆ちゃんの治療の腕はこの治療院で1番らしい。最も、それ以外に二人しかいないと謙遜していたけど。

 ちなみにこの治療院は家族で経営しているらしい。最近は結構厳しいらしいので出世払いでちゃんとお金を払う事を約束したが、その様子を微笑まし気に見られるのは何と言うか釈然としない。これでも俺は元23歳だ。そこら辺はしっかりしているのだ。──酒も賭け事も女も煙草もしなかったのはちょっとした誇りである。尤も、アルコールは飲めないだけだけども。

 

「婆ちゃん、出世払するためにも働きたいんだけどどっかにいい働き場所ない?」


 丸椅子に座った状態で状態を揺らしながら問いかけると、危ないわと注意されたのでやめた。

 それから暫く、悩むように顎を撫でる婆ちゃんからの返答を待っていると、不意に婆ちゃんが唸る様に声を漏らした。


「ギルドに加入するというのも手だけど、やっぱり心配よね」

「婆ちゃん、ギルドって何?」

「あら、いやだわ。私また口から漏れちゃってたのね。これだから年はとりたくないのよ」


 渋々と、婆ちゃんが語る内容は何処にでもあるようなファンタジーの定番だった。

 ギルド、と言うのはあくまでお通称で、本当の名称は<狩猟組合>と呼ばれている。

 仕事内容は多岐に渡り、魔物の討伐依頼、何らかの採取依頼、道具の制作依頼が舞い込んでくるらしい。

 ギルド自体は仲介のようなもので、仕事を受ける登録業者(ハンター)と依頼者から手数料を差っ引き、その間で行われる様々な面倒事を引き受けるようだ。

 要するに職業斡旋場みたいなものだろう。──バイト先を教えてくれる場所と考えると凄く分かり易い。

 しかも一番簡単な仕事が街の清掃作業だ。これで宿に食事なしとは言え泊まれる金額が手に入るのだから安いもんだろう。

 

「決めた、俺ギルドに登録してくる」

「ほ、本当にやるの? 危ない事もたくさんあるのよ?」

「お金がない方が大変だし、何より俺社会人だから働かないと」


 鼻息を荒くして拳を突き上げる俺を諦めたかのようにため息を吐いた婆ちゃんは、もしお金に困れば泊まりに来てくれてもいいと言ってくれた。

 なんというか、本当にありがとうございます。──さて、ギルドに行きますか。


「じゃあ行ってきま」

「それはそうと場所は分かるの?」

「……教えてもらってもいい?」


 しょうがないわねと、婆ちゃんは家族の人を呼んでくれた。

 なんというか、重ね重ねすみません。

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