バグ
【人名】新垣宗十ロゥ(10災)
【称号】胃セ(火)£刃、化@キャ裸
【能力】ユニィク:<魔緑炉>魔─ERORR─過─ERORR─異常─ERORR─蝶過セイ成(神)
<I tame master>魔モ能♯無、マ者カ?ぞう、dough愚梟、豪性、oh鶏℡せ、姦貞
……俺のステータスが全体的におかしい件について。
苗字がまず違うし、そして名前が明らかにおかしい。おまけに10歳が、10災になっているのは明らかにやばい。
おまけに称号欄に何が書いてあるのかもう訳が分からない。いや、多分想像としては異世界人だとおもうよ。読める文字だけあわせたら「いせか?じん」になるし。
そして最後の能力欄が狂ってる。最高に狂気的だ。ERORR連発は怖すぎる。しかも漢字間違え当たり前、記号多数に変換ミス、最早どう読めばいいのか分からない程である。というか、変換ミスなのか、それとも違うのか、ちょっと洒落にならない間違いがいくつかあるのは勘弁してもらいたい。
え、どうしてこうなったの? 何がどうしてこうなったのか、──そういえば<I tame master>からハテナマークが消えた上に明らかに間違っているフリガナがあるのはどうしてだろうか。
原因はこれか、間違いなくこれだな。──神様、バグってるなら教えてほしかったよ。
それにしてもこれは酷い。一つのバグで全部バグった。なんというか、最悪だ。能力欄が読めない時点でどうすればいいのかすら分からない。
「──マジかぁ」
思わず天を仰いだ。何故か雲の形が神様が腹を抱えて笑っているように見えて思わず殴りたくなった。
──とりあえず、ステータスがバグっているのは仕方がない。
けれども、このままだと色々と不味い。何せ自分が何が出来るか分からない。フリガナを信じてアイテムマスター的な事をすればいいのか、それとも<I tame master>を信じてテイマー目指せばいいのだろうか?
能力を探ると言ってもどうやればいいのか分からない時点でもうお手上げだ。人生ハードモードと言うか、何というか。もう少しアフターサービスを充実してくれると嬉しかった。
まあ、過ぎた事をいつまでも愚痴るのはめんどくさいし、とりあえず街道を進んでいくとしよう。少なくともこの場にいるよりはいいし、森に行くことを考えれば安全な筈だ。
見た目は子供、中身は大人。──どうにかなると信じたい。
その一心で街道を目指して歩き始める事にした。どうにかなりますように。
◆
ドゥエル街道は工匠都市と貿易都市を繋げる唯一の道である。
初代の匠王が物作りにより財を成し、その功績により買い取った都市に職人を招くことで誕生した工匠都市は、
同じくその手腕をもって品を売り捌き財を成した初代商王を中心に開拓された貿易都市とは密接な関係にある。
作る側と、買い取る側。職人と、商人。生産者と業者。言ってしまえば利益で繋がった二人三脚。
そんな関係があるせいか、この街道は他の国々や都市間を繋ぐ街道と比べて、非常に厳重な警備体制の下、昼夜問わずに守られていた。
新たな商品を作りたい、自らの腕を世界に見せたい、自らの価値を示したい、──灼熱の創作意欲に支えられた職人の気焔と。
商売で財を成したい、道具の便利さを知らしめたい、自らの手腕を示したい、──冷徹な損得勘定に動き続ける商人の気質が。
職人と商人、互いの利を守るパートナーとして存在する両者を守る為に手を組んだ結果が、──現在街道を守護する特殊な警備隊<金槌部隊>である。
その警備隊の一員にして、全8部隊に分けられた内の7番隊<籠手>に所属するヴァロッドがそれを発見した。
街道の端、魔物避け目的に存在する<排魔灯>の足元で倒れた子供の姿。それはこの街道では珍しい、所謂子供の行き倒れである。
「隊長、ガキがいるんだけどどうします?」
捨ててきますかと後に続きそうな程に軽い問い掛けに周囲の隊員の眉が上がる。
不遜な態度と自己中心な性格、何より街道の守護を任される身でありながら他者の生死に興味を抱かない無作法者。
実力はあるものの協調性がない、それだけでも欠点ものなのに人間としてもヴァロッドは酷評されている。
その事を知ってか知らずか更に言葉を重ねようとするしたところで、隊長と呼ばれた無精髭の男は口を開いた。
「状態はどうした? 寝てるのか、空腹か、それともまさか死んでんのか?」
報告するならまずは確認をしろと言外に伝えられようとヴァロッドは、はぁ、と聞き流した。
彼にとって飯の種である職場ではあるものの、そもそも上下関係という物が理解できていない上に、子供の状態など周囲の警戒と比べたらどうしても優先度が下回る。
仕事は真面目だが、素行不良。基本任務はお手の物、任務外行動は上の空。それ故に起こる隊内の不和は彼にとっては予定調和。
根は真面目だが根本が腐っている彼は最低限の仕事以外はそもそも頭の中に無い。
それでも命令されたのだしと確認をしたところ、──子供の額には巨大なタンコブが出来ていた。
仰向けに倒れる子供の背後には<排魔灯>があり、転がる彼の足元には無数の小石が落ちていた。
もしかして、と言う疑問はすぐさま確信に変わり、同時にため息が漏れるのは彼の中では当然だった。
──本来なら、頭部を殴打した事で内出血や頭蓋骨骨折を心配するべきなのだが、彼にそれを求めるのは間違いだろう。
「頭打って気絶したみたいですね。
まあ、こんな程度ならガキの頃ならいくらでもあることで──」
「──んのッ、馬鹿野郎ッ!!
治療に関して素人の手前が勝手な判断してんじゃねえよ!!」
もっと言えと頷く周囲の隊員にも憤怒の表情を向けた男は更に怒鳴る。
「手前等も何ぼさっとしてやがる!!
ヒューイ、手前は状態の確認だ、可能なら治療しとけ。アーシェスとブッチャーは周辺の警戒を続行しろ。ヴァロッド、手前は街まで走って治療院にガキ一人運ぶ事伝えてこい!!」
「「「はい」」」「俺だけきつくね?」
愚痴る馬鹿は尻を蹴られて走り出した。
兜こそ脱いでいるが、板金鎧を着ているとは思えない速度で駆けていくヴァロッドの姿に周囲の隊員はそろってため息を吐いた。
悪い奴ではない。──しかしアクが強すぎる。
有能だが使い道が少ない、そんな新人に皆が抱いている感想はどうにも同じらしい。
「にしても、何なんだこのガキは?」
思わず隊長の口から漏れたのは子供、──少年に対しての疑問だった。
<篭手>は基本的に街道の危険地帯、<コーマの森>付近の警戒、魔物や盗賊が現れた際にはその討伐や対策を主な任務と行っている。
森から程近い位置にあるこの<排魔灯>周辺は、1時間で2度目の索敵を行っている場所である。
足跡から見てこの子供は森側、正確には貿易都市側から来ている筈だが、その貿易都市方面から戻ってきた<篭手>がどうして先程見付けられなかったのか。
まさか森から来た、という事はあるまい。
あり得ない想像に頭を振るって任務を再開した隊長は、後日になってそれが現実であると知り驚愕する事となるのだが。
今はただ、安らかな顔で気絶している少年に奇異の視線を向けるだけだった。