5.望 〜バーガーショップ
映画館を出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。
「腹減った。ハンバーガーでも食べてかない?」
「ぼくは」
「気にすんなって、俺がおごるから」
「そうじゃなくって」
彼には人の事を考える心が欠如しているんじゃないかと思う。
「あっ、ここ、ここ。 この店よそのよりちょっと高いけど、おいしいんだよな」
「えっ、あっ、うん」
「なあ、チケットの御礼させてくれよ」
店内は若者たちで騒がしかった。
ぼくのような制服姿が多いい。
あれだけのポップコーンの山を食べつくしていながら、まだおなかがすいていたらしく彼はひと言もしゃべることもなく食べている。
ロースカツバーガーとポテトフライにコーヒーシェークを、彼はきれいに食べつくした。
「ふうー。 満足、満足」
無愛想な彼は、物を食べている時、一番幸せな顔をしているんじゃないかと思う。
「映画どうだった?」
以外に面白かった。
口にしようとしてやめた。
この映画のクライマックスに大あくびをしていた彼がどう思っているのかを気にして、気のない返事をした。
「まあまあかな」
「ふ〜ん、じゃあさ、あの恋人みたいに、君は人の為に死ねる?」
ぼくは黙り込んでしまった。
「どう?」
「わからない。自分の命が惜しいとは思わないけれど、人を好きになったことないし」
なぜこんなこと、あったばかりの人と話しているのだろう。
「きみの……、自分の命、惜しくないの?」
彼はずかずかとぼくの領域を侵してくる。
彼のまっすぐな視線を感じてうつむいてしまった。
こんな話題から早く離れたい。
「俺、死ねるよ」
「なぜ、そんなこと言えるの?」
きっぱりと言い切る彼に、腹が立ってきた。
「俺、そういう人いるから」
ドクンとぼくの心臓が波打った。
彼にはいるのか、そういう人。
でも
そんなの
口だけに決まってる。
偽善者!
「でも、残された方はどうなるんだろう」
ふと言葉がついて出た。
「うれしい? 自分のために死んでくれてうれしいと思う?」
なにをしゃべっているのだろう、ぼくは。
意地が悪い。
自分でそう思いながらも、次々と言葉が出てくる。
「そんなの、死んだ人の自己満足だよ。 死んだらそこで終わりだけど、残された方は、一生苦しんで生きていくんだよ。 たとえ、死んだ相手を愛していなかったとしても」
何をぼくはむきになっているのだろう。
こんな初めて会ったばかりの少年の前で。
テーブルに両肘をつきその上に顎を乗せたまま、じっと彼はしゃべり続けるぼくを見詰めている。
なんだかその瞳にドキッとした。
「だよね」
彼はすくっと立ち上がるとぼくに背を向け、手を肩の辺りで左右に振ると去って行った。
残されたぼくは、しばらく呆然と、今まで彼が居た場所を眺めていた。
―なんだったんだ、あいつ……
彼に会ってから、ぼくは不思議な夢を見るようになっていた。
それは、二つの光の玉がぼくの住むマンションに飛んでくるというものだった。