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17.望 3 〜祭り 1

祭りの日、神社近くの道は、車両通行止めになる。

四時ともなると左右に立ち並ぶ屋台目当ての人たちで賑わい始める。

これから人出はどんどん増えてくるはずだ。


すれ違う人の中には、知った顔もちらほら混ざっている。

彼女を連れた中学時代の同級生は、目をあわせた途端照れくさそうに会釈をしながら去っていった。


なぜお祭りに彼女を誘ってしまったのか、今更ながら後悔した。




境内入り口には、人待ち顔の人々があたりを気にしてる。

彼女は既に来ていた。

マイペースな彼女は、子供の頃時間にルーズだった。


「今日は早いんだ」

「デートに遅れちゃまずいっしょ……なに笑ってんだよ!」

浴衣姿の悠希ちゃんは、男の子と間違えたときとは別人のようだった。

「なんでも、クックックッ……」

「俺だって、こんな格好恥ずかしいんだから」

「に、似合っているよ、プッ」

「笑いながら言われたって説得力ゼロだ!」

色白の頬をほんのりピンクに染めて睨みつける。


「悠希ちゃんが、昔、浴衣で木登りをして袖を破いちゃったことがあったでしょ。

それを思い出したら、この鳥居も登っちゃうんじゃないかと思って」

「この歳で、そんなことするわけないだろ……えっ!?」

彼女は驚きの表情でぼくを見る。

「悠希ちゃんでしょ。 小学校2年のときに転校していった」

「うん」

彼女はこくりとうなづいた。

ぼくは子供の頃、日頃気の強い悠希ちゃんが、うんといってうなづく姿が可愛いと思っていた。



照れくさくなって、ぼくは一人で鳥居をくぐり抜けようとした。

彼女がぼくのシャツの裾をつかんだ、それは子供の頃、ぼくが悠希ちゃんにしていたことだった。

ぼくはそっと彼女の前に手を差し出す、それはいつも、彼女がぼくにしてくれたこと。


彼女はぼくの手に触れかけて、すぐに下ろした。

一瞬触れた彼女の手はとても冷たかった。

夏祭りといってもまだ五月、日が照っていない今日は寒い。

約束の時間よりかなり早くから来ていたのかもしれない。




本殿の前には数名の人がお賽銭を上げ、鈴を鳴らしていた。

一度お参りを済ませたあと再び悠希ちゃんはお賽銭をあげた。

二回のお参りを済ませた彼女にその理由をぼくは尋ねた。

「二回目はお礼さ」

「お礼?」

「お願いするまえに願い以上のことが叶っちゃったから」

そう言った彼女がやけに女の子っぽくって、なぜだか人ごみの中を歩くぼくの速度が少し速まった。



「ひとつちょうだい」

綿菓子屋のおじさんに彼女が声をかける。

「自分で作ってもいい?」

「それは……」

「いいじゃん、お兄さん、お願い!」

手を合わせて拝んだ。

彼女はどんなに年上の人であろうとお兄さん、お姉さんと呼ぶ。

子供の頃、それが大人には受けていた。

「しょうがない、可愛いお姉ちゃんの頼みだ」

「やった!」

子供の頃、綿菓子機のおもちゃを取り合って作ったことがある。

真中にある金属で出来た円盤状のものの中にザラメを入れる。

熱くしすぎると糸にならずに回りの枠に溶けた砂糖がこびりつく。

失敗しながらもうまくいったときには、二人で棒までしゃぶった。

昔取った杵柄か、悠希ちゃんは器用に砂糖の糸を棒に絡め取っていく。

「上手だな、姉ちゃん」

「えへへへ」

「少し手伝っていかないか?」

「兄さん、野暮はいいっこなしよ。 こっちとら逢引の途中よ」

「そりゃ失礼したね、姉さん。 楽しんどくれよ」

「あいよ」

綿菓子を頬張りながら歩き出した彼女の後ろを追った。

「あいかわらずだね」

「うん?」

「なんでもない」

「望も食べる?」

「ありがとう」

差し出された綿菓子を少しつまんで口に入れた。

今まで膨らんでいた砂糖はぼくの口の中であっという間に溶けた。


消えていく綿菓子のように悠希ちゃんの関心は次々と移っていく。

「わー! みどりがめだ!」

男の子が亀をすくっているところを何人かが眺めていた。

「あれって、でかくなると凶暴になるんだよな」

「えっ、そうなんですか? 今取っているのうちの子なんですけど」

「す、すみません!」

ぼくは前から声をかけてきた女性に謝ると悠希ちゃんを引っ張ってその場を離れた。

「俺、営業妨害しちゃったかな?」

「そうみたい」

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