13.望 2 〜ラブレター 2
「ラブレターでしょ、これ。 可愛い子だったね。 それに、望好きでしょ、髪が長いこ」
ぼくから奪った封筒をぼくの目の前でちらつかせた。
「開けちゃおうかな?」
「勝手にすれば」
彼女は少し怒った顔でぼくを見る。
「ほんとに?」
「だったら、返してよ」
「返して欲しいの」
「別に、いらないよ、そんなの」
彼女はじっとぼくを見詰めている。
なんだか彼女といると調子が狂う。
「それって、失礼なんじゃないの、彼女に対して」
「きみが取ったんでしょ、読みたいなら読めばいい。 ぼくはどっちでもいい」
「望は人を好きになったことないから、そんな冷たいこと言えるんだ。」
え? 彼女はぼくの名前を呼んだ。
まだ名乗ってもいないのに。
「淋しいね。 それって、生きてる楽しみひとつ減らしてるよね」
彼女は手紙をぼくに差し出し、ぼくはそれを受け取る。
ぼくは、ただ生きている。
いつも、何か不安定な、とりとめのない焦燥の中で、ぼくは自分の生きている意味をつかめずにいる。
「ねえ、きみはなんのために生きているの?」
なぜだか彼女に尋ねてしまった。
「好きなことをやるため」
「好きなことって?」
「バスケやって、うまいもん食べて、寝ることかな」
「そんなこと?」
「うん、そんなこと」
彼女はぼくの悩みの答えをいとも簡単に言ってのける。
しかも、そんなこととあっさりとしている。
「一番大切なのは、好きな人がいるから。 でもさ、俺の片思いだけど」
ぼくを見据えてる。
どうして彼女は恥ずかしげもなく好きな人の事が言えるのだろう。
「あっ、おまえ、今、どうせふられたんだろうって思っただろう」
「そ、そんなこと思っていないよ。 今言われるまでは」
「ひでぇーな」
彼女の軽い肘鉄が飛んでくる。
「冗談、冗談」
「でも、はっきりふられた方がましかもな」
「生殺し状態」
「だね」
「かわいそう」
「ほんとにそう思う?」
「うん」
「じゃあさ、今度、デートしてよ」
「……」
「そんな困った顔すんなよ、ジョークだからさ」
「誰でもいいの?」
「そんなことないよ」
「でも……」
「きみだから」
「ぼく?」
「そう」
「あっ、学校」
急に学校を思い出して立ち上がった。
でも、彼女にブレザーの裾を引っ張られ、そのまますぐにイスに逆戻りした。
「海、見に行こう、海。 好きな作家が住んでる所があるんだ、このずっと先の駅に」
「家、わかるの?」
「知らない」
彼女の答えは簡単だ。
「それじゃあ」
「知らなくったっていいじゃん。 なんかさ、この海があの小説の舞台かな、とか考えたら、小説ん中飛び込んじゃったみたいで楽しくねえ?」
生き生きと話す彼女が、うらやまし。
「一人で行ったら、ぼくを巻き込む理由ないでしょ」
「物事すべて理由が必要なわけ? まあ、そういうタイプだね」
ぼくは何故か不愉快になった。
まだ二回しか会っていない彼女に、ぼくの何が分かるというのだ。
次の駅で降りて反対の電車に乗れば、今日も今まで通り普通の生活に戻ることができる。
ただそうするだけのことなのだ。
そう、ただそうすれば元通りになる。
元通り……。
ぼくは電車を降りなかった。
それにしても、だいたい彼女は、なぜぼくの前に現れたのか?
彼女は、今までぼくがやりたくても出来なかったことを、難なくやり遂げてしまう。
彼女といれば本当の自分に会えるような気がした。
本当の自分て……?