10.悠希 〜映画館
嫌がる望を無理やり映画館へ連れて来た。
辺りにはキャラメルポップコーンのなんとも言えず甘い良い香りがする。
ポップコーンはしょっぱい物だと思っていたから、初めて友たちに勧められいやいや口にしたときはえらい衝撃を受けた。
こんなのもありって。
それからは、必ず映画館で食べるのが楽しみになった。
だからもちろん今日も映画館に着くなり、ポップコーンを買った。
客席に着くと、俺はポップコーンを頬張った。
ポップコーンを途中まで食べたところで、ちらちらとこっちを見る望の視線に気付いた。
いくら要らないって言ってても、人が食べているのを観ていたら欲しくなるよね。
「ごめん、気付かなくって」
朝家をでるときは、望とあんな風にデートみたいなことが出来るとは思ってもいなかった。
それがうれしくってめっちや舞い上がっている自分と、それどころじゃないって凄く冷めてる自分がいる。
でも、やっぱ、俺、望が好きだ。
ひさびさに望に会ってますますそれを確信した。
理由なんてわからなくったっていい、ただあいつが好き。
だから、望の代わりに死んだってかまわないって本当に思っているのに、それなのにめちゃくちゃ生に執着している自分がいる。
好きなバスケがしたいから?
おいしいものをもっと食べたいから?
やり残した事があるから?
やり残したもへったくれもねえ、まだ人生始まったばかりじゃないか。
望のそばにいたい
ただそれだけ
自分の命が惜しくないって
なんで、望はそんなこと言うんだろう
そんなあいつのせいで俺は死ぬ
あいつは
人のために死ぬなんて自己満足だって
たとえ、愛していなくっても……
か、なんかそれって俺に突きつけられたみたいでけっこうこたえた。
俺はわかっている、子供の頃、望は俺に優しかった。
でも、それは誰に対しても優しいのであって、俺に対する愛情でもなんでもないことを。