1.望 〜日々〜
最初の方はBLぽいのですが違いますので。
望と悠希、二人の視点から物語が進行しますので、多少ダブル箇所がでてきます。
新月の夜、マンションの上空に一つの白い光の玉が出現し、ゆっくりと暗闇を旋回していた。
少し遅れて、二つ目の玉が天より舞い降りてきた。
よく晴れた朝だった。
こんな日は、高校へ行かず、いつもとは反対の電車に乗って、どこか遠くへ行きたいなぁ、なんて思うことがある。
今日も、そんな気分だった。
でも、ぼくはそうしない。
たぶん、他の人たちもぼくと同じことを考えたとしても、そうはしないように。
いつものように満員電車がやって来た。
ぼくは他の人たちの流れに乗ってその中に吸い込まれて行く。
なんだかそれが、凄く当たり前のようでもあり、違うような気もする。
今の生活リズムの中にいることが、心地よいようでいてなにか異物が喉につかえているような違和感を覚える。
本当は、自分がここにいるべきではないような不思議な感覚にとらわれる。
まるで、家族が他人に思えて、自分も別人に感じる、そんな時がある。
ぼくがぼくではないような……。
「わりーい! 今日の約束パスな」
放課後、帰り支度をしているぼくの肩を内海くんがたたいた。
「どうして?」
「俺、さぁー、今日、彼女とデートの約束しちゃったんだ」
内海くんは少し照れて、頭をかいている。
「この映画、内海くんが行くっていうからチケット買ったんだよ」
そうだ、本当はこんな映画、ぼくは行きたくなかったのだ。
「これさ、お前にやるから彼女とでも行けよ」
「そんな人、ぼく、いないよ」
ぼくは今だかつて、彼女がいたこともないし、振られたことも無い。
別に、女嫌いで男好きなんていう人種でもない。
ただ、人を好きになれなかっただけで。
「だったら、いいチャンスじゃないか、このチケット餌に、誰かさそえよ。 望が誘えば、その辺の女子なら誰でもついて来るって。 おまえって意外と女子に人気があるんだってよ、母性本能くすぐるとかって。 なんなら俺が頼んでやろうか?」
「いいよ」
ぼくは内心穏やかではなかった。
男が母性本能をくすぐるってほめられても、ちっとも嬉しくはない。 男らしいとか、たくましいとか言われるならいざ知らずだ。
「望と映画に行きたい女子いませんか!」
内海くんが手を高々と上げると、チケットをひらひらとさせて叫んだ。
「やめてよ!」
ぼくは慌ててチケットをもぎ取った。
「内海くんこそ、ぼくのをあげるから彼女と行ったら?」
「あややは、ラブストーリーがいいんだって。んじゃ、時間無いから、俺いくぜ」
「勝手に楽しんでおいでよ」
「この埋め合わせは、必ずするからな」
「期待しないで待ってるよ」
高一になってもぼくは、いまだに自分をぼくと呼び、友人たちはいつの間にか俺と言っていた。
ぼくはいつまでもぼくであり、なぜか俺と呼ぶことに抵抗があった。