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第7話 2004年08月04日

「お嬢様、御食事の準備が整いました」

「あ。うん。すぐに行く」

 切りがいいところで作業を中断した。続きは夕食の後にしよう。

 リビングに行くと既に勝平が席に着いていて、私を待っていた。

「ごめん。待たせて」

「いや。別にそこまで待ってないよ」

 私と食事する為に待ってくれている。そんな会話が出来る今がとても楽しく思えて……幸せ♪

「なんだか楽しそうだな。良い事でもあったのか?」

「べ、別に何もないわよ!」

 つい意地を張っちゃう……けど、勝平は気を悪くするわけでもないみたいで……。この幸せがいつまでも続けばいいのにと思ってしまう。勝平を未来に帰さなきゃいけないからこの幸せは今だけのものなのは分かってるけど……それでも、心のどこかでいつまでも続けばいいのにと思ってしまう。

 ピンポーン

「!!!」

 幸せはそう続かない事を知らせる音。

「私が出ますね」

 そう言って、直は玄関に向かう。

 ……やだ……なんで……あ!

「自分の部屋に行って!!」

 慌てて勝平を部屋に行かせた。

 きっとお父さんかお母さんだから。それ以外にここに来る人なんて居ない。直が居るとは言え、知らない男を泊まらせているなんて知られたら……どうなるか分らない。

「奥様!」

 お母さんが来たのか……

「田中さん。あなた、もう来なくていいわ」

「え?!それは……」

「解雇させて頂きます」

 え?嘘?!

「奥様!そんな!困ります!!」

「お母さん!!なんでそんな事言うの!!」

 私は慌てて玄関に向かった。

 直が居なくなっちゃうなんて、嫌!!

「私のお世話をちゃんと出来るのは直だけだよ!」

「お嬢様……」

「なにが『ちゃんと』ですか。私は香澄さんを連れて帰って来る様に、と言ったのですよ。それが出来ない方に、お世話なんか任せられません」

「奥様……」

「さあ、帰りますよ。私もそんなに暇ではないのですからね。その辺も分かりなさい」

 グイッ

 そう言って、私の腕を掴んで引っ張る。

「嫌!私は帰らない!やらなきゃいけない事があるのよ!!」

 必死に踏ん張り、抵抗する。

「やらなきゃいけない事?ガラクタ弄りの事ですか?そんな事をやる時間があるのなら勉強しなさい」

『ガラクタ』……

「そんな言い方しないで!!」

「もう我儘言わないで!今のほんの少しの時間しか空いていないのよ!あなたの我儘のせいで何千億もの取引がパァになってしまうのよ!」

「だったら放っておいてよ!!」

「私だって放っておけるものならどんなに楽か……。でも、そんな事出来ないのよ!さぁ、帰るわよ!」

 さっきよりも強く引っ張られる。

「嫌……いやあぁぁぁぁぁ!!!」

 ガシッ

「!!!?」

 私の腕を掴む手が増えた。

「嫌がってんじゃん」

 勝平!?

「あなた……誰?!」

「別に誰でもいいだろ。それより、香澄、嫌がってんじゃん。仕事が忙しくて大変なのは仕方ねーけど、それで自分の子供放っておいて、都合が悪くなったら無理矢理って、親のする事じゃねぇだろ」

「まあ、なんて汚い言葉遣い……。これは家族の問題なのよ。他人が口出しする事じゃないわ。さっ、帰るわよ」

「嫌!!」

 なんで……今、とっても……幸せなのに……壊さないでよ!!

「もう!こんな口の悪い不良なんかと一緒に居るから……」

 !!!

「勝平の事、悪く言わないで!!!」

 その場の動きが止まった。

「勝平の事、何も知らないくせに『不良』とか言わないで!あんたなんかより、直の方が余っ程母親らしいわ!」

「なっ……」

 肩が震える。手に力が籠もる。喉の奥に溜めていたモノが溢れ出る。

「本当のお母さんじゃないくせに、母親面しないで!」

 溢れ出たモノはもう止められなくて……

「私は認めない……あんたが“母親”なんて……。私の“お母さん”はママだけ!!あんたなんか、“お母さん”じゃない!!もう近寄らないでよ!!放っておいてよ!!あんたなんか大嫌い!!!」

 バッ

 お母さん――いや、女は外へ駈け出し、すぐさま車でどこかに行った。

 溜めていたモノを全て吐き出した私はその場に居るのが辛くて、駈け出していた。

バンッ

 気付くと自分の部屋に居て、小さい頃に撮ったママの写真を胸に抱いていた。

「ママ……」

 ママ、ママ、ママ、ママ、ママ……

 お父さんはママの事、愛していなかったの?

 なんで、あんな女と再婚したの?

 あの女が来てから、お父さん……変わっちゃったの……気付いてないでしょ?

 私だって最初から嫌いだったわけじゃない。

 ママが病気で死んじゃって、寂しくて……最初は新しいお母さんが来てくれたのが嬉しかったんだよ。

 でも、どんどん変わっちゃって……

 気付いたら、あの温かい家族がなくなって……

 温かいはずの御飯がみんな冷たくて……

 いつも独りで……

 周りに人がいるのに、寂しさは消えなくて……

 頑張って何かをしても、何も言ってくれなくて……



 ……ママのところに行きたい……


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