第5話 2004年08月02日
ピンポーン
「!!?」
「ん?誰か来た?……って、どうした?顔色悪いぞ?」
勝平は私の顔を覗き込んで言った。
だって、ここに来る人って言ったら……身内や関係者しかいないわけで……
「こ、ここから絶対に出ないでよ!」
そう言って勝平をガレージに閉じ込め、私は玄関に向かった。
「!!」
覗き穴からそこに居る人物を確認し、ドアを開けた。
「直!?どうして……」
「お嬢様!!幸恵様が怒っていますよ!!」
「いきなり何よ!」
「夏期講習、全く行っていませんよね?」
「そ、それが何よ!」
「ふふ。元気そうで良かったです」
「!!……もう、やめてよね。本気で怒っているのかと思ったじゃない」
「怒ってもおかしくない事をお嬢様はやっているのですよ?」
「それは分かってるわよ……。けど……行きたくないんだもん」
毎日、塾に習い事に……。夏休みくらい好きな事やりたいんだもん……。
「分かります。私も小学生の頃、夏休みは遊び回りましたからwそれより、中に入っても宜しいでしょうか?」
「え!?いや……その……」
「ん?さては……何か悪い事でも企んでいるのですか?だったら私も仲間に入れて下さいよ!」
そう言って直は家の中に入って行く。
「ああ!ちょっと!」
あの人の名前は田中直美。私の家に仕えるメイドの1人。唯一私の気持ちを解ってくれる人で、唯一素直に接しられる相手。私のお姉ちゃんみたいな感じ。
「特に変わった所はないですね」
リビングを眺め、
「となると……ガレージ?」
呟くように言うと、ガレージに向かった。
やばい!
「あああああの!!なんでここに来たのよ!!」
なんとか足を止めようとした。
「それはお嬢様が幸恵様との約束を破ったからですよ」
7月26日からの夏期講習にちゃんと出るなら、それまで好きな事をやっていい。確か、そんな約束だった気がする。行く気なんて全くなかったから、記憶が曖昧……。ついでに言うと、『幸恵』って言うのはお母さんの名前。“母”とは認めてないけど……。私の“母”はママだけでいい。
「私の言う事なら聞いてくれるかもしれないからって、私が説得しにきたんです」
ガレージへの扉に手を掛け、私を見て続けた。
「でも、私はお嬢様の味方ですから。私は……幸恵様の事、嫌いじゃないですけど、お嬢様が一番ですから」
「直……」
やっぱり、私は直が大好き。私の事考えてくれているし、馬鹿みたいな夢でも馬鹿にしないで応援してくれるから。
ガチャ
「あ゛!!」
笑顔の直に油断した……
直はいつの間にかガレージへの鍵を全て開けていた。ガレージには普通の鍵が5つに、南京錠が2つ。合計7つを気付かれずに開けるなんて……怖ろしい奴だと時々思ってしまう……。てか!鍵は全て私の手の中にあるんだけど?!まさか、合鍵?!やっぱり怖ろしい……
そ、そんな事より!!
「ちょ、待ってよ!!」
扉を開けた直は、中には入らず見渡すだけ。
勝平は……居ない?うまい具合に、どこかに隠れているみたい。
「ふぅ」
安堵の溜息を漏らす。よかった。
と、思いきや、
「誰か居るのでしょう?」
え?!
「分かっていますからね。2階のベランダに、明らかにお嬢様のものじゃないものが干してありましたから」
あ!確かに干してる……。でも、普通そんな所見ないでしょ……。てか、直の場合、“たまたま”見たんじゃなくて、“確信を持って”見たんだと思う……。
恐る恐る棚の陰から勝平が出てきた。『ごめん』と顔で表現して私を見る。別に勝平は悪くないんだけど……
リビングに場を移し、直に全て話した。直なら信じてくれると思うし、直にはあまり嘘を吐きたくない。
「普通なら信じられない話ですけど……お嬢様の目を見れば本当だって分かります」
やっぱり、信じてくれると思ったよ。
「それに、とても面白そうじゃないですか。私も聞いたからにはお手伝いさせて頂きます。お嬢様が作業に集中出来る様、家事等は全て私にお任せ下さい」
そう言いながら、目をキラキラさせている。直のそんなところ、大好き。私と同じ位置に立って考えてくれるところとか。
「そうと決まれば早速行動開始です。そろそろお昼ですよね。昼食の準備が整いましたら、お呼びしますね」
そして台所に向かった。
やる気満々の直を見た私達は思わず笑い合った。