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赤い空、赤い影⑤

足取り重く家に帰った勇騎は、夜には帰ると言った手前母親に見つからないようにそっと自分の部屋に入り、音を立てないようにベッドの上に寝転がる。

やっぱりここは安心する、恐怖も嘘のように引いて、全てが夢だと、現実に引き戻される。

現実に引き戻された勇騎が考える事は二つ。一つは月曜日学校でどうしようという不安。

そしてもう一つは陽菜の事、陽菜という幻想が崩れ、頭の中では幸せそうに燿平とイチャつているシーンばかりが想像される。

自分は何の夢もなく、やりたいこともないのに、陽菜はどんどん進んて行っている。

中学の頃は頭のいい陽菜に憧れた、でも今では僕の方が勝ったからと言ってなんなんだ。

僕の高校生活は灰色でこれからずっと灰色だ。学校勉強で勝っても僕は1番にはなれないし、楽しい事なんて何もない、なのに陽菜は高校生活を満喫し、そのまま幸せに結婚、漠然とした将来の不安もないまま、進むべき道を頼りがいのある年上の人と一緒に進んでそのまま幸せになって、いつかは子供が出来て、、

そうなった時自分には何がある。普通に公務員でも、、いや、それになれる可能性も薄い、僕みたいに覇気もなく、行動力も、決断力もない人間は、

きっと普通のサラリーマンで独身のまま30代とか、、まだ高校2年、と、大人は思うかもしれないけど、そんな人が身近にいれば、もうと思ってしまう。

たぶん僕は変われない、変わる事が出来ない、自分で変わろうともせずに奇跡にすがって幻まで見て、揚句、それからも逃げ出した。

「最低だ、ホント、何なんだよ僕は、」

泣きそうになる。つらいだけ、全てが嫌になる。今日は本当に疲れた。

勇騎は腕で目を覆い、嫌な事ばかりを考えているといつの間にか眠りに落ちていた。

 そしてそれからどれだけ時間がっ経った、勇騎は自分の携帯の振動で目を覚ました。

開け放たれたままの窓からは生暖かい風が入ってくる。外は真っ黒、今は何時だ。

携帯を開くと時間よりも先に目に飛び込んできたのは陽菜からの着信。

勇騎は出る事も出来ずに、その着信が鳴りやむまで、怯えるように待った。

振動が止まると勇騎は安心し、時間を確認する。

午後10時30分、、きっと今の電話は家に戻って気にしてくれたんだろう。

勇騎は携帯を閉じようとするが、よくよく確認すると不在着信件数が14件、

それは全て陽菜からの着信、それもこの30分の間に、、何かあったのか、

勇騎は電話をしたくはなかったが、この異常な着信を無視するほど無神経ではなかった。

「もしもし、陽菜さん!何かあったの」

「えー誰?」

「勇騎だけど、、ごめん寝てて気づかなくて、今見たら着信がかなり残ってたから何かあったのかなって、どうかしたの、なんか変だよ、それにすごい音。」

電話越しにものすごい重低音が聞こえ、陽菜を始め、多くの人間の笑い声が聞こえる

「あははは、そうだった。ねぇ、勇騎君も来ない?

いまねー、ヨー君の友達のお店に来てるのー。

ここ凄いんだよ会員制のお店でね。普通の人は入れないの、超凄い感じ。」

「ちょ、ちょっと待って、陽菜さん変だよ。皆もいるの?」

「全員じゃないけどいるよ、えっとあれはだれだっけ、、それでねーあっと、ねんだっぇ」

ろれつが回っていない、明らかにヤバい

「陽菜さん、お酒とか飲んでないよね?」

「あれどうだっけ?大丈夫大丈夫、カクテルとかジュースみたいだし、あとはカルーアなんとかっておう、コーヒー牛乳と、あ、でも、ドライマティーニって超おしゃれな奴は少しだけ飲んだかな、、ちょっとヨー君どこ触ってるのみんな見てるでしょ」

全部お酒だ、特にカルーアミルクとかマティーニとか度数高い奴だ。

それにしてもいくら酔っぱらってるにしてもテンションが異常だ。後ろでは奇声が聞こえる聞こえるし、何だろうこのこの嫌な感じ

「ねぇ、本当に陽菜さんはお酒だけ?」

「えっと、ね、後はね、、あ、」

「陽菜さん?」

「あー悪い悪い、勇騎か、陽菜完全に酔っててさ、悪いな、忘れてくれ」

「もー、ヨー君、私の携帯返して、ちょっと、ヨー君以外はそこ触っちゃだめだって、えー、じゃあ、少しだけだからね、、」

電話の後ろに聞こえる陽菜の声、陽菜だけじゃない一緒にいた女の子の笑い声が聞こえる。

「悪いけどさ、酒飲んでるってバレたらさ、俺も陽菜の両親に怒られるからさ黙っててくれるか、陽菜はちゃんと送り届けるし、今度礼はするからさ。」

「ねぇ、耀平兄ちゃん、危ない薬とか使ってないよね。」

「馬鹿いえ、何言ってんだ。」

「例えば、合法だけど、違法じゃないだけのハーブとか。燿平兄ちゃん、輸入でいろんな国に言っているよね。それこそそういうものが簡単に手に入る国とか、

この世に媚薬なんてものは本当にないけど、人の意識を混濁させて、記憶を曖昧にし、自我を弱らせるようなものならたくさんある。」

「お前、何言ってんだ?陽菜から聞いたぜ。サッカーもやめて、何もせずに、学校でも友達も作らず一人で、ずっと携帯いじってるって、お前、怪しいサイトとか見過ぎだろ」

「もらった名刺、たぶん渡すの間違えてるよ、裏側のアドレス、あれも燿平兄ちゃんのお店だよね。おそらく、飲み屋さんかなんかのお姉さんに渡す為に書いたの、渡せなかった分でしょ。今見てるよ、色々扱ってるね、まんまネットで見たままだよ。

今の世の中、僕みたいな何も知らないガキでも、そういう情報は入りやすいんだ。

僕みたいなただのガキを食い物に商売している人も多いから、今どこ?」

勇騎はいつもの自分じゃないように強気で燿平に迫る。

だが、燿平は舌打ちだけし、携帯の電源を切られた。

しまった、もっと情報を聞き出すべきだった。どうすればいい、、警察に言おうにも場所が分からないし、何よりそんな事をしたら皆が、、、いやそんなことを言っている場合じゃない。でも、どうする、陽菜の両親に言うか、いや駄目だ。陽菜は両親との仲が本当に悪い。そんな事がばれればタダでは済まない。じゃあどうする。

勇騎は思考を巡らせる。

考え過ぎか、いや、その可能性は低い。あれが普通の訳がない、それにもしそうだったとして、その場のノリで、ネットであの価格で売っているものを高校生にタダで使わせるわけがない。

意識を混濁させ、物事の判断をつかなくする、その上、自分達にもお酒を飲んだという罪悪感を埋め込んでの口封じ写真の一枚でもとられていればお終いだ。きっと何をされて覚えていないし、覚えていても誰にも言えない。でも、どうする何が出来る。

そうやって考え込んでいると、勇騎は窓の外の異変に気付く、

そこは夜だというのに空がまた赤い、そして、気配を感じ、勇騎は部屋の隅に目をやると赤い影がいる。でも勇騎にとってそんな恐怖心は、今はどうでもよかった。

「今は君の相手をしている暇はないんだ、消えろ。」

昼間の恐怖心はどこに行ったのか、まったく引くことなく、今まで以上に距離の近い影に対して高圧的な態度をとり、赤い影を無視して、思考を巡らせる。

すると赤い影は徐々に勇騎に近づいてくる。

その影はだんだんと勇騎に近づくたびにその形が定まり、ベッドの横まで寄ってくると、

顔は完全に勇騎そのもので笑っている

「何笑ってんだよ!邪魔だって言っているだろ!」

勇騎は気が散ると、興奮状態で自分の心が作り出した幻覚を攻撃する。

だが、その幻覚には異常なまでのリアリティのある感触があり、腕が赤い影にめり込むと抜けなくなる。すると赤い影はだんだんと形をつくり、腕をつくり勇騎の腕をつかむ。

『、、、何がしたい?』

突然影が口を開が開き語りかけてきた。だが声はしない頭の中に自分の声で、聞こえる

『自分を仲間外れにしたみんなを不幸にしたい?

あの女を自分のいいなりにしたい?

それともこの世界の全てをむちゃくちゃにしたい?』

「うるさい、今はそんな事はどうだっていいよ!

大体なんで全部ネガティブなんだよ。僕は陽菜さんが無事ならそれでいいんだ!」

『、、それが本当の望みかい』

影は笑うのをやめ、そうつぶやく。

「そうだよ、当たり前じゃないか。でも、僕に何が、できるんだよ」

『、、分かった。いいな、僕は誰かの為なら強くなれる。新しい価値観だ、新しい命のカタチとしてはそれもいい。自分の事なら何もできない癖に、他人を理由にするとそんなに必死なれる。空白で虚ろで、幻だからさ、いらないだろ君は、君は僕がもらうよ。』

次の瞬間、掴んだ腕から赤影が侵食するように勇騎の体を飲み込んでいく、同時にその影が勇騎そのものの姿に、自分の体の外から内側から気持ち悪い感覚が走る。

『必要であれば望んでよ、君が望めばいつだって僕は君の理想になる』

「!!!」

視界の全部が赤色に包まれて、何も見えなくなって頭の中をかき回されたみたいにそれも全部塗り潰されたような感覚に襲われた。


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