赤い空、赤い影①
結局、どこにも逃げ場なんてない彼がたどり着いたのは、人気の少ない住宅街にある、誰もない公園とも言えない様なベンチだけが置いてあり、草が覆い茂った空き地だった。
そこで彼は後悔や不安を考えないようにするため、携帯のゲームを始めようとするが、少しも気を紛らわす事も、ゲームに集中する事が出来ない。
頭の中では皆の顔が何度も蘇り、月曜日にあった時の事ばかり考えてしまう。
それにきっと、いくら陽菜でも僕に愛想を尽かしているだろう。
いや、、もうそれはいい、陽菜は元々僕が思うような子じゃなかった、彼女は僕にはふさわしくない、彼女は所詮、他のクラスの馬鹿な女と同じ、馬鹿な、、、馬鹿は誰だよ。
そこでやっと勇騎は自分のした事。自分が言った事を後悔する。
そして想い出されるたびに自分自身が悔しくて仕方がない。
なんで自分だけが、こんなに惨めなんだと、本当に何もない、一生懸命やった所で成績が一番になるわけでもない。勉強だけじゃない、何もかもが中途半端。
小学生の頃、将来の夢がやりたいことじゃなくて就きたい職業なんてつまんない、
俺は合体する巨大ロボットを作るんだ。ムー大陸にある古代遺跡を見つけるんだ。
南極の地下にある地底人を見つけるんだ。宇宙の外側にだって行くんだ。
ころころ変わったけど、大きな夢。そんな事も言えない皆はつまんない、僕はそんな大人にはなりたくない、そう言った。だけど今は、僕は他の誰よりも、理想に遠く、他の誰より子供で、あの時から前に進めていない。口先だけの人間が、自己弁護の為にしかその口も使えなくなった。心だけが劣化して、夢が夢になって消えていく。
「月曜日、、学校どうしよう。」
勇騎の積もり積もった負の思考が、先ほどの爆発してしまった不満の感情が、
とうとう学校に行く気すら失わせた。だがだからと言って、両親からの罵声に耐えて引き籠る勇気もないし、何より彼の家庭の経済状況でそんな余裕もない。
つまりは行きたくないがどうする事も出来ない。
学校に行けばみんなに会ってしまう、家に引きこもる事も出来ない、学校をさぼっても家に帰れば同じ事、家出しようにも自分一人で生きて行けるわけがない、だったら終わらせれば、、とは言えその取り返しのつかない結論を実行する勇気もなかった。
死にたいと思ったことは当然のことながらこれが初めてじゃない、いつもの事だ。
体育祭があった時、文化祭があった時、周りの熱について行けなかった時、誰かと比べて今の自分の惨めさを考えた時。そして陽菜に彼氏がいると知った時。
すぐに、周りの影響だけで死にたいと思う。
ただこの時は、この時はいつもよりも精神のダメージが深刻で、
そしてその時見上げた空が、この世界の景色が勇騎の絶望を後押しした。
見上げた空の光はかげり、一生に一度かもしれない天体ショーが今、始まろうとしていた。
その光景に姿は見えないが辺りが騒がしくなり、太陽が少しかけ、ゆっくりと光が遮られていく。さっきまで明るかったのに徐々に暗くなり、丁度、生暖かい風が吹き出した。
勇騎はこの自然環境が作り出したただの偶然に、世界の終わりを身近に、手軽に感じる出来事として、破滅的な奇跡を期待した。今なら、普通じゃない事が起こるんじゃないか
死という過程で奇跡が起こらないかを期待した勇騎。
辺りに転がる死の可能性を探し出す。車、刃物、、は痛いし確実じゃないし、何より奇跡の絵が浮かばない。そして視覚に入ったのがマンションだった。
飛び降り自殺、この不気味で、不穏な雰囲気の世界で死ねれば、それに飛び降り自殺なら、痛いのも一瞬だし、周りの人間も日食の中に飛び降り自殺をすれば、何かがあったのじゃないかと逃げたのではないと、死のメンツを保てるという自己の理屈を頭に展開する。
でも、奇跡なんか起きずに本当に死んでしまうかもしれない痛いかもしれない、
奇跡に期待し、死の体裁も取り繕いながら、現実を捨てきれない。だから、無意識化に勇騎はこの奇跡の風景に見なう他の可能性模索した。
そして記憶の片隅から呼び起こされた別の可能性、勇騎はそこに希望を見出し、携帯で検索を始めた。調べたキーワードは「異世界への行き方」