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それはよくある絶望の日常②

あの日から勇騎にはよくない事ばかり起きている。

自転車が壊れたり、両親に些細な嘘がばれて本気で怒られたり、今どき不良に絡まれて、怪我をさせられてお金も取られたり、それだけじゃない、小さな不幸が勇騎に降り注ぐ、

ネガティブに考えているからそういう事になるのか、本当に悪い流れなのか、そんな事を考える余裕すらない程、勇騎はどんどんどんどん深みにはまっていく、きっと明日も良くない事が起きる、きっとその先もずっと、僕にはいい事なんて起きるわけないんだ。と

小さな不幸が続き、これから先の些細な楽しみも期待できなくなっていく。

あのゲームの続きがしたいから、あのアニメの続編が見たいから、明日も、来期まで待とう。今までだってその程度の繰り返しだ、将来に希望があったわけじゃない。ただ近い将来の小さな楽しみを見て不安を、不幸を見ないようにしていた。でも、今はネガティブ思考、漠然とした将来の不安が、その小さな歪から流れ込み頭の中を支配する。

気が付けば考えるのは後悔と陽菜の事ばかり、頭の中で自分ではない誰かと幸せそうな陽菜を思い良からぬ妄想をしては後悔ばかり、自分は何をしてるんだ。

何のために生きている?死んだ方がマシじゃないか。

死に希望を持つことをこんなに簡単にできるほど、彼の心を弱く、そして情けない。


そんな毎日の中での出来事だ。唐突に、天城陽菜が彼に話しかけてきた。

今週末の土曜日、180年ぶりにこの街でも皆既日食が見る事が出来る。

天体観測が趣味の歴史の先生が授業そっちのけで熱く語った後の10分休憩。

クラスの中ではその事について、皆で見に行くの、行かないの話をしていた。

当然自分には関係ないと知らぬフリをしていた勇騎だったが、強引に誘われていた陽菜が、勇騎君も一緒にいかない、と誘ってくれた。恋人がいると分かった今、それが社交辞令だとしても、彼女の言い方はそれを感じさせなかった。

だから勇騎は思わず、同意し、そして当日になって後悔する。

当日、駅で陽菜を待っていると、白い高そうな車からクラクションが鳴る

「勇騎君!こっち!」

聞き覚えのある声、その声の主は車から降り、勇騎に近寄ってくる。

それが誰か当然分かっている、でも、頭の中で、全力で否定する。

そこにいたのは化粧をし、ネックレスに、短いスカートに、少し胸元が見えるような普段とは別人のように大人びた『女』の恰好をした陽菜だった。

それが誰の為の恰好か、何のための恰好か、言うまでもなかった。

「天城さん?」

「あれ?変かな、この格好」

怪訝な表情をする勇騎に陽菜は笑いながら自分の恰好を見返す。

「う、ううん、ちょっと見なれなくて、」

「かわいいでしょ?」

「うん、、、」

性格まで自分が知っている陽菜とは違う、陽菜はこんなにはっきり喋る子でも、ここまで明るい子でもない。

「あのね、今日、ヨー君に日食見に行くって言ったら、一緒にいってくれるって、」

「え、でも、、皆には?」

「うん、言ってあるから大丈夫。一緒に来て言いよって、それにヨー君。

結構王高いカメラも持ってるから、綺麗に取れると思うよ日食。

勇騎君にもあげるようにお願いしてるから、さ、行こ」

陽菜は何の躊躇ないもなく、勇騎の手を引き、車に招き入れる。

「さ、お待たせ、行こうか」

「勇騎久しぶりだな、1年ぶりくらいか?」

「4年だよ。最後にあったの、たぶん小学5年の時だから、」

陽菜の恋人のヨー君、改め、瀬名耀平。それは勇騎もよく知っている人だった。

恋人が出来たとは聞いていたが、それが誰かまでは知らなかったが、

あぁ、なるほど、考えてみればそうだ。この人がいた、何で気付かなかったんだ僕は、、

彼は4歳年上で、勇騎も小さい頃遊んでもらっていたお兄さん

「瀬名兄ちゃん、、、兄ちゃんって確か引っ越したんじゃなかったけ?」

「あー違う違う、俺さ、高校でサッカーやる為に、寮生活してただけだよ。

お前らが中3の頃には戻ってきてるよ。」

「ヨー君凄いんだよ、インターハイにも行っててスカウトされそうになってたんだよ。」

「ばか、違うよ、スカウトしに来たのは俺じゃねぇよ。俺はそこまでうまくないし、それに実力の差もあるし、こうやって自由にやってる方が、好きなんだよ。」

「へー、でもホント久しぶりだね。今は大学生だっけ?結構高そうな車だけど、両親の?」

「違うよ、俺が買ったんだよ。ほらコレ、」

そう言って耀平は停車中にプラスチック製の黒の名刺を勇騎に渡す。

「大学の先輩たちと一緒にネットで輸入雑貨のセレクトショップやってるんだ。

あ、大学の近くにもリアルのショップもあるけど、ネットがメインだな。」

「すごいでしょ、かなりおしゃれで今度勇騎君も言ってみてよ」

そうやって自分の事よりも嬉しそうに話す陽菜の笑顔がつらい。

「そりゃマジでプロ目指している時は世界にいくことも考えてたからな、英語くらいはな。勇騎はまだサッカーやってんのか?今度やろうぜ」

「いや、僕は小学校で辞めて、今はもう何もしてない。」

「ふーん、、、なぁ、勇騎ってこんなにおとなしかったっけ?」

「ヨー君が変わってるから驚いているんだよ。」

二人は後部座席に聞こえないように、話すが聞こえている。

勇騎はこの密室の中で、話をふられているのに、ものすごい疎外感を感じている。

そして次第に外の景色ばかりを見つめ、自然に会話からフェードアウトしていく。

そうして始まる二人だけの会話。

お互いを分かりつくしている会話、二人の関係が一夕一朝ではない事は聞けばすぐにわかる。そしてその中身のない会話を聞くほどつらくなっていく、

あぁ、こんなどうでもいい事で話していいんだ、何でここに自分がいるんだろう。

そうやって落ち込んでいる勇騎を察してか耀平が勇騎に話しかける

「そう言えば、勇騎、彼女できたか?」

「いや、俺はそういうのは、、別に」

「そうなの?勇騎君優しいし、勉強もスポーツもできるからいると思ってた。」

「そうだよな、顔も悪くないし、」

「そうだよ、ヨー君より、断然綺麗な顔立ちだよ。というかヨー君ひげ剃りなよ」

そう言っているけど君は彼を選んだんだろ、、、

「ばっか、ワイルドな感じが出るよう整えてんだよ。だいたいお前もこっちの方が好きじゃねえか、あ、そうだ勇騎、陽菜さ、普段こんなに偉そうなものの言い方してるけど、、二人っきりの時はすっげえ甘えてくんだぜ。」

「ちょ、何言ってんのよ!」

「ツンデレってやつか」

いいや、ただのデレデレです。勇騎は心の中で突っ込む

「この間もよ、何考えてんだか、勝負下着とか履いててさ」

「ヨー君!ホント止めて、本気で怒るから、、」

陽菜はその細い腕で叩いても無駄だと分かっているのか耀平の髪を引っ張る。

「分かった、分かった、危ないから、辞めろ。でもま、今からだよな。俺男子校で部活ばっかやってたから出逢いとかなかったからな、お前がうらやましいぜ」

「今は私がいるでしょ」

なんなんだよ。その笑顔は恥ずかしいなら言うなよ、イライラする、すごくイライラする。

「そりゃ他にやりたい事があって、女なんてって思ってるかもしれないけどさ」

いいや、僕には他にやりたい事も何もないです

「俺からアドバイス、大学入ったら、彼女が出来ると思ったら大間違えだからな、

居ないやつは4年間いないままだからな。というか1年の時までが重要かな。そこでサークル入るなり、友達作っとかないと人間関係伸びないから、後はバイト先とかだけどそっちの方が確率低いし、相手に遠慮して奥手だと損するし、絶対向こうから声掛けてくれるとかないから、だからさ、勇騎、お前今からでも、絶対彼女作ろうとした方がいいって、

もし振られても断然いいから、そういうの当たり前だから、そうしとけば絶対彼女できるから、な。これマジでアドバイス」

僕は何でこんなこと言われているんだろう。何を心配されているんだろう。

僕の好きだった人はあなたが取って、あなたが彼女を変えた。

「うん、そっちの方がいいよ。絶対、好きな人がいるってすごく楽しいよ。まぁ、私とか、そればっかになっちゃって、勉強とかにも身が入らなくて成績とか落ちちゃってるけど、」

そうだ、そう言われれば、元は陽菜の方がずっと頭良かったのに今は僕よりも下だ。

だけど、、陽菜は少しもそのことを後悔なんかしていない。

男が出来て馬鹿になって最低だ、、、いや彼女が間違ってると思いたい僕が馬鹿だ。

陽菜も燿平も何も悪くない、寧ろこんな自分なんかを気にかけてくれて、、

「あ、ちょっとごめん、」

耀平の携帯が鳴り耀平が車を止め、電話に出る。電話の相手は外人だろうか、英語か何か外国の言葉で話している。流暢に話しているが、陽菜は少しも気に掛けない。

きっとこれが当たり前の光景だ。そんな中、突然、耀平がテンションを上げて話しだした。

何かいい事があったのだろう、何度も何度の抑揚がある言葉で感情を表現している。

「何の話だったの?」

嬉しそうな耀平に陽菜が尋ねる、

「この間言ってたフランス、陽菜も来ていいって、しかも、夏休みまるっと1ヶ月。

向こう側で家借りてくれるって、」

「嘘!ホント、」

二人は勇騎の事など目に見えないくらい、喜んでいる。

どうやら耀平達の会社に来た大口の客から定期的な商品の輸入の交渉を任されたらしい、その為のパートナー探しに、フランスに夏休みの間、8二人でフランスに行くらしい。

「よかったね。」

勇騎は心にもない事を口にする。

「うん、お土産期待しててね。」

「うん、、、、でもさ、夏期講習どうするの?うちら特進だから必須だよね。」

「勇騎君、皆には秘密だよ。まだ何も言ってないし、まだみんなにいうには早いかなって思ってるし、私ね、大学には行かないの、だから3年の時に特進クラスからは離れるの」

「え、どうして?」

「それは、その、、」

「結婚するんだよ俺ら、陽菜には大学に行ってもいいて行ってるんだけどな」

「別に大学行ってもやりたい事があるわけじゃないし、私がそうしたいの。」

「え、でも、結婚って、、」

「あ、別に子供が出来たとかそんなんじゃないからね、でも、結局そうなるんだったら早い方がいいかなって、実はヨー君、取引先からウチに来ないかって言われてて、」

「それを断ったら、出資するから会社をやってみないかって言われてるんだ。」

「でも、その条件が、東京に来る事、一応子会社って扱いだから目の届くところに置きたいっていうのもあるんだろうけど、向こうの方がやっぱり何かと都合がいいみたい。」

「それで、、陽菜さんも一緒に?」

「うん、」

「不安とかないの、、だって、自分達で会社をやって、もし失敗したらとか、」

「ない訳じゃないけど、中途半端はよくないかなって、私ね、最近英語だけはまじめに勉強してるの、後、簿記とパソコン。それでね、、」

なんなんだよこいつら、ほんと、なんなんだよ、、


憂鬱な気分で車に揺られ、皆との約束の駅の近くの駐車場に車止め、駅に歩いていく。

皆は、驚いた表情で陽菜の格好に触れ、普段と違う彼女を、かわいいやそっちの方がいいと口にする。そして燿平にもかっこいい、や大学生なのに起業家なんて憧れるなどの、

おべっかとも思える賛辞の嵐、皆燿平に会うは今日が初めてのはずなのに、なのに1年以上一緒にいる自分よりも馴染んでいる。この光景にいつもの悪い勇騎の癖が出る。

それは周りが盛り上がる程の彼の熱が冷めて行く、ここに来るまでに、これ以上冷める事のないと思っていた彼の心がさらに凍りついていく。くだらない、、

そしてそのいつもの悪い癖に、今回はこのリア充ども!という一方的な嫉妬心も加わり、勇騎の頭の中だけで怒りと、抑えようのない不満が爆発する。

いつもであればそれでもストレスを抱え込むだけだが、今回はそうはならなかった。

でも、それはとても子供じみていて、協調性にかけ、何より逃げるための行動。

この状況下、嘘だと誰もが分かるのに、突然、勇騎は適当な嘘をついて用事が出来たと、引き留める皆を無視して、逃げ出そうとした。

空気を壊し、雰囲気を悪くし、隠し切れない嫌味を込めて自分は興味がないからと勝手にいなくなろうとする。女子からはせっかく誘ってあげたのにという目で見られ、正義感を振りかざした男子からは調教性にかける勇騎に対して、直接的な怒りが飛んでくるが、自分の事なんか気にしなければいいんだよ、だいたいなんだよこんなもの皆で見て何になるんだと逆切れの様に言い捨てまるで勝ち誇ったように、興味がないと、逃げ出していく。

すぐに陽菜からの着信がかかってくるが、勇騎はその電話に出ることが出来ない。

もうこうなってしまうと勇騎自身どうする事も出来ない。

感情がむちゃくちゃで、止まる事も謝る事も出来ない。

ただ一つだけわかっている事は、彼らには会いたくない、逃げないと『いけない』。

そうして人がいない方へ、本能的に早歩きで逃げ出していく。


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