君のためにできること
そしてその静かな夜の恩恵は彼らにも、りりかが、自室のホテルで目をさますと、横で嬉しそうに笑いかける。
「おはよう、、、ちょっとごめんね。」
そういって、勇騎はりりかのおでこを触り反対側の手で自分を触る。
「うん、さっぱりわからないね。熱は下がったのかな?」
「わたし、、えっと、、」
記憶が混濁し、想い出せない、自分のものとそうじゃないもの、ものすごく気持ち悪くて訳が分からない事があったような気がする、でも何があったのか思い出せない。
烈火たちと再会したあたりからの記憶がない、でも何も思い出せないが、
今はなぜか勇騎がいてくれることで安心できる。
「色々あって疲れが出たんだと思うよ。でも大丈夫。心配ないから、今の僕のお墨付き。
少し何か食べれる?食べれるね?ちょっと待ってて,、
あぁ、まだ動いちゃダメだよ。疲れて熱が出てる。」
一方的に話しかけて勇騎は部屋を出て行きどこからか、うどんを持ってきた。
「僕の手作り、、お母さんが作ってくれたのマネしただけだけど、大丈夫、味見してるから。」
「食欲がないの、、」
「ダメだよ。はい」
勇騎は箸で小さくうどんを切り、突きつける。少しも引こうとしない勇騎に観念したのか、
「いい、自分で食べられるから、、」
そう言って勇騎から箸を受け取る。
「それ食べられるだけでいいから、食べたらコレ、市販の解熱剤はね。
まだ少しきついでしょ、飲めば少し楽になるよ。飲んだらもう少し寝た方がいいかもね。
少しまだぼーっとするでしょ。」
「勇騎君、私、どうしたんだっけ?」
「?思い出せないの?」
「うん、」
「そっかー、それは残念だな、僕、りりかの為にカッコつけたつもりだったんだけどな、。
でも、想い出せないなら仕方がないか。また別の機会にでも、、、何それが気になるの?」
りりかは勇騎の買ってきた薬を見ている。
「熱だけみたいだから、解熱鎮痛剤を買ってきたよ。一般的に解熱鎮痛成分に加えて、鎮静成分も入っているんだ。でも、これはそれが入ってなくて、解熱鎮痛剤としても副作用が比較的少ないアセトアミノフェンの単剤処方だから心配しないで、
ちなみに沈静成分が入っていないから僕が鎮痛剤。」
「気持ち悪い事言わない、、、後子ども扱いしないでそれ子どもに使うやつでしょ」
「成分量が300ミリグラムで大人用だよ。これはあくまで安全性が高いから子供用でも同じ成分を使っているだけ、だいたい子供と大人なんて人体の構造上は違いがないんだから、大人にだけ聞かない薬なんてないよ。まぁ、これは比較的意も荒らしにくいしね」
「薬詳しいの?」
「そうかな?まぁ、市販薬くらいは、処方性なしで買える解熱鎮痛成分なんて、数種類しかないから、簡単に覚えられるよ。アセトアミノフェンに、イプブロフェンに、映画とかに良く出てくるアスピリン事、アセチルサリチル酸、後は第一類のロキソプロフェンとか、でね、、」
勇騎は、頭のぽーっとしているりりかの横で興味のない知識をべらべらと喋っている。
そのうどんを食べ、薬を飲んで横にながらりりかは社の事を思い出していた。
社も最初一人でいた彼女に無理矢理
「ほら、やるよ。食えよ。うめえからよ。」
とコンビニで買ってきた。辛口のチキンを差し出してきた。いらない、辛いのが苦手だと言ったのに、そんなの関係ないと無理矢理押し付けてきた。
最初の印象は最悪。でも、社は嫌がっても、それでも、ずっと話しかけてきた。
「お前さずっとここにいるよな。」
「ばっか、寂しくない奴がこんな所にいるかよ。それにな、寂しいっては別に悪い事じゃねえぞ。俺のダチに一人全くそういう事を感じない奴がいるがあいつは駄目だな。」
社は何か干渉してきたみんなが避けるりりかにしつこく、そしてどうでもいい話をいつもする。でも、行き場のないりりかが風邪をひいていつものコンビニに行けなくなって3日。
社は町中を探してりりかを探した。探して怒ってくれた、そして看病してくれた。
看病と言っても、プリンに、スポーツ飲料、それに幼児用のシロップの風薬など的外れなものばかり、その上、横でずっと話しかけて眠らせてもくれない。
でも、ずっとついててくれた、傍にいてくれた。
そしてもう二度とこんな事が起らないようにと、場所を与えた。
ここなら広いから部屋位いくらでもあると、家主である烈火の許可など取らずに勝手に部屋を与えてくれた。
強引でうるさくて、でもその根本には心配してくれているそれがちゃんと分かるから嬉しかった。この人は私を拒絶しない、この人は私といて嫌じゃないんだ。
気が付くと眠ってしまっていたりりかは不意に目を覚ました。外を見ると真っ暗。
いつの間にか夜になってしまっていた。
「、、、、泣いてる、、、悲しい事でも思い出した。」
「、、、別にちょっと昔の事、、、ずっと起きてたの?」
「うん、というか僕はもう眠る必要もなくなったみたいで、眠れないんだ。この世界の創造者たちがこの世界でおかしくなって自分たちで自分たちを否定して消えて行った気持ち、少しだけ分かるよ。」
「勇騎君、、、、そういえば、勇騎君、確か元の世界に戻ったはずじゃ。」
「まぁ、今度は進んでこっちに来たわけで、でもその為に、こうなったのも別に悪くはないよ。色々な事が分かるようになったし、りりかをイルシードから守れるわけだし。」
りりかはその時、無くした記憶を思い出していた。そしてあの時、勇騎の心に守られて、垣間見えた勇気の記憶で、勇騎がどうなってしまったのかも理解した。
勇騎は人ではなくなってしまった。そしてそれを選んだ勇騎はもう戻る事も出来ない。
眠る必要も食べる必要もない、それどころか死ぬ事も老いる事も、変わる事が出来ない存在になってしまった。烈火やきららとも違う。この世界に完全に受け入れらた存在になってしまった。
「ごめん、私の為に。」
りりかは思わず泣き出してしまう。自分の世界で、勇騎は、、、
「思い出したんだ、、、僕は選んだんだよ。りりかが気にする事じゃない。というか僕はりりかを泣かせたかったわけじゃないんだけどね。」
勇騎は泣いているりりかを自分に引き寄せる。
りりかはもう、勇騎を拒絶はせずに勇騎の服を掴んで泣いている
「でも、僕の為に泣いてくれてありがとう。」
「だって、だって、、そんな、、、」
その日、結局りりかは朝まで泣き続けた。そして翌朝りりかはまた眠りについた。




