悪意を塗りつぶすもの
勇騎はその社の形をした闇を睨みつけ、力任せにりりかを奪い取る。
りりかの体の奥に食い込んでいた闇がすっとまるですり抜けるようにりりかから離れ、
勇騎の強い心の光が形をなし、緑色の光の龍の様に形を二人に絡みつき闇を退ける。勇騎は貧弱な力で、必死にりりかを抱きかかえ、灯の所まで後退する。
「どういう事だい?通常、心に根を張ったイルシードを力任せに取り除く事なんてできないそんな事をすれば、心は壊れるはずだよ」
「前に、烈火さんにもう一人の僕が殺されそうになって、僕が急に異世界から現実世界に戻された時、りりかの体をすり抜けた事があったんです。異世界をマイナスの世界とするなら、現実世界はプラスではなくプラスマイナスゼロ、その時僕はマイナスからゼロに戻る反動でプラスの世界にいったんじゃないかって、プラスとマイナスは決して重ならない。だから僕はりりかをそっちの世界まで引き込めばって、思ったんです。
異世界が死をも恐れぬ覚悟、そして反逆の意思なら、僕が見たその世界は、生への賛歌、そして運命を受け入れるという事。
感覚でやってるから何とも表現しにくいですけど、、」
「なるほど、言っている事は主観で意味不明だけど、君はどうやら、先天的な退魔体質のようだね。今までこういう世界に縁がなかったのもそれによるところが大きいようだ、今までの無意識化にやってきた事が、ここ最近の君の周りで起きた急激な変化が、君の力を呼び起こさせた。でも、ここら辺でその光は抑えた方がいい、君の光は少なからず、君のいう所のマイナスの世界に属するりりかちゃんには辛いものがある。」
勇騎がりりかに目をやるとつらそうな表情呼吸を荒らげている。
「りりか大丈夫?」
「大丈夫?少しきついだけだから、それよりどさくさに紛れて何呼び捨てにしてるのよ。」「ダメだった、」
「だめ、って言いたいところでけど、どうれも、いいわ、勇騎君の好きにすれば、、」
「あの、灯さん、後はお任せします。僕はりりかを静かな場所で休ませたいです。元々戦いは得意じゃありませんし、あれの相手、お任せします。」
先ほどりりかから離れた闇にあたりからイルシードが集まり徐々に大きくなっている。
「責任放棄かい?」
「職務全うです。灯さん達の仕事は、ああいうのと戦う事でしょ。僕の使命はりりかを守る事です。」
「言うね、言ってて恥ずかしくないかい?」
「いいえ、全然。僕にとってはりりかが守れればそれでいいんです。今は一刻も早くりりかが休める場所に、戦いはプロにです。」
「勇騎君、私の事はいいから、」
「い、行って、勇騎君、後は私たちで何とかするから」
「きらら、、」
「わ、私、りりかちゃんの事、苦手じゃないけど嫌いじゃない、からだから、ご、ごめんなさいの代わりに、りりかちゃんのこと守るくらいはしたいから。」
「だそうだ、仕方がない、今回だけは特別に無料だ。その代りそこまで言ったんだ。ちゃんとりりかちゃんの笑顔を取り戻してくれよ。」
「もちろんです。愛する人の笑顔を作るの恋人の役目です。」
「あなた、またそんな馬鹿な事を、、」
「言ったでしょりりかが好きになってくれるまで好きだって言い続けるって」
「いいわよ、もう私の根気負け、恋人でもなんでもなってあげるわ。とりあえず今はその言葉に甘えて休ませてもらうわ。実は結構限界ぽ、、、ねぇ、灯、私の事怒ってない?」
「怒っていないと言えば嘘になる、でも、だれもりりか事を嫌いになんてなってないよ。
心配だっただけさ。気持ちの整理がついたら必ず顔を見せにおいで、
今まで通りとはいかなくても、待っているからトケンはいつでもりりかの居場所だよ。」
「何事ですか!灯、町中から気持ち悪いのが集まっているじゃありませんか」
「流石、五代さん、いいタイミングです、久しぶり大物ですよ。」
「りりかあなた、、、」
五代はりりかと勇騎の様子を見て何となく状況を察する。
「あなたの事を見くびっていたようね。りりかの事をお願いしますわ。」
「はい!」
勇騎はりりかをお姫様だった子をしたまま宙に飛びここから遠くへ離れていく。
残された3人は結界を張り、この終結する悪意の収束を防ぐ。
だが、一度集まり始めた悪意は加速度的にその集約を早める。3人がかりでも、結界を維持するのがやっとで、結界内にあるイルシードの集合体に対応できない。
りりかから離れたそれは明確に社の形を成し始めている。
「烈火先輩いい加減起きてください、出番ですよ!」
一通り、結界を張り終わると、灯が倒れたままの烈火に語りかける。
「、、、言われなくても分かっているようやく慣れてきたと所だ、全くやってくれる。
だが、この俺があの程度で、屈すると思ったのか?それが気に入らん。」
「破壊の神、反逆の王、反骨精神の塊、ひねくれ者。」
「おいどんどん規模が小さくなっていくぞ」
「ですが本質には近づいていますよ。私たちを失望させないでください。烈火先輩。」
「俺はただ武で示すだけだ。」
勇騎の心に反応し心の臓から緑の光が溢れたように、烈火の四肢から荒れ狂う業火のように黒い闇が形をなし龍をを形成していく。
「心なきものに、死を持たぬ者、恐怖の概念を持たぬものに恐怖を刻みつけてやるよ。
あと澪、いつかマジでぶっとばす!!」
「烈火!澪というのがだれか存じませんが、女性に暴力を振るうなどと万死に値しますわ。」
「いま、ちゃち入れるところじゃないでしょ」
「あら、それほど気負わなければいけない相手でしたの?底の知れた男です事。」
「ふう、全く。だったら、片手で片を付けるのと、秒単位で終わらせるのとどっちがいいですか?」
「そうだな、私はド派手なものがいいな」
「灯には聞いてないだろ」
「きららちゃんも、見たいよね、烈火先輩の必殺技。」
「必殺技とかねぇし、まぁ、必ず殺すけどな」
「かっこいいの、見たくない?」
「みたい!」
きららはくい気味に答える。
「という事で烈火先輩、ド派手なのを、あと怖くないで、血とかグロはオフでお願います。」
「だったら、結界を解け、この程度じゃ相手にならん。物はついでだ、まとめて消し飛ばしてやるよ、その方が世の中すっきりする。」
「本当にいいんですか?まるで世界の全ての悪意がここに流れ込んでくるようですよ。」
「なに、それを全部束ねたところで俺の心には届きもしないさ」
その日、この町では不思議な事が起きた。誰も彼もがその日大きな音を聞き、そして、わずかな人は荒れ狂う大きな黒い龍を見たという。
そしてその日、この世界から、わずかばかりの悪意が消えた。そう、消えてなくなった。
消えてしまったそれを埋めるように、世界から、人の心から、悪意が、憎悪が、流れ出た。
足りないものを補うように、人の世界から悪意が消える。
彼が生きるは悪意に満たされた世界、悪意が尽きる事のない世界。
だが、それが彼の選んだ、彼女が余儀なくされた、彼らの居場所。




