ギブアンドテイク
三十分後、ようやく拘束の解けた勇騎は、灯が最後に自分の頭の上に乗せて行ったジュースの缶に怒りを込めて、ごみ箱に葬ると柄にもなく、感情のままに咆哮を上げ、大きく深呼吸をする。
「人を馬鹿にするのも大概にしろよ。
何だよ、偉そうに、僕には何にもできないだ。もう一度異世界の扉を開いてやるよ。」
勇騎は記憶を辿り、推理を巡らし走りだす。
目的地は神社、一度だけ見た事のある記憶の場所をたどる
「よう、俺のとどめでも刺しに来たのか?」
一時間後、勇騎がたどり着いたのは自分の中に流れ込んだ記憶の風景、それはもう一人の自分が烈火に襲われた場所だ。
動けないもう一人の自分の横で、陽菜が泣き疲れ眠っている。
ただその手は必死に彼を握っている。離れないように、どこにもいかないように
「違う、頼みがあってきた、良かった、まだ死んでなくて」
「時間の問題だ。そう長くはない。できれば静かにしてくれ、陽菜が起きてしまう。
最愛の人の寝顔を見ながら、死んでいくのも悪くないと思ったんだがな。」
「、、、君は僕のドッペルゲンガーなんだろ。」
「そうでもあるし、そうでもない。記憶を戻されて分かったよ。俺はお前のドッペルゲンガーに取りついた存在。人が生まれるよりもずっと前にこの星に生きた生物さ。
個を求め、共同体から抜け出し、器となるお前のドッペルゲンガーに取りついたが、何らかの手違いで記憶を無くし、自身お前だと思い込んでいた。
そういう意味では俺自身お前のドッペルゲンガーだといっても差し支えはない。」
「記憶が戻っているって、だったら、頼みがある。僕をもう一度異世界に行けるようにしてくれ。頼む。」
「異世界?あぁ、、俺たちの世界の事か、それをお前の存在を奪った俺に頼るのかよ。」
「手段を選んでいられない、僕にとって唯一の希望が君なんだ。」
「、、、、あんなところに戻りたいなんて、とうとうとち狂ったったのか?」
「まともじゃないかもしれないけど、僕の意思だ。」
「、、、いい目つきじゃねぇかよ、最初からお前がそうやってしっかりしてれば、俺に否名を取られることも、俺がこんな目に合う事も、いいや俺が目覚める事もなかったんだよ。」
「でも、後悔はしてないよ。君はどうだか知らないけど」
「俺に女を取られたのにかよ?」
「君は本気で陽菜を好きなんだろ、俺は君に負けたんだ。それだけの事さ、陽菜は君の事を助けようとしてたんじゃないのか?」
「あぁ、でも無駄だって教えた。納得したわけじゃなかったけど、この手を離せばもう二度と会えなくなるから一緒にいてくれって。最高に強くていい女だよ。
俺の為にこうしてくれている。で、なんでわざわざ、異世界に行きたい。
お前は分かっていないだろうが、あそこは本来俺たちの魂の保管所、人間がいつまでもいれる場所でもなければ、お前が思うほどいい場所でもないぜ」
「そんなの一か月もいればわかっているよ。あそこがそんなにいい場所じゃない事くらい。」
「それでもあえて、、女か?」
「あぁそうだよ、何かいけないかい。」
勇騎は揺るぎ無く即答する
「いいや、俺もだ。だよな。結局行き着くところはそこなんだなってな。変な話だろ、俺には元々理解できない概念だったのにな。」
「僕にとって大切な人が、向こうの世界で大変な目に合っている。彼女を助けないといけないんだ。だから力を貸してくれ。」
「、、、、断ると言ったら、、」
「他の方法を探す、異世界に行く方法を片っ端から試すだけだ。」
「、、、いいだろ、取引だ。お前の存在の全てをよこせ、そうすれば俺の全てをくれてやる。そうすれば俺は病院にも行ける、俺は本当の人間になれる。そうすれば助かるだろう」
「分かった!それで」
「、、、、一つだけ忠告しておく、異世界は遥か昔に進化に行き詰まった俺たちの寝床だ。そこで俺たちは自ら作り出した、進化の種が芽吹くまで待っていた。そして俺たち器足りうる人間が生まれ、俺たちを受け入れるだけのお前たちが覚醒し出した。
寝床は間もなく役割を終える、次々に俺の同類が目覚め始め、異世界は姿を変える。
あそこはお前が思うほど生易しい世界でなくなるぞ」
「それは僕の問題で、君には関係ない話だよ。いいから早く、君にも時間がないんだろう。」
「、、、、ぶっとんでんな、いいだろう手を出せ、ついでにいいものをくれてやるよ。今のお前なら、使えるだろ」
「いいもの?」
「異世界では認識が力になる、物理の法則は通用しない。思いひとつが形となり力となる。
今のお前なら、使えるだろ、意志を形にウィルシードだ。」
「イルシードって、悪意を植え付けるつもりですか?」
「違うウィルシードだ。根源の意思と呼ばれる異世界でドミネータークラスの力だ。
お前の一番大事で強い思いに反応する。その為に必要な力を与えてくれる。
要はお前が助けたいと願うのなら、可能性が0はあり得なくする力だ。
人間になる俺にはもう不要な力だ。」
「、、、、」
「なんだ、今更後悔か?」
「いや、そうじゃないけど、陽菜の事、そしてお母さんの事をよろしく。今までお母さんとは仲良く出来なかったし、たった二人の家族だけど少しも仲良く出来なかった。
押し付けるようで悪いけど、お願いします。って。」
「あぁ、心配するな。でも、ちゃんとお前の事、分かってたよ、お前の母さんは、それに陽菜だって、、元々な、陽菜はお前の事を好きだったんだよ。ただ、あの男に告白されてそれで付き合った。きっと勇騎君には別の好きな人がいるんだって。
お前は愛されていた。その事も、気づけなくても、話せば、言えばわかった事だ」
「はぁ、僕はそんなんばっかだね。全部僕のせいだ。」
「なに、みんな同じだよ。それにお前は、今は違うんだろ、さ、行って来い。分かるだろ世界が変わったのが、」
勇騎の周りの空気が変わる、空が赤く、肌にまとわりつく感覚も今までとは違う。
「これでお別れだ。っていっても、もう見えないけどな。」
「ありがとう、っていっても聞こえないんだよね。」
その時だ、陽菜が不意に目を覚ました。
「ゆ、勇騎君。」
「起きたか、悪い陽菜、少し事情が変わった。救急車呼んでもらえるか?
俺は助かるかもしれない」
陽菜は慌てて携帯で、救急車に電話をかける。
そして電話を掛け終わると、もう一人の勇騎に駆け寄り、励ますための声をかけ続ける
「それじゃ、陽菜、さよなら、今までありがとう。」
勇騎が立ち去ろうとした瞬間、不意に陽菜が勇騎の方を見る
「どうかしたのか?」
「ううん、なんでも、ただ、そこに誰かいるような気がして、幽霊かな、
でも、なにかなすごく寂しい感じと、、、、罪悪感。なにか謝らないといけない気がして。」
「謝る必要なんてないよ。陽菜は何も悪くない、でも、ありがとう」
勇騎は神社から走り出す。走り出した勇騎の足取りは軽い、まるで空でも飛んでいるようだ、というより明らかに早いし、息も全然切れない。
「あそうだ、どこに、いやどっちに、、、」
勇騎は立ち止まり、目指すべき方向を考える。
だが、勇騎は心のどこかで分かるような気がしていた、これがウィルシードの力
勇騎は目を閉じ、心の中でりりかを求める。
感じる、りりかの声、それにこれは烈火さん。近くにいるのはきららさん。それに周りにたくさん、これがイルシード。
勇騎は自分の力を試すように思いっきり地面をけると、2階建ての民家よりも高く飛び上がる。障害物のない高さまで、上昇すると勇騎はさらに宙を蹴る。
すると地面を走るよりも早く、空をかけていく。
その事が余程楽しかったのか、この状況で思わず笑いが出てしまう。




