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悪意の終着点

異世界、それはここに重なったもう一つの世界。古くは妖怪や神々のいる世界ともされたがその本質はよく分かっていない。

異世界は遥か昔から存在し、私の様に血族として生まれつき認識できるような体質のものも稀にいるが、多くの場合何かをきっかけにその世界を認識できる感覚が開く。

生死をさまよう出来事や、死をも恐れない覚悟を伴う心の変化。

まぁ君の場合は元々私と同じように異世界を生まれつき認識できるだけの体質を持っていたが、それに関する知識がなく、次第にそれが何か分からず、幼いうちにその感覚が閉じ、この間の都市伝説をきっかけにもう一度感覚が開いたタイプで珍しい事じゃない。

麗華さんの場合は生まれつきの才能はないけど、最愛の彼女を取り戻すために、執念と、狂気じみた努力で無理矢理感覚を開いた稀な存在ではあるけど、まぁここまでは異世界を認識できるタイプだ。

たいていの人の場合、どこかで折り合いをつけて生きて行くか、心の拒絶や、心身の正常化で再び感覚を閉じることが出来る。

でも、君がそうなりつつあったように、完全に異世界に行った存在というものもいる。

うちのメンバーでいけば、きららちゃんはこちらの世界にいた頃、生まれつきの病で本当に臨終の際だった、そして死に対する恐怖、生への渇望が彼女を異世界に導いた。

そして烈火先輩は詳しくは知らないが、言うなれば純粋な求道者だ。何かの目的の為に、自分であることも捨て異世界に行った。

彼らは言うなればもう人で亡くなった存在だ。世界は老いる事も飢える事もない、こちら側とは違う世界に生きる存在。」

「ちょっと待ってください、りりかがそうなら、そして僕もそうだというなら、お腹が減ることだってないはずです。」

「それはまだ完全に向こうの世界に行っただけじゃないからさ。だからこそ、お腹も減るし、髪も伸びる、勇騎君はそれくらいの方が良く似合っていると思うよ。

異世界に完全に行くためにはもう一つ条件がある。

それはこの世への未練を完全に捨てる事。

そうする事で人でなくなる。だけどりりかちゃんも君もそうではない。

そしてりりかちゃんは決して、烈火先輩やきららちゃんの様に異世界の住民となる事は出来ない。」

「なんで、りりかはこっちの世界に未練なんてないって、」

「そう彼女が言ったとしてもそれは適切ではない。彼女にとってこの世界に救いがないだけ、彼女はこの世界の人に絶望しているだけだよ。決してすべてを捨てられていない。

そもそも、本当にすべてを捨てる事なんてできる事じゃない。

烈火先輩は特例だ、元々人として狂っていた節がある。あの人は自分さえも捨てられるし、特別という人が存在できない。いつだって感情よりも理屈が先に来る。必要であれば私やきららちゃんだって殺すことが出来る人さ。心の上に合理性がある。感情を、理性を支配する。そういう人だ。そしてきららちゃんはどうしても生きたかった。どんな世界だとしても、どんな困難があるとしてもそれは自分で選んだことで、わずかばかりの後悔もしていない。彼女には死を受け入れるに十分な時間があった。彼女の考え抜いた結果のだ。普通の人には到底で理解できない苦難の果てだ。

でもりりかちゃんがこっちの世界に来た理由はそんなものじゃない、逃げ出した、全部いや、全部嫌い。だから無理なんだ。憎悪も未練。彼女は異世界の住民にはなれない。」

「でも、彼女は僕と違って、普通の人は見る事も触る事もできませんでした。」

「向こうの世界に引き込まれている事と、向こうの世界の住民になるという事は違う。

彼女は向こうの世界そのものに同化しはじめていているという事さ、向こうの世界は、意志が意志として存在できる世界だ。

私たちの世界は肉体に魂と心が宿る。だけど向こうはそれが必要ない。」

「あなたも見たでしょ、りりかにまとわりつくあの闇をあれが異世界の意思なき住民、個ではなく、共有の意思体。私たち政府ではあれをイルシード、悪意の種と呼んでいるわ。」

「あれ自体には私たちのような自我はないが、人にまとわりつけば話は違う。あれは言うなれば人の悪意の塊だ。こちらの世界と異世界はつながり、人の悪意や善意、そう言ったもののウチで肉体に収まりきれなかったが異世界に流れ込み、集まりああなる。

あれは大きな力で、時として形をなし、やがて意思を形成する。

あれを払う事で私の家は生計を立てている。きららちゃんの講義で習っただろ、

共有の意思が形を作る。あれがイルシードの芽吹いた形だよ。

正直私はイルシードという言い方はあまり好きではない。確かに悪意の塊が多いが、善意や、好意の塊だって同じプロセスで成立する。守護天使や座敷童だって本質的には同じさ。」

「でも、世界には不特定多数に向けられる、そしてその人で押さえきれないほどの善意や行為を持つ人は少ない。悪意は伝播し、善意は集約する。そういうものよ。」

「誰かを好きになるというのには対象があるし、世界の平和を願う人は沢山いるけど、それ以上により強い思いで、この世界を憎む人が多い。なんで私だけ、なんで皆ってね。

昔からそういうものは確かにあったけど、ホントPCや通信機器の発達で、そういう憎悪や悪意がダイレクトに流れ込むようになって、私たちの仕事は増えるばかりさ、心の内から、心の外へ、ネットにつながるという事はある意味で、共同意思の形成という者を形作る事に成功したいい例だね。あのまま発達すれば、いつかは言葉なんかなくて人は理解しあえるって夢物語ではなく、現実のものなんだって思える。

だけど、いつだってそれに合わせて人は進化しなくちゃいけない。

心の進化が伴わない技術はいつだって人を不幸にする。

まぁ今は、まだその過渡期致し方ない所はあるけどね。」

「近年、私たちの世界では自殺者や未成年が心の病を抱え込むことが多い、イルシードはそういう心に住み着きやすい。そしてその人の心を読み取り、その人に適合した悪意の芽を出す。」

「未成年限定ですか、漫画みたいですね」

「いや、そういう訳ではないけど、長く生きる程、無験の可能性は狭まり、現実を見るようになる。そういう人はそもそも異世界に適合しにくいんだ。だから若くても君は今まで異世界を認識する事がなかっただろ。本来であれば私と同じ才能を持つ君ならそういうものを当たり前のように認識できたはずだよ。」

「長く異世界にいれば、イルシードに出会う可能性は増え、成長しやすくなる。

特に君や、りりかのようにドッペルゲンガーを伴う場合は、

初期段階で半分は異世界に足を踏み入れている。

そして何かをきっかけにその立場を入れ替えてしまう。

あなたがそうだったようにりりかはずっと昔にその立場を入れ替え、今もこっちの世界ではもう一人の彼女が当たり前のように暮らしている。」

「それが長く続けばドッペルゲンガー自体、自身がドッペルゲンガーである事すらも分からなくなってしまう。そうなれば完全に元には戻れない。」

「イルシードが彼女に取り付く可能性の向上、ドッペルゲンガーによる存在の完全転移による因果の断絶。私たちはそれを防ぐために、ずっとりりかを探していた。」

「君がどうしてこちらに戻れたのかを私たちは知らないが、君自身異世界に未練がある以上、おそらく、君のドッペルゲンガーに何かがあったと考えるべきだろう。

もっとずっと前に、りりかちゃんの過去を知り、ドッペルゲンガーを見つけることが出来ていれば、君と同じようにドッペルゲンガーを処分するだけで済んだのだけど、

かなり進行しているようだし、どうしてもりりかちゃん自身を見つける必要があった。」

「それじゃ、りりかは助けられるんですか!またりりかに会えるんですか」

「それは保障できないわ。」

五代ははっきりとした言葉で答える。

「もちろん、一切妥協するつもりはないけど、先ほどのりりかから判断する限り、彼女は既にイルシードを宿し、その侵攻もかつて復帰できた事例の進行具合を超えている。

そして彼女自身イルシードを受け入れている。

私たちの目的はりりかを救う事、そしてそれ以上に、この世界の秩序を守る事。」

「それをはっきり言いますか五代さん。」

「どういう意味ですか?」

「イルシードは悪意の塊、あれに飲まれるという事は悪意に飲まれるという事、つまりは分かりやすく言うと人を、世界を、壊し続ける存在になるという事、それも加速度的に強くなってね。


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