烈火 因果の狩人
8月31日
本来であれば憂鬱な気分であるはずの夏休みの最終日。
既にそのような事は関係のなくなった勇騎だが、
それでもりりかとの夏の思い出づくりにと、この日は二人で中心街に出て来ていた。
勇騎はこの日の為に、前日、もう一人の自分がいなくなった事を確認し、家の鍵を使い、隠してあった自分のお年玉を持ち出していた。
ついでにゲームや本なども持ち出し、換金も考えはしたが、身元不明の未成年、
換金は難しいと諦め、もう一人の自分が陽菜とのデート用に買っていると思われる少しサイズは大きいが、勝負部服を持ち出した。
これで全財産は1万3000円。おそらく人生で最後に使うお金、その全てを彼女の為に使うと決めていた。
すでにお金の価値など無意味に等しいりりかであったが、
勇騎の自分へのプレゼントという行為自体がよほど嬉しかったのか、
勇騎は初めて「物で、」という形になってしまったが、りりかの満面の笑顔を手に入れた。
その後も勇騎は、彼女との食事を、レストランに入り、他人から見れば、一人で入り、二人掛けの席を要求し、二人分の料理を頼む変人と見れることをものともせず、彼女とのデートを楽しんだ。
今日は彼女との思い出づくりの一日、そして勇騎が人間である最後の一日。
勇騎は決めていた人であることに拘るよりも、彼女と一緒に生きて行こうと、それが正しい選択かどうか、間違っているかどうか、そんな事は関係のない事だ。
それは自分がしたい事、自分が望んだ事。
「あのさ、りりかさん。僕、、」
話を切り出そうとした瞬間、勇騎は突然、強烈なめまいに襲われ、何とか意識を保ちながらその場に座り込んだ。
「ちょっと勇騎君。大丈夫?」
「、、うん大丈夫。ただの立ちくらみ。」
勇騎が顔を上げ、りりかの顔を見上げると、すぐにその違和感に気付いた。
それが青い、、あの日失った青空が広がっている。
昼夜問わず、赤い空の世界にいたはずなのに、なんで、、それに、何だろう、何も変わらないはずなのに、りりかさんが遠く感じる。
「りりかさん、、」
勇騎が彼女に触れようとした時、勇騎の手が彼女の体をすっとすり抜ける。
「!!」
勇騎は伸ばした腕をそのまま地面に落とす、するとりりかは慌てて勇騎の手を握る。
触れられた事で勇騎はりりかを再び近くに感じることが出来き手を離しても問題はない。たが、今までとは何かが違う、空が青いままだ。
「い、今の何?」
「僕にも、分からない。いったい何が、、」
勇騎は再び立ち上がった刹那、久しぶりに、自分の記憶にはない記憶が流れ込んでく。
断片的な記憶、それは叫ぶ陽菜、そして、なすすべなく蹂躙されていく、もう一人の勇騎。そしてその眼前にいるのは見覚えのある、黒い白衣を着たあの男。
ただ、あの時と違うのは悪魔の様に笑っている。
『古代の怨念が、人の真似事などと、何だ、この女に本気で惚れたとでもいうのか?
笑わせてくれる。永遠を望みえた物たちが愛などと、それとも永劫の時間に耐えきれず己が本質も失い、退化の道を選んでも生にすがるか、愚かしい。
貴様らは死を否定し、生命として完成した。今更増える必要もない故に愛など必要ないだろ、さぁ、面倒を賭けさせるな。貴様を狩れば予定数だ。』
『何なんだよお前は、、その力、一体何なんだ。』
『時は満ち、人は進化し、お前たちの器たりうる存在へ予定通り、たどり着いた。
既にお前たちの遺跡も見つかり始めている。やがて人はそれらの遺跡の類似点を見つけ、そしてそれらが人の歴史はるか以前のものだと知る。
それが海溝深く眠る遺跡を見つけた時か、俺たち覚醒者の中で真にお前たちと同化する存在が現れた時か、それとも世界に覚醒者が満ち、二つの世界の隔たりが失われた時か、
いずれにせよ、全ては予定通り、人の遺伝子、星の因果に刻まれるがまま、いくら過程が違えど結果は変わらない。そう、それがお前たちの真理。
だが、いくらお前らの筋書き通り、お前らの器たらんと作られようとも、すでにここは人の世界だ。人の世に現れようと、狭間の世界で生きようとも、人間が貴様らの偶像たれども、我が身我が意志、我が悪意は、貴様らに仇なすものぞ。
消え失せろ、ここは人の世。混沌と狂気の世界ぞ。』
『くだらないという理由で人を捨てた化け物が、人が良く語る。
駄目だよ殺しちゃ、今この状態で殺しちゃったら、訳も分からず、目の前の人が消えた、
あの子の精神がやんでしまうよ。』
姿は見えないが声が聞こえる。この声は異界に来た初日に出会った澪さんだ。
『失せればすべてが元に戻る、それで記憶はなくなる。それで問題ない。』
『記憶がなくとも心の傷は残るさ、そういう物だよ。まったく君は人でありながら、僕たち以上に人の心が分からないんだね。』
『自分の精神の管理くらい自分でしろ、甘やかすからロクな事にならないんだよ。
とにかく知った事ではない。こいつはここで処分する。』
『それだと困るんだけどな、僕以外の古代種を処分してくれるのはありがたいんだけど、その子はちょっと思い入れがあってね、それにまだ因果の鎖は切れていない。彼という存在を捨てるかどうか、その選択は君が決めるんじゃない。彼が決めるのさ。大事な命の洗濯を君が一歩的に奪っていいわけじゃない。』
『知るか、お前との契約は10体の古代種の処分だ。これで10体目。発見ではなく処分を提案してきたのはお前の方だ。俺は契約を全うするだけだ。』
『本当に融通が利かない残酷な男だね。
人は言うほど残酷に離れないからこそ人なんだけど、きららちゃんは良くこんなのといられるよね。あぁ、、きららちゃんは知らないだよね、君がこういう事をしてるのを、、何柄にもなく怒った?彼女たちが君の最後の良心だもんね。』
『、、ま、教えてどうこうするものでもない。少し話し過ぎたな、これ以上あの女が叫び続ければ、人の注目も浴びかねない。それにもうどうせ手遅れだ、終わらせる。』
『ちょっと待って。滅という結果は免れなくても、今ならまだ選択と決断の時間はあるこの場で彼を見逃してくれたら条件を上乗せしよう。』
『知るか、何でもお前の思い通りになると思うな。気に入らん』
『君たちの探している人の居場所、って言ったら、』
烈火は、もう一人の勇騎を拘束する力を緩める。
『手詰りなんでしょ?彼女の過去を探った所で彼女にはたどり着かない。どうする?』
『貴様、知っていたのか?』
『それはそうさ、おっと、僕に怒っても仕方ないだろ、時間がないんでしょ。
封印遺跡の場所と、彼女との引き合わせ、、どうだい?』
『いいだろう、貴様、運がよかったな、せいぜい残りわずか人の真似事でも楽しむんだな』
『はいはい、それじゃ機会をつくろうか、因果を繋ぎ、出会いを呼び寄せようか、それに、君が忘れた本当の君を思い出させてあげるよ。ヨトゥンヒュズ君。』




