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そして世界が裏返る

「勇騎君!遅い!それになんなのその格好!」

今日も開口一番、陽菜は不満をぶちまける。夏休み6度目のデート。

もう一人の自分を拒絶して2週間。彼らが言う通り、僕は逃げる事はしないそう決めた。

そう決めてから、確かに僕は意識を失う事はなくなったし、知らない僕が出てくる事もなくなった。彼らの言う通り、これは僕自身の問題だったんだ。

僕は僕の日常に戻れた。僕が望んだ日常。

だけどあの日からずっと僕の気持ちなど知らず陽菜の機嫌はどんどん悪くなっている。

「え、でも、この格好、この間陽菜が選んでくれた、、」

「コーディネートを考えてよ、それに遅れるなら送れるって電話くらいして!」

「遅れたって言っても10分くらいじゃない、バスが遅れたんだよ僕のせいじゃないし、バスの中で電話なんてマナー違反だよ」

「メールなりなんなりいくらでもやりようはあるでしょ。というか、なんで今回は現地集合なのよ。」

「だってそっちの方が、効率がいいから、というか、いやならいやって言ってくれれば、、」

「はぁ、もう、燿平だったらこんなことなかったのに」

「、、、まだ燿平兄ちゃんの事忘れられないの?」

「そういう言い方しないで、勇騎君のせいでしょ。誰が思い出させているの」

「僕は燿平兄ちゃんの代わりじゃないし、比べられるいわれもないよ。」

僕は陽菜の事が好きだった。そう好きだという気持ちは変わらないと思っていた。だけど

僕の中でその気持ちが揺らいでいる。彼女と付き合い始めてわかった事、、

彼女の理想は高くて、いつだって僕は耀平さんと比較される

でもその癖、かわいそうな自分を表現するため耀平さんの事を悪く言う。

そんな人と比較される僕はそれ以下だという事。

そんな彼女を知れば知る程、僕の心はどんどん冷めていく、僕は彼女の事が本当に好きなのか、彼女の何が好きだったのか、性格?そんなもの昔の話だ、今の彼女は、僕が好きになった彼女じゃない。顔、体、きっとそういう類物は今でも好きなんだ思える。

でも、そうだと認めるわけにはいかない、そうだと受け入れてしまうと僕の中で大切なものが消えてしまいそうな気がする。ありていに言うなら愛情が欲望に変わる瞬間。

だけど一緒にいても少しも楽しくない、苦痛だけがいつも心に残る。

これは見合わない対価だと思う、対価、僕は好きだという気持ちを損得勘定で考えている。

最低だ。だけど、それが今の僕の現状、どうしていいか分からない。ただ自分を守るのに必死で、それ以上、考えたくない。考えるほど僕は不安になる。

それは僕の問題だ、割り切ればいい、納得できる答えを適当に見繕えばいい、、、

いいや、そうじゃない、それだけじゃない、それに何より僕じゃ、彼女を笑顔に出来ないお互い嫌な気分なのに、なんで一緒にいないといけないのか。

『だから別れよう』、『僕は君のそういう所が嫌いだ、直してほしい。』

なんてことも言えやしない。それに、それでも僕は彼女を失う勇気がない。

彼女がいなくなってまた一人で何もない自分に戻るなんて想像するだけで怖い。

でも、もう限界だ。これ以上彼女と一緒に今のままの時間が続くなんて、耐えられない。

僕はどんどん惨めになっていく、考えなくても不安になっていく、不釣り合いな僕、

僕は僕自身が感じる劣等感に耐えられない。僕じゃ彼女にはふさわしくない。

だから、僕が楽になれる方法はこれしかないんだ。

別にいいじゃないか意識がなくなるくらい。それももう一人の僕なんだろ、

だったらいいじゃん。もう一人の僕といる時、彼女は楽しそうだし、実感はなくとも、彼女は僕のものだそういう優越感はあるような気がする。そんな感覚の残り香でも十分だ。

もっとも僕がしっかりした時に、もう一人の僕を受け入れればいい。

だから今は失敗したら頼ればいい。これは逃げているんじゃない、

失敗をリセットしているだけだ。もう一度ゼロから、そう、それだけだ。

そうしてその日、僕は再び意識を無くした。

その日から、僕は歯止めがきかなくなった。もう自分がいるのが現実か、どうかさえ分からない。ただ、確かな事は陽菜の笑顔は増え、彼女が僕に甘えてくる。

そして僕はその笑顔を見る程にイライラする。この笑顔は僕に向けられたものじゃない。

そう思うと僕はもう一度だけ自分自身で彼女の笑顔を作りたいと望んだ。

だからあの日、僕は僕のままで彼女との花火の夜のデートに臨む事にした。

彼女の期待に応えよう、彼女は僕のお姫様だ。姫なんなりと、

自分の事はいい、まずは陽菜の気持ちを、そう願った。

だけど、デートの最中、彼女から出てきた言葉は思いがけない言葉だった。

いつもの強引な勇騎君はどこに行ったの?と

もしかして怒ってるの?どうして私の気持ちを無視するの、と

いつものように私に命令してよ。と

そして、

せっかく今日は特別な日なのに、こんなの勇騎君じゃない。

と、そう言って彼女は泣いた。

せっかく、僕は君の事を思って、君の為にと。なのに、そんなの僕じゃないって

その時、僕の中に何かが壊れた。僕の気持ちなんか、少しも通じていないんだ。

「いつもの僕ってなんだよ!そんなの僕じゃないよ。今の僕が本当の僕だ!僕は君の都合のいい男なんかじゃない!僕は僕だ!陽菜、ごめん、僕もう限界みたい。やっぱり別れ、、」

その時だ、花火が上がる、夏の夜空が赤くなった。


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