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都市伝説のツクリカタ

部屋から出て行ったきららは、見事なまでにデコられたピンクのPCとリボンがついて熊の乗ったプロジェクターを持ってくる。だが、それ以上に気になるのが、伊達メガネにスーツのような恰好。似合わなさが逆に似合っている、その恰好、、学校の先生のつもりか、、

「そ、それじゃ、さ、さ、早速、今回のい、市井さんの身に起こった事をか、解説します。で、でもその前に、す、少し、都市伝説のお話をさせてください。き、きっとその方が理解しやすいと思うから。」

烈火も座り直し、きららがプロジェクターを映し出したPCの画面を前に、講義を聞くようにみんな位置を変え、皆、見やすい場所に座りなおす。

「それじゃ、先生。よろしくお願いします。」

この人がノルのか勇騎は烈火に引く

「せ、先生、、れ、烈火君も期待してる。わ、私頑張る。」

きららは眼鏡クイッと上げ、不良生徒に補修をする女先生という彼女の中のシチュエーションをつくりだし、彼女の中のスイッチを入れる。

彼女は普段人見知りが激しく、ずっと一緒にいる烈火にでさえ、自分の意思を伝えるのに迷惑ではないかと考えてしまう。だが、スイッチの入った自分の領域に入った彼女は違う。

部屋の電気を消し、プロジェクターの準備を終えると、彼女は一礼し話始める

「さて、それでは授業を始めます。

私たちが主題として研究対象にしています都市伝説と言っても、その実様々。

本来は、現代に広がった口承の一種で根拠が曖昧なものを都市伝説と言っていました。

ですが、現在の使われ方は、この世界を陰で操る組織があるや、事件の陰には別の陰謀があるなどの陰謀論。昔からある怪異が少しだけ形を変えた物、例えば、今まで井戸から出て来ていたものが、電話やPCから出てくるなどがそれに当たります。

そういうあらゆる噂話を内包して私たちは都市伝説として扱っています。

今回、勇騎君が遭遇した異世界への行き方はそういう意味では本来の都市伝説というものに近いものがあります。異世界に行く方法は昔であれば、合わせ鏡や、丑三つ時の海や、トンネルや坑道だったのが、勇騎君の高層マンションや電車、学校など、より身近なものに変わってきています。

勇騎君がその方法をパッと想い出せたのはこの地域では珍しい方かなと思います。」

「この地域では珍しい?」

「えぇ、ここらの地域の人なら、ダムに沈んだ村に行くために使われていた境峠の廃トンネルとか、山自体を神とする天次神社の山頂の本殿の九十九鳥居だとか、あとは最近だと、熊原地域の巨石で作られた神殿跡の古墳とかこの地域はそういう歴史や史跡に根付いた異世界への行き方が多いから、普通はそっちの想い出すかなって。」

「あぁ、僕、ここの地元の人間じゃないですし、聞いたことはありますけど、実際に言ったこともないですから、馴染みもなくて、あんまり信じられなくて」

「なるほど、それじゃ、そんな勇騎君を納得させるその異世界への行き方を知ったのは?」

きららは伊達メガネを上げ自信満々の顔で、勇騎をどこから取り出しのか金属の棒で刺す。

「えっと、都市伝説のTVの特集を見てて、それを学校で友達がもっと詳しい事を知ってて、それで面白いから自分で、ネットで調べていて、そのいくつかあったの中の一つです。」

「そう、都市伝説というものを語る上で、外すことの出来ないファクターがそのインターネットです。昔はそういう類の噂話は友達の友達の話という形で伝わっていました。ですが、それでは結構嘘っぽいと思いません?友達の友達は誰なのって」

「確かに、でもそれはネットでも同じ事ですよね。今の世の中、ネットの情報を鵜呑みにする人の方が少ないですよ。」

「確かに、でも、その信憑性を上げる為にいくつも有利な点があるの、

まずは根本的に人づてじゃ、情報が絞られ、受け取るだけだったのが、ネットというものの場合、自分が主体となって検索を行うつまりは、その物語の一部に自分がいるの。

ちなみに勇騎君、異世界へ行く方法沢山ってそれは調べる過程で出てきたのよね。でもその中からそれを選んだ。どうしてその異世界に行く方法を信じたの?」

「それは、他のものより、信憑性高いような気がして、」

「そうね、私も異世界に行く方法っていうのが沢山あるけれど、私もこのサイトが、信憑性があると思う。サイトの作りもそうだし、この人がオーストラリアに日食を見に行くって言った所で更新が途絶えている点、そして何より日常では不可能な条件のせいで否定もできない、それに程よい本当ぽい、異世界描写と、何よりギリギリ実現可能な条件。

こういう情報を自分で見つけたらどう思うかしら、自分で見つけて、自分で信じて、取捨選択した情報、他人から聞かされるよりも信じやすいわ」

「、、、、」

きららは自慢げに笑い話を続ける。

「日常でありそうでありえない。

偶然の遭遇ではなく、意図し、主体性を持って行われる体感できる都市伝説は、あまりに当たり前の事で行けてしまうのであれば誰もが嘘だとわかるし、

逆にその方法が難しすぎれば、定着もしないし、伝播もしない。

そんな中で自然条件や、日常に起っている事の中で確率の低い物を取り入れる事で

身近な感覚を維持しながら難易度をあげられる。そうして、実際にそれを試した人がいたとして、そんな事がなかったなんて当たり前の結論を出せば、すぐに忘れられるし、

逆に本当だったと言って偽物の写真なんかアップしてもすぐに加工だってばれてしまう。

一番効果的なのは、分からない所は明言を避け、意味深に証拠もなく語り、そしてその後、ボロが出る前にふっと消える。

そうすれば心のどこかにあの人は本当かもしれない、その後、戻ってこれなくなったなんてあってもいない人がさもそうであるかのように語られる。

ネットの中で都市伝説は変化し、磨かれより多くの人を納得させられる形になっていく。正確に言うとそう磨き抜かれた嘘や噂話だけが都市伝説になれるといっていいわ。

都市伝説は広まる事でその意味を持つ、そういう意味でも不特定多数に瞬時に伝播するネットというものは重要なの

そしてもう一つ大切な事は、誰もが一度くらいは体験したことのある、明確な原因な不思議体験を都市伝説に結び付けるという事。」

きららはPCの画面をブラウザでの都市伝説のサイトからお手製のプレゼンテーション用のソフトを起動させ、ここまでのまとめを項目ごとにクリックして表示させていく。

「知識が恐怖を遠ざけて、知識が恐怖を増長する。

科学的知識が、未知を解明し、

怪異に関する知識が、自分の見た偶然をその怪異だと断言づける。

状況が重なれば、怪異の知識に引っ張られ、柳を幽霊に変わるし、

本当に幽霊でも物理現象だと納得できる理由を持てれば怖くもなくなる。

という事よ。」

「はぁ、」

「そうね、分かりやすい実例で行けば、非日常。

例えば光に溢れた都会に暮らしている人が、お盆休みとかに田舎に行くとする。

その人はずっと、都会に暮らしていて田舎というものを非日常として感じ、自分の居場所じゃないそこに漠然とした不安を感じるものよ。

夜になったら道にはほとんど外灯がなく暗くなり、静かなんだけど虫の声や聞いたことのない生き物の声が聞こえてくるし、どこまでも続いているような闇の世界が広がる。

後は夏の夜の海だとか、静かなのに波の音だけ大きく響いて怖いって思うものよ。

まぁ、冬の方が、空が澄んでて怖いけど、夜中に冬の海に行く人なんか滅多にいないしね。

そう言う漠然といた恐怖にいると田舎の人では当たり前の事でも、その物音や影なんかの正体が分からず、自分の中で納得のいく理由を探す。

それでも理由が見つからない時は、その自分が体験した恐怖に、名前を付け、人格をつけ、そして不都合は未知のままにしたまま、一つの怪異を生み出す。

そうして生まれた一つの怪異、田舎に行った時にこういうものを見たよとそれはきっとこういうもので、、という風にネットで誰かに伝播する。すると似たような経験を他の誰かもしている、するとその人も自分が見た者もきっとそれだったんだと、自分が体験した恐怖に同じような体験を重ね同調する。場合によってはそこに自分の知識を上乗せする。例えば、田舎のおばあちゃんに聞いた話だけど、昔この辺りで死んだ落ち武者がいたとか、女の人がいたとか、そうして似た者に自分の体験したものを重ねる事でなんでもなかった物がどんどん肉付けされ、そして複数の証言が信憑性を増す。

なんでそうなるか、簡単な事よ。本当の闇、本当の無には人の心は耐えられないの。

闇を闇としてとらえられる人はそうはいないよ。それが何であれ正体が欲しいの」

「そういうものですか、、」

「それじゃひとつ試してみましょうか。」


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