そして1か月いつもの場所で
「勇騎、私の話、ちゃんと聞いてる?」
「え、あ、えっと、ごめん、何、」
ここはどこだ、また自分の知らない所で自分の意識が飛んでいる。
陽菜と恋人になって1か月。夏休みも折り返しに差し掛かって、それまで来る事のなかったハンバーガーショップの2階の角が今では僕の定位置になっている。
机の上には陽菜が立てた夏休みの計画書、既に過ぎた日付には×や○、○が楽しかった日、×が楽しくなかった日、そして髑髏マークが最悪だった日。つまりは僕が全くもう一人の僕に頼らなかった日だ。あの日から僕と陽菜は恋人同士になった。
でも僕の毎日は苦痛だ。陽菜と会わずに勉強をしている日が楽しいと感じる。
携帯の画面では優しいままの陽菜、でもこうして会うと陽菜は別人のように思える。
夏の間だけだが、僕は人生初のバイトをしている。それは陽菜とのデート代を稼ぐため、
陽菜も一緒にバイトをしていて、陽菜はそのお金で、僕にネックレスを買ってくれた、人生初のプレゼント、嬉しいはずなのに、僕はこれが首輪に思えて仕方がない。
これをつけていないと陽菜が怒る。だから僕はこれを外すことが出来ない。
「明後日の買い物の話!勇騎君夏祭りや花火大会があるのに浴衣持ってないっていうから、買いに行かないといけないでしょ!皆も来るんだしちゃんとしたの選ばないと!」
「あぁ、そうだったごめん、、、あのさ、陽菜、明後日の買い物だけど、やっぱりやめない。その、別に浴衣なんかなくてもいいし、それにさ、明々後日はお盆前の夏季講習のテストだよ。僕も、成績下がっているし、勉強もしたいし。」
「それは勇騎君の努力が足りないからだよ。私全然成績下がってないし。」
僕と付き合いだしてから、陽菜は成績を元に戻し、僕は今まで自分一人で使っていた時間を陽菜に使うために、成績を落とした。
結局そういう事、効率がいいとかそういう問題じゃない。元々の頭の出来が違う。
「それに、勇騎君、期末はクラスでトップだったでしょ。まじめにやれば大丈夫だって。」
それは僕じゃない、僕が逃げて、もう一人の僕が受けたからだ。
あの日から、嫌な事があればすぐにもう一人の僕に任せる癖がついてしまっている。
力の使い方も分かっているし、もう一人の僕に任せて行けば、すべてがうまくいく。
それこそ彼女といる時間の大半が僕じゃない。つまらないどうでもいい話、どうしていいのか分からない時、彼女を怒らせた時。そんな事をしているうちに、最近は僕の意図しない場合でも、陽菜といる時はもう一人の僕に変わるようになっている。
それは僕が無意識下に彼女から逃げたがっている事なんだと思う。
僕じゃ彼女を満足させられない、彼女の期待に応えられない。
最初は彼女と付き合えることがうれしくて、彼女の事でみんなから羨ましがられることが心地よかった、でも、今では僕は彼女には不釣り合いなんじゃないか、皆、僕のいないところでは僕の事を笑っているんじゃないかとも考えてしまう。
陽菜は僕の思い描いているような陽菜じゃなかったけど、彼女を好きな気持ちは変わらない。僕の事をいつだって考えてくれて、尽くしてくれる。
だから、僕は陽菜から離れられないし、少しでも陽菜を喜ばせたいと思ってはいる。
「話を戻すけど、勇騎君は嫌かもしれないけど、私は勇騎君と浴衣を着て花火大会を見に行きたいの、来年は受験勉強で来れるか分からないでしょ、だからさ、ね。お願い」
あの日以来、僕はもう一人の僕と話せていないし、もう一人の僕の時の記憶もだんだんと不鮮明になり今では、時間がたっても、どういう時間を過ごしていたのか記憶にない。
この間も知らない、少し怖めの人から親しげに話しかけられたり、知らない年上の人から奢ってもらったり、それに今もこうして陽菜は僕の知らないもう一人の僕との話している感覚で話しているが、僕はその事をしらない。陽菜だけじゃない親も含めた皆との距離感が今まで以上に近くなり、そして遠くなっている。
でも、今更僕一人でではどうしようもない。
どんどん頼る事が多くなっているのに、記憶もなく、僕じゃない行動をとっているもう一人の僕との距離が空いて行っている気がする。その事に僕は漠然とした恐怖がある。




