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演部!  作者: 成澤由良
1/1

高校入学!

4月ー真新しい制服を来て、私は満開の桜…。


否、ほぼ散ってる桜の木を眺めていた。


ここは九州南部のとある町。


360度山に囲まれたのどかな盆地だ。


漫画などでは桜は入学式に咲くものだが、九州では卒業式で満開になる。そして、卒業式付近は雨の日が多く、入学式を待つ前にほぼ散ってしまうのだ。


そう、今日は高校の入学式。


なんて良い天気。入学式日和だ。


キラキラと光る日差しに目を細め、私はふっと息をはいた。


「お母さーん、まだ準備できんとか?」


私の隣で着なれないスーツに身を包んだ父が、ゴルフの素振りをしながら玄関に向かって声をかける。


「待って!待って!もうちょい!」


ステレンスの扉の奥から母の慌てた声が聞こえる。


「そんな慌てんでも良くない?余裕もって早めに出てるんやし」


「いや、念には念を、や」


父の真面目な声にふーん、と相槌を打つ。


チラッと父を見て、口元が緩みそうになる。

何せ、スーツが全く着こなせていない。


父の職業は小さな町工場で、機械の部品を作っている。仕事着も作業服だ。

だから、スーツというものに着なれていない。

さらに、身長が160ちょっとと小柄で顔も童顔だ。


父がスーツを着ると、初めて学ランを着たときの2つ年下の弟とかぶる。


つまりは、初々しいのだ。


「なんね?」


おっと危ない。


緩みそうになる頬を無理やり引き締め、慌てて首を降る。


「おい、鼻膨らんじょいよ」


父がニヤリと笑った。


私は、嘘ついていたり何かを誤魔化す時に鼻が膨らんでしまう。厄介な癖だ。


どう誤魔化そうと目を泳がせていると、母がドタバタと音を立てながらでてきた。


「お待たせっ、しました!」


その後ろでは、愛犬のコーギーが遊べ遊べと鳴いている。


「ハル、しーっ!」


母の一声で愛犬の鳴き声が小さくなる。

ハルは母に絶対服従なのだ。


母は玄関の扉をそーっと閉め、鍵をかけるとヒールのパンプスをカタカタ言わせ、駐車場まで降りてきた。


家の中でまたハルの鳴き声が聞こえた。


もうっ!とぷりぷりと怒りながら、母が車の側へかけてくる。


「ねぇ、由良ちゃん、変じゃない?」


そう言う母は、入学式用のスーツを来ていた。


淡いピンクページュで、スカートとジャケットの裾に緩いフリルが繕われている。

色白で華奢な母にとても似合っている。


「うん、可愛い可愛い」


私が言うと期待したように父に目を向けた。

父は母の考えを知った上で私に


「お父さんは?可愛い?」


なんて言ってきた。


私がはいはいと生返事すると、母と父が


「お父さん、超可愛い!」


「知ってるー!」


と、いつものバカップルぶりを披露した。


私が呆れながら、父の白い乗用車(8人乗りで遠出に重宝されている)に乗り込もうとすると、父に止められた。


「あ、ちょっと待って」

「何?」


手招きされて、家前の小さな階段に立った。

隣に母を並ばせ、いつの間にか手にしていたデジカメを構える。


「先に写真撮っとくが」


その言葉を合図に、母にグッと肩を抱かれた。

半分照れながら父のハイ、チーズの掛け声に合わせ笑顔を作った。


続いてカメラを母にバトンタッチし、今度は父とのツーショットだ。


撮り終わるとすぐに写真の出来をチェックする。この写真は親戚全員にまわる可能性があるから、半目などになっていたら大変だ。


写真を見て私は顔をしかめる。


…なんて、制服が似合っていないんだ!


私の通うことになったのは、県立の商業高校だ。

県内でも、県立にしてはトップ5に入る制服のかわいさである。

全体を紺で統一しており、リボンとスカートには水色のチェックが施されている。シャツは白で襟が丸く、女の子らしいデザインだ。


なのだが、笑えるほどに似合っていない。

まず、ブレザーが大きすぎる。

誰だ。高校三年間で成長するかもなんて言ったのは。

制服専門店のおばちゃんだ。


女子の成長というのは、だいたい小学生高学年から中学生の間で止まるものだ。


私は小5から小6の1年間で8センチも伸びたのだ。これ以上の急激な成長は見込めないだろう。


制服購入に付き添ってくれた母も母だ。

なにが、

「横に大きくなるかもしれませんもんねー」

だ!


そんなにブクブク太ってたまるか。



確かに私は、癖っ毛の髪はそのままだしスカートだって膝下。眉も全く整えていないが、それは校則で定められているからだ。


人並みにニキビや鼻の黒ずみ、太もものセルライトなどは気にしている。



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