高校入学!
4月ー真新しい制服を来て、私は満開の桜…。
否、ほぼ散ってる桜の木を眺めていた。
ここは九州南部のとある町。
360度山に囲まれたのどかな盆地だ。
漫画などでは桜は入学式に咲くものだが、九州では卒業式で満開になる。そして、卒業式付近は雨の日が多く、入学式を待つ前にほぼ散ってしまうのだ。
そう、今日は高校の入学式。
なんて良い天気。入学式日和だ。
キラキラと光る日差しに目を細め、私はふっと息をはいた。
「お母さーん、まだ準備できんとか?」
私の隣で着なれないスーツに身を包んだ父が、ゴルフの素振りをしながら玄関に向かって声をかける。
「待って!待って!もうちょい!」
ステレンスの扉の奥から母の慌てた声が聞こえる。
「そんな慌てんでも良くない?余裕もって早めに出てるんやし」
「いや、念には念を、や」
父の真面目な声にふーん、と相槌を打つ。
チラッと父を見て、口元が緩みそうになる。
何せ、スーツが全く着こなせていない。
父の職業は小さな町工場で、機械の部品を作っている。仕事着も作業服だ。
だから、スーツというものに着なれていない。
さらに、身長が160ちょっとと小柄で顔も童顔だ。
父がスーツを着ると、初めて学ランを着たときの2つ年下の弟とかぶる。
つまりは、初々しいのだ。
「なんね?」
おっと危ない。
緩みそうになる頬を無理やり引き締め、慌てて首を降る。
「おい、鼻膨らんじょいよ」
父がニヤリと笑った。
私は、嘘ついていたり何かを誤魔化す時に鼻が膨らんでしまう。厄介な癖だ。
どう誤魔化そうと目を泳がせていると、母がドタバタと音を立てながらでてきた。
「お待たせっ、しました!」
その後ろでは、愛犬のコーギーが遊べ遊べと鳴いている。
「ハル、しーっ!」
母の一声で愛犬の鳴き声が小さくなる。
ハルは母に絶対服従なのだ。
母は玄関の扉をそーっと閉め、鍵をかけるとヒールのパンプスをカタカタ言わせ、駐車場まで降りてきた。
家の中でまたハルの鳴き声が聞こえた。
もうっ!とぷりぷりと怒りながら、母が車の側へかけてくる。
「ねぇ、由良ちゃん、変じゃない?」
そう言う母は、入学式用のスーツを来ていた。
淡いピンクページュで、スカートとジャケットの裾に緩いフリルが繕われている。
色白で華奢な母にとても似合っている。
「うん、可愛い可愛い」
私が言うと期待したように父に目を向けた。
父は母の考えを知った上で私に
「お父さんは?可愛い?」
なんて言ってきた。
私がはいはいと生返事すると、母と父が
「お父さん、超可愛い!」
「知ってるー!」
と、いつものバカップルぶりを披露した。
私が呆れながら、父の白い乗用車(8人乗りで遠出に重宝されている)に乗り込もうとすると、父に止められた。
「あ、ちょっと待って」
「何?」
手招きされて、家前の小さな階段に立った。
隣に母を並ばせ、いつの間にか手にしていたデジカメを構える。
「先に写真撮っとくが」
その言葉を合図に、母にグッと肩を抱かれた。
半分照れながら父のハイ、チーズの掛け声に合わせ笑顔を作った。
続いてカメラを母にバトンタッチし、今度は父とのツーショットだ。
撮り終わるとすぐに写真の出来をチェックする。この写真は親戚全員にまわる可能性があるから、半目などになっていたら大変だ。
写真を見て私は顔をしかめる。
…なんて、制服が似合っていないんだ!
私の通うことになったのは、県立の商業高校だ。
県内でも、県立にしてはトップ5に入る制服のかわいさである。
全体を紺で統一しており、リボンとスカートには水色のチェックが施されている。シャツは白で襟が丸く、女の子らしいデザインだ。
なのだが、笑えるほどに似合っていない。
まず、ブレザーが大きすぎる。
誰だ。高校三年間で成長するかもなんて言ったのは。
制服専門店のおばちゃんだ。
女子の成長というのは、だいたい小学生高学年から中学生の間で止まるものだ。
私は小5から小6の1年間で8センチも伸びたのだ。これ以上の急激な成長は見込めないだろう。
制服購入に付き添ってくれた母も母だ。
なにが、
「横に大きくなるかもしれませんもんねー」
だ!
そんなにブクブク太ってたまるか。
確かに私は、癖っ毛の髪はそのままだしスカートだって膝下。眉も全く整えていないが、それは校則で定められているからだ。
人並みにニキビや鼻の黒ずみ、太もものセルライトなどは気にしている。